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きょうの日経サイエンス

2014年10月8日

2014年ノーベル物理学賞:白色光源をもたらした高効率青色LEDの実現で3氏に

身の回りにあった電球が,LEDに置き換わりつつある。白熱球に比べて発光効率が高く,熱くならず,低消費電力で,長寿命だ。スマートフォンなど携帯情報端末のバックライトにも,しばしば白色LEDが使われている。

 

こんな風にLEDを広範に利用することを可能にしたのが,青い光を発する青色LEDだ。青色LEDの光を蛍光体に当てたり,赤色,緑色のLEDの光と混ぜたりすると,白色光が作れる。

 

今年のノーベル物理学賞は,高効率な青色LEDを実現した名城大学の赤崎勇教授・名古屋大学の天野浩教授の共同研究チーム(当時はともに名古屋大)と,米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村修二教授(当時は日亜化学工業)に授与される。

 

赤崎氏は1974年,当時所属していた松下電器産業で,物理的な特性から窒化ガリウムが青色LEDの材料として有望と見て研究を始めた。発光素子にするためには,均一な単結晶を作り,半導体にする必要がある。だが窒化ガリウムは融点が非常に高く,不純物が多くて半導体を作りにくい。突破口が見つからないまま,1981年に名古屋大学に転じた。

 

翌1982年,天野氏が赤崎氏の研究室に学生としてやってきて,窒化ガリウムの薄膜形成実験を始めた。「有機金属気相成長法」と呼ばれる方法で,加熱したサファイア基板の上に原料ガスを流し,窒化ガリウムの結晶を積んでいく。だが,サファイアと窒化ガリウムでは結晶格子の間隔が異なる。土台に柱の間隔が合わない建物を載せるようなもので,結晶は欠陥だらけでボコボコになった。

 

赤崎氏は天野氏に,基板と窒化ガリウムの間に両者を仲介するバッファー層を作ることを提案。天野氏はそのアイデアをもとに実験を進め,最初に低温でバッファーとなる窒化アルミニウム層を形成し,その後高温で窒化ガリウム層を積むことで,欠陥がほとんどない均一な結晶ができることを見いだした。1986年に天野氏と赤崎氏は論文を発表し,窒化ガリウムは青色LED材料の最有力候補になった。

 

両氏はその後1989年に,窒化ガリウム結晶に不純物としてマグネシウムを加え,さらに電子線を照射することで,LEDの基本要素であるp型半導体ができることを示した。これは「重要なブレイクスルー」(スウェーデン王立アカデミーの発表より)になったが,プロセスが複雑で量産には向かないという難点があった。

 

一方,中村氏は1989年,徳島県の日亜化学工業で窒化ガリウムの実験を始めた。原料ガスの供給方法を工夫した新たな結晶成長法を考案し,赤崎氏らとは別のバッファー層を入れて均一な結晶を作成。92年には電子線照射よりもずっと簡便な熱処理によってp型半導体を作れることを示し,量産への足がかりを作った。

 

赤崎・天野氏と中村氏は,競うように青色LEDの開発を進めた。赤崎氏らは89年に,窒化ガリウムによる発光を世界に先駆けて確認。中村氏は93年,インジウムを混ぜた窒化ガリウムの層を,アルミニウムを混ぜた窒化ガリウムでサンドイッチにした「ダブルへテロ接合」の素子(下図)を作って,効率を引き上げた。これで産業応用が射程内に入った。

 

青色LEDは赤崎氏,天野氏が基礎技術を積み重ね,中村氏が量産と産業応用の道を開いたといえるだろう。スウェーデン王立アカデミーは,3氏の業績を等分に評価して,授賞を決めた。(古田彩)

 

 

image:素子の図はノーベル財団のプレスリリースを一部改変/青色LEDは1994年10月号掲載の中村修二「実現した青色の高輝度発光ダイオード」より

 

詳報は10月25日発売日経サイエンス2014年12月号にて

 


 

【関連記事のご紹介】

日経サイエンスでは過去に,受賞される中村修二教授による記事と,赤崎勇教授に関する記事を掲載しています。そのうち以下の記事を復刻し,特別価格にてダウンロード販売しております。

 

1994年10月号実現した青色の高輝度発光ダイオード

2004年5月号「『青色』を作った,もう1人の男:赤崎勇

 

 

さらにこの分野についてお知りになりたい方は以下の記事もどうぞ

2009年7月号「緑色レーザーの夜明け」 

2004年6月号「どこでもディスプレーを実現する有機EL」

2003年6月号「いま注目の研究者が語る「私の修行時代」:自分で考える力を身につけろ〜青色発光ダイオードを開発した 中村修二

2001年6月号「LEDが達成した究極の白色光」

 

 

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