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SCOPE & ADVANCE

PFASを分解する細菌〜日経サイエンス2025年2月号より

強固な炭素・フッ素結合をうまく切断

化学物質PFASが“永遠の化学物質”と呼ばれるほど分解されにくいのは炭素・フッ素結合が非常に強固なためだが,ある一群の細菌がこれをうまく切断できることがわかった。環境をあまねく汚染しているこの有害物質を,いずれは微生物によって除去できるかもしれない。

PFAS(ピーファスと読む)は「ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物」を意味し,ピザの箱やレインコート,日焼け止めクリームといった日用品に普通に含まれているものが1万5000種近く知られている。飲み水や,汚泥肥料で育てた作物などを摂取することによって体内に入り,米国ではすでにほぼ全員の血液中に入り込んでいる。低濃度でも慢性的な曝露は,腎臓がんや甲状腺疾患,潰瘍性大腸炎など様々な健康問題と関連づけられている。

PFASを分解する現在の方法は高温や高圧が必要なうえ,安全に実施するには廃棄物からPFASを取り出したうえでそれを処理する必要がある。このため自然環境でこの物質を分解できる細菌がいれば,より低コストで大規模に処理する方法になるだろうと以前から考えられてきた。だが炭素・フッ素結合は主に人工物に存在し,PFASは合成されるようになってからさほど年月がたっていないので,この物質を消化する能力を細菌が進化させるにはまだ時間不足だ。これに対し今回の研究は炭素・フッ素結合を切断する細菌を同定した初の例ではないものの一歩踏み込んだと,エネルギー効率に優れたPFAS分解法を研究しているノースウェスタン大学の化学者ディクテル(William Dichtel)はいう。

カフェ酸分解酵素を作る菌
この研究チームは有望な細菌を見つけるため,廃水中に生息する複数の細菌群を調べた。その結果,アセトバクテリウム属の4つの菌株が浮上し,Science Advances誌に報告した。いずれもカフェ酸(コーヒー酸)を分解する酵素を作っていた。カフェ酸は天然の植物性化合物で,一部のPFASに構造が似ている。カフェ酸を分解するこの酵素が,PFASに含まれるフッ素原子の一部を水素原子に置換する。そして,この過程で生じた反応性の高いフッ素イオンを「輸送タンパク質」が細菌の細胞外へ運び出し,細菌を損傷から守っていた。ほとんどの菌株はPFAS分子を3週間で小さな断片に切断した。それらの断片は在来の化学的手法で容易に分解できそうだ。(続く)

続きは現在発売中の2025年2月号誌面でどうぞ。

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