山城達樹さんの墓前でどんどんボケていくFECの芸人ら(映画「ファニーズ」より)
山城達樹さんの墓前でどんどんボケていくFECの芸人ら(映画「ファニーズ」より)

 沖縄のお笑い・芸能事務所「FECオフィス」の創設者で、1996年に26歳で急逝したお笑いコンビ・ファニーズの山城達樹さんを描いたドキュメンタリー映画「ファニーズ」(山城智二監督)がこのほどDVD化され、昨年11月から一般販売が始まっている。1993年に沖縄初の芸能事務所としてFECを立ち上げ、その頃からすでに「ネット上のバーチャルリアリティーに『仮想オキナワ』をつくる」「沖縄をアジア太平洋地域の芸能文化のキーステーションとする」など、何十年も先の未来を見通していたかのような構想を練っていた達樹さん。実弟で、同社の社長を務める山城智二さんに、改めて作品への思いや沖縄お笑い界の展望などを聞いた。

FECの山城智二社長=2024年11月28日、那覇市の同社
FECの山城智二社長=2024年11月28日、那覇市の同社

監督の山城智二さんが感じた手応え

 ―DVD化の経緯を教えてください。

 全国の方にこの映画を見てもらって、われわれのことを知ってもらいたいというのが、一番の目的です。47都道府県全ての映画館で上映するのは難しいので、公開から1年がたったタイミングで、DVDとして発売しました。FECや達樹のことだけではなくて、戦後沖縄のお笑いの歴史をひもとくような作品にしたいと思っていました。(2023年の)FEC旗揚げ30周年の節目に出す作品として、とても良かったと思います。

FEC設立当初の山城達樹さん(映画「ファニーズ」より)
FEC設立当初の山城達樹さん(映画「ファニーズ」より)

 映画「ファニーズ」は、撮影や編集などを、FECのメンバーが中心となって作った点でも、現場の息遣いや事務所としての歴史を感じさせる効果を生んだ。

 ―「芸能事務所が映画を作る」ということ自体が、沖縄では新しい試みだったと思います。

 最初から自分たちで全部やるつもりではなかったんですよ。ただ、沖縄で映画の作り手の十分な確保が難しかったことと、予算面での問題もあって「FECで作れませんか?」と。「いやいや、どういうこと!?」みたいな(笑)。僕と、ただのあきのりと、オードブルのモコモコもとしでほぼ毎日編集していました。3カ月間で仕上げるはずだったものが1年ぐらいかかりました。やったことのないことだったので手間暇もかかってすごく大変でしたが、今振り返ったら、結局それで良かったなと思っています。自分たちで誰にも遠慮せず納得いくものができました。

 ―手応えや発見はどうでしたか?

 自分たちで作品を作ってみて、特に感じているのが、簡単に国境を越えられるなということです。例えば今後、外国語字幕を付ければ海外の方にも見てもらえますよね。映画とお笑いライブをセットにして、沖縄を伝えていきたいという思いがあります。

舞台あいさつに立つ関係者=2023年9月、那覇市のシネマQ(FEC提供)
舞台あいさつに立つ関係者=2023年9月、那覇市のシネマQ(FEC提供)

 ―映像制作のスキルが会社としても身に付いたことでプラス面もあったかと思います。

 あきのりが急速に技術を身に付けて! 映像編集の仕事も受けるようになりました。営業でステージに上がって、それを映像化するという需要に対しても「うちでできますよ」と対応できるようになっています。

「他の土地ではありえない お笑いの熟成のされ方」

FECの山城智二社長=2024年11月28日、那覇市の同社
FECの山城智二社長=2024年11月28日、那覇市の同社

 ―沖縄のエンタメや芸能の強みをどのように見据えていらっしゃいますか。

 他府県とは違う文化だったり時間軸だったり、育まれてきたものがにじみ出るようにそこにある、というのが一つの強みではないかと思っています。戦後焼け野原の中で人々がはい上がろうとした時、小那覇舞天さんに象徴されるように、芸能の力が沖縄を支えてきました。それは他の土地ではありえないようなお笑いの熟成のされ方ですよね。身内を亡くしてどん底の中で、それでも笑って生きていかなければということを経験しています。僕らは今、それをリレーする形で表現させてもらっています。そのような血が流れているのはやはり、沖縄の笑いの強さだと思います。

FEC旗揚げ31周年記念公演の様子=2024年10月、てんぶす那覇テンブスホール
FEC旗揚げ31周年記念公演の様子=2024年10月、てんぶす那覇テンブスホール

 ―以前、山城さんが「沖縄の芸人が芸事だけで食べていけるようにしていきたい」という趣旨の話をしていたのが印象に残っています。目下の課題はどのあたりにありますか?

 大きい壁だなということはすごく感じていて、芸人が芸事だけで食べていくことはずっと追い求めていくことなんですが、なかなか一筋縄ではいかない部分もあります。その中で大事なのは「外部を巻き込む」ということかもしれませんね。内々だけでやっていてもどうしても広がりが出ませんから。そこで最近意識しているのは、「お笑い」と「何か」を掛け合わせることです。他分野と一緒に新しいことを始めています。

 2021年度から沖縄キリスト教学院大学で所属芸人が授業をしており、2024年1月には包括連携協定を締結しました。知念だしんいちろうが非常勤講師です。学校に限らず、企業や団体の研修などでも「エンタメの力で従来の形をぶち壊してほしい」というようなお話を頂いています。お笑いのスキルが、ちゃんと社会貢献につながっているんですよね。自分たちは普段から非常識なことしかやっていないですから(笑)。そんなのが異物として他分野に入り込むだけでも、風穴をあけられて、支援したり新しいステージを作ったりすることができます。今後もどんどん積極的にやっていきたいです。

 映画「ファニーズ」のDVDは全国の店舗、ネットショップの他、那覇市安里のFECオフィスでも販売している。4400円(税込み)。

映画「ファニーズ」のDVD
映画「ファニーズ」のDVD