Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                

風よ!炎よ!雷よ!我が剣となって、この悲しみの大地に処女を貫け!ゴゴゴゴゴゴッ! (33歳)

いやー、生贄とかの制度が無い時代で良かったわー。
いやー、ドラキュラとかいない国で良かったわ―。

超、安泰。
向かうとこ敵なし。
処女のまま、無事33年。
まったく何からも狙われることなく、今日、33歳になりました。


33年の集大成っていうのかなあ。
この1年。例年にまして驚くほど何もなかった。
もう今シーズンの危なげの無さつったら、私の下半身あたりでもマー君が投げてんじゃないかってくらい。

実は私は生まれながらの巫女なんじゃない?
そしてこのアパートはもう神社と言っても過言じゃないんじゃない?
下半身に、軽く何か祀られてんじゃない?

そう思って33年。長丁場すぎる。

もはやバージンっていうか「バー人」って人種になってる。
ユニコーンなんかでいえば、もう見えるとかじゃない。馬主ですよ。
JRAでユニコーン(三歳馬)に武豊のせてる頃ですよ。


職場の後輩がさー、6年付き合った人と別れ、運命の人と出会い、出来ちゃった結婚して、新居を買って、先日、元気な女の子を出産し、写メしてくれたこの1年で、私、微動だにしてなかったのね。

彼女が「3220グラムの元気な女の子です!」って写メくれたとき、私、スマホで「脱出ゲーム」してて、まさに花瓶の下から謎のカギを見つけて、出口を捜してる瞬間だったんだけど、おのずと脱出しなければならない場所は他にあったことに気付いたよね。

こんななのに、キッカリ歳だけとってくから、人生ってスゴイ。取り立てスゴイ。
キッカリっていうか、ちょっと早くない?私だけ早くない?トイチでとってない?


そんなこんなで円熟味もだいぶ増したので、そろそろこの悲しみの大地に何かあるかもしれないと、
こないだ秋の職場の健診では生まれて初めて「婦人科健診」をオプションで付けちゃったわけです。
もうね、私以上の婦人はいないでしょう、と。

…正直、間違ったのね。丸つけるところ。
健診の希望の紙の締め切りがめっきり過ぎてて、師長に冷たい視線を向けられながら慌てて丸付けてね。もう上の先輩の真似して丸付けたらね、こんなことに・・。


婦人科検診つったらアレですよ。
乳がんの触診とマンモグラフィーとエコーね。
あと、なんとあの噂にはかねがね聞いていた子宮頚がん検診です。
もう上から下からで、私からしたら、軽い初夜みたいなもんです。

しかも子宮頚ガンについては、だいたい初めての性体験から3〜5年後くらいから受けるのが推奨されてて、もうね、絶対今じゃないのね。


前の日は、眠れなかった。
初めては、海の見えるホテルで、波の音を聞きながらって思って30年。
こんな日がくるとは思わなかった。
いや、こんな日が来なさすぎて、代打で、こんな日が来ちゃうと思わなかった。


とりあえず乳がんの触診とエコーについては、キレイな女の先生だった。まるでエステのように終わった。

次のマンモグラフィーは、乳をレントゲンの板で挟んで撮るんだけど、技師さんが新人の女の子で、びっくりするくらい手間取った。

つーか、若干、私の乳の力不足なところもあって、もう、私の胸部の乳とする部分をレントゲンの板で挟むのが大変で。
すばしっこくて。
軽い捕り物帳みたくなったよね。
ここは「私が押さえておくから、そっち頼みます!」つって技師さんと私で必死に乳を袋小路に追いつめた。


そんなこんなで、無事、乳の方をクリアし、お遊びの時間は終わった・・・。


待合室では、震えてた。
テレビがあって、ワイドショーがやってるんだけど、何も頭に入ってこないのね。
これから私の股間に起こるワイドショーの方が凄くて。

問診票の性体験の有無の欄から筆も進まない。
打ち明けるべきか、黙するべきか・・・。

今日は朝からすっごい洗ってきた。うちにある数々の石鹸を使って洗った。友達から海外のお土産でもらったギリシャの石鹸も おろして洗った。
最後に仕上げでリンスもした。
あらぶる毛を整えた。

パンツにいたっては、今日のために買ったよ。
ワコールの本気みたいなパンツ。

そして満を持して。マンも持して。
グッと手を握りしめて待ってると、ついに名前を呼ばれた。

お母さん・・・!
お母さんに手紙書いてくれば良かった。

私・・行くよ。


扉を開けて中に入ると、看護師さんにここでパンツを脱ぐように言われた。
ワコール先輩が「本当に一人で行くのかい?」つってる。

さよならワコール先輩。多分、次に先輩にお会いする時には、一回りも二回りも大きくなって帰ってきます。

パンツを脱ごうとした。

この時ね、婦人科のツウはスカートで来るっつーことを私はもちろん知ってたわけですよ。
スカートでくれば、パンツを脱いでも急に恥ずかしいことにはならない、って裏技を知ってたわけですよ。

だから私はもちろんスカートで来たわけです。
看護師さんも、ズボンの人には検査着を貸してるみたいだけど、私がちゃんとスカートだったので、私をデキル!と見込んだのか安心して、隣の診察室に行っちゃったわけです。

で、脱ぎ始めた私は、この瞬間、はじめて自分が穿いてきたのが、スカートに見えるキュロットだったってことに気づき、息が止まるほど動揺してたわけです。

キュロット!!!!!!

カカロットー!」くらいの勢いで思ったんですけど、驚きすぎて一切声が出なくてね。
しかも、もう看護師さんは、とっくにいなくてね。
検査着ももらえず。

ゆってもキュロットスカートだから、このスカートに見える部分を何とか生かして、うまく巻きつけて穿けないか、とか、片足に二本脚をつっこんで・・とか色々トライしたんですが、全然巻きつかない。巻きつけるには全然尺が足りない。

もう下半身丸出しで、あーでもない、こーでもないと、汗だく。
ギリシャの石鹸の香りも、かき消す勢い。

悩んで、結果、添えたよね。
下半身にキュロットを添える形になったよね。
銭湯かな?って感じで。
多分、ミロのビーナスが確かこんな感じで立ってたと思う。

後ろから見るとね、お尻は完全に出てるんですけど、
間違いなくノーガードなんですけど、
前から見たら、もしかしたら、奇跡的に穿いてるように見えるかもしれない・・・!

一縷の望みにかけたんですけど、戻ってきた看護師さんが完全に「え」つってた。
奇跡ならず!

慌てて看護師さんが「検査着・・」って言いかけたところで、「用意できたかなー?」つって、先生が登場した。

先生っていうか、完全に角田信朗
男の先生かもしれないとは思ってたけど、まさかのレフェリー角田信朗

そして、用意できてない私。添えただけの私。
なのに「じゃあ、椅子座って」と先生。荒っぽい。

私は必死に看護師さんに「検査着、検査着」つって目線を送ったんですけど。
でも看護師さんも「いける、いける」つって目線を送ってきて、結果「じゃあ、この椅子に腰かけてくださーい」つって、もうこのまま行く感じ。

私はキュロット添えのまま、散々おそれてきた魔の診察台へ。

まさに婦人科の総本山。
多くの女子がこの診察台に心を折られてきたと思う。

そう覚悟してきたんですけど、この診察台、私の思ってたのと結構ちげぇ。

あのすげぇ足開いてる診察台界のヤクザみたいのじゃなくて、ピンクで可愛くて、今んとこ足も開かれておらず、でっかめのマッサージチェアーみたいな形。

とりあえず、キュロットを華麗に添えながら普通に座る。

したら、先生が「じゃあ倒します」つってボタンを押したら、
急に背もたれがゆっくり倒れ始めて、足が持ち上がりながら、そして開いた。

なんつーのかな。
よくエロビデオで見るみたいな、こう、なんていうかエロい感じはほとんどなく、
印象としては軽くガンダムに乗り込んだみたいな感じ。

途中までは、あ、案外、大丈夫かも・・って思った。
アムロじゃないけど、行きまーす。ぐらいの余裕で倒れて行ったんですけど。

ところでね、私ね、33年近く、誰にも足なんか開いたことなかったからね、今回が初開きだったわけです。ちょっとした海開きと言ってもいい。

完全に海に入る前の準備体操を怠ったわー。

三十路の足がねー、機械の開脚に全然ついてけないわけ。
180度くらい開くやつのね、70度くらいで、早めの限界がきたよね。

「ギブギブギブギブギブギブギブギブ」つって。
角田さんに言ったよね。レフェリー!つって。

したら、角田先生も慌ててボタンを押して止めてくれたんだけど、
もう70度なの。全然だめなの。天の岩戸5センチくらいしか開いてない。

先生も、これはないっつー顔してる。
分かってる。ダメなのは、私もさすがに、分かってる。

「あの、ちょっとずつでお願いします」
つって、超深呼吸した。

で、また角田先生が椅子をスタートさせたんだけど、
もう1秒で限界なの。「アーッ!」つって。「裂ける―!」つって。
したら、また、すぐ止めてくれて。

で、動かしては「アーッ!」つって、止めて。動かしては「アーッ!」つって。

だいぶ早いけど、初ヒッヒッフーをココで使ったよね。

もう看護師さんも、最初が嘘のように私にかかりきりで、肩をさすって励ましてくれて。
多分、隣の診察室では、「なんか隣、生まれない・・?」くらい思われてたと思う。
少なからず、先生と私と看護師さんの間では、なんらかの絆は生まれてたと思う。

しかし、そんな絆もつかの間。突然の裏切り。
先生も、結構じれったくなったのか、ラスト20度くらい一気にいったよね。

もう白目ですよ。
ほんと軽くキュロットとか投げたよね。セコンドがタオル投げるみたいに。

結局、5分くらいかけて、開きました。


足が開いたらすぐに、先生と私の間にシャってカーテンが引かれた。丁度、私の腰から下のところで見えないようにカーテンしてくれた。

これは、恥ずかしさが半減していいかも。
なんつって思ってたら、

「じゃあ、検体を採りますから、楽にしてて下さい」

ってカーテン越しから声をかけられ、急に本番ですよ。
まだ、私たちお互いのこと何も知らないのに。
出会ってすぐに、こんなことって。

もう、この時の気持ちを何て言ったらいいかわかんないけど、
何て言うか、ツ―――って涙がこぼれたんですよね。

なんていうか、初めては、海の見えるホテルで波の音を聞きながら「ハイネ・・愛してるよ」とか「大切にするよ」とか言われながら、ゆっくりと足を開いていくものだと思ってて、

まさか、検体採りますよ、なんつー声かけで足を開くことになると思ってなかったから。
もう、私のサラダ記念日がエライことになったっつって。サラダ、パサパサになるっつって。

そう思ったら、急に色々考えちゃって、そもそも痛いんじゃないかっつー不安が凄くて。
そもそも検体採るってどんな感じに?って思って。
鼻から大根入れてケツからスイカ出すくらい痛いとか、中2くらいで手に入れた知識が走馬灯のように巡って。

その時になって、問診票の性体験に何も書かなかったことも心配になってきて。
角田さん、お花摘むみたいにやってくれるかな・・・もう30越えてるし、ベテランだと思われて、「検体 出てこいやぁー」みたいな手荒い洗礼を受けたらどうしよう・・・って。
緊張もマックスで。

今なら顔も見えないし、このタイミングしかない!って思って。

「先生、あの、採るってどんな感じですかね・・・実は・・私・・あんまり・・・えっと・・経験が・・・あの・・」つったら、

もうね、ちっちゃい声で言った私が悪いんですけどね、
「え?なに?」つって先生が思いっきりカーテンから顔出してきたわけ。角田が。

もう飲み屋の暖簾みたいに。「やってる?」とばかりに。

やってねぇ―――――!!って慌てて首を起こしたら、
もう角田と近い近い。こんなに近いことある?
爆発するくらい恥ずかしくて、「なんでもない」つって、慌ててカーテンを自分で閉めようとして手を伸ばしたら、
私の5年くらい沈黙してた腹筋が火を吹いてね。

もう今まで一回も攣ったことがない脇腹と、なぜか右足がね、同時に攣ったの。

「ヌ――――――!!!」
つってたかな。
ヌが出た。


「先生!攣ってる攣ってる!!」
つって。


「ちょ!一回戻して!一回戻して!」
つって、もう今度は、私が「やってる?」状態でカーテンをこじ開けて叫んだんですけど、

先生もここ一番のプロ根性で、

「いや、もう、採っちゃうよ!」

つって、謎のちっちゃいブラシのついた細い棒を取り出して、
カーテン全開のさなか、私のエヴァ初号機に乗り込んで来ました。


痛っ―――――――――――――――くなかった・・・。


アレ?ってうちに、先生が脱出ボタンでも押すような勢いでボタンを押し、
足が閉じて、背もたれが上がって、イスが元の形に戻りました。

一瞬で、終わってた。

これが、あのシンクロ率?

つーか、足が痛すぎて、何も感じなかった。
入れた感じすらしなかった。

先生はそのまま、挨拶もそこそこにいなくなり、代わりに入ってきた看護師さんに、

「あの先生うまいですね。全然痛くなかったです」つったら、
「割とこのくらいの年になると、なんでも大丈夫ですよね」って言われた。


間違いなく処女です。
なのに、この30代の懐の深さつったら、ちょっとした綿棒なら余裕でした。
むしろ、入れた綿棒が空を切る感じすらあった。


どの方面からも全く意見を求められてないわけですが、私が思うに、
処女を取っておくってのは、ワインを寝かすみたいなことでね。

じゃあ、ワインは寝かせれば寝かせただけ美味しくなるのかっつーと、必ずしもそうではなくて、ブドウのタイプや個性によって早く飲んだ方がフレッシュで美味しいものもあれば、じっくり寝かせて初めて真価を発揮するものもある。ってサントリーのHPに書いてありました。

で、私のロマネ・コンティはざっと33年寝かされてますからね。もう寝たっきり。
完全に足腰立たなくなってきてる。
熟成とかエライことになってる。


私はクチャクチャになったキュロットをはき、右足を引きづり、脇腹を抱えながら、負傷兵みたいな感じで診察室をあとにした。


一週間後、満身創痍で受けた健診の結果をドキドキしながら聞きに行った。

CTや採血、婦人科健診の結果を広げながらも、医者が渋めの顔で、私の5年連続 右肩上がりの体重グラフをじっと見つめてるわけです。

「先生、どうですか?」って聞いたら、

医者は私に向きなおると、真顔で

「加藤さん、このまま体重が増え続けると、嫌われますよ」

って一言、言いました。

えー、まさかのアドバイス。医療、ほとんど関係ない。

あんだけ必死に婦人科健診をうけて、血を採って、頭のてっぺんから足の先までCT撮った上で、わかったのが「嫌われる」ってことだった。

33歳になるので、一大決心して受けた健診で、すごい雑な結果が導き出された。


それでもいつか、この綿棒も空を切るような暗黒の大地に、聖剣を刺して封印を解いてくれる勇者は現れるのだろうか。

私はその日のためにひたすら、ゴゴゴゴゴゴッつって足を開く練習から始めてる。