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WordPress利用者のための、オープンソースライセンス基礎と実務
自己紹介
● 名前:可知 豊 Kachi Yutaka Twitter:@y_catch
● 職業:フリーのテクニカルライター(マニュアル、研修教材、広告)
● 最近の興味:Scratch
● その他:
– Blog オープンソース・ライセンスの談話室
– ときどき、オープンソースのボランティア
– 法律の専門家ではありません
– 職業プログラマーでもありません
達人出版会
はじめに
 本スライドの内容は、筆者の独自調査によるものです。正確であるよう、
できる限り努力していますが、間違いが含まれる可能性があります。
 正確性より分かりやすさを優先した表現を採用しています。
注意
このページ以降のスライドは
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示 2.1 日
本 )
の下でライセンスされています。
本日の主題
● オープンソースライセンスの基本と実務について解説
● 著作権の考え方:再利用の制限と促進の2本柱
制限 促進
著作権者の利益保護 文化の貢献と発展
オープンソースライセンスは、ソフトウェアの再利用を促進する手段。
自分の権利を守って欲しいなら、相手の権利を守って利用しましょう。
本日の参加者は?
● エンジニア
● デザイナー
● マネジメント・経営者
● その他
アジェンダ
● 著作権とライセンスの関係
● オープンソースとは何なのか
● 代表的なオープンソースライセンス
● WordPressのライセンスは?
● 「WordPressによるビジネス」のヒント
著作権とライセンスの関係
権利(著作権)を持っているから、
権利者は利用を許可(ライセンシング)できる
著作権とは
● 著作権は、作品の利用(主に複製)をコントロールする権利
利用と
使用を区別
著作権を理解するポイント
● 著作権は、作品の利用(主に複製)をコントロールする権利
● 利用と使用を区別する
● 著作権は、「利用」を許可する権利
● 著作物は、誰でも自由に「使用」できる
● 保護されるのは「表現」。「アイデア」は保護しない。
● 著作者人格権と著作財産権を分けて考える
● 作品の著作権は、媒体から独立している
● 著作権の条件は、媒体の種類よって違う
● 著作権は、創作時に自動的に発生する
● 著作権の保護期間は、限られている
● 著作権法違反は、親告罪
● 職務著作は、企業に帰属
ライセンスとは
● 著作物などの利用許可
● 所有権ではない
紙の書籍を買うと、紙を所有できる。でも利用権ではない。
電子書籍は、電子データの利用許可。
サービスが停止すると、データが消える(ことがある)
契約とは限らない
権利を持っているから、利用を許可できる
権利を
持っている
ソースコードとは
一般的な
ソフトウェアビジネスでは、
バイナリーコードの実行だけ許可。
ソースコードは入手できない。
ソフトウェアライセンスビジネスの基本形
ソフトウェアライセンスは、ソフトウェアの利用(複製・配布・改
変)に対する、著作権者による許可。パッケージソフトの購入は、
利用権にお金を払っているだけ。
制限例:
リバースエンジニアリングの禁止
ベンチマーク測定の禁止
オープンソースとは何なのか
よくある誤解:
● ソースコードを公開したら、すべてOSS
● OSSは、必ず無料で配布しなければならない
● OSSを改良したら、OSSとして公開
しなければならない
オープンソースとは
「誰でも自由に利用できる」
という条件でソースコードの
利用を許可する行為。
条件は、オープンソースの定
義に準拠している。
ソースコードを公開するだけ
では、オープンソースとは言
えない。
オープンソースの定義
オープンソースの権利
● 利用者が、ソフトウェアのコピーを作り、それを配布できる
● 利用者が、ソースコードを入手できる
● 利用者は、ソースコードを改変できる
● 元と同じ条件での配布を許可できる
オープンソースライセンスが備える条件
● 作者のソースコードの完全性を維持すること
● 個人もしくは団体に対する差別をしないこと
● 使用分野に対する差別をしないこと
● 再配布時には追加ライセンスを必要としないこと
● 特定の製品に固有なライセンスを使用しないこと
● 他のソフトウェアに対する干渉をしないこと
● 特定の技術に依存しないこと
利用者は、再配布しても良いし、
しなくてもいい。
この条件を持つライセンスもあるし、
無いライセンスもある
開発コミュニティが備えるべき自由は
何なのか。Debianのディスカッション
から生まれた。
オープンソースライセンスの特徴
● 無保証
● 配布時には、著作権表示と免責条項・ライセンス文書を含める
(ただし、どこに含めるかは、ライセンスの種類によって異なる)
● コピーレフト方式を採用していることがある(ないこともある)
● デュアルライセンスで運用されることがある
● オープンソースライセンスの相互運用性(互換性、両立性)
● 広告条項 を持つ場合もある(新:名称を勝手に使うな/旧:名称を必ず掲載)
● 特許条項を持つ場合もある
● ソースコードとバイナリーコードの配布条件は異なる場合がある
● 商標 ⇒ ライセンス以外の条件で制約される場合がある
コピーレフトとは
ソースコードを下記条件で提供:
・ソースコードを入手可能に、複製・配布・修正を許可する
・派生ソフトウェアも同じ条件で提供する
ソースを入手可能にし、利用を許可。同じ条件で提供
派生ソフトウェアを提供
ソースを入手可能にし、利用を許可。同じ条件で提供
派生ソフトウェアを提供
コピーレフトの対象とみなす範囲
ライセンスの種類 修正 追加 静的リンク 動的リンク
- - - - -
- - - - -
MPL ○ ○ - - -
LGPL ○ ○ - - -
GPL ○ ○ ○ ○ -
AGPL ○ ○ ○ ○ ○
Webサービス
MITライセンス
Apacheライセンス
*1
*2
*1:ライブラリと結合・リンクして配布する場合、リバースエンジニアリングを禁止せず、
   結合・リンクしたコードは、ソースコードまたはオブジェクトコードの提供が必要。
*2:GPLでは、社内利用や自社Webサービスでの利用であれば、改変版を公開しなくてもよい。
-:コピーレフトの対象とみなさない
○:コピーレフトの対象とみなす
何を派生ソフトウェアと見なすか
オープンソースライセンスやプロダクトによって違っている
● ソースコードの修正
● ソースコードを追加
● 静的リンク:コンパイル時にモジュールを同梱
● 動的リンク:実行時にモジュールをロード
● Webサービス:AGPL
WordPressのテーマでは、
これを派生ソフトウェアと見なす
代表的なオープンソースライセンス
● MITライセンス
● Apacheライセンス 2.0
● GPL
● (クリエイティブ・コモンズ)
MITライセンス(概要)
Copyright (c) <year> <copyright holders>
● 以下の条件を満たす限り、自由な複製・配布・修正を無制限に許可する。
➢ 上記の著作権表示と本許諾書を、
ソフトウェアの複製または重要な部分に記載する。
● 本ソフトウェアは無保証である。自己責任で使用する。
✗ コピーレフトなし
✗ 特許条項なし
✗ 修正版を、オープンソースでない別のソフトウェアに組み込んでも
ソースコードは公開不要
Apacheライセンス 2.0(概要)
● MITライセンスと、ほぼ同内容
● 配布時には、著作権表示と免責条項を含める
● 本ライセンスのコピーも渡すこと
● 「NOTICE」に相当するテキストファイルが含まれている場合は、
そこに含まれている帰属告知のコピーを残すこと
● コピーレフト方式、採用せず
● Apacheの名称を広告やソフトウェア名として許可なく使用しない
● 特許条項:対象ソフトウェアを利用する場合に限り、含まれる特許も自
由に利用できる。特許訴訟を起こしたら、ライセンス停止。
GPL2と互換性がない。
GPLとは
● 正式名称:GNU General Public License
● MITライセンス、Apacheライセンスより強
力
コピーレフトあり
● 多数のバリエーション
– GPL2.0
– GPL3.0
– AGPL3.0
- LGPL2.1
- LGPL3.0
GPL2.0の特長
● バイナリーコードを提供したら、ソースコードを入手可能にする
● ソースコードの提供時には、著作権表示と免責条項を含める
● コピーレフト方式を採用。派生ソフトウェアを受け取った人が
ソースコードを入手し、利用(改変・複製・配布)できるようにしなけ
ればならない。
● 特許条項:ソフトウェア特許の受け入れを認めるものではなく、
問題がおきたらソフトウェアの利用許諾を停止する。
ApacheライセンスやGPL3.0と互換性がない。
● 既存の条件と矛盾する条件追加はダメ
クリエイティブ・コモンズ
● プログラム以外の、テキスト・音楽・映像・画像が対象
● ライセンス条件を細かく選択できる
➢ 著作権表示
➢ コピーレフト(あり/なし)
➢ 商用利用(許可/不許可)
➢ 改変禁止
条件によっては、
オープンソースと呼べない
WordPressのライセンスは?
WordPressの利用許可条件は、GPL ver2
あなたは、派生ソフトウェアを
「GPL ver2またはそれ以降のバージョン」で提供できる
テーマ/プラグインのライセンス
WordPress本体
GPL2.0
WordPressテーマ
●PHPコード
●画像
●HTMLコード
●CSS
●Javascript
本体の関数やフックを呼び出すなら
WordPressの派生ソフトウェアになる。
「GPL2またはそれ以降」で提供
● 導入作業などを有償にしてもいい
● 画像や文書の利用条件は別途指定可
● 自社Webサイトに設置しただけなら、
テーマの公開義務なし
本体の関数を呼び出す
のは、コードの追加
「GPL2またはそれ以降」で提供
100%GPLとスプリットライセンス
WordPress本体
GPL2.0
WordPressテーマ
●PHPコード
●画像
●HTMLコード
●CSS
●Javascript
本体の関数を呼び出す
100%GPL
● この全てを「GPL2またはそれ以降」で提供
● 独自の利用契約もダメ
● MITライセンスやApacheライセンスもダメ
スプリットライセンス
本体の関数やフックを呼び出さない部分を
別ライセンスで提供
コミュニティは、
こちらを奨励
https://ja.wordpress.org/about/license/100-percent-gpl/
注意:コミュニティによって用語が違う
GPL互換ライセンス
● GPLと両立するライセンス
GPL下位互換ライセンス
例:MITライセンス、BSDライセンス、LGPL2.1
● GPLver2.0またはそれ以降
GPL上位互換ライセンス
例:GPL2.0、GPL3.0、AGPL3.0
(MITライセンスやApacheライセンスは含まない)
WordPressコミュニティでは
こちらの意味
一般的なオープンソースやGPLの解説を読むときには注意しましょう。
「WordPressによるビジネス」のヒント
どこで儲けるか
WordPressによる
システム構築・運用
HW/ネットワーク提供
AWS、ホスティング
手続き代行
ミドルウェア提供
Linux,Apache,MySQL
システム構築
WordPress提供
導入・構築・設定
テーマ・プラグイン開発
コンテンツ開発
運用・設定変更
著作権者が
利用許可する
開発作業の委託
納入物はGPLv2.0
メンテも委託
サービス提供
10.99cm
ビジネス利用のための参考資料
経済産業省:オープンソースソフトウエアの利用状況調査
導入検討ガイドラインの公表について
専門家によるGPL解説
経済産業省:情報システム・モデル取引・契約書
受託開発企業が、発注先・外注先と交わす契約書の雛形
OSSの採用について言及
ただし、ソースコードの改変は考慮していない
コミュニティの規範をどう捉えるか
● 活動を制約する4つの力
※ローレンス・レッシグ「CODE」を元に作成
コミュニティとは何なのか
オープンソースコミュニティ(バザールモデル)
ソースコードやソフトウェア開発者を核とした共同体。
● インターネットを介した分散化された共同作業
● 高速な品質向上
● 継続的な開発体制 ソースコード
● コミュニティでの評判が
ビジネスに影響を与える
● コミュニティの強化が
ビジネス基盤の強化につながる
WordPressのライセンスに関する、ありがちな質問1
● 著作権とライセンスの関係は?
> 著作権を持つ人が、利用を許可(ライセンス)できる
● WordPressのライセンスは?
> 「GPL2.0またはそれ以降」に従う
● WordPressのコントリビュータになったら、ライセンスを変えてもいい?
> だめ。著作権者全員の同意が必要
● 自社サーバーに設置した場合、派生ソフトウェア(本体、テーマ、プラグイン)を公開?
> 不要。誰にもコードを提供していないから
● お客様サーバーに設置した場合、派生ソフトウェアを公開?
>お客様に、「GPL2.0またはそれ以降」で提供しなければいけない
>ネットで公開する必要はない
WordPressのライセンスに関する、ありがちな質問2
● テーマ・プラグインを作ったら、その利用条件は?
> 関数やフックを呼び出すなら、「GPL2.0またはそれ以降」で提供
> 画像やテキストなどを、スプリットライセンスで提供可能
● WordPressの名称を広告・宣伝に使っていい?
> 使える場合と使えない場合がある。
> OK:「いろはウェブサービス 〜中小企業向け WordPress コンサルティングサービス〜」
> https://ja.wordpress.org/trademark-policy/
WordPressのライセンスに関する、ありがちな質問3
● どうやってビジネスすればいいの?
> 開発作業や運用作業の作業料を請求
> テーマやプラグイン公開・事例公開で
 知名度向上やブランディングにつなげる
> テーマをGPL2.0で有償提供。
 サポートやサブスクリプションを有償提供
 バージョンアップ版も有償提供
● テーマを、有償ライセンスとGPLのデュアルライセンスで提供できますか
> WordPressの関数やフックを呼び出すなら、ダメ。
● 自社サイトでWordPressをSaaS提供した場合、独自プラグインの公開は必要ですか
> 不要です。
ライセンスビジネスは
難しいかも
セッション後に
教えてもらった話。
ご清聴ありがとうございました
 オープンソースライセンスは、
ソフトウェアの再利用を促進する手段
 自分の権利を守って欲しいなら、
相手の権利を守って利用しましょう
達人出版会

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