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人型ロボットの現状
遍在に至るまでの道のりは長く険しい
Takayuki Yamazaki
2024 年 1 月 18 日
2024年1月18日 Takayuki Yamazaki
概要
人型ロボットを専門とする企業は、人間の外見や行動を模倣したロボットを設計・開発している。
彼らは、二足歩行、物体ハンドリング、顔認識、社会的相互作用などの機能に焦点を当てている。
彼らの学際的な研究は、機械工学、コンピューターサイエンス、AI、材料科学を融合させ、高度
なロボットシステムを構築している。
背景
人型ロボットは、何千年もの間、人類の想像力を魅了してきた。エジプトやギリシャのような古
代文明は、金属や石でできた「automata」と呼ばれる自動作動する物体を想定していた。イスラ
ム教の発明家であるジャザリー(Ismail al-Jazari)などの歴史上の人物は、初期のプロトタイプ
を作成した。彼のロボット飲料サーバは、レオナルド・ダ・ヴィンチのロボット実験に影響を与
えたと言われている。それ以来、ロボットはSFや大衆文化の中に入り込み、憧れられたり恐れら
れたりする象徴的な存在として登場し、大量生産される玩具に姿を変え、常に興味をそそる存在
であり続けている。
2017年の画期的な出来事として、サウジアラビアはリアルな皮膚と神経ネットワークベースのイ
ンターフェースを持つ人型ロボット「Sophia」に市民権を与えた。このような画期的な開発と46
億ドル以上の投資にもかかわらず、人型ロボットの日常生活への普及はまだ遠い現実のようであ
る。機能的なプロトタイプはソーシャルメディア上で大きな話題を呼んでいるが、人型ロボット
は接客業、倉庫業、ヘルスケアなどの業界で導入されたばかりだ。今後の導入は、テクノロジ戦
略家による精通したビジネスモデルと費用対効果の高い意思決定にかかっている。
テクノロジとプロセス
一般的なロボット工学は、完全に自律した機械を作り出すために、互いに影響し合うシステムの
複雑なネットワークを含んでいる。
 力学と運動学(Mechanics and kinematics)
 構造:人型ロボットの構造は、頭、胴体、腕、脚を備えた人間の骨格に似ている。この
構造は、人間の形を再現し、複雑な動きを容易にするために不可欠である。
 アクチュエータ、モータ、器用さ:これらのコンポーネントは、人間の筋肉機能をエミ
ュレートするために不可欠であり、人型ロボットが物体を正確に掴み、持ち上げ、操作
するといった複雑な作業を行うことを可能にする。
 二足歩行:高度なシステムにより、人型ロボットは歩いたり、走ったり、バランスを保
ったりすることができる。
2024年1月18日 Takayuki Yamazaki
 制御システム(Control systems)
 マイクロコントローラとプロセッサ:ロボットの頭脳として機能するこれらの要素は、
自律的なリアルタイムの入力処理と意思決定を担当し、ロボットの自己統治とインテリ
ジェントな行動にとって極めて重要である。
 ソフトウェア・アルゴリズムとフィードバック・ループ:これらは、ロボットが周囲と
スムーズかつ安全に相互作用できるように、プランニング、バランス制御、適応的な意
思決定を促進し、外部刺激にダイナミックに反応するために不可欠である。
 センサと知覚(Sensors and perception)
 コンピュータビジョンシステム:カメラと画像処理技術により、人型ロボットは人間の
視覚知覚を模倣して物体を認識し、空間をナビゲートすることができる。
 環境センサ:超音波、赤外線、LiDARなどの技術は、ロボットがその環境を理解し、適
応できるようにするために不可欠な空間認識を提供する。
 触覚センサ:これらのセンサは触覚と圧力を検出し、繊細で正確な物体のハンドリング
に不可欠であり、ロボットと物理的物体との相互作用を強化する。
 人工知能と機械学習(Artificial intelligence & machine learning: AI&ML)
 認知コンピューティングと学習アルゴリズム:これらのシステムにより、人型ロボット
は人間の思考プロセス、問題解決、意思決定を模倣し、フィードバックと学習を通じて
継続的に改善することができる。
 自然言語処理:この技術は、ロボットが人間の言葉を理解し、生成することを可能にし、
人間とロボットのシームレスなコミュニケーションを促進する。
 人間とロボットの相互作用(Human-robot interaction)
 音声認識と合成:これらの機能により、効果的な言葉によるコミュニケーションが可能
になり、人型ロボットが話し言葉による命令を理解し、それに応えることができるよう
になる。
 ジェスチャーと表情認識:非言語コミュニケーション能力を強化し、人間とのインタラ
クションをより直感的で自然なものにする。
 感情の検出と応答:人間の感情を認識し反応することで、人型ロボットはより共感的で
文脈を意識したインタラクションを提供し、社会環境における有効性を向上させる。
2024年1月18日 Takayuki Yamazaki
 電力とエネルギー管理(Power and energy management)
 人型ロボットでは、効率的な電力とエネルギーの管理が、長寿命と最適なパフォーマン
スを確保するために極めて重要である。高度なバッテリー技術とエネルギー効率に優れ
た設計は、このような洗練されたマシンを長時間にわたって効果的に動作させ、さまざ
まな用途でより実用的で実行可能なものにする上で極めて重要である。
 材料と製造(Materials and fabrication)
 人型ロボットの開発では、素材や製造方法の選択が重要な役割を果たし、耐久性、安全
性、機能性に直接影響する。3Dプリンティングのような最先端の技術とともに、軽量で
ありながら耐久性のある素材を活用することで、頑丈で様々な環境に適応できるだけで
なく、人間と密接に関わることができる安全なロボットを作ることができる。
アプリケーション
 ヘルスケア(Healthcare)
 ヘルスケア分野では、Fourier IntelligenceのGR-1ロボットのような人型ロボットが、特
に高齢者のリハビリ治療や介助をターゲットとしてデビューしている。人間の相互作用
や行動をエミュレートする能力を持つこれらのロボットは、患者のケアやリハビリプロ
セスに徐々に組み込まれ、医療専門家の補助的な役割を果たしている。
 教育(Education)
 教育現場において、人型ロボットは様々な教科教育、言語学習、特別支援教育などを支
援するインタラクティブなツールとして機能する可能性がある。その対話機能は、生徒
の参加に斬新なアプローチを提供することができる。
 顧客サービス(Customer service)
 人型ロボットは、小売店やホテル、空港などでの接客や案内、ナビゲーションの補助な
どに活用されている。人間と親近感を持って接することができるロボットは、顧客体験
を向上させることができる。
 エンターテインメント(Entertainment)
 エンターテインメント業界は、人型ロボットをテーマパークや展示会、舞台ショーにお
けるパフォーマーやインタラクティブな要素として捉えている。人型ロボットのユニー
クな存在は、エンターテインメント体験に斬新な側面を加えることができる。
2024年1月18日 Takayuki Yamazaki
 捜索救助活動(Search and rescue operations)
 人型ロボットは、特に人間にとって安全でない、あるいは人間が近づけない環境での捜
索・救助活動にも活用されることが検討されている。困難な地形を移動する能力は、緊
急事態において貴重なものとなる。
 家庭内支援(Domestic assistance)
 家庭内では、家事、ホームセキュリティ、コンパニオンシップなどを支援する人型ロボ
ットが開発されている。
 製造業と重工業(Manufacturing and heavy industry)
 製造分野では、アマゾンが倉庫でDigitロボットを使用しているように、人型ロボットが
協力者として導入されている。これらのロボットは人間の従業員と連携して作業するこ
とが可能で、特に器用さと意思決定が要求される作業では、従来のロボットでは対応で
きないことが多い。アマゾンの倉庫のような環境での活用は、複雑な産業環境における
効率性を高める人型ロボットの可能性を例証している。
限界
人型ロボットは、その技術の進歩にもかかわらず、普及に影響を与えるいくつかの制限に直面し
ている。主な課題のひとつはコストである。人型ロボットを開発・製造するには、その複雑な設
計と高度な技術が必要となるため、法外なコストがかかる。高度な人型ロボットは、その能力や
用途にもよるが、2万ドルから100万ドル以上する。このような高コストのため、特に中小企業や
個人での利用には限界がある。さらに、人型ロボットは、二足歩行運動や複雑な感覚処理システ
ムを維持するために大きな電力を必要とするため、稼働時間が制限され、頻繁な充電が必要にな
るなど、エネルギー効率で苦労することが多い。AIとMLアルゴリズムの高度化もまた、課題を提
示している。かなりの進歩にもかかわらず、人型ロボットは、意思決定、適応性、微妙な人間の
相互作用の理解という点で、まだ人間の能力に遅れをとっている。このような制限に加え、雇用
の奪い合いやプライバシーの問題など、現在進行中の倫理的・社会的懸念が、人型ロボットの実
用化を複雑かつ発展的なものにしている。
最近の取引動向と市場見通し
人型ロボットの市場見通しは、大きな期待と現実的な限界が混在している。この分野における注
目すべき進展は、テスラのOptimusプロジェクトであり、イーロン・マスクCEOは、これらのロ
ボットの価格は最終的に20,000ドル程度になる可能性があると述べている。この価格戦略が実現
すれば、人型ロボットの市場が大幅に拡大し、より幅広い消費者や企業が利用しやすくなる可能
性がある。
2024年1月18日 Takayuki Yamazaki
この分野へのベンチャーキャピタルの関心は高く、それは最近の資金調達ラウンドでも証明され
ている。省力化アンドロイド「EVE」の開発で知られる1Xは、2023年10月に8,750万ドルの資金
調達に成功した。Amazon Roboticsの元副社長Brad Porter氏が率いるCollaborative Roboticsは、
Sequoia Capitalが主導するシリーズA資金調達ラウンドで3,000万ドルを確保した。また、労働力
不足に対応するロボットの開発に注力しているFigureは、シリーズAで7,000万ドルという多額の
資金を調達した。これらの投資は、特に労働力不足に対処し生産性を向上させることによって、
人型ロボットが様々な産業に革命をもたらす可能性に対する強い自信を反映している。
こうした進歩や投資にもかかわらず、人型ロボットの市場普及にはいくつかの課題がある。第一
に、開発コストの高さと、マスク氏が推測している下限価格であっても小売価格になる可能性が
あることから、初期の所有者は裕福な家庭や企業に限定される可能性がある。もし人型ロボット
が、用途に特化した非人型ロボットとは対照的に、人件費以上の一貫した価値を提供するのであ
れば、企業はより速いスピードで人型ロボットを採用するかもしれない。Gartnerは、2035年ま
でに先進国の裕福な家庭の約10%しか人型ロボットを持たないと予測しており、主流市場への浸
透が徐々に進むことを示唆している。
このようなアクセシビリティ(手の届きやすさ)の問題に対する解決策として、「Robotics as a
Service (RaaS)」ビジネスモデルの可能性が出てくるかもしれない。このモデルでは、企業や消
費者が人型ロボットをリースまたはレンタルすることで、初期費用を抑え、高度なロボット技術
をより多くの人々が利用しやすくすることができる。
人型ロボットの未来は、技術の進歩や新たなベンチャーキャピタルからの投資に後押しされ、興
味深いものになるだろうが、家庭や企業で遍在的存在になるまでの道のりは課題で敷き詰められ
ている。これらには、高いコスト、継続的な技術改良の必要性、アクセシビリティと実用性を高
める革新的なビジネスモデルの開発などが含まれる。
主な人型ロボット開発企業
企業名 資金調達(M$) 本社所在地 創立年
Tesla $19.4B 米国 Texas 2003 年
UBTECH $1,861.0 中国 Shenzhen 2012 年
Agility Robotics $178.0 米国 Pittsburgh 2015 年
Figure $170.0 米国 Sunnyvale 2019 年
Plus One Robotics $95.1 米国 San Antonio 2015 年
Sanctuary AI $93.8 カナダ Vancouver 2018 年
Moxie $75.1 米国 Pasadena 2016 年
2024年1月18日 Takayuki Yamazaki
Rainbow Robotics $70.8 韓国 Daejeon 2002 年
Elementary $47.6 米国 South Pasadena 2017 年
LEJU Robotics $46.1 中国 Shenzhen 2016 年
1X $40.4 ノルウェー Moss 2014 年
Boston Dynamics $37.0 米国 Waltham 1992 年
Meltin MMI $31.3 日本 東京 2013 年
Apptronik $28.6 米国 Austin 2016 年
Cobot $40.0 米国 Santa Clara 2022 年
Hanson Robotics $21.7 香港 2013 年
Duality Robotics $14.9 米国 San Mateo 2018 年
SoftBank Robotics $13.0 日本 東京 2014 年
Oversonic $10.8 イタリア Besana in Brianza 2020 年
Unitree Robotics $10.0 中国 Hangzhou 2016 年
Promobot $8.7 米国 Pennsylvania 2015 年
Furhat Robotics $4.6 スウェーデン Stockholm 2014 年
Beyond Imagination $4.2 米国 Burbank 2018 年
EZ-Robot $3.7 カナダ Calgary Alberta 2011 年
GenRobotic $3.1 インド Thiruvananthapuram 2015 年
Macco Robotics $0.2 スペイン Málaga 2017 年
Engineered Arts N/A 英国 Falmouth 2005 年
PAL Robotics N/A スペイン Barcelona 2004 年
Robotics Lab N/A スペイン Bellavista Callao 2018 年
Istituto Italiano di
Tecnologia
N/A イタリア Genova 2003 年
2023年12月18日時点

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  • 2. 2024年1月18日 Takayuki Yamazaki 概要 人型ロボットを専門とする企業は、人間の外見や行動を模倣したロボットを設計・開発している。 彼らは、二足歩行、物体ハンドリング、顔認識、社会的相互作用などの機能に焦点を当てている。 彼らの学際的な研究は、機械工学、コンピューターサイエンス、AI、材料科学を融合させ、高度 なロボットシステムを構築している。 背景 人型ロボットは、何千年もの間、人類の想像力を魅了してきた。エジプトやギリシャのような古 代文明は、金属や石でできた「automata」と呼ばれる自動作動する物体を想定していた。イスラ ム教の発明家であるジャザリー(Ismail al-Jazari)などの歴史上の人物は、初期のプロトタイプ を作成した。彼のロボット飲料サーバは、レオナルド・ダ・ヴィンチのロボット実験に影響を与 えたと言われている。それ以来、ロボットはSFや大衆文化の中に入り込み、憧れられたり恐れら れたりする象徴的な存在として登場し、大量生産される玩具に姿を変え、常に興味をそそる存在 であり続けている。 2017年の画期的な出来事として、サウジアラビアはリアルな皮膚と神経ネットワークベースのイ ンターフェースを持つ人型ロボット「Sophia」に市民権を与えた。このような画期的な開発と46 億ドル以上の投資にもかかわらず、人型ロボットの日常生活への普及はまだ遠い現実のようであ る。機能的なプロトタイプはソーシャルメディア上で大きな話題を呼んでいるが、人型ロボット は接客業、倉庫業、ヘルスケアなどの業界で導入されたばかりだ。今後の導入は、テクノロジ戦 略家による精通したビジネスモデルと費用対効果の高い意思決定にかかっている。 テクノロジとプロセス 一般的なロボット工学は、完全に自律した機械を作り出すために、互いに影響し合うシステムの 複雑なネットワークを含んでいる。  力学と運動学(Mechanics and kinematics)  構造:人型ロボットの構造は、頭、胴体、腕、脚を備えた人間の骨格に似ている。この 構造は、人間の形を再現し、複雑な動きを容易にするために不可欠である。  アクチュエータ、モータ、器用さ:これらのコンポーネントは、人間の筋肉機能をエミ ュレートするために不可欠であり、人型ロボットが物体を正確に掴み、持ち上げ、操作 するといった複雑な作業を行うことを可能にする。  二足歩行:高度なシステムにより、人型ロボットは歩いたり、走ったり、バランスを保 ったりすることができる。
  • 3. 2024年1月18日 Takayuki Yamazaki  制御システム(Control systems)  マイクロコントローラとプロセッサ:ロボットの頭脳として機能するこれらの要素は、 自律的なリアルタイムの入力処理と意思決定を担当し、ロボットの自己統治とインテリ ジェントな行動にとって極めて重要である。  ソフトウェア・アルゴリズムとフィードバック・ループ:これらは、ロボットが周囲と スムーズかつ安全に相互作用できるように、プランニング、バランス制御、適応的な意 思決定を促進し、外部刺激にダイナミックに反応するために不可欠である。  センサと知覚(Sensors and perception)  コンピュータビジョンシステム:カメラと画像処理技術により、人型ロボットは人間の 視覚知覚を模倣して物体を認識し、空間をナビゲートすることができる。  環境センサ:超音波、赤外線、LiDARなどの技術は、ロボットがその環境を理解し、適 応できるようにするために不可欠な空間認識を提供する。  触覚センサ:これらのセンサは触覚と圧力を検出し、繊細で正確な物体のハンドリング に不可欠であり、ロボットと物理的物体との相互作用を強化する。  人工知能と機械学習(Artificial intelligence & machine learning: AI&ML)  認知コンピューティングと学習アルゴリズム:これらのシステムにより、人型ロボット は人間の思考プロセス、問題解決、意思決定を模倣し、フィードバックと学習を通じて 継続的に改善することができる。  自然言語処理:この技術は、ロボットが人間の言葉を理解し、生成することを可能にし、 人間とロボットのシームレスなコミュニケーションを促進する。  人間とロボットの相互作用(Human-robot interaction)  音声認識と合成:これらの機能により、効果的な言葉によるコミュニケーションが可能 になり、人型ロボットが話し言葉による命令を理解し、それに応えることができるよう になる。  ジェスチャーと表情認識:非言語コミュニケーション能力を強化し、人間とのインタラ クションをより直感的で自然なものにする。  感情の検出と応答:人間の感情を認識し反応することで、人型ロボットはより共感的で 文脈を意識したインタラクションを提供し、社会環境における有効性を向上させる。
  • 4. 2024年1月18日 Takayuki Yamazaki  電力とエネルギー管理(Power and energy management)  人型ロボットでは、効率的な電力とエネルギーの管理が、長寿命と最適なパフォーマン スを確保するために極めて重要である。高度なバッテリー技術とエネルギー効率に優れ た設計は、このような洗練されたマシンを長時間にわたって効果的に動作させ、さまざ まな用途でより実用的で実行可能なものにする上で極めて重要である。  材料と製造(Materials and fabrication)  人型ロボットの開発では、素材や製造方法の選択が重要な役割を果たし、耐久性、安全 性、機能性に直接影響する。3Dプリンティングのような最先端の技術とともに、軽量で ありながら耐久性のある素材を活用することで、頑丈で様々な環境に適応できるだけで なく、人間と密接に関わることができる安全なロボットを作ることができる。 アプリケーション  ヘルスケア(Healthcare)  ヘルスケア分野では、Fourier IntelligenceのGR-1ロボットのような人型ロボットが、特 に高齢者のリハビリ治療や介助をターゲットとしてデビューしている。人間の相互作用 や行動をエミュレートする能力を持つこれらのロボットは、患者のケアやリハビリプロ セスに徐々に組み込まれ、医療専門家の補助的な役割を果たしている。  教育(Education)  教育現場において、人型ロボットは様々な教科教育、言語学習、特別支援教育などを支 援するインタラクティブなツールとして機能する可能性がある。その対話機能は、生徒 の参加に斬新なアプローチを提供することができる。  顧客サービス(Customer service)  人型ロボットは、小売店やホテル、空港などでの接客や案内、ナビゲーションの補助な どに活用されている。人間と親近感を持って接することができるロボットは、顧客体験 を向上させることができる。  エンターテインメント(Entertainment)  エンターテインメント業界は、人型ロボットをテーマパークや展示会、舞台ショーにお けるパフォーマーやインタラクティブな要素として捉えている。人型ロボットのユニー クな存在は、エンターテインメント体験に斬新な側面を加えることができる。
  • 5. 2024年1月18日 Takayuki Yamazaki  捜索救助活動(Search and rescue operations)  人型ロボットは、特に人間にとって安全でない、あるいは人間が近づけない環境での捜 索・救助活動にも活用されることが検討されている。困難な地形を移動する能力は、緊 急事態において貴重なものとなる。  家庭内支援(Domestic assistance)  家庭内では、家事、ホームセキュリティ、コンパニオンシップなどを支援する人型ロボ ットが開発されている。  製造業と重工業(Manufacturing and heavy industry)  製造分野では、アマゾンが倉庫でDigitロボットを使用しているように、人型ロボットが 協力者として導入されている。これらのロボットは人間の従業員と連携して作業するこ とが可能で、特に器用さと意思決定が要求される作業では、従来のロボットでは対応で きないことが多い。アマゾンの倉庫のような環境での活用は、複雑な産業環境における 効率性を高める人型ロボットの可能性を例証している。 限界 人型ロボットは、その技術の進歩にもかかわらず、普及に影響を与えるいくつかの制限に直面し ている。主な課題のひとつはコストである。人型ロボットを開発・製造するには、その複雑な設 計と高度な技術が必要となるため、法外なコストがかかる。高度な人型ロボットは、その能力や 用途にもよるが、2万ドルから100万ドル以上する。このような高コストのため、特に中小企業や 個人での利用には限界がある。さらに、人型ロボットは、二足歩行運動や複雑な感覚処理システ ムを維持するために大きな電力を必要とするため、稼働時間が制限され、頻繁な充電が必要にな るなど、エネルギー効率で苦労することが多い。AIとMLアルゴリズムの高度化もまた、課題を提 示している。かなりの進歩にもかかわらず、人型ロボットは、意思決定、適応性、微妙な人間の 相互作用の理解という点で、まだ人間の能力に遅れをとっている。このような制限に加え、雇用 の奪い合いやプライバシーの問題など、現在進行中の倫理的・社会的懸念が、人型ロボットの実 用化を複雑かつ発展的なものにしている。 最近の取引動向と市場見通し 人型ロボットの市場見通しは、大きな期待と現実的な限界が混在している。この分野における注 目すべき進展は、テスラのOptimusプロジェクトであり、イーロン・マスクCEOは、これらのロ ボットの価格は最終的に20,000ドル程度になる可能性があると述べている。この価格戦略が実現 すれば、人型ロボットの市場が大幅に拡大し、より幅広い消費者や企業が利用しやすくなる可能 性がある。
  • 6. 2024年1月18日 Takayuki Yamazaki この分野へのベンチャーキャピタルの関心は高く、それは最近の資金調達ラウンドでも証明され ている。省力化アンドロイド「EVE」の開発で知られる1Xは、2023年10月に8,750万ドルの資金 調達に成功した。Amazon Roboticsの元副社長Brad Porter氏が率いるCollaborative Roboticsは、 Sequoia Capitalが主導するシリーズA資金調達ラウンドで3,000万ドルを確保した。また、労働力 不足に対応するロボットの開発に注力しているFigureは、シリーズAで7,000万ドルという多額の 資金を調達した。これらの投資は、特に労働力不足に対処し生産性を向上させることによって、 人型ロボットが様々な産業に革命をもたらす可能性に対する強い自信を反映している。 こうした進歩や投資にもかかわらず、人型ロボットの市場普及にはいくつかの課題がある。第一 に、開発コストの高さと、マスク氏が推測している下限価格であっても小売価格になる可能性が あることから、初期の所有者は裕福な家庭や企業に限定される可能性がある。もし人型ロボット が、用途に特化した非人型ロボットとは対照的に、人件費以上の一貫した価値を提供するのであ れば、企業はより速いスピードで人型ロボットを採用するかもしれない。Gartnerは、2035年ま でに先進国の裕福な家庭の約10%しか人型ロボットを持たないと予測しており、主流市場への浸 透が徐々に進むことを示唆している。 このようなアクセシビリティ(手の届きやすさ)の問題に対する解決策として、「Robotics as a Service (RaaS)」ビジネスモデルの可能性が出てくるかもしれない。このモデルでは、企業や消 費者が人型ロボットをリースまたはレンタルすることで、初期費用を抑え、高度なロボット技術 をより多くの人々が利用しやすくすることができる。 人型ロボットの未来は、技術の進歩や新たなベンチャーキャピタルからの投資に後押しされ、興 味深いものになるだろうが、家庭や企業で遍在的存在になるまでの道のりは課題で敷き詰められ ている。これらには、高いコスト、継続的な技術改良の必要性、アクセシビリティと実用性を高 める革新的なビジネスモデルの開発などが含まれる。 主な人型ロボット開発企業 企業名 資金調達(M$) 本社所在地 創立年 Tesla $19.4B 米国 Texas 2003 年 UBTECH $1,861.0 中国 Shenzhen 2012 年 Agility Robotics $178.0 米国 Pittsburgh 2015 年 Figure $170.0 米国 Sunnyvale 2019 年 Plus One Robotics $95.1 米国 San Antonio 2015 年 Sanctuary AI $93.8 カナダ Vancouver 2018 年 Moxie $75.1 米国 Pasadena 2016 年
  • 7. 2024年1月18日 Takayuki Yamazaki Rainbow Robotics $70.8 韓国 Daejeon 2002 年 Elementary $47.6 米国 South Pasadena 2017 年 LEJU Robotics $46.1 中国 Shenzhen 2016 年 1X $40.4 ノルウェー Moss 2014 年 Boston Dynamics $37.0 米国 Waltham 1992 年 Meltin MMI $31.3 日本 東京 2013 年 Apptronik $28.6 米国 Austin 2016 年 Cobot $40.0 米国 Santa Clara 2022 年 Hanson Robotics $21.7 香港 2013 年 Duality Robotics $14.9 米国 San Mateo 2018 年 SoftBank Robotics $13.0 日本 東京 2014 年 Oversonic $10.8 イタリア Besana in Brianza 2020 年 Unitree Robotics $10.0 中国 Hangzhou 2016 年 Promobot $8.7 米国 Pennsylvania 2015 年 Furhat Robotics $4.6 スウェーデン Stockholm 2014 年 Beyond Imagination $4.2 米国 Burbank 2018 年 EZ-Robot $3.7 カナダ Calgary Alberta 2011 年 GenRobotic $3.1 インド Thiruvananthapuram 2015 年 Macco Robotics $0.2 スペイン Málaga 2017 年 Engineered Arts N/A 英国 Falmouth 2005 年 PAL Robotics N/A スペイン Barcelona 2004 年 Robotics Lab N/A スペイン Bellavista Callao 2018 年 Istituto Italiano di Tecnologia N/A イタリア Genova 2003 年 2023年12月18日時点