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CyberAgent, Inc.
進化ゲーム理論の枠組みを用い
た
ソーシャルゲームにおける
ユーザの利他的行動の分析
株式会社 サイバーエージェント
Ameba Technology Laboratory
◯高野雅典、和田計也、福田一郎
2013/10/2 1
第95回数理モデル化と問題解決研究発表会
CyberAgent, Inc.
ソーシャルゲーム
• ソーシャルゲームでは
– ユーザがギルドというチームを組む
– 協力してボスを倒したり、ギルドどうしで対戦
• 基本的にはギルドメンバーは協力関係
– ただし、ギルドメンバーの振る舞いが自分にとって必ずしもプ
ラスになるとは限らず複雑な社会関係が存在
ギルドバトル
強いボス
レイド
人の社会性を代表する協調行動に着目
→ ユーサ 関係性について分析
→ サービスの品質改善へ繋げたい
ソーシャルゲームの社会性
CyberAgent, Inc.
協調行動
• 人間をはじめとして多くの動物に見ら
れる現象
• しかし、利他的な個体は利己的な個体
と相互作用すると搾取されてしまうの
で、相互に協調している状態は不安定
– 利他的な個体は利己的な個体を避けて利
他的な個体同士で相互作用する必要があ
る
32013/10/2
【利他的な個体同士の協調を維持する仕組み】
互恵的利他主義: 後で見返りが期待できるならば,即座に自分
の利益とならなくても,相手に対して利他的に振る舞うという
もの
相互の協調状態とその問題点
CyberAgent, Inc.
互恵的利他主義と局所性
• 互恵的利他主義は相手の振る舞いから自分が協調
するか否かを決める行動戦略
→ 相互作用の相手がある程度固定されるような局所性が
必要(J. W. Pepper, 2000)で、理論的研究などで有効性を
確認
42013/10/2
Grujićら(2010)の行動実験
固定された格子ネットワーク上で200人が実際に囚人のジレンマを繰り返しプ
レイ
最初は協調関係は成立 徐々に裏切り状態に収束
人間が実際に相互作用する場合、
局所性だけでは協調行動を維持することはできな
かった
互恵的利他主義
CyberAgent, Inc.
互恵的利他主義と局所性と局所性の更新
52013/10/2
Randら(2011)の行動実験
ネットワーク上での囚人のジレンマに加え、エッジの張り替えを許可(785人
の実験)
利己的な人とのエッジを張り替え 利他的な人同士のクラスタが形成
一定以上の頻度で相互作用の選別
→ 利他的な人は利己的な人との相互作用を回避
→ 利他的な人同士のクラスタが形成でき、互恵的利他主義
に
基づく相互の協調状態が成立
CyberAgent, Inc.
目的
• 不安定なはずの相互の協調状態を人は互恵的利他主義など
の仕組みで維持しているはず
• ソーシャルゲームのような人が自由に振る舞える環境でも
それは成立しているのか?
ユーザの社会関係(相互の協調関係)を知りたい
– ゲームの特定の状況をゲーム理論でモデル化
– ユーザの振る舞い(利他的/非利他的)の変化を進化ゲーム理論的
な観点で分析
• ソーシャルゲームにおいて、
– (不安定なはずの)相互の協調は成立しているか?
– しているならば、それはどのような仕組みなのか?
62013/10/2
• ソーシャルゲームの品質改善
• 人の社会性に対する理解
CyberAgent, Inc.
焦点を当てるゲーム部分概要 – レイドイベント
2013/10/2 7
①クエスト
ユーザ
⑤通常x1.5の
ポイント獲得
⑥ランキング競争
同じギルドのメンバーなど
②レイドボスに遭遇
→ 攻撃
③救援依頼
④救援(攻撃)
1位: 田中
(12040pt)
2位: 山田
(11010pt)
3位: 菊池
(11005pt)
4位: 斎藤
(9015pt)
・・・
ボスを攻撃してポイントを稼ぎランキング上位を目指すイベ
ント
• 与えたダメージに比例してポイント獲得
• 攻撃回数は限られる(or 課金)ので効率のよいポイ
ント稼ぎが重要
CyberAgent, Inc.
焦点を当てる状況
2013/10/2 8
攻撃
HP
遭遇したユーザや
救援を依頼された
ギルドメンバー
「攻撃力 < 残りHP」なので、
攻撃力 = ダメージ。そのため
攻撃力と等しいイベントポイ
ントを獲得。
①レイドボスのHPが十分にある場合
②レイドボスのHPが残り少しの場合
攻撃
HP
遭遇したユーザや
救援を依頼された
ギルドメンバー
「攻撃力 > 残りHP」なので、
攻撃力 > ダメージ。そのため
攻撃力より少ないイベントポ
イントを獲得。
CyberAgent, Inc.
どんな状況か?
2013/10/2 9
②レイドボスのHPが残り少しの場合
攻撃
HP
遭遇したユーザや
救援を依頼された
ギルドメンバー
「攻撃力 > 残りHP」なので、攻
撃力 > ダメージ。そのため攻撃力
より少ないイベントポイントを獲
得。
攻撃する 攻撃しな
い
攻撃する - 1, 3
攻撃しな
い
3, 1 0, 0
2人でボスを倒している場合を考えると…
他の誰かが攻撃してくれることを待つ
チキンレースのような状況
・Snowdriftゲーム/チキンゲームと呼ばれ
る
この状況で攻撃する行動を利他的行動として、ユーザの 協調行動
について調査する
誰かがレイドボスを倒さないと、
全員ポイントが稼げない状態が続く
CyberAgent, Inc.
利他ユーザの定義と分布
2013/10/2 10
利他ユーザがある程度居るギルド利他ユーザが
全く居ないギルド
• 効率が悪い攻撃行動を1割以上しているユーザ
利他的なユーザ(利他ユーザ)の定義
• 利他ユーザの分布には偏りが有り、
– 利他ユーザが全く居ないギルド(非利他ギルド)
– 利他ユーザがある程度以上いるギルド(利他ギルド)
に分離
利他ユーザの所属ギルドの偏り
CyberAgent, Inc.
利他ユーザの分布
• ギルドを
– 非利他ギルド
– 弱い利他ギルド
– 強い利他ギルド
に分けて各指標を比較する
2013/10/2 11
強い利他ギルド弱い利他
ギルド
非
利
他
ギ
ル
ド
CyberAgent, Inc.
なぜ利他的なギルドと非利他的なギルドに分離するのか?
• 利他ユーザは非利他ユーザの中にいると一方的に協力する
のみなので不利
→ 利他ユーザ同士で集まる必要がある
122013/10/2
攻撃する 攻撃しない
攻撃する - 1, 3
攻撃しない 3, 1 0, 0
利他ギルドの利他ユーザの場合
攻撃する 攻撃しない
攻撃する - 1, 3
攻撃しない 3, 1 0, 0
非利他ギルドの利他ユーザの場合
利他ユーザ同士で相
互に攻撃し合うので、
半々の場合は
平均 (1+3)/2=2点
非利他ユーザ相手に
一方的に助けるのみ
なので、 平均1点
CyberAgent, Inc.
なぜ利他的なギルドと非利他的なギルドに分離するのか?
• 利他ユーザは非利他ユーザの中にいると一方的に協力する
のみなので不利
→ 利他ユーザ同士で集まる必要がある
132013/10/2
攻撃する 攻撃しない
攻撃する - 1, 3
攻撃しない 3, 1 0, 0
利他ギルドの利他ユーザの場合
攻撃する 攻撃しない
攻撃する - 1, 3
攻撃しない 3, 1 0, 0
非利他ギルドの利他ユーザの場合
利他ユーザ同士で相
互に攻撃し合うので、
半々の場合は
平均 (1+3)/2=2点
非利他ユーザ相手に
一方的に助けるのみ
なので、 平均1点
ユーザのギルドの移動
0. 000
0. 005
0. 010
0. 015
St C & C St C & D WkC & C WkC & D D & D
流出率
ユーザのギルド流出率
StC: 強い利他ギルド
WkC: 弱い利他ギルド
D: 非利他ギルド
C: 利他ユーザ
D: 非利他ユーザ
利他ユーザのギルド流出率が高い
→ 利他ユーザの相互作用相手の選別により分離
CyberAgent, Inc.
利他ギルドと非利他ギルドの比較 グループレベルの比較
2013/10/2 14
• イベントポイント
– 強い利他ギルド > 弱い利他ギルド > 非利他ギルド
– 利他的なギルドの方がアクティブにゲームをプレイしている
• 課金効率
– 強い利他ギルド > 弱い利他ギルド > 非利他ギルド
– 利他的なギルドの方が効率良くゲームをプレイしている(有利)
– ※課金効率 = ギルドメンバーの総イベントポイント / ギルドメンバーの総
課金額
Strong C: 強い利他ギルド
Weak C: 弱い利他ギルド
D: 非利他ギルド
CyberAgent, Inc.
なぜ利他的なギルドのほうが非利他的なギルドより有利なのか?
152013/10/2
• 利他的なギルドは相互に協力しあう
• 非利他的なギルドは利他的な行動をあまりしない
ため、利他ギルドの方が効率がよく有利
152013/10/2
攻撃する 攻撃しない
攻撃する 3, 1
攻撃しない 3, 1 0, 0
利他ギルドの場合
攻撃する 攻撃しない
- 1, 3 1, 3
攻撃しない 3, 1 0, 0
非利他ギルドの場合
利他ユーザ同士で相
互に攻撃し合うので、
HPの少ないレイド
ボスが放置されにく
く、救援したユーザ
の行動が制限されに
くい
非利他ユーザばかり
で、攻撃しないこと
が多いのでHPの少
ないレイドボスは放
置されがちで、救援
したユーザの行動が
制限されやすい
CyberAgent, Inc.
利他ユーザと非利他ユーザの比較 個人レベルの比較
2013/10/2 16
• イベントポイント
– 利他ユーザ > 非利他ユーザ
– 利他ユーザの方がアクティブにゲームをプレイしている
• 課金効率
– 利他ユーザ > 非利他ユーザ
– 利他ユーザの方が効率良くゲームをプレイしている(有利)
– ※課金効率 = ユーザのイベントポイント / ユーザの課金額
StC: 強い利他ギルド
WkC: 弱い利他ギルド
D: 非利他ギルド
C: 利他ユーザ
D: 非利他ユーザ
CyberAgent, Inc.
なぜ利他的なユーザのほうが非利他的なユーザより有利なのか?
172013/10/2
• 利他ギルドでは
– 利他ユーザは相互に利他行動をし合う
– 非利他ユーザは一方的に利他行動をされるのみ
なので、非利他ユーザのほうが有利であるはず
• しかし、実際は利他ユーザのほうが有利だった
– 互恵的利他主義により利他ユーザは利他ユーザ同士でしか協調をしていない可能性
172013/10/2
攻撃する 攻撃しない
攻撃する - 1, 3
攻撃しない 3, 1 0, 0
利他ギルドの利他ユーザの場合
攻撃する 攻撃しない
攻撃する - 1, 3
攻撃しない 3, 1 0, 0
利他ギルドの非利他ユーザの場合
利他ユーザ同士で相
互に攻撃し合うが、
非利他ユーザ相手に
は一方的に攻撃(助
ける)のみ
利他ユーザ相手に攻
撃してもらうのみ
のはず…
CyberAgent, Inc.
考察
• 関して った分布をしていて、
– 利他ユーザが全くいないギルド(非利他ギルド)
– 利他ユーザがある一定以上いるギルド(利他ギルド)
に分離している
• 互恵的利他主義により相互の協調状態を維持している
• 利他ユーザはゲームにとって良いプレイヤー
• イベントポイントが高い
• 課金効率も高く、効率のよいプレー
2013/10/2 18
利他ユーザは…
利他ユーザを増加させて、ゲームを活性化したい
互恵的利他主義を促進させる施策
• ユーザの利他的行動を他のメンバーが認識しやすいように
• 利他的な行動に対する正のフィードバックがあるように
CyberAgent, Inc.
まとめ
ソーシャルゲームユーザの社会的行動について分析するため
に、相互の協調状態に焦点を当て、ユーザの利他的行動を分
析した
2013/10/2 19
目的
• 利他的なユーザは互恵的利他主義により
– 非利他的なユーザを避け、グループを作り、
– 利他的なユーザ同士で協力し合い、アクティブに効率のよいゲー
ムプレイをしている
ことがわかった
結果
• サービスを活性化させる施策へ
• 協調行動の理論的・実験的研究の予測を、設計されていな
い「人が自由に振る舞える」環境において定量的に明らか
に
CyberAgent, Inc.
まとめ
• ユーザの目指す利益が同一、かつ、定量的に評
価可能
• ユーザ間の関係に明確な利害関係が存在
• 数万人規模以上の相互作用
→ 進化ゲーム理論の枠組みに類似
202013/10/2
ソーシャルゲームの性質
• 進化ゲーム理論研究の知見をサービスの品質向上に適用
• ソーシャルゲームのユーザ行動の分析から人の社会性の理
解

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