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©Takayuki Yamazaki (2016.05.27)
チームビルディング
<コンテンツ>
1. チームビルディングの戦略 (Good tactics for building a team)
2. 良いチームに必要な要素 (What to look for in a team)
3. 相性の見極め方 (How do you ensure there is a good fit?)
4. 採用候補者を知る (Checking for references)
5. 人を雇う時 (Getting candidates to join)
©Takayuki Yamazaki (2016.05.27)
1. チームビルディングの戦略 (Good tactics for building a team)
チームの作り方についてお話しします。人材採用は会社を立ち上げる過程の中で、一番楽しい作業だと思
います。上手に人を集めれば、あなたは仲間と力を合わせて世界を変えることもできます。そんな夢がかな
ったら最高です。それを重荷と感じる人も、大きな挑戦だと思う人もいるでしょうが、熱意で口説きましょう。世
界を変える企業で働くと言う夢を売るわけです。ではチーム作り戦略を考えましょう。
チーム作りの戦略 (Good tactics for building a team)
まず初めに、資質や考え方に共通点のある人たちを探しましょう。でも違った部分があることも必要です。
色々な人がいる会社は強いですからね。
共通点「ビジョン」 Shared Attributes Vision
社員に求める共通点についてお話しします。まずは「ビジョン」。実は、この言葉は嫌いです。「自分にはビ
ジョンがある」と言いつつ、妄想しているだけの人も多いですからね。ここで言うビジョンは、あなたと一緒に
会社を始める全ての社員の「考え方」です。例えば、どの市場で自分たちの製品やサービスを展開させるか
と言う共通の認識や情報は社員で共有すべきかどうか、製品のデザインや販売方法は社員みんなで決める
べきかどうか、メンバーの考えがバラバラなのは良くありません。例えば、ある人は会社のパソコンは責任者
が管理すべきだと思っているのに、別の人は、1 人 1 台ずつ持って自由に気軽に使いたいと思っている。そ
れでは会社はまとまりようがありません。「ビジョン」についてでした。
共通点「規模」 Shared Attributes Size
第2に、会社の規模に対する考えも同じ方がいいでしょう。Googleのようにスポーツクラブや係員付きの駐車
場など設備がとても充実していて、社員数千人の上場企業で健康管理も手厚く、女性が働きやすい、そん
な大企業を望む人もいます。また、小規模で社員全員の顔が分かるアットホームな会社を望む人もいます。
例えば、コンサルタント業とか職人たちの集まりのような会社とかね。いい物を作ることだけを考え、会社を大
きくするなんて少しも思わない、大金を稼いで企業を買収することに興味がないとか、方向性は色々です。
共通点「存続」 Shared Attributes Timeline
「会社の存続」についても同じ意識を持っていることが望ましいです。中には、自分の会社を直ぐに手放す
人もいます。会社を設立してわずか2~3年で売ってしまうのです。一方で一生続けられる会社を作りたい人
もいます。100 年後に、こう言われるような会社です。「この会社の創立は 2000 年代初期、100 年経った今で
も勢いは衰えずにトップを走り続けている」。長く続く企業を望む人を選びましょう。
共通点「覚悟」 Shared Attributes Commitment
最後は「覚悟」です。仕事こそ人生であり、自分の価値を高めるためのものだと言う人もいれば、何かのため
に働くと言う人もいます。例えばお金とか、家族との時間とか、経験のためとか、欲しい物があるとか、または
世界を変える夢とかね。社員にどこまで求めるのかは人によります。人生を賭けて欲しいのか、気楽に働い
て欲しいのか考えておきましょう。
©Takayuki Yamazaki (2016.05.27)
以上 4 つの点が社員に望む共通点です。
相違点「専門分野」 Different Attributes Expertise
相違点があることも大事です。少なくとも専門分野が違う人を集めましょう。製品を作る人と売る人は別の方
がいい。両方できる人もいますが、大抵はどちらも並の能力です。製造、エンジニア、営業の各分野のエキ
スパートを採用しましょう。
相違点「取り組み方」 Different Attributes Orientation
仕事の取り組み方はそれぞれ違う方がいいでしょう。例えば、ある人は細かい部分にまでこだわり、ミス1つ
無くプログラムを完成させます。また、全ての箱を完璧に梱包したり、ボルトを一本残らず、きちんと締めたり
します。一方、ある人は会社全体を見ながら戦略や計画を練ります。5年先、10年先に会社どうあるべきか
を考えるのです。彼らはもっと高いところで物事を見ています。どちらの社員も大事です。部品だけを見てい
たら会社がつまずくし、高いところで 10 年先の事ばかり考えていたら、車のネジが外れてしまいます。どちら
の人材も欠かせません。
相違点「視点」 Different Attributes Perspective
色々な視点は必要です。社員全員が 20 代の白人男性でジーンズをはいていたらどうでしょう?全員がサン
フランシスコ南部に住み iPhone を持っていて菜食主義者とかね。同じような社員ばかりだったら、誰も予想
できなかったところで躓くでしょう。異なる性別や人種や宗教の社員を揃えることが大切です。色々な違う視
点がるほど会社は強くなります。チームを作る時にまず注意することは、共通点と相違点が程よく存在する
構成にすることです。
2. 良いチームに必要な要素 (What to look for in a team)
企業や個人がチームを組む時、普通、職歴や学歴を基に選びます。どんなことを勉強したか、前の職場で
何をやっていたか、などです。私(Guy Kawasaki)はそれに 3 つ目の要素を加えたいと思います。「やろうとし
ている仕事が好きかどうか」です。私自身のキャリアを例に出しましょう。スタンフォード大学で心理学を専攻
しました。楽な学科だと思ったからです。その後、父親を満足させるため、ロースクールへ進みました。70 年
代、日系アメリカ人と言えば、弁護士か医師を目指していましたから。でも、2 週間通ったところで、嫌になっ
て退学しました。1 年間ハワイで働いた後に、UCLA で MBA を取得します。あなたが私を面接するスティー
ブ・ジョブズだとしましょう。「スタンフォードなのにコンピューター科学じゃなく心理学?」職歴と言えば・・・今
言ったように、私はロースクールを中退しました。ハワイに戻り、副知事の下で働いた後は、MBA を取り、コン
ピューター会社ではなく、宝石メーカーに就職、ダイヤモンドを数えていました。その会社でダイヤやゴール
ドを扱っていたのです。小さな宝石メーカーの営業企画部長でした。スティーブ・ジョブズに戻りましょう。「こ
のガイ・カワサキという宝石業界出身だという男、コンピューターの勉強はしたことがない?ソフトウェア担当
のエバンジェリストとして賭けてみるのに最適な経歴だ」それで採用されました。ジョブズは、私を紹介した人
に言いました。「ガイが見込み違いなら君もクビだ」。ジョブズは私の中にあるものを認めてくれたと思いたい。
Mackintosh に対する情熱をね。初めて Mackintosh を見た時、雷に打たれたような衝撃を受けました。既に
©Takayuki Yamazaki (2016.05.27)
AppleⅡを使っていて、コンピューターは大好きでした。MacWrite はデザイン性の高いフォントやスタイルが
豊富で使い勝手の良いソフトでした。MacPaintにいたっては、マウスで色を塗ったり絵を描いたり、図形の中
に様々な模様を書いたりと、兎に角あらゆることができるのです。本当に感激しましたね。私が Mackintoshで
成功したのは経歴や学歴のおかげではなく、Mackintosh が大好きだという情熱のおかげでした。チームを
作る時は学歴や経歴だけではなく、仕事への情熱も考慮しましょう。Apple のような無謀な賭けをしろとは言
いません。私は履歴書上では素人でした。しかし 2 人の候補者がいて、片方は経歴や学歴がうってつけだ
ったとしましょう。でも情熱が感じられない。もう一人は学歴と経歴はまあまあ、でも心から自分の仕事を楽し
んでいる。チャンスを与えるべきは後者です。情熱に勝るものはありません。
3. 相性の見極め方 (How do you ensure there is a good fit?)
相性という厄介な問題についえ話しましょう。先ほどのチーム内で共有すべきことについて話しました。ビジ
ョンや規模、存続、覚悟などです。その一方で、多様な相違点について例を挙げました。夫々の専門分野
や取り組み方などがありましたね。それから、ものの見方や人種、性別、宗教などもあります。その中でどう相
性を見極めるのか。まず有力な候補者を集めるには、一次選考を電話で行うことがポイントです。なぜかと
言うと、もし直接会うと価値のある人を見逃し、多くを外してしまいかねないのです。直接会ってそんなことな
いと言われるかもしれませんが、直接会った場合、その人を見た目で判断してしまいがちです。魅力的かど
うかとか、自分と同類なのかとか、いい匂いがするとかね。つまり目が曇って本質が見えなくなるのです。電
話なり容姿や匂いといったことは気になりません。ほぼ間違いなく、候補者全てに同じように用意した質問を
ぶつけられます。だから候補者を比較検討する際、同じ質問と、その答えが得られます。その方が公平に判
断し易いですよね。一次選考を電話にすれば、偏見で間違った判断をしてしまう危険性を防げます。
さて、では経歴も熱意も十分な目ぼしい候補者が揃ったとしましょう。次は「ショッピングセンター・テスト」で
す。やり方はこうです。面接した候補者をショッピングセンターで見かけたとします。相手はあなたに気付い
ていない。あなたは Apple ストアにいて、相手は Sony ストアの前にいます。その距離は 15 メートルほど。ここ
でどういう行動を取るかです。1つ目は Sony ストアに走って行き声を掛けます。「やあ、ミッシェル。うちに面
接に来てくれてありがとう。是非うちに来て欲しい。コーヒーでもおごろうか?」それが1つ目、直ぐに飛んで
行くという行動パターンです。そして次はこうです。ミッシェルが Sony ストアにいるぞ。どこか他の店でもしバ
ッタリ出くわしたら挨拶ぐらいしよう。それからこういう反応もあります。あそこにミッシェルがいるぞ。別のショッ
ピングセンターへ行こう。彼女には会いたくないからな。さて、あなたはその人を見た時に、どの行動を取る
でしょう。理想的なのは、iPhone6 の行列を抜け出して後で並び直してでも、Sony ストアに行ってミッシェルに
挨拶してこよう。彼女を絶対に雇いたい。そこまで思えるような人物をチームに入れるべきです。
4. 採用候補者を知る (Checking for references)
新しい人材をチームに迎える時に大切なプロセスの 1 つが、採用候補者の真の姿を知ることです。電話で
の面接から始めるとよいでしょう。仕事以外でも会いたい人物か直感で判断して下さい。他にも候補者の人
物像を調べるとても有効な方法があります。推薦人を何人か挙げてもらうのが、かつては一般的でした。普
©Takayuki Yamazaki (2016.05.27)
通は自分に好意的な推薦人をリストアップしていきます。しかし中には、否定的な意見を言う人を推薦人に
挙げる候補者もいました。「雇うな」と言うような人を選ぶとは、何とも愚かな判断です。何故そんなことをする
のか理解できません。極端な例はさておき、現代には LinkedIn とおう魔法のツールがあります。これは非常
に役立つツールです。候補者と同じ会社で同時期に働いていた人が LinkedIn に登録しているかもしれませ
ん。候補者と親しい人もいるでしょう。その人を通して候補者を知ることができます。候補者が挙げる推薦人
は通常、よいことしか言いません。しかし、LinkedIn で見つけた元上司や元同僚は、候補者についてより客
観的で一歩踏み込んだ意見をくれるはずです。リアルな人物像に近づけます。現代では候補者の勤務先を
尋ねても大した情報は得られません。教えてもらえるのは勤続年数くらいです。「最悪の人物だ」と答えれば、
法的に問題になる時代ですからね。LinkedIn は採用ツールとしてお勧めです。
5. 人を雇う時 (Getting candidates to join)
会社は誰を雇うか選ぶ側ですが、採用候補者と立場が逆転する時があります。何としてもチームに欲しい優
秀な人材には会社側が売り込まなければなりません。Google ではマッサージなどの福利厚生が充実してい
ますし、Apple は自社製品を割引購入できます。自分は何を売りにできるのか考えておくのが大切です。シリ
コンバレーでは高額な給料を払うのが当り前になっています。でも株価や給料で劣る起業したての会社なら
ストックオプションを提案する手があります。これではありきたりなので、もう少し掘り下げてみます。大切なの
は、どんなチャンスを候補者に与えられるかということです。スティーブ・ジョブズは「宇宙に衝撃を与える
(Make a dent in the universe)」と言いました。Apple で働くのは決して楽ではありません。そこで勤続 20 年に
なる友人たちになぜ Apple に留まるのか尋ねました。ジョブズは仕事に厳しいことで有名ですから人前でダ
メ出しさえるのは日常茶飯事ですし、「無能」呼ばわりされることも覚悟しておかなければなりません。友人た
ちは、こう答えました。「Apple にいれば世界を変えられるし、人生最高の仕事ができるからだ(Best work of
my life)」と。とても魅力的な答えですよね。報酬が高いからではないのです。Apple という名声のためでもなく、
「世界を変えられる」が動機になっています。もう一つの「人生最高の仕事ができる」も大きな決め手のはず
です。それでは、なぜAppleでは最高の仕事ができて、他ではできないのでしょう?ジョブズのようなAランク
の人間は同じ A ランクか、それ以上の人材を雇います。その一方で B クラスのリーダーは C クラスや D クラ
スを求めます。つまり B クラスの人間の会社にはそれ以下の人材が集まり、「無能の連鎖」を引き起こすので
す。これでは最高の仕事はできません。優秀な人材を惹きつけるのは素晴らしいリーダーの存在です。別に
「いい人」でなくても構いませんが、仕事を見る目は磨いておくべきです。Apple のようにリーダーが誰よりも
ビジネスについて詳しい場合、より仕事をすれば、直ぐに気付いてもらえます。ただ仕事振りが悪くてもバレ
てしまうので、そういう意味では諸刃の剣ですけどね。無能と怒られる危険性も大いにあります。それでも自
分の仕事を評価してもらえるのは働く側にすれば大きな魅力です。つまり人は仕事の良し悪しが分かるリー
ダーと働きたいと思っているのです。最悪なのは社員の方がリーダーより優秀な場合です。よい仕事をリー
ダーが気付かないと社員のやる気を奪ってしまいます。優れた人材を引き寄せたいなら、「最高の仕事がで
きる場」を整えましょう。私が Garage というベンチャーキャピタルの投資銀行を立ち上げた時、そこそこ名の
知れた投資銀行家を雇いました。彼は「自分なら会社に貢献できる」と自信たっぷりに語りました。いぜ契約
しようとなって、話が二転三転し、交渉は難航しました。やっと契約書に署名をもらった時は無事に採用でき
てホッとしたものです。しかも仕事を始めてくれたので安心していたところ、ある日病欠の連絡が入りました。
©Takayuki Yamazaki (2016.05.27)
そして病欠が何日か続いた後、別の会社に行くと言い出したのです。行先は古巣の会社か、そのクライアン
トだったと思います。この時の経験から幾つか学びました。1つ目は「投資銀行家は雇うな」。これは重要で
す。よい人もいるでしょうが、お勧めしません。2 つ目は「人材探しに終わりはない」。内定を出して承諾をもら
っても、まだ終わりではありません。内定者が前の会社に辞表を出しても安心はできないのです。考えてみ
て下さい。もし優秀な社員が辞めると言ったら?何とか思い留まらせようと会社側は必至で説得するでしょう。
ですから内定者が前の会社に辞表を出したと言っても、引き留められる可能性があるので油断しないで下さ
い。では、辞表が無事に受理されたとします。退職後に 1~2 週間の休暇を取るのはよくある話です。休暇が
終わり、その人物が実際にあなたの会社にやって来ました。1 週間も過ぎればもう大丈夫と思うでしょうが、投
資銀行家の例がありますから、気を抜いてはいけません。企業して日の浅い会社の社員は、いつ辞めても
おかしくありません。次の日も出社してくれますようにと願う日々が続きます。このことを起業家は覚悟してお
きましょう。でも毎日、社員を気にかけていることはリーダーとして合格です。社員のために「最高の仕事がで
きる場」を用意しようとしているわけですからね。莫大なお金を積まなくても人を惹きつけることは可能です。
ダニエル・ピンクは著書の中で、適切な報酬がやる気を促すと説明しています。しかし企業や製品について
熱く語れるエバンジェリストを求めるならば、適切な報酬に加えて 3 つの要素が必要です。その 3 つとは「成
長 Mastery」「自主性 Autonomy」「目的 Purpose」です。適切な報酬をもらいながら成長できる会社に、人
は魅力を感じます。研修や挑戦するチャンス、刺激、様々な手段を用意しましょう。ジョブズの下で人は成長
しているでしょ?それから社員の自主性を尊重するようにして下さい。最後に単なる金儲けではなく、世界を
変えていると実感できる目的が必要です。優秀な人材を雇うには、この 3 つを忘れないように。成長」「自主
性」「目的」です。

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チームビルディング

  • 1. ©Takayuki Yamazaki (2016.05.27) チームビルディング <コンテンツ> 1. チームビルディングの戦略 (Good tactics for building a team) 2. 良いチームに必要な要素 (What to look for in a team) 3. 相性の見極め方 (How do you ensure there is a good fit?) 4. 採用候補者を知る (Checking for references) 5. 人を雇う時 (Getting candidates to join)
  • 2. ©Takayuki Yamazaki (2016.05.27) 1. チームビルディングの戦略 (Good tactics for building a team) チームの作り方についてお話しします。人材採用は会社を立ち上げる過程の中で、一番楽しい作業だと思 います。上手に人を集めれば、あなたは仲間と力を合わせて世界を変えることもできます。そんな夢がかな ったら最高です。それを重荷と感じる人も、大きな挑戦だと思う人もいるでしょうが、熱意で口説きましょう。世 界を変える企業で働くと言う夢を売るわけです。ではチーム作り戦略を考えましょう。 チーム作りの戦略 (Good tactics for building a team) まず初めに、資質や考え方に共通点のある人たちを探しましょう。でも違った部分があることも必要です。 色々な人がいる会社は強いですからね。 共通点「ビジョン」 Shared Attributes Vision 社員に求める共通点についてお話しします。まずは「ビジョン」。実は、この言葉は嫌いです。「自分にはビ ジョンがある」と言いつつ、妄想しているだけの人も多いですからね。ここで言うビジョンは、あなたと一緒に 会社を始める全ての社員の「考え方」です。例えば、どの市場で自分たちの製品やサービスを展開させるか と言う共通の認識や情報は社員で共有すべきかどうか、製品のデザインや販売方法は社員みんなで決める べきかどうか、メンバーの考えがバラバラなのは良くありません。例えば、ある人は会社のパソコンは責任者 が管理すべきだと思っているのに、別の人は、1 人 1 台ずつ持って自由に気軽に使いたいと思っている。そ れでは会社はまとまりようがありません。「ビジョン」についてでした。 共通点「規模」 Shared Attributes Size 第2に、会社の規模に対する考えも同じ方がいいでしょう。Googleのようにスポーツクラブや係員付きの駐車 場など設備がとても充実していて、社員数千人の上場企業で健康管理も手厚く、女性が働きやすい、そん な大企業を望む人もいます。また、小規模で社員全員の顔が分かるアットホームな会社を望む人もいます。 例えば、コンサルタント業とか職人たちの集まりのような会社とかね。いい物を作ることだけを考え、会社を大 きくするなんて少しも思わない、大金を稼いで企業を買収することに興味がないとか、方向性は色々です。 共通点「存続」 Shared Attributes Timeline 「会社の存続」についても同じ意識を持っていることが望ましいです。中には、自分の会社を直ぐに手放す 人もいます。会社を設立してわずか2~3年で売ってしまうのです。一方で一生続けられる会社を作りたい人 もいます。100 年後に、こう言われるような会社です。「この会社の創立は 2000 年代初期、100 年経った今で も勢いは衰えずにトップを走り続けている」。長く続く企業を望む人を選びましょう。 共通点「覚悟」 Shared Attributes Commitment 最後は「覚悟」です。仕事こそ人生であり、自分の価値を高めるためのものだと言う人もいれば、何かのため に働くと言う人もいます。例えばお金とか、家族との時間とか、経験のためとか、欲しい物があるとか、または 世界を変える夢とかね。社員にどこまで求めるのかは人によります。人生を賭けて欲しいのか、気楽に働い て欲しいのか考えておきましょう。
  • 3. ©Takayuki Yamazaki (2016.05.27) 以上 4 つの点が社員に望む共通点です。 相違点「専門分野」 Different Attributes Expertise 相違点があることも大事です。少なくとも専門分野が違う人を集めましょう。製品を作る人と売る人は別の方 がいい。両方できる人もいますが、大抵はどちらも並の能力です。製造、エンジニア、営業の各分野のエキ スパートを採用しましょう。 相違点「取り組み方」 Different Attributes Orientation 仕事の取り組み方はそれぞれ違う方がいいでしょう。例えば、ある人は細かい部分にまでこだわり、ミス1つ 無くプログラムを完成させます。また、全ての箱を完璧に梱包したり、ボルトを一本残らず、きちんと締めたり します。一方、ある人は会社全体を見ながら戦略や計画を練ります。5年先、10年先に会社どうあるべきか を考えるのです。彼らはもっと高いところで物事を見ています。どちらの社員も大事です。部品だけを見てい たら会社がつまずくし、高いところで 10 年先の事ばかり考えていたら、車のネジが外れてしまいます。どちら の人材も欠かせません。 相違点「視点」 Different Attributes Perspective 色々な視点は必要です。社員全員が 20 代の白人男性でジーンズをはいていたらどうでしょう?全員がサン フランシスコ南部に住み iPhone を持っていて菜食主義者とかね。同じような社員ばかりだったら、誰も予想 できなかったところで躓くでしょう。異なる性別や人種や宗教の社員を揃えることが大切です。色々な違う視 点がるほど会社は強くなります。チームを作る時にまず注意することは、共通点と相違点が程よく存在する 構成にすることです。 2. 良いチームに必要な要素 (What to look for in a team) 企業や個人がチームを組む時、普通、職歴や学歴を基に選びます。どんなことを勉強したか、前の職場で 何をやっていたか、などです。私(Guy Kawasaki)はそれに 3 つ目の要素を加えたいと思います。「やろうとし ている仕事が好きかどうか」です。私自身のキャリアを例に出しましょう。スタンフォード大学で心理学を専攻 しました。楽な学科だと思ったからです。その後、父親を満足させるため、ロースクールへ進みました。70 年 代、日系アメリカ人と言えば、弁護士か医師を目指していましたから。でも、2 週間通ったところで、嫌になっ て退学しました。1 年間ハワイで働いた後に、UCLA で MBA を取得します。あなたが私を面接するスティー ブ・ジョブズだとしましょう。「スタンフォードなのにコンピューター科学じゃなく心理学?」職歴と言えば・・・今 言ったように、私はロースクールを中退しました。ハワイに戻り、副知事の下で働いた後は、MBA を取り、コン ピューター会社ではなく、宝石メーカーに就職、ダイヤモンドを数えていました。その会社でダイヤやゴール ドを扱っていたのです。小さな宝石メーカーの営業企画部長でした。スティーブ・ジョブズに戻りましょう。「こ のガイ・カワサキという宝石業界出身だという男、コンピューターの勉強はしたことがない?ソフトウェア担当 のエバンジェリストとして賭けてみるのに最適な経歴だ」それで採用されました。ジョブズは、私を紹介した人 に言いました。「ガイが見込み違いなら君もクビだ」。ジョブズは私の中にあるものを認めてくれたと思いたい。 Mackintosh に対する情熱をね。初めて Mackintosh を見た時、雷に打たれたような衝撃を受けました。既に
  • 4. ©Takayuki Yamazaki (2016.05.27) AppleⅡを使っていて、コンピューターは大好きでした。MacWrite はデザイン性の高いフォントやスタイルが 豊富で使い勝手の良いソフトでした。MacPaintにいたっては、マウスで色を塗ったり絵を描いたり、図形の中 に様々な模様を書いたりと、兎に角あらゆることができるのです。本当に感激しましたね。私が Mackintoshで 成功したのは経歴や学歴のおかげではなく、Mackintosh が大好きだという情熱のおかげでした。チームを 作る時は学歴や経歴だけではなく、仕事への情熱も考慮しましょう。Apple のような無謀な賭けをしろとは言 いません。私は履歴書上では素人でした。しかし 2 人の候補者がいて、片方は経歴や学歴がうってつけだ ったとしましょう。でも情熱が感じられない。もう一人は学歴と経歴はまあまあ、でも心から自分の仕事を楽し んでいる。チャンスを与えるべきは後者です。情熱に勝るものはありません。 3. 相性の見極め方 (How do you ensure there is a good fit?) 相性という厄介な問題についえ話しましょう。先ほどのチーム内で共有すべきことについて話しました。ビジ ョンや規模、存続、覚悟などです。その一方で、多様な相違点について例を挙げました。夫々の専門分野 や取り組み方などがありましたね。それから、ものの見方や人種、性別、宗教などもあります。その中でどう相 性を見極めるのか。まず有力な候補者を集めるには、一次選考を電話で行うことがポイントです。なぜかと 言うと、もし直接会うと価値のある人を見逃し、多くを外してしまいかねないのです。直接会ってそんなことな いと言われるかもしれませんが、直接会った場合、その人を見た目で判断してしまいがちです。魅力的かど うかとか、自分と同類なのかとか、いい匂いがするとかね。つまり目が曇って本質が見えなくなるのです。電 話なり容姿や匂いといったことは気になりません。ほぼ間違いなく、候補者全てに同じように用意した質問を ぶつけられます。だから候補者を比較検討する際、同じ質問と、その答えが得られます。その方が公平に判 断し易いですよね。一次選考を電話にすれば、偏見で間違った判断をしてしまう危険性を防げます。 さて、では経歴も熱意も十分な目ぼしい候補者が揃ったとしましょう。次は「ショッピングセンター・テスト」で す。やり方はこうです。面接した候補者をショッピングセンターで見かけたとします。相手はあなたに気付い ていない。あなたは Apple ストアにいて、相手は Sony ストアの前にいます。その距離は 15 メートルほど。ここ でどういう行動を取るかです。1つ目は Sony ストアに走って行き声を掛けます。「やあ、ミッシェル。うちに面 接に来てくれてありがとう。是非うちに来て欲しい。コーヒーでもおごろうか?」それが1つ目、直ぐに飛んで 行くという行動パターンです。そして次はこうです。ミッシェルが Sony ストアにいるぞ。どこか他の店でもしバ ッタリ出くわしたら挨拶ぐらいしよう。それからこういう反応もあります。あそこにミッシェルがいるぞ。別のショッ ピングセンターへ行こう。彼女には会いたくないからな。さて、あなたはその人を見た時に、どの行動を取る でしょう。理想的なのは、iPhone6 の行列を抜け出して後で並び直してでも、Sony ストアに行ってミッシェルに 挨拶してこよう。彼女を絶対に雇いたい。そこまで思えるような人物をチームに入れるべきです。 4. 採用候補者を知る (Checking for references) 新しい人材をチームに迎える時に大切なプロセスの 1 つが、採用候補者の真の姿を知ることです。電話で の面接から始めるとよいでしょう。仕事以外でも会いたい人物か直感で判断して下さい。他にも候補者の人 物像を調べるとても有効な方法があります。推薦人を何人か挙げてもらうのが、かつては一般的でした。普
  • 5. ©Takayuki Yamazaki (2016.05.27) 通は自分に好意的な推薦人をリストアップしていきます。しかし中には、否定的な意見を言う人を推薦人に 挙げる候補者もいました。「雇うな」と言うような人を選ぶとは、何とも愚かな判断です。何故そんなことをする のか理解できません。極端な例はさておき、現代には LinkedIn とおう魔法のツールがあります。これは非常 に役立つツールです。候補者と同じ会社で同時期に働いていた人が LinkedIn に登録しているかもしれませ ん。候補者と親しい人もいるでしょう。その人を通して候補者を知ることができます。候補者が挙げる推薦人 は通常、よいことしか言いません。しかし、LinkedIn で見つけた元上司や元同僚は、候補者についてより客 観的で一歩踏み込んだ意見をくれるはずです。リアルな人物像に近づけます。現代では候補者の勤務先を 尋ねても大した情報は得られません。教えてもらえるのは勤続年数くらいです。「最悪の人物だ」と答えれば、 法的に問題になる時代ですからね。LinkedIn は採用ツールとしてお勧めです。 5. 人を雇う時 (Getting candidates to join) 会社は誰を雇うか選ぶ側ですが、採用候補者と立場が逆転する時があります。何としてもチームに欲しい優 秀な人材には会社側が売り込まなければなりません。Google ではマッサージなどの福利厚生が充実してい ますし、Apple は自社製品を割引購入できます。自分は何を売りにできるのか考えておくのが大切です。シリ コンバレーでは高額な給料を払うのが当り前になっています。でも株価や給料で劣る起業したての会社なら ストックオプションを提案する手があります。これではありきたりなので、もう少し掘り下げてみます。大切なの は、どんなチャンスを候補者に与えられるかということです。スティーブ・ジョブズは「宇宙に衝撃を与える (Make a dent in the universe)」と言いました。Apple で働くのは決して楽ではありません。そこで勤続 20 年に なる友人たちになぜ Apple に留まるのか尋ねました。ジョブズは仕事に厳しいことで有名ですから人前でダ メ出しさえるのは日常茶飯事ですし、「無能」呼ばわりされることも覚悟しておかなければなりません。友人た ちは、こう答えました。「Apple にいれば世界を変えられるし、人生最高の仕事ができるからだ(Best work of my life)」と。とても魅力的な答えですよね。報酬が高いからではないのです。Apple という名声のためでもなく、 「世界を変えられる」が動機になっています。もう一つの「人生最高の仕事ができる」も大きな決め手のはず です。それでは、なぜAppleでは最高の仕事ができて、他ではできないのでしょう?ジョブズのようなAランク の人間は同じ A ランクか、それ以上の人材を雇います。その一方で B クラスのリーダーは C クラスや D クラ スを求めます。つまり B クラスの人間の会社にはそれ以下の人材が集まり、「無能の連鎖」を引き起こすので す。これでは最高の仕事はできません。優秀な人材を惹きつけるのは素晴らしいリーダーの存在です。別に 「いい人」でなくても構いませんが、仕事を見る目は磨いておくべきです。Apple のようにリーダーが誰よりも ビジネスについて詳しい場合、より仕事をすれば、直ぐに気付いてもらえます。ただ仕事振りが悪くてもバレ てしまうので、そういう意味では諸刃の剣ですけどね。無能と怒られる危険性も大いにあります。それでも自 分の仕事を評価してもらえるのは働く側にすれば大きな魅力です。つまり人は仕事の良し悪しが分かるリー ダーと働きたいと思っているのです。最悪なのは社員の方がリーダーより優秀な場合です。よい仕事をリー ダーが気付かないと社員のやる気を奪ってしまいます。優れた人材を引き寄せたいなら、「最高の仕事がで きる場」を整えましょう。私が Garage というベンチャーキャピタルの投資銀行を立ち上げた時、そこそこ名の 知れた投資銀行家を雇いました。彼は「自分なら会社に貢献できる」と自信たっぷりに語りました。いぜ契約 しようとなって、話が二転三転し、交渉は難航しました。やっと契約書に署名をもらった時は無事に採用でき てホッとしたものです。しかも仕事を始めてくれたので安心していたところ、ある日病欠の連絡が入りました。
  • 6. ©Takayuki Yamazaki (2016.05.27) そして病欠が何日か続いた後、別の会社に行くと言い出したのです。行先は古巣の会社か、そのクライアン トだったと思います。この時の経験から幾つか学びました。1つ目は「投資銀行家は雇うな」。これは重要で す。よい人もいるでしょうが、お勧めしません。2 つ目は「人材探しに終わりはない」。内定を出して承諾をもら っても、まだ終わりではありません。内定者が前の会社に辞表を出しても安心はできないのです。考えてみ て下さい。もし優秀な社員が辞めると言ったら?何とか思い留まらせようと会社側は必至で説得するでしょう。 ですから内定者が前の会社に辞表を出したと言っても、引き留められる可能性があるので油断しないで下さ い。では、辞表が無事に受理されたとします。退職後に 1~2 週間の休暇を取るのはよくある話です。休暇が 終わり、その人物が実際にあなたの会社にやって来ました。1 週間も過ぎればもう大丈夫と思うでしょうが、投 資銀行家の例がありますから、気を抜いてはいけません。企業して日の浅い会社の社員は、いつ辞めても おかしくありません。次の日も出社してくれますようにと願う日々が続きます。このことを起業家は覚悟してお きましょう。でも毎日、社員を気にかけていることはリーダーとして合格です。社員のために「最高の仕事がで きる場」を用意しようとしているわけですからね。莫大なお金を積まなくても人を惹きつけることは可能です。 ダニエル・ピンクは著書の中で、適切な報酬がやる気を促すと説明しています。しかし企業や製品について 熱く語れるエバンジェリストを求めるならば、適切な報酬に加えて 3 つの要素が必要です。その 3 つとは「成 長 Mastery」「自主性 Autonomy」「目的 Purpose」です。適切な報酬をもらいながら成長できる会社に、人 は魅力を感じます。研修や挑戦するチャンス、刺激、様々な手段を用意しましょう。ジョブズの下で人は成長 しているでしょ?それから社員の自主性を尊重するようにして下さい。最後に単なる金儲けではなく、世界を 変えていると実感できる目的が必要です。優秀な人材を雇うには、この 3 つを忘れないように。成長」「自主 性」「目的」です。