<連載 汚れた水 PFASを追う>①
「PFAS(ピーファス)」。発がん性などが指摘され、自然界に存在しないはずのこの化学物質が全国で相次いで見つかり、大きな問題となっている。東京の多摩地域では、水道水源の井戸水から高濃度で検出。市民団体の血液検査では、半数以上の住民の血中濃度が「健康被害の恐れがある水準」を上回った。自然界で分解されにくく「永遠の化学物質」とも呼ばれるPFAS汚染は、なぜ広がったのか。「汚れた水」の源流を探った。(文中敬称略。この連載は、松島京太、岡本太、昆野夏子、渡辺真由子が担当します)
PFAS(ピーファス) 泡消火剤やフライパンの表面加工などに使われてきた有機フッ素化合物の総称。約4700種類あるとされ、PFOS(ピーフォス)やPFOA(ピーフォア)などは人体や環境への残留性が高く、腎臓がん発症や胎児・乳児の成長阻害、コレステロール値の上昇、抗体反応の低下などの健康リスクがあるとされ、国際的に規制が進む。国内では、水道水の暫定目標値をPFOSとPFOAの合計で1リットル当たり50ナノグラム以下と設定。東京・多摩地域の水道水源の井戸40カ所が、汚染の影響で取水を停止している。
◆2012年に3000リットル漏出「泡消火剤、気づけば空っぽ」
「この資料に、800ガロン(約3000リットル)の漏出の事実がはっきり書いてある。これを見れば、横田基地が汚染源の一つになっていると考えないわけにはいかない」。5月中旬、川崎市内で取材に応じた英国人ジャーナリストのジョン・ミッチェル(48)は、米国政府への情報公開請求で2018年に入手した米軍の内部文書を示し、そう説明した。
文書は「USFJ SPILL REPORT(在日米軍漏出報告書)」と題され、A4サイズで750ページにも及ぶ。多摩地域にある米軍横田基地(福生市など)で発生した燃料漏れなどの事故が記されている。膨大な報告書を読み込んでいくと、そのうちの2ページで、3000リットル漏出の経緯や原因、周辺への影響などが記録されていた。
日付は、2012年11月29日。場所は、横田基地内の530ビル・横田消防署とある。ちょうど基地の中央、滑走路沿いにある施設だ。
報告書は「泡消火剤の貯蔵タンクの中身が空になっているのを消防隊員が発見した。ゆっくりとタンクから漏れ出し、床の接ぎ目から土壌に浸透したようだ」と説明していた。
PFASを含む泡消火剤は、航空燃料による火災などに効果があり、1967年の米軍空母火災をきっかけに、空軍施設や全国の空港施設などで導入された。
通常は水で薄めて約3%の濃度で使うが、横田基地の漏出事故では、消火剤の原液3000リットル超がそのまま流れ出たとみられる。
◆気付かず1年…基地外流出否定できず
報告書はこう続く。「漏出は1年以上かけてゆっくりと進んだ」。記述通りなら、米軍は漏出に1年以上も気付かず、その間、PFASを含む泡消火剤は建物下の土壌に染み込み続けていたことになる。
土壌に浸透したPFASは、基地外に流れたのではないか。米軍は報告書で、泡消火剤について「新たな環境汚染物質を含む」との認識を示しながら、基地外への影響は「ない」と記述。漏出事故について日本側に報告した痕跡はない。
ただ、米軍は2015年に作成した環境レビューでは、基地から流出した物質は「最終的に深さ約75メートルの地下水の層に行き着く」と言及。その地下水は、南南東の方角に流れているとしており、PFASがそのまま基地の外に流れ出た可能性は否...
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