世界で最も身体拘束が行われている日本の精神科病院。厚生労働省では現在、拘束要件の見直しが不透明なまま進むが、精神科病院を束ねるドン・日本精神科病院協会(日精協)の山崎学会長(82)はどうとらえているのか。「こちら特報部」の単独インタビューに応じた山崎氏の言葉を詳報する。(木原育子)
やまざき・まなぶ 2010年から日本精神科病院協会会長。22年5月の厚労省の私的検討会に突如、参考人として出席し、議論の風向きを変えるなど影響力が大きい。18年には協会の機関誌に「(患者への対応のため)精神科医にも拳銃を持たせてくれ」という部下の医師の発言を引用し、物議を醸した。安倍晋三元首相と親しかったことでも知られる。日本大医学部卒。
◆一般医療での拘束の方がはるかに多い。そっちをなぜ騒がないの?
今月4日、日精協の会議室。山崎会長は予定より10分遅れて現れ、インタビューが始まった。
まずは身体的拘束。年間1万件超の拘束がある。
「基本的にね、精神保健福祉法に則 った拘束なわけ。それについて何だかんだ言うのは変だと思うよ」
厚労省で拘束要件を見直す議論が進む。医師の裁量が増え、拘束件数が増える懸念を示す声がある。
「議論が進むのはいいが、現場としては、粛々と法律に沿った形で拘束する。当然じゃない?」
過去20年で拘束件数は2倍に増えた。
「増えた増えたって言うけれど、厚労省が発表しているのは数だけ。病名や性別、年齢も発表していないから、具体的にどういう疾患で拘束が増えたか何もわからないの」
年齢や性別、疾患はこの場合、関係ないのでは。
「関係なくないよ」
どんな疾患でも、拘束されたことに変わりはない。
「中身の分析がなければ数字に意味がないって言っているの。拘束の数だけ発表してるのって変。分析できないのに答えられない」
そうでしょうか。
「精神科病院より一般医療での拘束の方がはるかに多い。知らない? 厚労省の班研究で施設内拘束って6万件あるんだぜ。そっちの拘束をなんで騒がないの?」(軽く机をたたく)
「拘束しないで、患者さんが逆に自殺したとか、転倒骨折したとかの方が怖い。医師が適切に判断していることをね、診察もしたことがないきみが、あーだこーだって言うのって変だと思わない?」「こっちだってね、好きで拘束やってんじゃない。拘束したら、監査の時にカルテを全部ひっくり返して見られてね、しかも診療報酬全くついてないんだよ、あれ」
山崎氏は拘束する権限をもつ精神保健指定医だ。
「拘束? してますよ」
心は痛まないのか。
「はあ? 治療の一環で拘束しているわけで、それを全然現場を知らないきみが土足で入ってきて、心痛みませんかって何なの? 失礼だよ」
取材で心を痛める精神科医に多く出会ってきた。
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