研究者SNSとして2008年にスタートしたResearchGateは,研究者の人的ネットワークの構築,協業,最新情報のキャッチアップなどを支援するサイトとして,193か国で1,500万人超が会員登録し,学術コミュニティーの中で存在感を示している。
同サイトには雑誌論文が会員の研究成果としてアップロードされているが,それらを無償で入手することが利用の動機になっている。その中には本来有料購読が必要な出版社版コンテンツが多く含まれていることが問題となり,ResearchGateに対し著作権に準拠した運用を求める出版機関との攻防が繰り広げられている。
主な経緯を簡単に振り返る。まず,主要な学術出版社150以上が参加する国際STM出版協会が2017年9月に改善勧告をしたがResearchGateからの反応はなかった。数週間後の10月5日には,米国化学会(ACS),Elsevier,Wiley,Wolters Kluwer,Brillの5機関が協調して有効な手段を講じるためにCoalition for Responsible Sharing(CRS)と呼ばれる出版社連合を設立したことが発表された。CRSはResearchGateに登録されているコンテンツの約40%にあたる700万論文が営利企業であるResearchGateのサイトで公開され出版社の権利を侵害しているとし,論文削除催告を送った。翌6日,ACS,Elsevierの2社がResearchGateの本拠地ドイツの地方裁判所に訴訟を起こした。
CRSが2018年4月8日付で公開した報告書では,ResearchGate が2017年10月中にCRS加盟5機関のコンテンツの92%に当たる約140万文献を「公開」から「著者に申請して入手する形態」に変更したことを確認した。他方,CRSに加盟していない出版機関では約20%の文献しかこのような変更がされず,約400万文献が不正公開のまま放置され,その数は日々増えていると訴えている。DOIが付与された論文では平均すると毎月15万件が追加されているとのことだ。CRSは会員によるアップロード手順の中でシステム的に公開可能な文献かの確認を行う抜本的な対応を求めている。
前述の訴訟は,2018年4月に裁判が開始され,同年10月には,再びACSとElsevierが米国におけるResearchGateの法的責任を問うためメリーランド地区連邦地方裁判所に提訴した。CRSにはAMA,BMJ,IEEE,オックスフォード大学出版局などが合流し,現在,合計17の出版機関が名を連ねている。
このような動きの一方で,Springer NatureはResearchGateに友好的なアプローチをとってきた。CRS結成と同時期の2017年10月に,ResearchGateと知的財産権を保護しつつ学術誌の論文をオンライン上で共有する方法について協議中であるとの共同声明を発表。その成果として,2018年4月には同社の他に,Thieme,ケンブリッジ大学出版局とともに,合法的な論文共有を実施するために協調して取り組む協定に合意したことを発表した。具体的には,a. 論文共有ルール周知のためのユーザ教育,b. 出版機関から著作権侵害の警告があったResearchGate上のコンテンツの削除,c. ResearchGateに新たにアップされた文献の利用実績の可視性の向上,の3点が記されている。
そして2019年3月1日に,ResearchGateとSpringer Natureによるインパクトがある試行計画が発表された。Nature本誌を含む関連23誌に2017年11月以降掲載された約6,000の論文を,ResearchGateの著者プロフィールにアップロードするというもので,3月7日までにこの作業を完了すると報じられている。対象のジャーナルはすべて著者によるゴールドOAオプションがない有料購読誌で,グリーンOAとしての公開でも6ヶ月のエンバーゴがかかっている。この実験は今のところ3ヶ月間実施され,利用状況に関するデータが収集される予定だが,期間を延長することもあり得るという。
研究者SNSにより論文共有という新たな研究成果の流布モデルが定着しつつあるが,オープンアクセスの潮流が加速する中で,研究者がどう反応していくのか,また,出版機関とどのように折り合うのか,今後の展開を注視したい。
<参考>
・動向レビュー:研究者SNSとそこに収録された文献の利用 / 坂東 慶太
情報の科学と技術 68 巻 (2018) 4 号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkg/68/4/68_189/_article/-char/ja/
・小欄 第290号 ResearchGateをめぐる動き(2017年12月)
https://www.usaco.co.jp/u_news/detail.html?itemid=185&dispmid=605
・CRSの現状報告(Coalition for Responsible Sharing: Status Report on ResearchGate)
http://www.responsiblesharing.org/wp-content/uploads/2018/04/coalition-for-responsible-sharing-status-report-researchgate-2018-04-09.pdf<
・Springer Nature Syndicates Content to ResearchGate – Scholarly Kitchen誌
https://scholarlykitchen.sspnet.org/2019/03/01/springer-nature-syndicates-content-to-researchgate/
* Nature23誌がリストされています。
・ResearchGate and Springer Nature embark on pilot to deliver seamless discovery and an enhanced reading experience
https://group.springernature.com/gp/group/media/press-releases/researchgate-and-springer-nature-embark-on-pilot/16518868
・Coalition for Responsible Sharing
http://www.responsiblesharing.org/