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選ばない仕事選び

第21回 将来を決めすぎない

連載第21回 周りの大人は早く決めた方がいいよ、と言うけれど、急がなくて大丈夫。人生にはたくさんの偶然が転がっているのだから、それを活かしてみてもいいんだよ。

僕は働きたくない。とにかく家でゴロゴロしているのが一番だと言っているくせに、実は旅もけっこう好きなのである。といっても旅先でもやっぱりゴロゴロしていることが多いから、はたして何がどう好きなのかは自分でもよくわかっていない。少なくとも、ここではないどこかへ行って、知らないものごとに出会うのが好きなのだろう。

 

世界は知らないことだらけ

 

僕が旅をしたいと思うのは、世界が広いと知っているからだ。世界には自分の知らないものがまだまだたくさんあるとわかっているからだ。もしも僕が小さな村の中だけで暮らしていて、まったく外の世界のことを知らなかったら、たぶん旅に出たいとは思わないだろう。自分の知っているものが世界のすべてだと思い込んでいたら、その外に見知らぬ何かがあると知らなければ、外へ行きたいとも思わないだろう。

それは仕事選びでも同じだと思う。君たちが何をやりたいのかわからないのは、君たちが世界に何があるのかをまだ知らないからだ。知らないのだからわからなくて当たり前。わかるはずがない。それでも将来どんな仕事をしたいのかを考えろと言われるのだからたいへんだよね。

 

やってみなければわからない

 

好きなことを探しなさい。やりたいことを追いなさい。得意なことを見つけなさい。そんなことを言われても、慌てなくていい。

好きなことなんて年と共にどんどん変わっていくし、やりたいことも次々に変わっていく。それまでたいして興味を持てなかったのに、友だちに誘われて渋々やってみたら案外おもしろかったなんてこともあるだろう。恋人の気を引きたくて始めた趣味に、恋人そっちのけで夢中になってしまうこともあるだろう。自分ではまだ気づいていない得意分野が君の中に眠っているかもしれない。知らなければやらないし、やってみなければわからない。

 

偶然を活かす

 

仕事だって同じだ。実際に働いているうちに、自分は何が好きなのか、この先何をやりたいのか、どういうことが得意なのかがだんだんわかってくる。そしてそれは、実際に働く前にはなかなかわからない。むしろ働きながらもどんどん変わっていくのだから、働いていたって本当はわからないのだ。

はっきり言えるのは、好き嫌いを基準にしようと、向き不向きを基準にしようと、どちらにしても僕たちには仕事をうまく選ぶなどできないってことだ。だって基準はどんどん変わっていくのだ。あれこれ頭を悩ませても意味がない。だったらそんな基準には頼らず、目の前に転がる偶然に身を任せ、仕事に僕を選んでもらうほうが楽でいい。せっかくの偶然を活かすのだ。

 

将来、どんな仕事に就きたいか。どんなふうに働きたいか。そのためにはどういう進路を選べばいいのか。そして、その道へ進むには今どんな勉強をすればいいか。

たぶん、学校の先生や保護者たちはそう言って、未来から逆算した今の君が何をするべきかを考えさせようとするのだろう。スゴロクのコマを進めるように、未来の道筋を順番に辿らせようとするのだろう。

でも、未来に何が起こるかは誰にもわからない。君たちだってそのことはよく知っているはずだ。小学生のころに、今の自分を想像できただろうか。中学生の時に、今君が抱えている悩みを予想できただろうか。

 

大事なのは決めすぎないこと

 

人生のほとんどは運だと僕は思っている。たいていは偶然でものごとが進んでいく。いくら丁寧に将来の道筋を考えても、けっしてその通りにはならない。ほんのちょっとした偶然の積み重ねが、僕たちの未来を決めていく。旅先で適当なバスに乗ったときのように、まるで予想もしなかったところへ僕たちを連れて行く。

だとしたら、将来のことをあまり細かく考える必要はないんじゃないだろうかと僕は思うのだ。だって、その通りにはならないのだから。

人生にはたくさんの偶然が転がっている。この道しかないと決めてしまったら、その道から外れたときにどうしていいかわからなくて戸惑うことになる。

だから、今の君たちにとって何よりも大切なのは決めすぎないことだ。きっちりと固まっているものは、ちょっとした衝撃ですぐに壊れてしまう。でも、どこかに自由に動く部分が残っていれば、予想外の衝撃が加わっても、うまく受け流すことができる。将来の考え方も、たぶんそれと同じじゃないかと僕は思っている。