ローンチカスタマー
主に航空業界において、航空機の新規開発の後ろ盾となる航空会社。メーカーにとってハイリスクである航空機の新規開発に対して、新型機の大量発注などを通じて具体的な需要を示し、開発着手に踏み切らせる役割を担う。
特定の1社がローンチカスタマーになる場合もあるが、複数社が発注してそれぞれローンチカスタマーになる場合もある。ボーイング社の大型旅客機「ボーイング777」では、エールフランスや日本航空など数社がローンチカスタマーとなっている。
または、ローンチカスタマーには新型航空機の「第1号機」が納品される通例がある。ボーイング777の後継機である「ボーイング787」は全日本空輸がローンチカスタマーとなっており、その1号機も同社に納品された。発注数は55機とされている。ボーイング787は、部品の3割以上を日本のメーカーが製造したことでも知られており、「準国産」機とも形容されている。
ローンチカスタマー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/11/05 02:47 UTC 版)
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ローンチカスタマー (英: launch customer) とは、航空機メーカーに対して、新たな航空機(特に旅客機や貨物機)について、メーカーに製造開発を踏み切らせるだけの充分な規模の発注を行い、その新型機製造計画を立ち上げる(ローンチする)後ろ盾となる顧客(カスタマー)のことを指す。
概要
中堅から大手の航空会社がローンチカスタマーとなることが一般的で、1社で数機〜数十機もの大量発注を行い、単独でローンチカスタマーになることもあれば、2社以上が共同で発注することである程度の数を確保することにより、複数の航空会社が同時にローンチカスタマーになる場合もある。
一般的には前者が多いが、高価で大量発注が難しいエアバスA380(旅客型)やボーイング747-8(貨物型)などの超大型機は2社がローンチカスタマーになった。同じ機種でもタイプごと(旅客型・貨物型の別や改良型)にローンチカスタマーが異なることも少なくない。キックオフカスタマーと呼ばれることもある(同義ではないとする見方もあるが、そもそもkick-off customerという用語は英語としてはあまり使われていない模様)。なお、ローンチカスタマーとなった航空会社は、新型航空機の設計に大きく関与する権利を得る。
必要性
ローンチカスタマーはメーカーに製造開発を踏み切らせるだけの充分な規模の発注を行うものであるが、これは1960年代ごろから航空機の高性能化や人件費の高騰により、開発費が大幅に増加したことが原因である。
メーカーにとっては、実機の開発に移るまでは設計者と図面だけであるため、大して費用はかからないが、いざ開発・生産に入れば、特に民間機は旅客の命や貨物を預かる必要が発生することから安全性が最優先され、さらに高い居住性を確保する必要も発生する。その分高い技術を必要とすることから、1機種で数千万から数億ドル単位のすさまじい開発費がかかってしまう。そうして完成した機体が、エアラインのニーズに見合わずに売れなければ、生産者にとって開発費がそのまま多額の負債となり、大幅なリストラクチャリングを迫られるか倒産の憂き目に遭うことになる。実際に多額の費用をかけて開発した旅客機が販売不振であったために事業撤退したロッキード社や、買収や吸収合併で会社が消滅したコンベア社やマクドネル・ダグラス社などの例もある(多数の職人と技能を必要とする航空機生産者にとって致命的なものとなる)。
そこで、新型機の構想段階で航空会社に需要などを打診すると共に受注を要請し、実際にどの程度のニーズがあるのか見極める手法として始められた。仮に航空会社から実際に一定規模の需要があれば、その後の発注も見込め採算に乗ることが期待できることから、その時点で開発製造を決定する。現在ではほぼ全ての中、大型機でこの開発手法が採られている。
ボーイング社
航空機 | 航空会社 |
---|---|
ボーイング707 | パンアメリカン航空(-120型、-120B型、-320型、-320B型) |
カンタス航空(-138型) | |
ブラニフ航空(-220型) | |
ルフトハンザドイツ航空(-420型) | |
ボーイング717 | バリュージェット航空(後のエアトラン航空) |
ボーイング727 | 旅客型 |
イースタン航空(-100型) | |
ノースイースト航空(-200型) | |
貨物型 | |
UPS航空(-100QF型) | |
フェデラル・エクスプレス(-200F型) | |
ボーイング737 | 旅客型 |
ルフトハンザドイツ航空(-100型) | |
ユナイテッド航空(-200型、MAX10型) | |
サウスウエスト航空(-300型、-500型、-700型、MAX7型) | |
ピードモント航空(-400型) | |
全日本空輸(-200adv型、-700ER型) | |
ハパックロイド・フルーク(現TUIフライ・ドイッチュラント)(-800型) | |
アラスカ航空(-900型) | |
ライオン・エア(-900ER型、MAX9型) | |
アメリカン航空(MAX8型) | |
ボーイング747 | 旅客型 |
パンアメリカン航空(-100型、SP型) | |
日本航空(-100SR型、-100BSRSUD型、-300SR型、-400D型) | |
イラン航空(-100B型) | |
全日本空輸(-100BSR型) | |
ルフトハンザドイツ航空(-200B型、-8IC型) | |
KLMオランダ航空(-200M型、-400M型) | |
スイス航空(-300型) | |
ノースウエスト航空(-400型) | |
カンタス航空(-400ER型) | |
貨物型 | |
ルフトハンザ・カーゴ(-200F型) | |
カーゴルックス航空(-400F型) | |
エールフランスカーゴ(-400ERF型) | |
キャセイパシフィック航空、カーゴルックス航空(共に-8F) | |
ボーイング757 | 旅客型 |
イースタン航空(-200型) | |
コンドル航空(-300型) | |
ロイヤル・ネパール航空(-200M型) | |
貨物型 | |
UPS航空(-200PF) | |
DHLアビエーション(-200SF) | |
ボーイング767 | 旅客型 |
ユナイテッド航空(-200型) | |
エル・アル航空(-200ER型) | |
日本航空(-300型) | |
アメリカン航空(-300ER) | |
コンチネンタル航空(-400ER型) | |
貨物型 | |
UPS航空(-300F型) | |
全日本空輸(-300BCF型) | |
ボーイング777 | |
旅客型 | |
ユナイテッド航空(-200型) | |
ブリティッシュ・エアウェイズ(-200ER型) | |
パキスタン国際航空(-200LR型) | |
キャセイパシフィック航空(-300型) | |
日本航空、エールフランス(共に-300ER型)[1] | |
エミレーツ航空(-8X型) | |
ルフトハンザドイツ航空、エミレーツ航空、カタール航空、エティハド航空(-9X型) | |
貨物型 | |
エールフランス・カーゴ(F型) | |
カリッタ航空(-300ERSF型) | |
カタール航空カーゴ(-8XF型) | |
ボーイング787 | 旅客型 |
全日本空輸(-8型) | |
ニュージーランド航空(-9型) | |
シンガポール航空(−10型) |
- パンアメリカン航空のボーイング707
- イースタン航空のボーイング727
- ルフトハンザ航空のボーイング737-100
- ユナイテッド航空のボーイング737-200
- サウスウエスト航空のボーイング737-300
- ピードモント航空のボーイング737-400
- サウスウエスト航空のボーイング737-500
- スカンジナビア航空のボーイング737-600
- サウスウエスト航空のボーイング737-700
- 全日空のボーイング737-700ER
- ライオン・エアのボーイング737-900ER
- パンアメリカン航空のボーイング747-100
- KLMオランダ航空のボーイング747-200
- スイス航空のボーイング747-300
- ノースウエスト航空のボーイング747-400
- 日本航空のボーイング747-100SR
- 日本航空のボーイング747-400D
- カンタス航空のボーイング747-400ER
- ルフトハンザ航空のボーイング747-8IC
- ルフトハンザ航空のボーイング747-200F
- カーゴルクスのボーイング747-400F
- エールフランスのボーイング747-400ERF
- カーゴルクスのボーイング747-8F
- キャセイパシフィック航空のボーイング747-8F
- イースタン航空のボーイング757
- ユナイテッド航空のボーイング767-200
- 日本航空のボーイング767-300
- コンチネンタル航空のボーイング767-400ER
- ユナイテッド航空のボーイング777-200
- ブリティッシュ・エアウェイズのボーイング777-200ER
- キャセイパシフィック航空のボーイング777-300
- 日本航空のボーイング777-300ER
- エールフランスのボーイング777-300ER
- パキスタン国際航空のボーイング777-200LR
- エールフランスのボーイング777-200F
- 全日空のボーイング787-8
- ニュージーランド航空のボーイング787-9
- シンガポール航空のボーイング787-10
旧マクドネル・ダグラス社(ダグラス・エアクラフト社も含む)
航空機 | 航空会社 |
---|---|
DC-8 | トランス・カナダ航空(後のエア・カナダ)(-40型) |
ユナイテッド航空(-11型、-61型) | |
デルタ航空(-11型) | |
フライング・タイガー・ライン(-63型) | |
DC-9シリーズ | デルタ航空(-10型) |
スカンジナビア航空(-20型) | |
イースタン航空(-30型) | |
スカンジナビア航空(-40型) | |
イースタン航空(-50型) | |
DC-10シリーズ | アメリカン航空(-10型) |
メキシカーナ航空、アエロメヒコ航空(共に-15型) | |
KLMオランダ航空、スイス航空(共に-30型) | |
ノースウエスト航空、日本航空(-40型) | |
フェデックス・エクスプレス(MD-10型) | |
MD-80シリーズ | スイス航空(MD-81型) |
リパブリック航空(MD-82型) | |
アラスカ航空(MD-83型) | |
オーストリア航空(MD-87型) | |
デルタ航空(MD-88型) | |
MD-90シリーズ | デルタ航空 |
MD-95 | バリュージェット航空(後のエアトラン航空)(開発中にボーイング社に吸収合併、ボーイング717として開発継続) |
MD-11 | フィンランド航空(旅客型) |
フェデックス・エクスプレス(-F型) |
- ユナイテッド航空のダグラス DC-8
- デルタ航空のダグラス DC-8
- デルタ航空のダグラス DC-9
- アメリカン航空のマクドネル・ダグラス DC-10
- フィンランド航空のマクドネル・ダグラス MD-11
エアバス社
航空機 | 航空会社 |
---|---|
エアバスA300 | 旅客型 |
エールフランス(B2-100型、B4-200型) | |
南アフリカ航空(B2-200型) | |
スカンジナビア航空(B2-300型) | |
ジャーマンエアー(B4-100型) | |
ハパックロイド(C4型) | |
サウジアラビア航空(-600型) | |
アメリカン航空(-600R型) | |
貨物型 | |
フェデラル・エクスプレス(-600F型) | |
エアバスA310 | ルフトハンザドイツ航空、スイス航空(-200型) |
スイス航空(-300型) | |
エアバスA320シリーズ | フロンティア航空(エアバスA318) |
スイス航空(エアバスA319) | |
中国南方航空(エアバスA319neo) | |
エールフランス(A320-100型、200型) | |
ルフトハンザドイツ航空(エアバスA320neo、エアバスA321-100) | |
モナーク航空(A321-200) | |
ヴァージン・アメリカ(エアバスA321neo) | |
アルキア・イスラエル航空(エアバスA321LR) | |
イベリア航空(エアバスA321XLR) | |
エアバスA330 | 旅客型 |
カナダ3000(-200型) | |
大韓航空(-200HGW型) | |
エールアンテール(-300型) | |
デルタ航空(-300HGW型) | |
サウディア(-300Regional型) | |
クウェート航空(-800neo) | |
TAPポルトガル航空(-900neo) | |
貨物型 | |
エティハド航空カーゴ(-200F) | |
エジプト航空(-200P2F) | |
DHLアビエーション(-300P2F) | |
エアバスA340 | ルフトハンザドイツ航空(-200型) |
エールフランス(-300型) | |
エミレーツ航空(-500型) | |
ヴァージン・アトランティック航空(-600型) | |
エアバスA350 XWB | カタール航空(-900型、-1000型) |
シンガポール航空(-900ULR型) | |
カンタス航空(-1000ULR型) | |
エアバスA380 | シンガポール航空、エミレーツ航空 |
- エールフランスのA300
- ルフトハンザ航空のA310
- スイス航空のA310
- エールアンテールのA319
- エールアンテールのA320
- エールアンテールのA330
- エールフランスのA340
- ルフトハンザ航空のA340
- カタール航空のA350
- シンガポール航空のA380
- エミレーツ航空のA380
ロッキード(現ロッキード・マーティン
- トランスワールド航空のL-1049
- アメリカン航空のL-188
- イースタン航空のL-1011
ボンバルディア(元デ・ハビランド・カナダ社)
- デ・ハビランド・カナダ DHC-8
- 琉球エアーコミューター(Q400CC)
- 琉球エアーコミューターのDHC-8-Q400CC
日本のメーカー
- 全日空のYS-11
- 全日空塗装のMRJ(後のMitsubishi SpaceJet)
その他
- 中国商用飛機(Comac)
- 成都航空のARJ21
- 中国東方航空のC919
脚注
- ^ エールフランスはこの型を最初に運航開始した実質的なローンチカスタマー。しかし試験飛行に使用された2機は最初に発注した日本航空の機材であったことにより、こちらがローンチカスタマーとされている。
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