ねん‐きん【粘菌】
読み方:ねんきん
⇒変形菌
粘菌 [Myxomycetes,Slime mould,Mycetozoan]
真性粘菌は変形体(plasmodium)とよばれるアメーバ状の細胞質の集団(多核、細胞構造がない)で移動して栄養を摂取するが、やがて停止し細胞集団塊から多数の種々の色をもった子実体がつくられる。子実体には多数の胞子(単核)が着生しており、胞子が発芽してアメーバ状の配偶子(1本の鞭毛)となり、それが有性的に融合して接合子(2本の鞭毛)となる。やがてこの接合子から変形体へ発達する。真性粘菌はフィザルムを中心によく研究されている。
一方、細胞性粘菌は真性粘菌のような変形体をつくらず、無性的で常に細胞構造を保持した生活環をもっている。胞子が発芽してアメーバ状になり、栄養を摂取するが、栄養がなくなるとアメーバの集合体をつくり、やがてナメクジ状となって移動する。移動を停止すると多数の胞子をもつ子実体がつくられる。細胞性粘菌にはアクラシアに属するディクチオステリウムがある。このように粘菌には特異な細胞形態をもつ生活環があるので、発生生物学の研究に好適な材料となっている。なお、類似した生育環境や生活環をもつ粘液細菌は真核生物である粘菌と違って原核生物であり、粘菌より原始的である。
粘菌
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/17 23:34 UTC 版)
粘菌(ねんきん、英: slime molds)とは、多細胞性の子実体を形成する能力をもつアメーバ様単細胞生物の総称。この性質は多様な系統の真核生物が示すことが知られており、単一の分類群には対応しない。狭義にはそのうち変形菌(真正粘菌)を指すが、本項目では広義の粘菌についての一般論と、我々の認識の変遷について扱う。個々の生物についてはそれぞれの項目を参照のこと。
用語
「粘菌」という語はおそらく英語のslime moldを直訳したものであり、南方熊楠の業績を紹介する目的で1906年に海藻学者の遠藤吉三郎が用いたものである[1]。粘菌類に用いられてきた高次分類群の学名のうち、MyxomycotaやMyxomycetesなどは直訳すればやはり「粘菌」となる[2]。
位置付け
粘菌類ははじめ植物界の中で腹菌類に近い菌類だと考えられていた[1]。しかし生活環の中でアメーバのように運動して微生物を捕食する時期があることから、19世紀半ばにアントン・ド・バリーが動物的な存在(Mycetozoa)だと主張した。これによって次第に植物とも動物ともつかない原始的な生物、原生生物として認識されるようになる。もっとも粘菌類の研究は引き続き菌類学者たちが中心になって進めた。20世紀後半になってロバート・ホイッタカーが五界説の菌界に含めたことで菌類としての認識が一時勢いを盛り返したが、真核生物全体の系統関係が見直されるなかで真菌との類縁性はほぼ一貫して否定され続けている。
広義の粘菌類
20世紀半ば頃のもっとも広義の粘菌類(Mycetozoa; 動菌門、変形菌門)は、ジョン・タイラー・ボナー(1959)[3]にしたがえば以下の5群であった。
- ラビリンチュラ類 Labyrinthulales
- 水生粘菌ともいう。主として海産。網状の分泌物の上を単細胞の細胞体が滑るように動く。
- ネコブカビ類 Plasmodiophorales
- 寄生粘菌ともいう。主として植物細胞内に寄生。細胞内でアメーバ運動する変形体を形成。やがて胞子塊に変形する。
- 変形菌 Myxomycetales
- 真正粘菌(真性粘菌)ともいう。栄養体は多核、網状の変形体で、胞子形成時には細かく分かれて多数の小さな子実体を作る。モジホコリ(Physarum)など。
- 細胞性粘菌 Acrasiales
- 単細胞で小型のアメーバで生活し、それらが多数集合して子実体を形成する。タマホコリカビ類(Dictyosteliumなど)とアクラシス類の2つがある。
- 原生粘菌 Protosteliales
- 変形菌のような変形体を形成するがごく小型。胞子は管状の柄の先に1つ外生する。
ボナーによればこれらの共通点は「菌類と動物の性質を併せ持つ原始的な群体性生物で、多少なりともねばねばしている」ことのみであり、相互に関係があるかどうか不明確な便宜上の群であった[3]。
その後、まずラビリンチュラ類とネコブカビ類が取り除かれ[4]、21世紀に入って以降これらを粘菌として扱うことは稀になっている。系統的にはラビリンチュラ類はストラメノパイルに、ネコブカビ類はリザリアに含まれている[5]。一方残り3群(真正粘菌、原生粘菌、細胞性粘菌)は引き続き粘菌として扱われているが、分子系統解析によれば原生粘菌と細胞性粘菌は多系統的である[6][7]。しかし真正粘菌、原生粘菌、そして細胞性粘菌のうちタマホコリカビ類は、アメーボゾアに含まれており、少々の例外を除けばこの3群は単系統的である[6][7]。
アメーボゾア |
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参考文献
- ^ a b 萩原博光 著「変形菌類」、国立科学博物館 編 編 『菌類のふしぎ:形とはたらきの驚異の多様性』(第2版)東海大学出版部〈国立科学博物館叢書〉、2014年、88-94頁。ISBN 9784486020264。
- ^ 松本淳「粘菌分類学の歴史」 『粘菌~驚くべき生命力の謎~』誠文堂新光社、2007年、120-123頁。ISBN 978-4-416-20711-6。
- ^ a b Bonner, J.T (1959). “Aggregation Organisms”. The cellular slime molds. Investigations in the biological sciences. Princeton University Press. pp. 3-18. NCID BA38289214
- ^ Olive, L.S. (1975). “Introduction and Keys to Higher Taxa”. The Mycetozoans. Academic Press. pp. 1-7. ISBN 0-12-526250-7
- ^ Adl, S. M. et al. (2019). “Revisions to the Classification, Nomenclature, and Diversity of Eukaryotes” (pdf). J. Eukaryot. Microbiol. 66 (1): 4-119. doi:10.1111/jeu.12691 .
- ^ a b Brown, Matthew W., and Silberman, Jeffrey D. (2013). “The Non-dictyostelid Sorocarpic Amoebae”. In Romeralo, Baldauf, Escalante (eds.). Dictyostelids: Evolution, Genomics and Cell Biology. pp. 219-242. doi:10.1007/978-3-642-38487-5_12. ISBN 978-3-642-38487-5
- ^ a b Kang, et al. (2017). “Between a Pod and a Hard Test: The Deep Evolution of Amoebae”. Mol. Biol. Evol. 34 (9): 2258–2270. doi:10.1093/molbev/msx162.
粘菌
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/18 04:31 UTC 版)
この世界における粘菌は、腐海に生息する、移動能力を持った細胞群体である。群で生活し、老化したり餌がなくなると球状に集まって休眠する。この球は時が経つと弾けて胞子を放出する。粘菌が感情を持っている描写がある。原作のみの登場。
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「粘菌」の例文・使い方・用例・文例
- 多細胞植物や動物とは異なる真核単細胞生物:原生動物、粘菌、そして真核生物藻
- 粘菌のような有機体におけるいくつかの段階の細胞質の特性の多核性の薄い広がり
- 粘菌類
- 純種粘菌の綱
- 変形菌綱の粘菌
- 細胞性粘菌
- 細胞質であり核で生ずる一貫したライフサイクルが純種粘菌と区別される
- 糞と腐敗している植物の上で成長する粘菌の属
- ダイレクトスタイリアム属の粘菌
- 微細な植物に寄生する菌から成り粘菌と同種で粘菌類に含まれることもあるネコブカビ科の標準属
- キャベツや同類植物の根にこぶやねじれをつくる粘菌に似た菌
- 植物分類上における粘菌植物という,枯れた植物体上に腐生し,胞子によって繁殖する,下等植物,菌類に属する植物
- 粘菌植物という,枯れた植物体上に腐生し,胞子によって繁殖する,下等植物,菌類に属する植物
- アクラシンという,細菌性粘菌の分泌物
- 粘菌という菌類
粘菌と同じ種類の言葉
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