酵素阻害剤
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酵素阻害剤(こうそそがいざい)とは、酵素分子に結合してその活性を低下または消失させる物質のことである。酵素阻害剤は一般に生理活性物質であり、毒性を示すものもあるが、病原体を殺したり、体内の代謝やシグナル伝達などを正常化したりするために医薬品として利用されるものも多い。また殺虫剤や農薬などに利用される種類もある。
酵素に結合する物質すべてが酵素阻害剤というわけではなく、逆に活性を上昇させるもの(酵素活性化剤)もある。
酵素阻害剤の作用には、酵素の基質が活性中心に入って反応が始まるのを阻止するもの、あるいは酵素による反応の触媒作用を阻害するものがある。また酵素に可逆的に結合するもの(濃度が下がれは解離する)と、酵素分子の特定部分と共有結合を形成して不可逆的に結合するものとに分けられる。さらに阻害剤が酵素分子単独、酵素・基質複合体、またその両方に結合するかなどによっても分類される。
生体内にある物質が酵素阻害物質になることもある。例えば、代謝経路の途中にある酵素では、下流の代謝産物により阻害されるものがあり(フィードバック阻害)、これは代謝を調節する機構として働いている。さらに、生物体内にあって生理的機能を持つ酵素阻害タンパク質もある。これらはプロテアーゼやヌクレアーゼなど、生物自身に害を及ぼしうる酵素を厳密に制御する機能を持つものが多い。
酵素阻害剤には、基質と同様に酵素に対する特異性がある場合が多い。一般に医薬品としての阻害剤では、特異性の高い方が毒性・副作用が少ないとされる。また抗菌薬や殺虫剤に求められる選択毒性を出すためにも高い特異性が必要である。
酵素阻害剤の種類
酵素阻害剤には可逆的および不可逆的なものがある。可逆的阻害剤は作用機序により次のように分類される。
- 基質阻害
- 酵素・基質複合体に結合して反応の進行を妨げる。
- 競争(拮抗)阻害(Competitive)
- 基質と同じ部位に競合的に結合して反応開始を妨げる。
- 非競争(非拮抗)阻害(Non-competitive)
- 酵素または酵素・基質複合体の、基質と別の部位に結合して反応の進行を妨げる。
- 不競争(不拮抗)阻害(Uncompetitive)
- 酵素・基質複合体のみに、基質と別の部位に結合して反応の進行を妨げる。
- 混合型阻害
これらの分類は反応速度パラメーターを測定することで明らかにできる。詳細については酵素反応速度論およびミカエリス・メンテン式の項を参照されたい。
その他の阻害剤
酵素以外の一般のタンパク質に対しても、同様にその機能を阻止する阻害剤がある。これらも医薬品などに応用される。
ホルモンや神経伝達物質など内在性の生理活性物質(リガンド)に対しては、それを特異的に結合するタンパク質である受容体が存在する。受容体に結合することによりリガンドの機能を阻止する拮抗的阻害剤は、特にアンタゴニストまたは遮断薬と呼ばれる。
利用例
医薬品などとして利用される酵素または一般タンパク質の阻害剤には、次に挙げるようなものがある。
- β-ラクタム系抗生物質
- サルファ薬
- ノイラミニダーゼ阻害薬
- 非ステロイド系抗炎症薬
- 分子標的治療薬
- スタチン
- ホスホジエステラーゼ阻害薬
- ACE阻害薬
- モノアミン酸化酵素阻害薬
- コリンエステラーゼ阻害薬
- プロトンポンプ阻害薬
- 選択的セロトニン再取り込み阻害薬
- ブドウ糖吸収阻害薬(αグルコシダーゼ阻害薬)
- DPP-4阻害薬
このほか、アンタゴニストで医薬品として利用されるものも数多い。
関連項目
阻害剤
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/02/19 23:35 UTC 版)
EZH2の阻害剤の開発とそれによるがん抑制遺伝子の望まないヒストンメチル化の防止は、がん研究の有望な領域である。EZH2の阻害剤の開発はタンパク質のSETドメインの活性部位を標的としたものに焦点が当てられている。2015年時点で、3-デアザネプラノシンA(英語版)(DZNep)、EPZ005687、EI1、GSK126、UNC1999といった、いくつかのEZH2阻害剤が開発されている。DZNepは、乳がんと大腸がんの細胞でEZH2のレベルを低下させてアポトーシスを誘導するため、抗ウイルス、抗がん作用を有する可能性がある。DZNepはS-アデノシル-L-ホモシステイン(SAH)の加水分解を阻害する、すべてのタンパク質メチルトランスフェラーゼに対する反応産物ベースの阻害剤である。DZNepはSAHの細胞内濃度の上昇を引き起こすことでEZH2を阻害するが、EZH2に対して特異的ではないため、他のDNAメチルトランスフェラーゼなども阻害する。 2012年、Epizyme社はDZNepよりも選択性の高い、S-アデノシル-L-メチオニン(SAM)競合型阻害剤EPZ005687を発表した。この薬剤はEZH1(英語版)と比較してEZH2に対する選択性が50倍高い。薬剤は酵素のSETドメインの活性部位に結合することでEZH2の活性を遮断する。EPZ005687はEZH2のY641やA677の変異体も阻害することができるため、非ホジキンリンパ腫の治療への適用の可能性がある。2013年、Epizyme社は他のEZH2阻害剤タゼメトスタット(英語版)(EPZ-6438)のB細胞リンパ腫の患者に対する第I相臨床試験を開始した。2020年、タゼメトスタット(商標名Tazverik)は転移性または局所進行性の類上皮肉腫(英語版)の治療に対してFDAの承認を受け、その年には再発性濾胞性リンパ腫に対する承認も行われた。 シネフンギン(sinefungin)は他のSAM競合的阻害剤であるが、DZNep同様EZH2に対する特異性はない。メチルトランスフェラーゼの補因子結合ポケットに結合することで作用し、メチル基の転移を防ぐ。EI1はノバルティス社によって開発された阻害剤で、Y641変異型細胞も含め、リンパ腫細胞でEZH2阻害活性を示す。この阻害剤の作用機序も、SAMのEZH2への結合に対する競合である。GSK126はグラクソスミスクライン社によって開発された強力なSAM競合型EZH2阻害剤で、EZH1と比較して150倍の選択性があり、Kiは0.5–3 nMである。UNC1999はGSK126のアナログとして開発され、経口投与で活性を示す最初のEZH2阻害剤である。しかしながら、GSK126と比較して選択性は低く、EZH1にも同様に結合するため、オフターゲット効果の可能性が高くなっている。 一次治療が奏効しなくなった際の治療法として併用療法が研究されている。トポイソメラーゼの阻害剤であるエトポシドは、EZH2阻害剤を併用した際に、BRG1(英語版)とEGFRに変異を有する非小細胞性肺がんに対する効果が高まる。しかしながら、EZH2とリジンメチル化は腫瘍抑制作用を持つ場合もあるため(例としては骨髄異形成症候群)、EZH2の阻害がすべての症例に対して有効なわけではない可能性がある。
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