タナトス【(ギリシャ)thanatos】
タナトス
タナトス | |
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死神 | |
住処 | 冥界 |
シンボル | シータ、ケシ、蝶、サイフォス、松明 |
親 | ニュクス |
兄弟 | モロス、ケール、ヒュプノス、オネイロス、モーモス、オイジュス、ヘスペリデス、モイラ(クロートー、ラケシス、アトロポス)、ネメシス、アパテー、ピロテース、ゲーラス、エリス |
ローマ神話 | モルス |
タナトス(古希: Θάνατος, Thanatos)は、ギリシア神話に登場する死そのものを神格化した神。
夜の女神ニュクスが一柱で生んだ息子[1]、または幽冥の神エレボスと夜の女神ニュクスの息子[2][3]。眠りの神ヒュプノスと双子の兄弟である[4]。
ローマ神話の死神モルス(ラテン語: Mors)やレトゥム(ラテン語: Letum)と同一視される。
タナトスを「亡者の王」や「ハーデース(同一視として)」と呼ぶ事もある[5]。
概要
概念的な存在で、古くはその容姿や性格は希薄であったが、次第に柔和で優しいヒュプノスに対してタナトスは鉄の心臓と青銅の心を持つ非情な神で人間にとっても神々にとっても忌むべき者となった[6]。
姿は有翼[7]で剣を持ち[8]、黒い服を着た[5]蒼ざめた老人であるとも[9]、ヒュプノスによく似た青年であるともいわれる[10]。
寿命を迎える人間の髪を剣で一房切り取り、冥王ハーデースに捧げ魂を冥界に連れて行き冥界の住民とする[8]。英雄の魂はヘルメースが冥府に運び、凡人の魂はタナトスが冥界へ運ぶともされる。
どんな贈り物も求めず、犠牲や歌を捧げ崇めてもタナトスの意志は変えられず、死の運命を回避する慈悲を与えない神であるため、祭壇も無く崇められる事も無かった[11]。
太陽はタナトスとヒュプノスの姿を見ようとはせず、彼らは大地の遥か下方の奈落タルタロスの領域に館を構えて住んでいる[12]。または、冥界の門の近くにあるオネイロスたち(夢)が絡まるニレの巨樹の周りにタナトスとヒュプノスは住むという[13]。
また「パイアーン(癒す者)」の呼び名がある[14]。
神話
ホメーロス『イーリアス』第十六歌では、ゼウスの息子サルペードーンが死ぬ運命にある事を知っていたゼウスは、アポローンに遺体を清めさせた後タナトスとヒュプノスの双子の兄弟にサルペードーンの亡骸をトロイアからリュキアへと運ぶように命じた。
エウリーピデースの悲劇『アルケースティス』では、ペライ王アドメートスの妻アルケースティスが夫の身代わりに死ぬ事になったが、約束の日の丁度の時に館に来たタナトスは、運命の女神モイラたちを騙して人間の寿命を変えさせたアポローンを非難する。タナトスは「アルケースティスの魂は奪われる」とアポローンから予言されても聞く耳持たず魂を連れて行こうとするが、アドメートスの友人ヘーラクレースが館を訪れ事情を知るとアルケースティスの魂を力でもって奪い返した。
またシーシュポスがゼウスの怒りを買った時、連行しようとするタナトスをシーシュポスは罠にかけて捕らえた。そのため地上の人間が死ななくなり、これに気付いた軍神アレースはタナトスを助け出し、冥界に連れて行った[15]。
イソップ寓話「一三三 藪医者」では、藪医者に「お前は明日には死ぬ」と言われた病人の男が快復し、その後、藪医者に会った男は「冥界でタナトスとハーデースが最近人が死なないのは医者の所為だと怒り帳面に医者の名前を書き出していましたが、私は貴方(藪医者)だけはいわれの無い罪ですと言っておきました」と話した。
同書「七八 老人と死」では、老人が薪を担いで歩いていたが、老人は疲れて荷物を下ろすと自暴自棄になって死神に呼びかけて助けを求めた。すると本当に死神が現れ「自分に何か用か?」と尋ねると、老人は慌てて「荷物を持ち上げてもらうためです」と答えた。
アイリアーノス『ギリシア奇談集』第2巻35話「死と眠りは兄弟なること、ゴルギアースの死」において、レオンティノイのゴルギアースの最晩年、体は弱りいつの間にかうとうとする状態で病床にあった時「眠りの神は私を兄弟神に引き渡し始めた」と親友に言った。
一説にはレーテーと兄弟であるとも言われる。また、ヒュプノスとタナトスの兄弟は後にドイツにおいてザントマンとその弟の死神のモデルとなった。
ギリシア神話でのタナトスの役割からジークムント・フロイトは、攻撃や自己破壊に傾向する死の欲動を意味する用語、独: Todestrieb(デストルドー参照)を作った。
系図
カオス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
エレボス | ニュクス | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アイテール | ヘーメラー | モロス | ケール | タナトス | ヒュプノス | オネイロス | モーモス | オイジュス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ヘスペリデス | クロートー(モイラ) | ラケシス(モイラ) | アトロポス(モイラ) | ネメシス | アパテー | ピロテース | エリス | ゲーラス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ポノス | レーテー | リーモス | アルゴス | ヒュスミーネー | マケー | ポノス | アンドロクタシアー | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ネイコス | プセウドス | ロゴス | アムピロギアー | デュスノミアー | アーテー | ホルコス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
脚注
出典
- ^ ヘシオドス『神統記』211行-214行。
- ^ ヒュギーヌス『神話集』序文。
- ^ キケロー『神々の本性について』3巻17行。
- ^ ホメーロス『イリアス』第十六歌 666行-683行。
- ^ a b エウリピデス『アルケースティス』834行-871行。
- ^ ヘシオドス『神統記』758行-766行。
- ^ エウリピデス『アルケースティス』260行。
- ^ a b エウリピデス『アルケースティス』59行-76行。
- ^ エウリピデス悲劇『アルケースティス』呉茂一訳 登場人物。
- ^ フェリックス・ギラン『ギリシア神話』ハーデースの補助神たち。
- ^ アイスキュロス『ニオベー』断片。
- ^ ヘシオドス『神統記』755行-767行。
- ^ ウェルギリウス『アエネーイス』6巻268行-280行。
- ^ アイスキュロス『ピロクテーテース』断片。
- ^ フェリックス・ギラン『ギリシア神話』英雄たち編 ベレロポーンとコリントスの英雄たち。
参考文献
- ヘシオドス『神統記』廣川洋一 訳 岩波文庫
- ホメロス『イリアス』松平千秋 訳 岩波文庫
- 『ギリシア悲劇III エウリピデス(上)』ちくま文庫
- アイスキュロス断片『ギリシア悲劇全集 10』 逸身喜一郎・川崎義和・高橋克美 訳 岩波書店
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男 訳 講談社学術文庫
- 『キケロー選集11』山下太郎・五之治昌比呂 訳 岩波書店
- 『イソップ寓話集』山本光雄 訳 岩波文庫
- マイケル・グラント、ジョン・ヘイゼル 『ギリシア・ローマ神話事典』大修館書店
- アイリアノス『ギリシア奇談集』松平千秋・中務哲郎訳 岩波文庫
- フェリックス・ギラン『ギリシア神話』中島健訳
関連項目
- Thanatosのページへのリンク