2025年春夏シーズンに始動した「ヒュンメルオー(HUMMEL 00)」の新クリエイティブ・ディレクターに、「ベイシックス(BASICKS)」の森川マサノリ創設者兼デザイナーが25-26年秋冬から就任する。「ヒュンメルオー」は、デンマーク発のスポーツメーカー「ヒュンメル」のデイリーウエアラインで、「ヒュンメル」の日本における商標権を保有する、大阪のスポーツ用品メーカー・エスエスケイ(SSK)による日本企画だ。同ラインのスタート時には、国内デザイナーズブランドの企画・生産などで経験を積んだ前野亮がディレクターを務めていた。そのバトンを引き継ぐ森川クリエイティブ・ディレクターは、「ヒュンメルオー」をどう解釈し、前に進めていくのか。
WWD:就任の経緯は?
森川マサノリ「ヒュンメルオー」新クリエイティブ・ディレクター(以下、森川):24年12月に「ヒュンメルオー」側から依頼を受けた。僕が21年に立ち上げた「ベイシックス」も最近はクリエイションにスポーツ要素を取り入れており、連関したモノ作りができるようになるという期待も込めて引き受けた。
WWD:自分に声が掛かった理由は何だと考える?
森川:僕の強みである“読解力”に期待してくれたからではないか。僕は、ブランドに自分のスタイルを持ち込むタイプのデザイナーではない。どちらかと言えば、ブランドが築いてきた世界観はそのままに、自分なりに解釈したレイヤーを重ねていくタイプだ。
WWD:新たなコンセプト“ニューヘリテージ(New Heritage)”の意図は?
森川:1923年に創設された「ヒュンメル」には、当時からアイキャッチーなモチーフがある。ブランド名の由来になったマルハナバチ(※ドイツ語で「ヒュンメル」)をかたどった“バンブルビー”と、V字模様の“シェブロン柄”だ。それらを現代風にアレンジして、新しい伝統(ヘリテージ)を作ろうという意図をコンセプトに込めている。刺しゅうやプリントでアイテムに落とし込むだけでなく、ビジューでデコレーションするなど、既存のスポーツブランドではあまり見られないアプローチを採用したい。
WWD:「ヒュンメル」にはどのようなイメージを抱いていた?
森川:学生時代にサッカー部に所属していたから、サッカー用品からスタートした「ヒュンメル」は競技用品のイメージしかなかった。女性でブランドに詳しい人も、ほとんどいなかった。だからこそ、スポーツブランドとしての「ヒュンメル」の歴史や技術、アイコンを、僕なりの解釈を通して、日本市場にもっと広めていきたい。
「ダダ」「ベイシックス」から学んだこと
WWD:「ヒュンメルオー」は「ヒュンメル」のファッション性を高めたラインだ。スポーツブランドをファッションマーケットに広げていくには、何が必要か?
森川:まずはスポーツブランドとしてのアイデンティティーを保つこと。その上で、ファッションのイメージをどう浸透させていくかを考えたい。マクドナルドでヘルシーなサラダを真っ先に食べたい人が少ないように、「ヒュンメル」もファッションに振り切りすぎず、スポーツの要素はしっかりと残していきたい。ボタンがサッカースパイクのポイントのような形だったり、編み地がサッカーボールのヘキサゴンだったりと、ブランドらしさを随所に散りばめ、スポーツブランドの延長上でファンとコミュニケーションしたいと考えている。マーケティングにも注力して、「ヒュンメル」ブランド全体をデザインする意識が必要だ。
WWD:「クリスチャン ダダ(CHRISTIAN DADA以下、ダダ)」と「ベイシックス」で積んだデザイン経験をどのように生かす?
森川:「ダダ」時代に比べて肩の力が抜け、ようやく自分の興味に素直に向き合えるようになった。「ヒュンメルオー」では、「スポーツブランドでこんなデザインをしてみたらどうなるか」という“実験”をしていきたい。「ダダ」の頃は人が驚くような、変わったことをしてやろうと力みすぎていた。そのせいで、自分でも着ない服を作るようになってしまっていた。「ダダ」休止後に「ベイシックス」を立ち上げ、等身大のクリエイションを始めてからは、“今の気分”の落とし込み方が分かってきた。だから、「ヒュンメルオー」では、特にスタイリングを意識したモノづくりをする。スポーツブランドはあまりスタイリング提案をしない印象がある。誰もが手に取りやすいアイテムで、色の組み合わせやシルエットに変化をつけて、新しさを追求したら面白い。
WWD:「ベイシックス」ではサステナビリティを考慮したモノ作りをしている。「ヒュンメルオー」でも同様に考えている?
森川:大事なことの一つだと考えている。まずは、長く使えるものを作りたい。サステナビリティの解釈はさまざまだが、個人的には見た目が好きではない再生ナイロンを使うよりも、シワになりづらく着やすい素材を使う方が、長い目で考えたらサステナブルだと思う。ただ、サステナビリティーに躍起になるあまり、結局何が伝えたかったのかが分からないコレクションを作っても意味がない。自分ができる範囲で、楽しみながら取り組むつもりだ。
WWD:販路のイメージは?
森川:「ヒュンメル」にはすでにカジュアルライフスタイルラインの「ヒュンメル プレイ(HUMMEL PLAY)」や「エイチエフシー(H.FC)」があるため、「ヒュンメルオー」は異なる立ち位置を築いていきたい。大手スポーツメーカーがしのぎを削る隙間を狙う意味で、販路も百貨店や大人が通う高感度セレクトのような、カジュアルさと品のよさを両立している販路を想定している。
3月の東コレに参加
WWD:ファッション業界歴が長い自身が「ヒュンメルオー」に貢献できる具体的なことは?
森川:間口の広いブランドに育てて、コラボレーションも積極的に行っていきたい。例えば「アンブロ(UMBRO)」が、イタリアのスラム ジャム(SLAM JAM)とコラボレーションしたように、幅広いジャンルのブランドと「ヒュンメルオー」の接点を作っていきたい。業界歴が長いからこそ、そういう点でも貢献できるはずだ。
WWD:3月の「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、東コレ)」で就任後初となるランウエイショーを実施する。
森川:「ヒュンメルオー」の“序章”のようなコレクションを披露するつもりだ。今回は時間があまりなかったので、東コレまでにできることは限られている。だからこそ、まずは全体的な世界観とスタンスを見せたい。現時点では、アクセサリー含めて40型ほどを発表する予定だ。
WWD:ちなみに、「ベイシックス」も25-26年秋冬で東コレに参加する。2ブランドもショーを同時に手掛けるのは大変では?
森川:全然大丈夫。ジョン・ガリアーノ(John Galliano)のドキュメンタリー「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」を先日観て、12ブランドのディレクションを同時に手掛けていたと知り、とても驚いた。僕の2ブランドなんてかわいいもの(笑)。