今年の夏、僕はちょっとした旅に出た。
僕は「金がない、金がない」と言いつつ、実は旅行貧乏的な部分もあり、よく旅に出てしまう。
個人的には「人間のしがらみから逃げ出したい」みたいな気持ちで行くのだが、
実は僕には大した人間のしがらみもなく
それどころか僕が旅に出たことさえもまわりに気づいてもらえない。
(ま、僕も内緒で行くのだが)
(ま、僕も内緒で行くのだが)
旅の間、携帯の電源を切っていて、5日ぶりに電源を入れてもツタヤとマックの営業メールしか入っていない始末
ま、いいんですけどね。自業自得ですから。
さて、僕は旅に出るとき、いつもi-podに新しく曲を入れていくことにしている。
それを空港へ向かうバスの中で聞いたり、出発待ちの搭乗ゲートで聞いたり、
はたまた外国の町で聞いたり、ホテルやビーチで聞いたりするのがたまらなくいい感じ
恥ずかしい話、音楽を聴きながらちょっぴり泣いてしまったりする。
それもまた一人旅の醍醐味である(ま、一緒に行ってくれる友達がいないので一人旅になってしまうという事情もあるが・・・)
今回の旅のためにTSUTAYAに向かうと、たまたま「アルバム5枚1,000円サービス」をやっていた。
5枚か・・・。
僕がまず選んだのがウルフルズのベスト盤
これいいな。テンションあがるな。
なんか外国のバスかなんかに乗っているときに聴いたら気分よさそうだ。
2枚目は尾崎豊のバラードベスト
尾崎豊は昔っから聴いているんだけど・・・・いいよな。
今は出てこないものな、尾崎のような歌手は。
まず10代でソロで歌える歌手自体がいない。
みんなバンドかアイドルグループってとこだもんな。
魂でシャウトできる歌手って、本当にいないな。
今は不況で社会や未来への不安や失望はあるけれど、「社会への怒り」や「束縛への反抗」みたいなものはないものな。

さて、3枚目はちょっと色を変えて、奥華子
日本テレビ『誰も知らない泣ける歌』で「笑って笑って」を披露して以来人気に火がついた彼女
よくよく聴けば「ガスト」や「お部屋探しMAST」など色々なCMソングを歌っていたりする
とにかく彼女は声がクリアできれい。
見た目も声もちょっと子どもっぽい萌え系ではあるが、曲調のせいもあって、なんか切ない。
で、妙に歌詞が暗い。
結構”別れ話系”の歌が多く、失恋のショックのパワーを作品に生かしている感じで、なんかシンパシーを感じる。
ああ、これ、外国で一人で聞いたら泣くな・・・・

4枚目はミスチルのシングルコレクション(1996-2000)
ま、これは説明もいらないくらいのミスチルのヒット曲集で今さら僕がどうこういう必要はないだろう。
そう、僕は旅に出る前にはちょっと昔のベスト盤を借りることが多いのだ。
なんか新しく聞く曲より、昔よく聴いた曲を口ずさみながら過ごしたほうがバカンスにはいいのだ。
そして5枚目。
悩みに悩んだ末に借りたのが、矢井田瞳のシングルコレクション
そういえば最近、矢井田瞳を見ないな・・・
なんか昔、「大きい会場でのコンサートはもう終わり!」とか言って大阪に引っ込んだというようなことを聴いた記憶がある。
おそらく矢井田瞳は今もどこかで、観客一人ひとりの顔が見えるような小さな会場で、自分自身の音楽とメッセージを伝えているのだろう。
大学に入ってからギターをはじめ、その2年後にはデビューという、とんでもない才能を秘めた彼女が登場したときのインパクトはすごかったな。
本当に、天才はいるな、って思ったな。

さて、楽しい時間はあっという間に終わり、僕は帰国の途に着いていた。
が、あいにく飛行機のトラブルで僕は乗り継ぎ地の台湾の空港で足止めを喰らうことになった。
もう、飛行機はすぐそこに見えるのに、乗客はゲート前のソファーで1時間ほど待たされることになった。
隣りのOL2人組みは「最悪だよね~」「だからチャイナエアラインはだめなんだよね~」と不満を次々とぶちまけている。
大人な僕(というか、不満をぶちまける相手のいない僕)は、iーpodを取り出し、ヤイコの曲にセットして静かに目を閉じる。
そして・・・ヤイコの溢れんばかりの才能に、不覚にも涙を流してしまった。
はあ~あ~あ~、すごいよ~~~~、矢井田さん、すごいよ~~
あんたなんで大阪なんかに引っ込んじゃったんだよ~~~
特にヤイコの名を全国に知らしめた「My Sweet Darling」と「I'm here say nothing」
僕はなぜか、ヤイコがイギリスのライブハウスで歌っているビジョンを頭に浮かべていた(妄想開始)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ヘイ!今日は日本からゲストが来てるぜ!あのエンヤがカバーをしたという日本の歌姫だ。温かく迎えてくんな!プリーズウェルカム!ヤイコ!!」
ロングスカートに、ギターを抱えたヤイコの登場にざわつく会場。
「ヘイ、ジャップのお嬢ちゃん!大丈夫なのかい?」
そんな冷やかしの声も聞こえる。
するとヤイコはおもむろに「My Sweet Darling」をかなで始める。
テンポのいい音楽に英語の歌詞を載せて歌うヤイコ
英語の歌詞にとりあえず安心する観客
だんだんとビートが速くなり、ついにサビのメロディーに。
あの、「Darling Darling~♪」ってやつだ
ここまで来ると観客もノリノリ!
「ヘイ、やるじゃねーか!ヤイコ!」
男性客も女性客も体を縦に揺らしながらヤイコの曲を楽しみ始める。
そして拍手喝采!口笛がなり、雄たけびが舞う。
間髪をいれず、「I'm here say nothig」のイントロが始まり、ヤイコはスカートをヒラヒラと横に揺らしながら激しくギターの弦を弾く
独特の裏声とビブラート
音程は激しく上下し、まるで違う楽器のように、自在に高低を移動していく
ある時は低音でささやくように、次の瞬間には一気に高音でのシャウト!そしてビブラ~~~~ト!
ヤイコの独特のビブラートに観客のボブ(21歳学生)は震えた。
「あ・・・・おれ、すごい瞬間に立ち会ってる・・・」
「こいつ・・・本物だ・・・・」
ヤイコへの視線は蔑みから尊敬へ
「I'm here say nothig」の激しいパフォーマンスと哀愁のメロディに
ボブの震えは止まらない
もはや寒気に近いくらいで、”身の毛がよだつ”とはまさにこのこと。
腕、背中、耳たぶと、電気が一気に走りぬける感じ。
気づくとボブは泣いていた・・・・。
観客は両手を挙げ、奇声を上げてヤイコを讃えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そんな妄想をしているうちに、僕も本当に泣いてしまった・・・・。
いやもう、本当に矢井田瞳の才能に、僕は泣いてしまったんだな・・・。
台湾の空港のソファーで、一人むせびなく僕を
となりの口汚いOLは、さも気持ち悪そうに見るのであった

でも、”I'm here say nothig”