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かんちゃん 音楽のある日常

yaplogから移ってきました。日々音楽を聴いて思うことを書き綴っていきます。音楽評論、想い、商品としての音源、コンサート評、などなど。

東京の図書館から~府中市立図書館~:リリンクとシュトゥットガルト・バッハ合奏団によるバッハカンタータ全集25

東京の図書館から、62回シリーズで取り上げております、府中市立図書館のライブラリである、ヘルムート・リリンク指揮シュトゥットガルト・バッハ合奏団他による、バッハのカンタータ全集、今回は第25集を取り上げます。収録曲は、第20番、第2番、第7番の3つです。

カンタータ第20番「おお永遠、そは雷のことば」BWV20
カンタータ第20番は、1724年6月11日に初演された、三位一体節後第1日曜日用のカンタータです。なお、本来はこの前に三位一体節用のカンタータがあるはずなのですが、1724年には作曲された記録がなく、恐らくは旧作が演奏されたと考えられ、その次の第1日曜日にこの新作を持ってきたと言えるでしょう。なお、前年の5月30日にも三位一体節後第1日曜日用のカンタータが初演されており、ここはテクストが多少変わったからという理由であると考えられます。

ja.wikipedia.org

ykanchan.hatenablog.com

実際、上記エントリでご紹介した第75番とはテクストが全く異なります。ただし、富に対する姿勢であることは共通しています。第75番が富を過度に追求することを戒める内容ですが、第20番では、富めるものと貧しいものとを対比させ、死後神によって祝福されるのは貧しきものである、何故ならば富めるものはそれだけ現世でいい思いをしたからである、というテクストです。このことによって、死後も神に祝福されたいなら、富を過度に追求することをせず、質実剛健、貧しきものにも施しなさいと諭すというわけです。

こういう点から言っても、バッハのカンタータは祈りの音楽という側面もありますがより強いのは諭しという側面だと言えます。それはプロテスタントカトリックの「堕落」に対するアンチだからという本質からですが、この辺りを理解していないエントリもネット上には多く、その点から言っても、かならずしもSNSにこそ真実があるとはいいがたく、オールドメディアもそれなりに信用できるメディアであると言えるでしょう。こういう点からしても、バッハのカンタータは普遍性を持つ芸術だと言えます。

リリンクはその点からもあるのか、ここでもやはり声楽と器楽とのバランスに配慮し、モダン楽器の性能を分かったうえで声楽を浮きだたせています。それが生むのは、テクストの本質である「富への執着を手放すこと」の大切さを私たちが知ると言うことです。現代日本においても、生活が厳しいことで本来比較的お金がある人たちがさらに貧しい人を攻撃する風潮です。いい思いをしていると「勘違い」する人の何と多いことか・・・しかしその人たちは楽な生活をしている一方、いい思いをしているとはいいがたく、同じように生活は苦しく、ない中でやりくりしている人が殆どです。リリンクのタクトは、その現代人を見透かしたようにも聴こえるのは私だけなのでしょうか。富への執着を手放すことで得られる平安を、リリンクはテクストから読み取り、表現しているように聴こえます。それは仏教の「足るを知る」と同じではないでしょうか。この点からも、バッハのカンタータが実は宗教を超えた普遍性があると感じるところです。是非とも歌詞を見て聴いてほしい曲です。

カンタータ第2番「ああ神よ、天よりみそなわし」BWV2
カンタータ第2番は、1724年6月18日に初演された、三位一体節後第2日曜日用のカンタータです。

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じつは、上記第20番からは、1年に及ぶ「コラール・カンタータ」の時期が幕を開けています。そのため、この第2番はコラール・カンタータの第2作目ということになります。リリンクがどこか現代人を見越したようなタクトになっているのは、そもそもがコラール・カンタータだからだとも言えるでしょう。

コラールが敬虔な信者が減りつつあることを嘆き、信仰を保つことを願う内容で、全体もそのテクストで貫かれています。この点だけを見て祈りの音楽と捉えがちですが、その祈りの文言から「同じことが起きてはいませんか?注意しましょう」と会衆に訴えることが目的になっており、ここでも諭しという点が大部分を占めます。リリンクはそれをわかっているからこそ、器楽と声楽のバランスを取ったうえで、歌詞をかみしめてオペラ的に歌わせています。それはモダン楽器だからこそだと言えます。もっと言えば、そのあたりはモダン楽器だからこそやりやすいとも言えるわけで、だからこそやりすぎに細心の注意を払っており、その結果が聴き手に感動やいろんなことを考えさせるという結果につながっています。その点では、現在のバッハ・コレギウム・ジャパンの演奏は、古楽演奏の充実を示しているとも言えるわけです。ようやく、古楽演奏がモダン楽器による演奏に肩を並べたとも言えるわけで、リリンクの選択は録音当時としては当然の選択だったとも言えます。今ではすっかりバッハの演奏は古楽が殆どになりモダン楽器によるもののほうが減りました。アマチュアですらオーケストラは古楽団体を選択する時代ですし。しかし、リリンクの録音は、アマチュアでもモダン楽器でやれる可能性があることを明確に示していると言えるでしょう。ただ、モダン楽器だと古楽演奏とで必ずしも楽器が一致しないこともあることには留意する必要があります。バッハば明らかにモダン楽器を前提に書いているわけではないので・・・その差異を分かったうえで、モダン楽器を威どう使うのかを、21世紀を生きる私たちはリリンクの演奏を参考にして考えなければなりません。

カンタータ第7番「われらの主キリスト、ヨルダン川に来たり」BWV7
カンタータ第7番は、1724年6月24日に初演された、洗礼者ヨハネのための祝日用のカンタータです。コラール・カンタータ第3作目です。

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三位一体節後第3日曜日が抜けてますが・・・いや、抜けているのではなく、その前に洗礼使者ヨハネのための祝日が来ているので、飛んだわけではありません(実際、三位一体節後第3日曜日のカンタータも作曲しており、次回のエントリで出てきます)。

洗礼者ヨハネのための祝日は6月24日と決まっており、実際前年1723年の6月24日にも第167番が初演されています。

ykanchan.hatenablog.com

第167番は明るい部分もあったのですが、この第7番では一転、厳しい曲になっています。これは冒頭のコラールの内容がプロテスタントの祖と言えるマルティン・ルター作のコラールであることが理由です。

en.wikipedia.org

この点からも、カンタータは単なる祈りの音楽と捉えるのではなく、諭しと捉えるべきなのですが・・・そうじゃないと、かなり厳しい音楽になったりすることはないと思うのですが。

勿論、祈りの部分はありますので否定はしません。しかしもっと重要な点が抜けていないだろうか?と思うのです。リリンクのタクトもその問題意識に貫かれていると感じます。一方でバッハ・コレギウム・ジャパンは当初は歴史的な側面からの演奏が多かったですが、最近はそこに感情なりテクストの本質なりも織り交ぜるようになってきて、世界レベルに成長しました。これは30年ほどバッハ・コレギウム・ジャパンを聴いてきている私は感じるところで、その参考になったのはリリンクではないかと個人的には考えます。初期の演奏だけでバッハ・コレギウム・ジャパンを論じるべきではないと思います。そもそも日本に置いて古楽演奏というのがまだ珍しく欧州よりも遅れていた時に発足したのがバッハ・コレギウム・ジャパンなので・・・その労苦を考えますと、私自身はさほど批判する気にはなれません。むしろ初期の録音であるにも関わらず、今は閉館し解体が決まったカザルス・ホールにおける「ヨハネ受難曲」は素晴らしい演奏です。その点で言えば、日本人ソリストの未熟さと、当時まだ名声がなかったバッハ・コレギウム・ジャパンにはいいソリストが来なかったことがカンタータ演奏においてはいろいろな批判の原因であり、そのために当該の「ヨハネ受難曲」ではソリスト二期会ソリストをも採用しています。それは明らかに、リリンクの録音が鈴木雅明氏の念頭にあったことが想像されるのです。

この第7番の演奏でも、リリンクは器楽を前面に押し出すのではなく、声楽が主という点を踏まえ、バランスを取っています。それでもモダン楽器なのでしっかりとした器楽の存在感がありますし、また声楽はモダン楽器に対応するため多少オペラ的なので饒舌です。そのバランスが生み出すのが、現代人の心に突き刺さるということなのではないでしょうか。この点においては、個人的にはあまり古楽演奏のみを非難するのは間違いだろうと思います。モダン楽器に私たちは聴きなれているので・・・

それぞれの良さを楽しみ、芸術の本質を味わうことが、理想的な聴き方だと個人的には考えます。まずはモダン古楽どっちでもいいので触れて楽しみ、そこから本質へ至るという道筋がいいのではないでしょうか。リリンクはその一翼を今でも担っていると言えましょう。

 


ヨハン・セバスティアン・バッハ作曲
カンタータ第20番「おお永遠、そは雷のことば」BWV20
カンタータ第2番「ああ神よ、天よりみそなわし」BWV2
カンタータ第7番「われらの主キリスト、ヨルダン川に来たり」BWV7
ヴェレナ・ゴール(アルト、第20番)
ヘレン・ワッツ(アルト、第2番・第7番)
アダルペルト・クラウス(テノール、第20番・第7番)
アルド・バルディン(テノール、第2番)
ヴォルフガング・シェーネ(バス、第20番・第7番)
ヴァルター・ヘルトヴァイン(バス、第2番)
ゲッヒンゲン聖歌隊
フランクフルト聖歌隊
インディアナ大学室内合唱団
シュトゥットガルト記念教会合唱団
ヘルムート・リリンク指揮
シュトゥットガルト・バッハ合奏団
ヴュルッテンベルク室内管弦楽団

地震および津波、水害により被害にあわれた方へお見舞い申し上げますとともに、亡くなられた方のご冥福と復興をお祈りいたします。同時に救助及び原発の被害を食い止めようと必死になられているすべての方、そして新型コロナウイルス蔓延の最前線にいらっしゃる医療関係者全ての方に、感謝申し上げます。