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ツーリング日和25(第2話)貞操問答

 コータローは麻酔科医の仕事がない日は家で主夫しているようなものだから、千草が帰った時のお出向えはエプロン姿なんだけど、

「千草も見せてくれてもエエで」

 却下だ。だってコータローが見たいのは千草の裸エプロンなんだよ。あんな変態コスプレを誰がやるものか。普通のエプロン姿で満足しやがれ。だいたいだぞ、千草の裸エプロン姿なんか、

「心の故郷の究極の美少女の裸エプロンや」

 あのね、コータローの心の故郷に住んでる女は千草しかいないじゃない。一人しか女がいない世界で究極も一番もあるものか。それよりアラフォー目前の千草に美少女も無理がテンコモリだ。

 でもね、コータローは本気で千草の裸エプロン見たいのかもって思う時があるのよね。だってだって、あれだけ夜の営みをされたらね。夫婦が夜の営みにいくら励んだって誰にも恥じることはないはずなんだ。ましてや新婚だ。理屈はそうなんだけど、ホントにすごいと思ってる。

 すごい、すごいと言っても千草の男性経験はコータローを除けば一人だけ。それも千草の処女を散らしやがった、たったの一回しかないんだよね。さすがに歳が歳だから、あそこで散らされなかったらコータローに処女を捧げられたとかは後悔してないけど、とにかく比較できるほど経験が乏しいのは間違いない。

 コータローとは十数年振りぐらいの二回目以降になるのだけど、正直に言うと女と男にこんな世界があったのかとひたすら驚かされている。千草だってあれに夢も憧れも期待もあったのだよ。

 そりゃ、そういう知識だけはいくら経験が乏しいと言っても誰だってあるじゃない。でもさ、千草の乏しすぎる経験からすると、あの話ってかなり盛ってるとずっと思ってたんだ。ロストヴァージンの経験からして、そうなるなんて想像するのさえ難しかったもの。

 あんなもの、どこかがどうなればそうなれるかなんて考えも付かないぐらい。コータローを初めて迎えた時だって、嬉しいのは嬉しかったよ。最初の時より痛くなかったし、これならコータローが望めば次だって応じられるぐらいの感じかな。

 だってさ、女と男が愛し合えばやるのは当然だし、やらせてこそ愛が深まるし、その愛が深まるから結婚だってするのじゃないの。そうだね、コータローを満足させるためにやるって感じだったかな。

 そしたらさ、ある夜に千草の体に異変が起こったんだよ。あれは焦ったよ。なんだよこれはって思ったもの。その異変は千草の中で急速に大きくなって行ったんだ。それもだよ、千草じゃそれをコントロールできないんだよ。

 その異変が大きくなった先にあるものだって千草にはわかったかな。そんなもの来るしかないだろ。それでもさ、それでもさ、実感としてこんなものは来ちゃうと大変なことになってしまいそうなのもわかるじゃない。

 だから心の中で来させちゃいけないとまでは思った。けどさ、あれは不思議な感覚としか言いようが無いのだけど、そう思っているのにやめたいとは思わないのよね。続けば続くほどヤバくなるのに焦りまくるだけ。

 体がどんだけヤバくなってるかはわかってるけど、とにかく堪えに堪えてたんだ。もう声なんか上げまくりになったし、体だって悶えまくりだ。あんなもの堪えようとしたら、そうするしかないじゃない。

 もうそれしか考えられない状態になってたんだけど、千草に来ようとしてるものは巨大な火の玉みたいに真っ赤に燃え上がってるのがわかるのよね。ああいうのをどうしようもなくなると言うはずだ。

 そしてついに来たんだよ。そんな生易しいのじゃないね。あれは来たというより大爆発だった。千草のあらゆる抵抗を粉微塵にしてしまったんだ。それは子宮から脳天に豪快に貫いて行った。

 後から思えばエクスタシーって事になるのだろうけど、そんな感じじゃなかった。あれはまさに衝撃だった。頭の中が真っ白というかピンクに染め上げられたって感じ。生まれて来て最高の感覚に体中が満たされたって言えば良いのかな。

 実感としたら、もっともっと凄かった。体が絶対におかしくなったと思ったもの。衝撃から少し醒めるとボンヤリ頭に浮かんできたのは、これが話に聞く女の喜びってやつじゃないかって。

 こりゃ、凄いわ、凄すぎる。こんなもの味合わされたら狂う女が出て来るのが初めてわかったぐらい。だから女だってあれだけ男を求めるんだ。そりゃ、欲しくなるよ。あの衝撃は男とじゃないと生まれないもの。こうなれてこそ、女だってあれが楽しくなり、あれをあんなにしたくなるのだって。

 でさぁ、でさぁ、これも体の神秘としか言いようが無いのだけど、一度覚えると次だって欲しくなるだけじゃなく、どう言えば良いのかな、あの強烈過ぎる衝撃が来やすくなる気がする。来やすくなるからまた欲しくなるのサイクルみたいなもの。

 毎晩が待ち遠しくなるとはこの事かと実感したもの。でもさぁ、これって千草が淫乱になってしまったのじゃないかとも心配もしたんだ。こんなもの誰かに相談できるようなものじゃないから思い切ってコータローに聞いてみたんだ。

 さすがに真昼間に聞きにくいから、一戦交えて、これでもかと堪能させられて、落ち着いてからにした。だってさ、こういうシチュエーションじゃないと恥ずかしくて聞けるものじゃないもの。

「男はな、女をああするのが究極のロマンみたいなもんやねん。千草がそうなってくれてオレも感激してるねん」

 へぇ、そんなものなのか。男って出しさえすれば満足するってずっと思ってた。だから男を満足させるとは、とにかく出させれば必要にして十分ぐらい。でも男だって女をそうさせたいものなのか。

「当たり前やんか。あれは男と女にしか出来へん共同作業や。男だけ満足したってつまらんやんか」

 たしかに。でもだよ、あんなものを女が覚えちゃったら、いくらでも欲しくなっちゃうじゃないの。現に千草がそうなりかけてる。これってやっぱり千草が淫乱だからなの。そしたら妙な事を聞くって顔をされて、

「まず聞くけど、千草はオレ以外にああなりたいか」

 やだよ。あんな姿を他人に見せられるものか。あれはコータローだから見せられるし、もっと言えばコータローだからああなれたはず。さらに言えばコータロー以外とはやりたくすらない。

「それやったら淫乱やない。コチコチの貞淑なる妻や」

 ちょっと古臭い話になるけど、貞操とはなんぞやって話になった。ごくシンプルには配偶者以外と男女の関係にならないぐらいの意味になるけど、

「独身の時かって貞操の考え方はあるねん」

 貞操には結婚するまで純潔を守るって意味も含まれてはいるそうだけど、さすがに今では求めすぎだ。千草だってたった一人で、これまたたった一回とは言え経験はあるもの。あれだってあんなクズ野郎じゃなかったら、もっと回数を重ねたはずだし、

「エクスタシーまで行ってたはずや」

 う~む、そうなるかも。千草は一人だったけど、結婚までに複数の男と経験がある女だってポピュラーだろう。そういう女はやっぱり貞操がない女になるの。

「ならへん。結果は結婚にならへんかったけど、その時にはその男だけって思うやろ」

 当たり前じゃないの。恋人関係になっても女が体を許すのはどれだけ覚悟がいることか。そこまでの覚悟で体を許してるから、他の男なんて考えたくもない。あくまでもその男にだけ許してるだけだ。そうじゃない女なんて、

「おるやんか。平気で何股もかける女。これは男にかっておるからエラそうな事は言えんけどな」

 女ならヤリマンビッチで男ならヤリチン種馬みたいな連中だな。千草の知り合いにもいたよな。何人もの男を操って、しこたま貢がせてた。よくやるよと千草は見てたけど、

「ああいう女ってカネのためもあるやろうけど、それ以前にあれに抵抗がないと言うか、あれ自体が好きなはずやねん」

 だから千草もあれが好きになって心配してるじゃない。

「全然ちゃうで。ああいうタイプの女は何人もの男と同時進行で楽しめるんや」

 そう見るのか。女にも好みのタイプの男はいるだろうけど、そうであれば並列で相手が出来るって事なのか。千草には想像できない感覚だけど、存在するのは現実に知ってるのよね。

「千草はオレに惚れてくれてから、オレとしかやってへんはずやし、他の男とやりたいとも思うてへんやろ」

 当然だ。コータロー以外にどうしてやらなきゃいけないのよ。

「完璧すぎるほど貞淑な妻やんか。千草を選んでホンマに幸せ者や」

 でもさぁ、貞淑の『淑』っておしとやかって意味のはずだよ。あれだけ乱れまくってるじゃない。

「そんなもん夫婦の秘め事や。だれがビデオに撮って見せて回るかい。千草とは夫婦やぞ。どれだけ乱れようが永遠の夫婦の秘密や。そもそもやで、千草は社長令嬢やねんから淑女に決まってるやんか」

 なんかコータローの上手く丸め込まれた気もするけど、言ってることに間違いはない気もする。女だってあれで高まれば、ああなるのは千草だけの例外じゃないぐらいは知ってるもの。だからたとえ処女でもあれに夢と希望と期待に胸を膨らますのだものね。

「オレかってそないに知っとるわけやないけど、誰かって千草みたいになれるもんやあらへん。この辺は男と女の体の相性もあるはずやけど、わかるのはオレと千草の相性は完璧やってことや」

 千草もそう思う。でもさぁ、でもさぁ、こうやって続いて行った先にあるものが怖い気もするのだけど。

「そんなもん裸エプロンしかあらへんやろ」

 どうしてそこに続くのよ。だからそれは却下だって。別にそんな中途半端な格好をする必要は無いじゃないの。今だって素っ裸で触り放題だし。さっきまでなんかコータローを受け入れてたんだよ。

 それにだよ、裸エプロンでする事って炊事じゃない。あんな格好で揚げ物とか炒め物で油が飛んだりしたら火傷するだけだ。千草を火傷痕だらけにしたいとでも言う気か。それにだよ、裸エプロンたって布一枚だけど前は隠れてるじゃない。

「でも背中もお尻も見えるやんか」

 背中はともかくお尻を見せるのは嫌だって。前だって見られたくないけど、お尻はとくにだ。千草はスタイルにこれでもかもコンプレックスを持ってるけど、とくにお尻はダメなんだ。デカいだけでとにかくみっともないんだから。いくら夫婦でもするものじゃない。

「夫婦にルールなんかあるかい」

 あるに決まってる。千草のルールに従えないのなら離婚するぞ。