タイトルに惹かれ、Amazonのレビューを眺めても悪くなさそうだったので読んでみたら、めちゃくちゃ良書だったので誰かに紹介せずにはいられないので紹介エントリ書きます。研究の副読本はいままでもたくさん出ていて何冊か読んでますが、過去読んだ中でベストと言えるくらいオススメ。どちらも2016年7月に発売された新しい本で、著者は東大医学部附属病院の講師の方です。なので例文には医学・生理学系の内容が多く用いられていますが、研究に関わる人なら分野は関係なく誰にでも読めるようになっています。
それぞれ40ずつのトピックが設けられ、1つのトピックが2〜3ページに簡潔にまとまっていて、とても読みやすいです。トピックの最初に「Question」、最後には「Message」という要約が大きなフォントで書かれていて、これを見るだけでも大まかな内容がつかめ、あとで読み返す時のラベルにもなります。一気に読まなくても、1日1トピックずつ読んでいくという読み方もできそうです。
なぜあなたの研究は進まないのか?
- 作者: 佐藤雅昭
- 出版社/メーカー: メディカルレビュー社
- 発売日: 2016/07/08
- メディア: 単行本
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「なぜあなたの研究は進まないのか?」(以下、「研究は」)は、「研究テーマの設定」や「研究活動の困難を突破すること」について書かれており、後半にはメンタルや生活を整えるライフハック的な内容にも触れています。「研究とはどういうものか」ということがわかるので、研究を始めたばかりの学生が読んで研究活動についての理解を深めたり、研究者が手元に置いておいて研究に行き詰まった時に読み返すのによさそうです。以下、特に個人的に気になった文・フレーズを引用してみます。なるべく原文の通りに表記していますが、コンテキストの補足が必要なものなどは意味を変えないように改変しています。
- 承認欲求が研究の第一のモチベーションになっていないか?
- 自分は人にどう思われようと◯◯だから研究するのだ、と言い切れる確固たる自我を確立する
- 目の前の疑問やテーマにすぐに飛びついていないか?
- その疑問に答えることは、分野の重要な進歩につながるか
- 研究に値するテーマかどうか見極める基準は、そのテーマが自然に出てきた素朴で素直な「なぜ?」という疑問かどうか。頭の中でこねくり回したテーマは素直でない部分がある。
- 研究で一番役に立たないのは、過去の論文はよく知っているけど何一つ建設的なことが出てこない評論家タイプ
- 「仮説」とは、そのように仮定すれば現象がうまく説明できるようなもの
- 起こるとは知られていない現象が起こりうると仮定し、そのためにはこういうことが必要だ、というような研究は技術開発と仮説の証明の中間
- ある目的に向かう「技術開発系の研究」と、仮説に問いかける「仮説証明系」の研究の違いは重要
- これから行おうとしている実験・研究に「近い」モデル論文を見つける
- その辛い経験は決して無駄ではない。その経験は必ずあなた自身に返ってくるし、将来指導的立場になったときにはあなたと後輩のために大いに役立つ経験だ
- 必ず道は開ける
- 朝起きがけの時間は本当にゴールデンタイム
- 今やっている研究の意義と仮説を1分で説明できるか?
- 実験・解析の労力:論文執筆の労力=9:1くらいに思っているかもしれないが、実際には6:4か5:5と言えるくらい、論文を書くことは大変で時間もかかる作業
- 論文作成作業を開始する目安は「核となるデータ」が出たところ
なぜあなたは論文が書けないのか?
- 作者: 佐藤雅昭
- 出版社/メーカー: メディカルレビュー社
- 発売日: 2016/07/08
- メディア: 単行本
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「なぜあなたは論文が書けないのか?」(以下、「論文が」)は、論文の執筆に必要な作業が列挙され、論文の各章「Introduction」「Materials and Methods」「Result」「Discussion」の役割を明確に書き記しています。また、こちらの本でも、論文執筆の時間を確保するためのライフハック的なトピックも取り上げられています。文章を書く技術についても触れられていますが、そこはメイントピックではなく、論文の構成の組み立て方に主眼が置かれています。文章を書く技術については、大定番の 理科系の作文技術 (中公新書 (624)) など、他の本を合わせて読むとよさそうです。以下、引用。
- 論文作成の大部分が単純作業である一方で、まとまった時間を作って深く入り込むことで成し遂げられるパートもある
- 朝の30分は知的作業のゴールデンタイム
- 安易に研究に逆戻りしてはいけない。勇気を持って、可能な限り、今、手元にある材料で書き上げよう
- 論文のテーマに関連した文献を30以上集めて目を通したか?
- 論文の結論を1〜2行で書ききること
- イイタイコト(=結論)は、砂漠を旅する時に常に進むべき方向を教えてくれる北極星のような存在
- 結論というのは普通、実験結果に解釈が加わって、「結局そういうことなのか!」という概念に昇華したもの
- 結論がはっきりしていれば、仮説または目的も自然に書ける
- 原著論文を書く時は、仮説か目的のどちらかを明確にintroductionで述べるのが鉄則
- 核になるデータが出たらFigureの紙芝居でストーリーを組み立てながら実験や解析を進め、それが出揃ったあたりで論文の結論(=イイタイコト)を1〜2行で書き表して論文のゴール(北極星)を明らかにし、そこに向かって書き進む
- よいResultを書くにはデータの解釈が絶対に必要
- Discussionは結果と結論の間をブリッジするもの
- Resultを見れば論文の結論は明らかだ、と思うかもしれないが、それはあなたがその研究分野やあなたの出した研究結果を知りすぎていることから起きる錯覚
- Resultと結論の間には大きなギャップがあり、それを丁寧に埋めて説明しなければReviewerや読者はあなたの論文をきちんと理解できないということを自覚すべき
「論文が」では、特に、結論を北極星に喩えているのが抜群に分かりやすいと感じました。上記に引用した文は、気になったところ全部は上げきれないのでかなり抜粋です。この他にも、いくつかチェックリストも用意されていて、論文執筆の際に役立ちそうです。
まとめ
「研究は」は研究室に配属された直後に、「論文が」は初めて論文を執筆することになった時に読み、その後も手元にずっとおいておいて行き詰った時に読み返すという使い方がよさそうです。2冊合わせても¥5,000弱なので、十分に回収できる投資かと思います。書店で探す時は、医学書のカテゴリに置いてあることが多いようです。
研究分野にそれほど依存しないように書かれていますが、当然細かい部分では分野によっての差異があり、特に論文構成などはそれぞれの分野での流儀のようなものがあると思います。とは言え本質的な部分は変わらないので、いまの自分の専攻である情報科学に当てはまるように噛み砕いて実践していきたいと思います。