例えば、「なぜこの会社でこんなに頑張って働いているのか」「なんでこんな結婚をしてしまったのか」などと、自分がいま生きる日常の根本に疑問を持ってしまった人たちこそ読むべき本だ。「AV女優」自体に一切の興味がなかったとしても。 社会学はしばしば多くの人が目を背けたくなるような対象を扱いながら社会の裏に佇(たたず)む普遍的な原理を暴いてきた。E・デュルケムの『自殺論』がそうだし、マリファナ使用者の調査を元に「社会からの逸脱」を考察したH・S・ベッカー『アウトサイダーズ』も古典的名著とされる。社会の特異点にこそ社会全体を構成するモデルが象徴的に現れる。 外からは見えにくい「AV業界の仕組み」を説明しつつ、著者が切り込むのは「AV女優の語り」だ。AV女優はその仕事の過程で度々「自分を語ること」を求められる。プロダクションやメーカーとの面接、作品出演前の打ち合わせ、作品内での一シーンとして。中でも問わ