泣きながらあなたを洗うゆめをみた触角のない蝶に追われて 笑顔が苦手そうな笑顔が好きでした 冬の陽射しにしゃがんだことも 水が水の重さかかえて落ちてくる冗談だけが人生でした 東直子「愛を想う」より スクランブル交差点のデジタルビルボードから とつぜん山口百恵の「コスモス」が流れる 群衆の中でたったひとり立ち止まり 聞き耳を立てながら空を見上げている初老のホームレス 藤原新也「渋谷」より そのとき 後ろから 小走りにやってきて わたしの肩をたたく者がいる。 乳母車のなかをさっとのぞきこんだあと ぞっとするほどに 甲高い声で言う。 「死んでますよ」 小池昌代「地上を渡る声」より 口ごもってしまった愛のことば 言い出せなかった詫び言 黙っているしかなかった悔い 無口な空は聞こえない死者のことばに満ちている 谷川俊太郎「写真ノ中ノ空」より あの四谷怪談はね、女の一生を具現化したものなんだね。髪が抜け
