夏に『學鐙』という媒体に「私の原点」というテーマでの寄稿を求められた。多田先生の弟子になったのが私の原点である。そのことを書いた。年末に『學鐙』の編集者からメールをもらった。何を書いたか忘れていたので、筐底から取り出した。 私が人生の転換点に立ったのは1975年の12月末のある日ことである(正確な日付は残念ながら覚えていない)。その少し前に私は合気道自由が丘道場に入門していたのだけれど、その日に多田宏先生の弟子になった。この人を生涯の師としようと決めたのである。それが私の原点である。 その年の三月に私は大学を卒業した。在学中就活というものをしていなかったし、受験勉強をしないで臨んだ大学院入試にも落ちたので、卒業と同時にルンペンになった。 さいわい、70年代なかば日本社会は高度成長期のただなかであり、私のような人間のところにもぱらぱらと仕事の依頼があった。翻訳会社のバイトを週二日、家庭教師を