廃炉が決まった高速増殖炉「もんじゅ」について、日本原子力研究開発機構(JAEA)が声明を出した。炉を冷やす「ナトリウム」を抜きとるのが難しいのではないか、という声に応えるものだ。 日本の多くの原子炉では、炉を冷やすために水を使うが、もんじゅではナトリウムを使う。ナトリウムは空気に触れると発火しやすいため、扱いに注意が必要。もんじゅを廃炉にする際、うまく抜きとれるかどうか疑問が出ていた。 JAEAでは、くだんの問題に触れた新聞記事の解説というかたちで意見を述べている。 それによると、ナトリウムの抜きとりについては、今後詳細に検討して決定していくが、原子炉容器の底部まで差し込んであるメンテナンス冷却系の入口配管を生かせば技術的に可能、との考えだ。結果として原子炉容器の最底部に1立方メートルほどのナトリウムが残るが、これも抜きとることは技術的に十分可能だとしている。 またナトリウムが放射能を帯び
官邸や東電本店の要請に従わず、海水注水を強行した吉田昌郎福島第一原発所長。日本中が喝采を送った「海水注入騒動」だが、事故から5年半経って原子炉にほとんど水が入っていなかったことが判明した。 『福島第一原発 1号機冷却 失敗の本質』は、6年間にわたる1000人以上の関係者取材と約428時間に及ぶ東電テレビ会議のAI解析によって浮かび上がった数々の「1号機冷却失敗」の謎に迫った調査報道の力作だ。本書から一足先に「届かなかった海水注水」をめぐる衝撃の事実を特別公開する。 ほとんど注水はされてなかった 2016年9月7日。福岡県久留米市内のホテルはどこも珍しく満室だった。 春と秋、年に2回行われる日本原子力学会の大会に参加するため、全国から原子力関係者が、久留米市に集まっていた。 学会では、原子力安全や放射性廃棄物処理、高速炉などの次世代炉開発、核燃料など様々な分野の専門家が研究成果を発表する。そ
米国サウス・カロライナ州にて建設が進んでいたVCサマー原発2号機と3号機の建設が中止されると7月末に発表された。一方、英国で建設が進んでいるヒンクリー・ポイントC原発については、工費の増加があるものの、建設主体の仏EDF(仏電力)と中国CGN(広核集団)は建設を予定通り進める意向だ。 両原発の建設に関する意思決定の違いは、どこから来ているのだろうか。投資の意思決定は、収益率とリスク、即ち投資額に対しどの程度の収益が見込まれるか、その見込まれる収益率が変動するリスクがどの程度あるかによっている。米国の原発は米ウエスティングハウス(WH)製、英国の原発は仏アレバ製だ。英国の事業が進むということは、英国事業の収入が良い、あるいはリスクが低いということだろうか。米英企業の意思決定の違いは何に由来するのだろうか。 企業の目的は事業を継続し、存続し続けることだ。そのため、企業は事業への投資を行い存続に
そもそもなぜ「炎上」したか 『ビキニ事件63年目の真実~フクシマの未来予想図』 テレビ朝日は8月6日、かつて広島に原爆が投下されたこの日に放送した特別番組『ザ・スクープ スペシャル』に、放送前の段階で、当初このようなタイトルを付けていました。 番組の予告を見ると、戦後、米軍による度重なる核実験・水爆実験にさらされたビキニ環礁近傍の住民に関して、以下のような解説がなされていました。 〈(住民は、水爆実験後)除染が済んだというアメリカの指示に従って帰島。しかし、その後甲状腺がんや乳がんなどを患う島民が相次ぎ、女性は流産や死産が続いたそうです。体に異常のある子供が生まれるということも〉 福島では現在、除染の完了などによる避難指示解除に伴って、「帰福島」が進みつつあリます。しかし、このような内容の番組のタイトルに「フクシマ」を冠することは、明らかに被災地への当てこすりであり、「政府を信じて帰還した
「非常に危険な状況です。一刻も早く燃料棒を冷やすことです」――。 6年前のあの日、NHK解説委員・水野倫之さんの切実な声を聞いた視聴者は、「この人は信用できる」と思った。水野さんはいまも福島に通い続けている。 問題は何も終わっていない 震災から6年が経ち、福島への関心は日々、薄らいでいるように思えます。月日が経ったのですから、いたしかたない面もありますが、実際には原発の廃炉にしろ、復興の問題にしろ、まだ、何も終わっていませんし、解決していません。 廃炉作業は困難の連続で、今も8万人の方々が避難生活を余儀なくされています。問題は山積しているのです。それなのに大きな変化がないとなかなか注目されない。 事故がどうして起きたのか、その時、何が起こったのか、そして今、何が起こっているのか。それらを伝え続けなくてはいけない……。切り口を変えてみたり、タイミング良く解説するにはどうしたらよいのかと、悪戦
この画像を大きなサイズで見る NASAとSpaceX社は国際宇宙ステーションに向け、今後数ヶ月にわたり行われる研究に必要な250種類の道具が積まれた貨物を打ち上げた。中でも際立っていたのが、史上最悪の原子力事故を引き起こしたチェルノブイリ近辺で発見された放射線を好む菌類である。 1986年4月26日に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故の後、灰の中不死鳥のごとく息を吹き返したのは菌類だった。それらは放射線を物ともせず、むしろその地域に順応するように成長したのだ。 これらの菌類の研究を深める事で将来的に被ばくした患者への治療に大いに役立つのではないかと科学者たちは考えている。 1986年4月26日、チェルノブイリ原子力発電所4号炉は非常用発電系統の実験中のミスにより科学的連鎖反応を起こし、炉心溶融した。地域一帯には健康被害を引き起こすレベルの放射線が降り注ぐこととなったのである。当時の研究
「福島で健康被害はない」事実を伝えるべき 朝日新聞が慰安婦報道で自社の報道の誤りを認めた。朝日新聞の報道は、福島の放射能、原発問題についてもミスリードを繰り返している。従軍慰安婦報道をめぐる謝罪も大切だ。しかし70年前の外国の気の毒な売春婦に関心を向ける前に、福島を情報で汚している「今そこにある危機」を、是正してほしい。(プロメテウスの罠7。他人の自殺という悲劇と絡め、センセーショナルな見出しは彼らが軽蔑する「週刊誌化」「ネットメディア化」している。) 1・福島で原発事故の放射線を原因にした健康被害はこれまでもない。これからもない。これは科学的に一致した見解だ。それに反して危険とする情報、騒ぐおかしな人々によって風評が生まれ、福島と日本が傷つけられている。 2・原発について、どのような意見を持とうと、主張しようと自由である。しかし原発の是非と、まったく別の話である福島の事故のリスク評
(写真)フランスの農村地帯にあるシボー原発 GEPR編集部 原子力に対する懸念と批判は世界的に著しい。それは福島事故を起こした日本だけではない。どの国も容認はしているが、全面的な賛成は多数を占めない。ところがフランスは全発電量の4分の3を占める原子力大国で、その政策に世論の支持がある。 なぜ可能になったのか。フランスの政策を紹介した興味深い文章を紹介したい。米公共放送のPBSのディレクターコラムだ。日時は明示されていないが、おそらく2001年頃の古いものと推定される。現状は大きく変わらないが、福島原発事故の後、オランド社会党政権は原発の割合を近日中に50%以下に下げる目標を掲げている。また核廃棄物の処分場も、フランス北東部のピュールに決まったが建設は難航している。(毎日新聞記事「最終処分場計画で苦悩するフランスに重なる明日の日本」) フランスは科学者の権威が強く、国民の冷静さも影響した。た
東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から5年が経過した。震災と事故の復旧は着々と進み、日本の底力、そして日本の人々の健全さ、優秀さを示した。同時にたくさんの問題も見えた。その一つがデマの拡散だ。 「福島が放射能で汚染され人は住めない」という誤った情報は、不必要な混乱を生み、人々を苦しめ、復興を遅らせた。今はそうしたデマも少なくなり、当時の発信者は無責任にも口をつぐんでいるために、問題は解消に向かっているように見える。しかし悪影響は残る。健康被害は起きないにもかかわらず、1mSv除染など過剰な放射線防護対策が行われ、復興や帰還を遅らせている。さらにはストレスによる住民の健康被害も生んだ。 写真は福島県富岡町で筆者が撮影した荒廃した避難区域と、除染で出た廃棄物の山の光景だ。こうなる必要はなかった。この不必要な現状は、デマによる過剰な心配が理由の一つだ。 デマ拡散者の行状を観察すると、彼らは反
河田東海夫 元原子力発電環境整備機構(NUMO)理事 「等級別扱い」:目的と手段の均衡を求める規制の基本理念 IAEA(国際原子力機関)の策定する安全基準の一つに「政府、法律および規制の安全に対する枠組み」という文書がある。タイトルからもわかるように、国の安全規制の在り方を決める重要文書で、「GSR Part1」、(日本語版)という略称で呼ばれることもある。 この文書の最初に出てくる規定(要件1)は「安全に対する国の政策と戦略」との見出しで、政府が安全に関する政策と戦略を策定することを求め、その実施においては、「施設及び活動に付随する放射線リスクに応じた等級別扱いに従わなければならない」としている。 この文章に現れる「等級別扱い」という言葉は英語の “graded approach” の日本語訳で、「事の軽重に釣り合った扱い」といった意味になる。上記規定の下線部分は、平たく言えば「規制の厳
中国人が自国のもので信用しないものが3つあるという。それは食料品、政府の公式発表、そして原発だ。その中で原発だけは、日本人としても「対岸の火事」では済まされない。危険な実態を追った。 「原発白書」はウソだらけ 「すでに稼働しているはずの海陽原発(山東省)と三門原発(浙江省)が、何の発表もなく稼働が延びています。特殊な再循環ポンプに技術的な支障が生じたという話も伝わってきていますが、とにかく中国は情報を徹底して隠す。多少の放射能漏れや汚染水の流出などの事故があっても一切公開しないので、恐ろしいのです」 こう語るのは、長年にわたって原発取材をしてきたジャーナリストの団藤保晴氏だ。 春節(旧正月)の大型連休を控えた1月27日、中国国務院新聞弁公室は、中国で初めての「原発白書」を発表した。タイトルは『中国の核応急』。そこには、中国の原発開発に関する美辞麗句が並んでいる。 例えば白書の前文では、次の
岐路に立つもんじゅ 原子力規制委員会が、JAEA(日本原子力研究開発機構)によるもんじゅの運営に対して不適切な行為が多いとして、「機構に代わってもんじゅの出力運転を安全に行う能力を有すると認められる者を具体的に特定すること」と文部科学省に対して「レッドカード」と言える勧告を突きつけた。 これに対し、地元の福井県の西川一誠知事は「規制委員会のこれまでの助言も親切さが欠けている。運営体制は、JAEAと文科省、規制委の3者が当事者として責任を持つべきだ」と述べられており、地元企業からも、「規制委の対応を「規制委がJAEAの言い分に耳を傾けず、強い権限を背景に一方的に“判決”を言い渡した」と「弁護士不在の裁判」の実態を批判している。 そこで私は、もんじゅに昨年赴任され、1年前に所長に就任になった青砥紀身さんに、もんじゅの現況をうかがった。次に第三者としての客観的な立場で、それが本当なのか、自分の目
ドイツのマックス・プランク研究所で、核融合炉「ヴェンデルシュタイン(Wendelstein) 7-X」の初実験が行われ、ヘリウムを用いてのプラズマ生成に成功しました。 First plasma in Wendelstein 7-X | Max-Planck-Institut fur Plasmaphysik http://www.ipp.mpg.de/3984226/12_15 「ヴェンデルシュタイン 7-X」は2005年4月から建設が始まり、2014年5月に完成。そこから実際に動かすためのテストなどが1年かけて行われました。建設途中の2011年に撮影された姿はこんな感じ。 核融合炉の実現には高温・高密度のプラズマを閉じ込める必要があり、これまではトカマク型が有力とされてきましたが、ヴェンデルシュタイン 7-Xではヘリカル型(ステラレータ)が採用されました。 その見た目は「Science」
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狂ったマシンの目覚め。世界最大の核融合炉まもなく点火2015.11.10 17:5511,159 satomi 巨大磁石に世界中から蓋とネジと管が飛んできたみたいな異形マシン。だいたい「ステラレータ」っていう名前からしてカッコいい。 ドイツのマックス・プランク研究所が保有する世界最大のステラレータ(ヘリカル)型核融合炉「ウェンデルシュタイン7-X (W7-X)」が、ついにスイッチオン秒読み体制に入りました。 未来のエネルギーというよりは、イカれた巨人の手になるアートのよう。特に左右対称のドーナッツ型の兄弟・トカマク型とは大違いですが、原理は両方とも似ており、磁場コイルをねじって強力な磁力線のかご(ケージ)を作り、それでもって超高温の気体(水素原子の融合にはこの世のものならぬ超高温が必要)を封じ込めるんです。 ステラレータ型の炉は恐ろしく設計困難です。W7-Xを見れば想像がつきますよね。幅1
チェルノブイリ4号炉 14年11月筆者撮影。 2015年のノーベル文学賞をベラルーシの作家、シュベトラーナ・アレクシエービッチ氏が受賞した。彼女の作品は大変重厚で素晴らしいものだ。しかし、その代表作の『チェルノブイリの祈り-未来の物語』(岩波書店)は問題もはらむ。文学と政治の対立を、このエッセイで考えたい。 本書の著者アレクシエービッチ氏(1948-)はベラルーシに住む作家だ。私は彼女の作品を『チェルノブイリの祈り』に加えて4冊読んだ。『アフガン帰還兵の証言』(日本経済新聞)、独ソ戦の証言集『戦争は女の顔をしていない』『ボタン穴から見た戦争-白ロシアの子どもたちのみた戦争』(群像社)だ。戦争が民衆をいかに傷つけたかを克明に描き出している。(肖像、ウィキペディアより) チェルノブイリをめぐる人々の重い言葉 彼女が日本で知られたのは1997年に刊行された『チェルノブイリの祈り』だ。これ
2015年09月30日21:03 カテゴリエネルギー 未来は過去に影響するか サンクコストの概念はとても簡単なものだが、心理的には非常にわかりにくい。たとえば大島堅一氏は、立地費用を原発のコストに含めて計算しているが、こういう固定費は再稼動には無関係なサンクコストだ。しかし新たに原発を立地する場合には、コストに含まれる。つまり未来の方針が過去のコスト評価に影響するのだ。 日本で原発を新規立地する余地はないので大島氏の計算はナンセンスだが、再処理工場の場合は微妙である。青森県六ヶ所村にある再処理工場にはこれまで3兆円近いサンクコストが投じられたが、これは操業すればするほど赤字になるので操業しないほうがいい。しかしここまで大きな投資をすると、これを何とか生かしたいと考える。 それは帳簿上は可能だ。再処理工場を操業開始すると、使用ずみ核燃料は再利用可能な資産なので、帳簿上は黒字が出る。しかし再処
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