「東京観光ですか?お一人で」無駄が多い生地の採用、黒い薄手のコートがしわによるのも厭わない、彼は隣の席に落ち着いてしまった。 「観光ではありません、あなたの視界の先に見えるのは私と窓とその向こう、滑走路の数台の待機ジェット」 「面白い時間になりそうだ」彼は軽薄な笑みを浮かべて、顔にしわを刻む。無理に笑ったことで出来上がる印、紋章のようだ、美弥都はベルトのサインに従った。考えごとに最適な駆動音に浸るつもりが、替わろうにも早朝のビジネスマンが寝息を立てて、席は満席だった。眠ったふり、耳も都合よくふさげたらと海で生きた頃の機能に美弥都は思いをはせる。 「どちらまで?」男は顔を向けて話しかける。乗務員…