小説家。1927年(昭和2年)5月1日-2006年7月31日 東京生まれ。作家の津村節子は妻。 学習院大学国文科中退。長く作家修行をしたが四回芥川賞候補となるも受賞に至らず、『星への旅』で太宰治賞、『戦艦武蔵』で事実上の作家デビューを果たし、『関東大震災』等で菊池寛賞、『破獄』で読売文学賞、『冷い夏、熱い夏』で毎日芸術賞、『天狗争乱』で大佛次郎賞を受賞している。大量の史料や証人に取材した、緻密な文体の記録小説・歴史小説に定評がある。芸術院会員。
吉村昭の『星への旅』を読んだ。それについて書く。 文体はやや硬いが、平易で簡潔である。一読してはっきりと意味が取れる箇所ばかりであり、物語も単純に進むため、難しいところはなにもないだろう。これを読んでまったく意味が分からなかったと言う読者はいないと思われる。 本作は若者が集団自殺をする話である。自死にはっきりとした動機はなく、ただうっすらとした閉塞感を出発点として、絶望よりもむしろ希望や好奇心を抱いて彼らは海に身投げをする。生に意味を見出せない彼らは、むしろ死の方に人生の進展があると思うのである。その自死は無邪気であり、彼らのおこなう活動のすべてに透明感がある。こうした透明な雰囲気は、圭一の親…
壮絶な記録文学です。北アルプスの黒部峡谷は、峻厳な地形や豪雪が人の侵入を拒み続けてきた秘境。その峡谷に水力発電のダムを建設するため、人や資材を運ぶ隧道(トンネル)の掘削が始まりました。 ところが地下火山の影響で、掘り進むと岩盤温度は160度を超え、熱湯が絶えず吹き出してトンネル内は灼熱地獄になります。 「高熱隧道」(吉村昭、新潮文庫)は丹念に工事記録を調べ、現場責任者である技師の視点から、自然と人間の闘いを描き出した作品です。 あまりの高温に、発破のダイナマイトが自然発火して、人夫たちは逃げる間もありません。坑道の最深部、バラバラになった肉塊を抱き上げてトロッコ3台に積み、外に出してムシロに並…
2024年5月29日-6月4日 ・万城目学『ホルモー六景』 ・新田次郎『八甲田山死の彷徨』 ・吉村昭『羆嵐』 ・小林照幸『死の貝 日本住血吸虫症との戦い』 ・佐田三季『彼は死者の声を聞く』 ・神田佳一、菊池良『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら 青のりMAX』 ・アーヴィン・ウェルシュ(池田真紀子訳)『T2 トレインスポッティング』上下 ・柚木麻子『あいにくあんたのためじゃない』 ・柚木麻子『名作なんかこわくない』 ・レイモンド・カーヴァー(村上春樹訳)『大聖堂』 以下コメント・ネタバレあり
内容(amazonより引用) 「咳をしてもひとり」「いれものがない 両手でうける」――自由律の作風で知られる漂泊の俳人・尾崎放哉は帝大を卒業し一流会社の要職にあったが、酒に溺れ職を辞し、美しい妻にも別れを告げ流浪の歳月を重ねた。最晩年、小豆島の土を踏んだ放哉が、ついに死を迎えるまでの激しく揺れる八ヵ月の日々を鮮烈に描く。 新装版 海も暮れきる (講談社文庫) 作者:吉村 昭 講談社 Amazon 感想(ネタバレなし) 自由律俳句で名を馳せる、尾崎放哉の最晩年を克明に記した一作。放哉の交友関係、実家との軋轢、頼った人から食べたものまで、とにかく事細かに描かれており、著者の綿密な取材ぶりが窺える。…
ある日、講義が終わり遅刻子女と一緒に帰ることになった。偶然、担当講師も一緒に なり同じ電車に乗り合わせるという事態になった。毎晩夜遅くまで遊び惚けていた 僕は眠くて講義など朦朧としていたものだが、ある時、講師の好きな作家が吉村昭で あること、また、その作品について熱く語りだすということがあって、「おお、同志 やないか!」といきなり、昨日まで「うぜぇよこのおっさん.....」と思っていたのが、 「文学仲間じゃーん」という節操の無さ。うーん・・・これが若さだ。 向こうも、めんどくさい若造が、なぜか自分の敬愛する吉村昭作品を自分より読んで いること、作品について質問してもよどみなく答え、「あの場面の…
20代が始まったころ、僕は公務員になった。そんな年齢では、まだ世の中のことが 何もわかっていない。しかし根拠の無い自信だけはあるという、とんでもない若造 だった。 まず最初に県庁に行き、そこから配属が決まった庁舎へと割り振られる。 何も知らない僕は、「県庁で仕事すんのかな」と勘違いしたが、当然そんなわけは なく、案内役の職員から名前が呼ばれ、いきなり私鉄電車に乗せられ出発していった。 どこまで行くんだろう?と思った。その時分になっても、自分がどこで何の仕事をする のか、皆目見当がついていなかったのだ。そんな若造が県の税務課に着任するわけだか ら、そこの市民も災難である。僕の他にもう一人いて2人…
こんにちは。 前回の投稿ではツキノワグマによる被害の増加について触れましたが、その後の報道によると、被害がもっとも多いとされている秋田県では、これを食い止めるためにクマの駆除を行っているのですが、これに対して「可愛そうだ」「殺すな」など抗議の電話が多く寄せられているそうです。こうした苦情を言ってくる人の多くは、自分自身が直接クマによる被害を受けない場所や立場で発言しているため、地元の方々や秋田県知事は当惑と苛立ちをにじませて、これに反論していますが、これは当然の反応でしょうね。 前回も書きましたように、クマによる被害の原因を探っていくと、人間側の社会生活等にも大きな問題があることは事実で、クマ…
吉村昭『破船』読了。 購入したのは新潮文庫2022年5月(改版)35刷。 この時点で既にうっすらネタバレ臭が……と言いつつ載せてしまう(笑)。 ひと月ほど前、どこかで絶賛レビューを読み、興味を持ったので購入。 しかし……そのレビューを最後まで読まなければよかったと後悔。 何が何だかよくわからない状態の方が終盤の衝撃が大きかったのでは……と。 つまり、当該レビューはガッツリとネタバレしてくれていたのです(怖)。 もっとも、上掲の写真のとおり、 購入時点で帯の煽り文句を読んだら、ネタバレレビューに接しなかった人でも オチには見当がつくはずで……(あ、ゴメン💧)。 破船 (新潮文庫) 作者:昭, 吉…
こんばんは。 マダムあずきです。 今日8月15日は終戦記念日です。 少し前に読み終えたこちら 殉国 陸軍二等兵比嘉真一 吉村昭 沖縄戦の話です。 ワタクシは二十代前半のころ 亡き実母と二人で沖縄に旅行へ行きました。 ツアーだったのですが、ひめゆりの塔の見学もあり。 そのときに語り部の方からお聞きした内容とほぼ同じことが 作中で綴られていました。 www.himeyuri.or.jp あのときに資料館でみたものが この本を読んでいて思い出されてきて胸が痛くなりました。 戦争は二度と起こしてはいけない、 だけど子どもたちの時代にはどうなっているのだろう、 そんなことを思う一日でした。 (funct…
★★★★☆ あらすじ 妻殺しで服役した男は出所後、片田舎で小さな床屋を開く。 www.youtube.com カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作。キネマ旬報ベスト・ワン作品。 感想 主人公が浮気した妻を殺して自首し、8年間服役して出所するまでの、普通ならそれだけで一本の映画が撮れてしまいそうな出来事を、タイトルバックの僅かな時間で描いてしまう監督の手腕が見事だ。しかもその間に血まみれで自首するインパクトのあるのシーンで、しっかりと笑いも取っている。 人生を一変させる事件を起こしてしまった後の主人公の姿が描かれていく。妻を殺してしまったことが頭を離れず、一匹のうなぎだけを友として、床屋をしなが…
第36回〜第40回読売文学賞・小説賞の受賞・候補の一覧です。 目次 第36回(1984年) 第37回(1985年) 第38回(1986年) 第39回(1987年) 第40回(1988年) 第36回(1984年) 受賞:『破獄』 吉村昭 著 破獄(新潮文庫) 作者:吉村昭 新潮社 Amazon 第37回(1985年) 受賞:『怒りの子』 高橋たか子 著 『海図』 田久保英夫 著 P+D BOOKS 怒りの子 (P+D BOOKS) 作者:高橋たか子 小学館 Amazon 海図 (講談社文芸文庫) 作者:田久保英夫 講談社 Amazon 第38回(1986年) 受賞:『夜の光に追われて』 津島佑子…
(2024.08.10 東京都文京区にある東洋文庫「モリソン書庫」より 壮大な本棚は優雅で美しい) 昨年私が読んだ本125作品(冊数は144)の中から、個人的におすすめしたい10作品を紹介する。順序はつけがたいしオールタイムベストではないので、いつも通り読んだ順番に。おもしろかった、心に残った、ためになった、心がホッと落ち着いた、本によって色々な感想がある。「どんな本だったか」は、自分が読むタイミングとその時の心待ちというのが結構大きい。だから一年を振り返ると「当時はそうでもなかったけど今思えば印象深い」本は結構あって、そういう本もいくつか選書した。もちろん、読んだその瞬間に電気が走るような衝…
仕事場でLPレコードが聴けるようになり、久し振りに森有正「思索の源泉としての音楽」をかけてみた。学生時代に聴いた感動が、鮮やかに甦る。 最初に、コラール前奏曲「人よ、汝の大いなる罪を嘆け」BWV622が弾かれる。いつ聴いても心打たれる名曲だ。この原曲はマタイ受難曲第1部の終曲にも使われている。私が日常的に聴くバッハはピアノが多くオルガンは少ないが、たまにはオルガンも良いものだ。 その後、森有正自身が色々と話す肉声が聞こえてくる。その内容も、含蓄に富んだものだ。彼の著作にしばしば出てくる「経験」という言葉の具体的な中身が、音楽を学ぶという行為を通じて現れてくる有様が生き生きと語られていて、深い感…
三陸海岸大津波 (文春文庫) 作者:吉村 昭 文藝春秋 Amazon 正月休みに伴う実家との往復と、実家の入浴中に読んだ本がこちら。 吉村昭作品ですが、これは”小説”というより”記録”としての性格が強い作品です。 三陸海岸を襲った明治29年、昭和8年の地震による津波、昭和35年のチリ地震による津波の”記録”をまとめた、全191ページと決して長くはないですが中身の濃い作品です。 著者吉村昭氏はまえがきで「(或る婦人の津波に関する)話に触発されて、津波を調べ始めた。そして、津波の資料を集め体験談をきいてまわるうちに、一つの地方史として残しておきたい気持ちにもなった。」と述べているように、著者自身も…
1)田中宇ニュース1月2日版「地球温暖化問題は超間抜け」(https://tanakanews.com/250102ondan.htm)は力作。彼はこれまで長年にわたり温暖化関連記事を相当数書いてきたが、今回の記事は、温暖化問題の総まとめ的な感じ。私の知る範囲で田中宇氏は、日本人ジャーナリストで恐らく最も早くから温暖化問題を正確に理解し批判してきた人だ。97年の京都議定書の段階ですでに問題点を指摘していた。私はその頃、この件に関して全くの無知だったのに(私が温暖化問題の欺瞞に気づいたのは、その約10年後である)。 私自身は、彼の考え方・見方のすべてに賛成と言うわけではないが、情報収集と分析能力…
ちょうど出先が噴火湾近辺でしたので、そんな2004年末の昼食はと言えば 半ば導かれるかのように(笑)登別市の名店「いずみ亭」さんへ。 ソss年時における店舗の全面リニューアルに伴って、サービス内容やメニューこそ 往年のそれに比べて随分洒脱かつ合理的になりましたが、基調を成す麺の味わいは 変わる事のない老舗ならではの凛とした確かさ。 ささて、今回の「いずみ亭」さんにおきましては こちらのカレーかしわそば”に舌鼓を打ってきました。 お邪魔した時期が時期でしたし、そこから更に数日後ともなれば大晦日ってことで 夜中に年越し蕎麦を食べることは確定事項とは言え…… このですね、カツオだしがベースになった和…
12月は全て図書館本です。オーディブルの時よりもたくさん読んでいるという不思議。自分でも予想外でした。【116~125】 ネタバレあります。 116.破船 吉村昭 海に面した貧しい村では「お船様」を待ちわびている。村人に恵みをもたらす「お船様」とは・・。 すごく暗い話、悲劇です。貧困との戦い、生きていくための戦いではありますが、考えれば考えるほどいたたまれない内容でした。ただ途中で止めようと思う事はなく、読ませる力は流石だなと思いました。 かなり昔の作品ですが、読みにくさはありませんでした。丁寧な描写なので臨場感もあり、この世界に引きずり込まれ苦しかったです。 117.月の立つ林で 青山美智子…
2024年・年末のやり残し企画「2024年に購入した本」、一般書籍の部をやりましょうね。買っただけで読んでない本が大半なのでボロが出ないよう詳細は控えますが、いつ読むんだこれは。 ( ◜◡゜)っ よみたいな(願望
羆嵐(新潮文庫) 作者:吉村昭 新潮社 Amazon 吉村昭作品、今回読んだ本はこちら。 1915年(大正4年)北海道西北部の北海道苫前郡苫前村三毛別(現在の苫前町三渓)六線沢で発生した、ヒグマによる殺傷事件を小説にしたものです。 雪積もる12月にヒグマが小さな村を襲い、7人(1人は胎児)が死亡、3人が重傷を負ったもので、死亡した7人のうち、女性だった2人はヒグマに食べられてしまったという凄惨な事件でした。 通報により警察が出動し、数十人の猟師をひきつれて駆除を試みるものの、猟師の中には恐怖に怯えてなにもできなかったり、持ってきた銃が機能しなかったり、ということもあり駆除にいたらず。 帯同して…
今日も自己紹介的な記事です。 Xやmixiでよく見かける「名刺代わりの小説10選」。 "> ">月10冊本を読みます。しかし最近は小説はあまり読んでいません。 ">大学生の頃まではかなり読んでいました。近代日本文学に興味を持っていたところ、弘前の古本屋に近代文学の文庫本が100円以下で売っていたので、それを買って読んでいました(いまそんな本屋ないよな…) ">読まなくなったきっかけはよくわかりませんが、たぶん院に進んでからは専門書が多くなってそれから読まなくなったかも。そもそも小説よりはルポルタージュなど実際にあることの話の方に興味があります。 おはようございます。 こぎん刺しのテディベア・動…
「咳をしてもひとり」「いれものがない 両手でうける」‥‥自由律の作風で知られる漂泊の俳人・尾崎放哉は帝大を卒業し一流会社の要職にあったが,酒に溺れ職を辞し,美しい妻にも別れを告げ流浪の歳月を重ねた.最晩年,小豆島の土を踏んだ放哉が,ついに死を迎えるまでの激しく揺れる八ヵ月の日々を鮮烈に描く――. 自由律俳句の代表的な俳人尾崎放哉の人生は,破綻と挫折に満ちたものだった.その中で生み出された俳句は,日本文学史上の独自の地位を築き,孤独や無常観が多くの人々の心に響き続けている.本書は,放哉の最晩年の8か月間を中心に,その生涯を再構成し,同時に著者自身の死への深い洞察をも表現している.代表作「咳をして…
というわけで、新年二発目は2025年1月以降に公開される邦画一覧です(2024年下半期(7〜12月)に公開された映画はこちらでどうぞ)。建物老朽化の影響で、今年の夏に東映最後の直営館である「丸の内TOEI」が閉館します。建替後のビルは商業施設として貸し出すため、映画館は入らず、興行事業はティジョイ系列が引き継ぐとのこと。公式サイトにもそのうちお知らせが出るかと思います。 丸の内TOEI 公式サイト 東映、銀座の本社を再開発 「丸の内TOEI」は営業終了へ - 日本経済新聞 リストの見方は以下の通り。 無印:ニュース記事などネット上に公的ソースが存在するもの。公式サイトがあるものはタイトルにリン…
1・谷崎潤一郎『細雪』(全三巻、新潮文庫) 2・幸田文『父・こんなこと』(新潮文庫) 3・エラリー・クイーン『Xの悲劇』『Yの悲劇』(中村有希訳、創元推理文庫)『Zの悲劇』『ドルリー・レーン最後の事件』(越前敏弥訳、角川文庫) 4・松本清張『西海道談綺』(全四巻、文春文庫) 5・織田作之助『放浪・雪の夜 織田作之助傑作集』(新潮文庫) 6・谷崎潤一郎『猫と圧造と二人のおんな』(新潮文庫) 7・オスカー・ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』『幸福な王子』『サロメ・ウィンダミア卿夫人の扇』(新潮文庫) 8・濱口竜介『他なる映画と 1・2』(インスクリプト) 9・吉村昭『熊嵐』(新潮文庫) 10 ・阿…
◎新作ロードショー ビーキーパー 《1月3日(金)から 丸の内TOEIほかで公開》 片田舎で養蜂家として隠遁生活を送る男。恩人が詐欺に遭い、復讐のため立ち上がる。(2024年 アメリカ=イギリス 監督/デビッド・エアー) サラリーマン金太郎【暁】編・【魁】編 《1月10日(金)から 新宿バルト9ほかで公開》 本宮ひろ志のマンガを、鈴木伸之主演で新たに映画化。元暴走族で、マグロ漁師からサラリーマンの世界に飛び込んだ男の活躍。(2025年 日本 監督/下山天) サンセット・サンライズ 《1月17日(金)から TOHOシネマズ日本橋ほかで公開》 楡周平の小説を映画化。都会から宮城県南三陸に移住したサ…