照ノ富士の引退会見に見た「家族観」に宿った横綱の覚悟

スポーツ報知
照ノ富士

◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 想像の先をいく言葉が返ってきた。大相撲初場所6日目(17日)に行われた横綱・照ノ富士の引退会見。会場にいた2歳の長男・照務甚(テムジン)君の姿を見て、私はどうしても聞きたかったことを質問した。「息子さんの存在は支えとなりましたか」。孤独と闘ってきた一人横綱にとって、家族はどんな存在だったかを知りたかった。

 照ノ富士は、表情を変えずに言った。

 「家族を持って、より一層頑張らないといけないという話も聞くが、それはない。子供が生まれたからもっと頑張れるんだったら、その前に頑張るべき」

 はっとさせられた。私事になるが引退会見3日前の1月14日、第1子が生まれた。3566グラムの男の子。これまで何度もアスリートの引退会見を取材してきた。「子供のために頑張らないといけない」「守るべきものができた」などと、感謝とともに涙を浮かべる選手もいた。実際に私も、両国国技館での取材を終えて帰宅し、子供の寝顔を見ると「仕事を頑張らなきゃ」と思うようになった。

 横綱は両膝のけが、内臓疾患などを抱え、大関から一時は序二段まで落ちた。結婚したのは2018年2月。その後に関取(十両以上)の座を手放し、横綱昇進後の22年に長男が誕生した。苦しみの中での、大きな喜び。何よりの支えになったはずだが、それを口に出すことはしなかった。病とも向き合い、横綱を目指した覚悟、最高位としての責任感が表れた「不屈の横綱」らしい言葉だと感じた。すべてを表に出さず「激しい相撲人生だった」と振り返った。

 家族のために頑張るのは当然のこと。照ノ富士はそれ以上に己を律し、強い意志ではい上がってきたのだと思う。今後の記者生活に向け、背筋の伸びる横綱の引き際だった。(大相撲担当・山田 豊)

 ◆山田 豊(やまだ・ゆたか) 2009年入社。地方部、サッカー担当、販売(営業)、レイアウト、静岡支局などを経て大相撲担当。

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