作家ラシュディ氏への襲撃事件、殺人未遂などで有罪判決

ラシュディさんは襲撃によって片目の視力を失った

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著名作家サー・サルマン・ラシュディ(77)が米ニューヨーク州で講演中に襲撃された2022年の事件について21日、同州西部の郡地裁は被告人に有罪を言い渡した。ニュージャージー州在住のハディ・マタール被告(27)は、禁錮30年以上の量刑を言い渡される可能性がある。

ラシュディ氏は1988年に小説「悪魔の詩」を発表後、イランの最高指導者だったルホラ・ホメイニ師から死刑宣告を受けるなど、長年にわたり殺害予告を受け続けた。2022年8月にはニューヨーク州で講演中、マタール被告に首などを刺された。ラシュディ氏はこの事件のため、肝臓損傷、片目の視力喪失、腕の神経損傷による手の麻痺など、複数の重傷を負った。

襲撃現場に近いニューヨーク州西部のシャトークア郡裁判所で、陪審員は2週間に及ぶ審理を経て有罪評決を下した。

陪審員らはまた、ラシュディ氏と一緒に講演会の檀上にいた司会者のヘンリー・リース氏に暴行し負傷させた罪でも、マタール被告を有罪と評決を下した。リース氏は襲撃で頭部に軽傷を負った。

マタール被告は無罪を主張していた。

被告への量刑言い渡しは、4月23日に予定されている。

ラシュディ氏は公判で、歴史あるシャトークア研究所の檀上にいた際、自分に向かって走って来る男を見たと証言。その襲撃犯の「黒くて非常に凶暴に見えた」目に衝撃を受けたと話した。

ラシュディ氏は、 最初は殴られたように感じていたものの、刺されたのだと後から気づいたとも証言した。

調べによると被告は、ラシュデイ氏の目、頬、首、胸、胴体、太ももを、計15回刺したという。

入廷したマタール被告(11日、ニューヨーク州シャトークア郡地裁)

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AP通信によると、評決前の最終弁論で検察側は法廷で、襲撃の様子を捉えたビデオをスローモーションで再生した。 ジェイソン・シュミット検事は、「特定の標的を狙った攻撃だったことに注目してほしい」と前置きして、「その日は周りに人が大勢いたが、標的にされたのはたった一人だった」と陪審員に指摘した。

被告の弁護人アンドリュー・ブローティガン氏は、検察側はマタール被告の殺意を立証できていないと主張していた。弁護側は証人を申請していなかった。

マタール被告は2022年に留置場から米紙ニューヨーク・ポストの取材に応じ、ラシュディ氏の処刑を命じたイランの元最高指導者ホメイニ師を称賛した。

「彼はあまり良い人ではないと思う」、「イスラム教を攻撃した」とマタール被告はラシュディ氏について話していた。自分は「悪魔の詩」をほんの数ページしか読んでいないとも付け加えた。

昨年7月に公開された起訴状によると、被告はレバノンから移住した両親のもとニュージャージー州で生まれた。レバノンを拠点とする武装勢力ヒズボラに物質的支援を提供したとして、別の連邦事件でも起訴されている。 ヒズボラは西側諸国、イスラエル、湾岸アラブ諸国、アラブ連盟によってテロ組織に指定されている。

ラシュディ氏が1988年に発表した「悪魔の詩」は、イスラム教の預言者ムハンマドの生涯に着想を得たもの。内容が冒とく的だとして一部のイスラム教徒が怒り、一部の国で出版が禁止された。 ラシュディ氏は数え切れないほどの殺害脅迫を受け、イランの宗教指導者が著者の死を求めるファトワ(布告)を発してから9年間、身を隠すことになった。しかしラシュディ氏は近年では、脅迫は減ったと思うと述べていた。

日本では1991年7月、「悪魔の詩」を訳した筑波大学の五十嵐一助教授が大学構内で刺殺されているのが発見された。15年後の2006年、未解決のまま殺人罪の公訴時効が成立した。