『アストロボット』インタビュー。小ネタ満載のスペシャルボットができるまで。エンディングは演出を巡って開発チームを二分する大激論に!? Team ASOBIの驚異的開発手法に迫る【ネタバレ注意】

byジャイアント黒田

『アストロボット』インタビュー。小ネタ満載のスペシャルボットができるまで。エンディングは演出を巡って開発チームを二分する大激論に!? Team ASOBIの驚異的開発手法に迫る【ネタバレ注意】
 2024年9月6日にソニー・インタラクティブエンタテインメントより発売された、プレイステーション5用の3Dアクションゲーム 『アストロボット』。発売されるやいなや、世界中で高い評価を獲得した本作は、日本時間2024年12月13日にアメリカのロサンゼルス・ピーコックシアターにて開催された“The Game Awards 2024”に、最多となる7部門でノミネート。その年のもっとも優れたタイトルに贈られるGame of the Yearを始め、4冠に輝く快挙を成し遂げた。

 こうした高評価が口コミで広がり続け、さらに発売後も複数の無料DLCが配信されたこともあって、現在も世界中で多くのプレイヤーがプレイし続けている本作。直近でも新たなギャラクシー“暗黒星団ムズー”が追加され、さらなる盛り上がりがありそうだ。
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 ファミ通.comでは、
『アストロボット』を開発したTeam ASOBIにインタビューを実施。プレイステーションの歴代作品の中から登場したスペシャルボットや、感動的なラストバトルとエンディングなどに関してたっぷりとお聞きした。

 なお、エンディングのネタバレなどが含まれているので、本作を未プレイの人や、プレイ途中の方はご注意を!

 また、本インタビューは、The Game Awards が終わって間もない2024年末に実施したもの。Game of the Yearを獲得したときの感想や、開発秘話などをうかがったインタビューの前編がすでに公開されているので、そちらも合わせてご覧いただきたい。

ニコラ・ドゥセ

Team ASOBI代表・ディレクター

中井俊彦

Team ASOBI シニアコンセプトアーティスト

矢徳浩章

Team ASOBI リードゲームデザイナー

佐野淳子

Team ASOBI オーディオディレクター

川 孝平

Team ASOBI シニアアニメーター

藤縄英佑

Team ASOBI ゲームプレイプログラマー

プレイステーションの30周年を飾るスペシャルボットたちの誕生秘話

――スペシャルボットは、種類の多さはもちろん、アストロベースキャンプでそれぞれアクションが用意されていて驚きました。どのキャラクターを登場させるか、どのように選定したのでしょうか?

中井
 スペシャルボットの種類やリアクションを充実させることは、ユーザーに収集要素の満足感を与えるためにも、プレイステーションの30周年を祝うためにも必須の要素でしたので、このゲームの柱であるジャンプアクションステージを作ることと同じぐらい力を入れて制作しました。スペシャルボットの選定については、すべての世代とすべてのリージョンになじみのあるキャラクターを分け隔てなく扱うということを大事にしています。

ニコラ
 たとえば、『どこでもいっしょ』のトロやクロは日本人にはおなじみのキャラクターですが、海外ではあまり知られていません。一方で、初代プレイステーションのマスコットキャラクターであるポリゴンマンは、日本人にはあまりなじみがないですが、マーケティングで使われた北米では人気があります。このようにリージョンごとのバランスを考えながら、登場させるスペシャルボットのリストを作りました。

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矢徳
 ちなみにポリゴンマンは、“失われた銀河”の“こわせ!ボクセル島”というステージで救出できます。開発中は通常のボットを配置していて、後からスペシャルボットの配置を決めたり入れ換えたりしたのですが、ポリゴンマンが“こわせ!ボクセル島”に配置されることが決まったときは、身が引き締まる思いでした。

 もちろん、ほかのスペシャルボットも同じように大切に扱っていますが、ユーザーとして遊んでいたときのゲームのキャラクターを登場させるだけに、リスペクトが感じられるようにしなければいけません。このスペシャルボットが登場するなら、ここを変えてみようかなと、後から調整したステージもありました。

――スペシャルボットの作中での見た目の再現、アクションを考えるうえで、とくにこだわったところは?

中井
 見た目の再現に関して、きっかけとしては、『ASTRO's PLAYROOM』で行った簡易コスプレがうまくはまったことです。ボットくん自体がとてもニュートラルな素体だったというのが大きな要因のひとつですが、「ロボットがコスプレ?」というのが、アニメーションも相まってとてもお茶目だな、という気付きがありました。顔がそのままロボット顔というのも逆に愛嬌がありますよね。

 ただ例外的に、LEDのロボ顔ではうまく表現しきれなかったキャラクターがいくつかあって、たとえばピポサルなどですね。LEDロボ顔バージョンのピポサルもいろいろデザインしてみたのですが、どれもあまりしっくりこなくて説得力が弱かったんです。ですので、「かぶりものをしている」という設定にして、オリジナルの顔をそのまま使うことにしました。SNSなどでも「サルゲッチュがそのまま遊べる!」ということが話題にあがっていましたので、「そのままの顔にしておいてよかったー」と思っています。

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“ゴリゴリ銀河”の“ピポピポ ピポゲッチュ”のステージでは、ピポサルに扮したスペシャルボットたちをゲットアミのような道具を使って捕まえられる。
中井
 また、アストロくんがパンチしたときのリアクションに関しては、まずはアニメーションアイデアをまとめたコンセプトスケッチを各社にチェックしていただくところから制作をスタートしました。30年分の本当に多種多様なキャラクターがいるので一概には言えませんが、「ユーザーにとって記憶に残っているシチュエーションは何だろう?」、「欠かせないアイテムは?」、「お約束的なモチーフやアクションは?」などなどを踏まえてアイデアを出していました。

 たとえば
『Ghost of Tsushima』の仁さんだったら、「温泉でのんびりしている」、「俳句を詠んでいる」、「狐と追いかけっこ」などなどいくつかのシチュエーションが思い浮かぶと思うのですが、この中できっとユーザーがいちばん見たいのは、自分も含めて、「キツネも捨てがたいがやっぱり温泉でしょ!」という感じでアイデアを選定していきました。ただ、自分もゲーム好きですがすべてのゲームを遊んだことがあるわけではないので、チーム内でそのゲームのプレイ経験のある人を探して話を聞きまわったりもしました。

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矢徳
 中井さんから連絡がありましたね。「このゲームをプレイしたことはありますか?」、「このゲームにいちばん思い入れのあるスタッフを知っていますか?」って。僕自身がプレイしたことのあるタイトルは、ファンとして思い出に残っているシーンを共有しています。ほかのスタッフたちにも同じように聞き取りをしているので、多くの方たちに共感してもらえるものになったと思います。

中井
 生の声ってやはり大事ですよね。公式サイトの情報やレビュー動画だけでは汲めない、自分が体験したからこそ思い出になっている事象は必ずあるので。「ワンダをパンチすると懐に隠していた光るトカゲを落とすネタ」も、時間をかけてトカゲ狩りをしたゲームプレイの思い出があってこそユーザーに届くかな、と思うんです。

 そうしてアイデアが確定した後、実装に向けての制作を開始したのですが、モデラーやアニメーターのメンバーたちが「この〇〇キャラはぜひ自分が作りたい!」と積極的に手を挙げてくれました。チームの皆それぞれ思い入れのあるゲームやキャラクターがいるので、皆のやる気がすごかったです。モデルチームは「NPC(としてのスペシャルボット)ではなく主役が170人超いる!」という気概で、高いクオリティーのモデリングにしてくれましたし、アニメーションチームはスケッチでは足りなかった動きやおもしろアイデアをどんどん盛り込んでくれました。

佐野
 サウンドに関しても、原作を何度も見返しながら敬意をもって制作しました。『アストロボット』としてのフレーバーをプラスしつつも、オリジナルのサウンドになるべく忠実に、なかには原作のままのサウンドを使用しているスペシャルボットもいますよ。原作に思い入れのあるメンバーが楽しみながら、思いを込めて制作していました。

――スペシャルボットは、図鑑に表示されるフレーバーテキストも秀逸だなと思いました。短い中にも、ファンがクスッとできるネタが盛り込まれていて。

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ニコラ
 フレーバーテキストは、最初に英語から制作しました。

中井
 その後、僕が中心となって日本語のベースのテキストを考えたのですが、やはりファンの意見もしっかり取り入れたかったので、チーム内でオープンにしてみんなに書いてもらいました。

矢徳
 オリジナルのタイトルに関わったスタッフもいたので、かなり熱い気持ちで、このテキストはこちらにしたい、といったやり取りもありましたね。

中井
 当然ながら私たちはコンテンツをお借りしている立場です。ゼロからコンテンツを創り出すことのたいへんさは身に染みて理解しているつもりなので、今回多くのパートナーさん方に参加していただいたことには感謝してもしきれないほどです。そして、ユーザーにとっても人生に大きく影響を与えたゲームがあるはずですし、それぞれ愛してやまない推しキャラがいるはずです。ですので、それらに答えるためにも、「皆に笑って楽しんでもらえるいいものにしよう!」というモチベーションとリスペクトを込めてチーム一丸となって制作させていただきました。

――先ほど少しお話に出ましたが、『サルゲッチュ』や『ゴッド・オブ・ウォー』など、歴代プレイステーションの名作ゲームが体験できたのも楽しかったです。タイトルはどのように選定されたのでしょうか? アクションやステージを作るうえでの工夫した点、苦労した点などもお聞きしたいです。

ニコラ
 ヒーローステージでどのようなタイトルをフィーチャーするかは、さまざまな要素から決定しました。『ゴッド・オブ・ウォー』『Horizon』のような最近の人気作はユーザーの認知度も高く、今世代のユーザーにはわかりやすいですが、プレイステーションの全世代を広くカバーするためには、過去の象徴的な作品ともバランスを取り、本当にプレイステーションを祝うものでなければいけないと考えていました。

 さらに、これはゲーム内のすべてのパワーアップに当てはまりますが、ヒーローステージで登場するパワーアップはアストロのジャンプ能力をしっかり補完するもので、ゲームプレイ自体を大きく基本から逸脱することはできないと考えていたので、そういった観点から検討しています。ただ、
『ロコロコ』は例外として、まったく異なる操作スキームを採用しています。柔らかな物理表現がとてもクールに仕上がっており、そのプレイ体験を復活させて『ロコロコ』を新たな世代のプレイヤーへ紹介するのに絶好の機会だと感じたのです。

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『ロコロコ』は“カクレオン宙域”の“コロガルバレーの大合唱”でプレイ可能。DualSense ワイヤレスコントローラーを傾けることで、ロコロコに扮したアストロを操作できる。
矢徳
 それぞれのタイトルのキャラクターから受け取るパワーアップと、ゲームプレイが想像できるものを選びました。そのうえで、それぞれのタイトルをそのまま作り直してしまわないように気を付けています。

 “ボット・オブ・ウォー”のステージではクレイトスの斧のようなゲームプレイがありますが、その中にもアストロボットで大事なジャンプアクションを入れたり、ふだんはクレイトスがやらないようなアイススケートをするジョークを作ったりして、
『アストロボット』の世界に『ゴッド・オブ・ウォー』の要素を持ってくるようにしました。

 私の場合、『サルゲッチュ』は過去に深く関わった経緯もあり、とくに思い入れがありました。ヒーローステージでの登場の話を聞いた時は、「えっほんとに!?」と叫んでしまうほどうれしかったです。ピポサルをデータ化するにあたっては、保存していたサルの3Dモデルデータを参考として使用しています。

 ピポサルの顔の造形は
『サルゲッチュ3』のころにほぼ確立され、以降それがベースになっているのですが、『アストロボット』に登場するピポサルには当時の3Dモデルをリファインしたデータが使われており、『サルゲッチュ』の系譜はしっかりと受け継がれています。

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 また、ステージやアクション部分に関しては、『サルゲッチュ』シリーズの制作に関わった経験のあるゲームデザイナーを中心に、ピポサルとの鬼ごっこの挙動や捕まえるときの気持ちよさ、ゲッチュ演出など各担当者が独自で過去作を研究しつつ、何度もレビューと改善をくり返していまの形に仕上がりました。

 本作に
『サルゲッチュ』の要素が盛り込まれたことは、私自身もファンとしてとても喜ばしいことでしたが、何より20年来のシリーズファンのユーザーの皆さまにこのような形で『サルゲッチュ』のエッセンスをお届けすることができたことが、最高にうれしく思います!

――完成度が高い理由がわかりました(笑)。アストロのコスチュームやデュアルスピーダーのカラーバリエーションを制作するうえで、とくに意識したところ、苦労したところもお聞きしたいです。

中井
 アストロくんが着るさまざまなコスチュームは、当初は何かしらの普遍的なアタッチメントをつける、たとえば帽子やヘッドフォンなどのアイデアからスタートしていて、ほかのキャラクターのコスチュームを着ることについては消極的な意見が多かったです。

 その理由としては「そのキャラクターの能力を手に入れたように勘違してしまうユーザーさんがいるかも?」や「アストロくん自体のアイデンティティーが弱くなってしまうのでは?」というものでした。

 また、現実的なところで実装には工数もかかります。アストロくんの頭に何かをつけるだけと、服を着せてすべてのアニメーションで破綻しないように実装するのでは、コストが天と地ほど違いますから。ただ、制作の後半にさまざまなスペシャルボットのモデルが完成したのを目の当たりにすると、「アストロくんに着せてみたい欲」がチーム内でちらほら出てきてしまいました(笑)。

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――いろいろなゲームのキャラクターになりきることができて楽しかったです(笑)。
中井
 デュアルスピーダーに関しては、すでにご存知の通り、DualSense ワイヤレスコントローラーをモチーフにしています。DualSenseのデザインはとても未来的で、アストロくんとも親和性があるなと発表当初から思っていたので、『アストロボット』にもピタッとはまりました。タッチパッド部分に目をつけたのもTeam ASOBI伝統の“アソビ心”です。

 カラーバリエーションもプレイステーションのコントローラーの歴史を鑑みると外せないポイントですよね。PS2時代にさまざまなカラーの“DUALSHOCK 2”をみてワクワクしたことを、私自身もいちファンとしてよく覚えています。ああいうワクワク感を感じていただければいいな、と思いゲームに盛り込みました。

【ネタバレ注意!】感動的なラストパートとエンディングの演出で巻き起こった議論


―― “デジャブ次元”でくり広げられる、ラストバトルやエンディングについてもお聞かせください。“出撃!PSオールスターズ!”は、『サンダーフォースV』の楽曲『Rise Blue Lightning』が使用されていて驚きました。このコラボが実現した経緯は?

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ニコラ
 シューティングステージには、1990年代のテクノソフトのシューティングゲームのBGMがピッタリ合うだろうなと考えて、プロトタイプの段階から仮楽曲として『Rise Blue Lightning』を入れていました。コンポーザーには、この仮楽曲からイメージを膨らませてオリジナルのBGMを作曲してもらおうと考えたのですが、『Rise Blue Lightning』が特別なので、たとえがんばっても同じように作れないと悩んでしまって……。

 そんなときに、セガさんとスペシャルボットについてお話する機会があり、
『Rise Blue Lightning』のBGMを使わせてもらえないかと相談してところ、すぐに快諾していただきました。ファンのコメントの中には、『サンダーフォースV』はセガサターンのほうが有名じゃないかという意見もありますが、私はプレイステーションで『サンダーフォースV』をプレイしました。ですから、プレイステーションの歴史にあってもおかしくないと思いますし、『Rise Blue Lightning』を使用できてよかったと思います。

――“出撃!PSオールスターズ!”は、プレイステーション5の発進ムービーから始まる一連の流れも感動的でした。どのように制作していったのですか?

 ラストパートの構成は、PS5発進ムービー、シューティングステージ、ラスボス戦、アストロ爆発ムービー、アストロ修理パート、インタラクティブクレジットの6パートから作られています。プロットで大まかな流れはだけは決まっていたものの、実際にこれらのパートは作られた順番や時期はバラバラで、最初に作られたのはラスボス戦でした。ゲームプレイから作っていくのはTeam ASOBIの基本なんです。

――確かに意外な感じがしますが、Team ASOBIらしいやりかたなんですね。

 この中で私が関わったパートは、シューティングステージ、ラスボス戦、アストロ修理パートでしたが、ラスボス戦の制作は思いのほかうまくいきました。最初にフローチャートに沿ってプログラマーがプロトタイプを制作し、そこから本番用のアートモデルとアニメーションに差し換えて、一気に今の完成系に近い状態まで組み上がりました。

 ボスの表情などは中井さんのイメージコンセプトをもとにアニメーションを作りましたが、そこに戦闘中の細かな演技演出が加わり、この段階ではっきりとしたボスの個性が生まれました。いま思うと
『ASTRO BOT: RESCUE MISSION』のときと同じキャラクターとは思えないほど、キャラ変わりしちゃってますよね。ラスボス戦はチームレビューでも好評で、これがエンディング制作の足掛かりとなりました。

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 その後、シューティングステージ、ムービー、アストロ修理のプロトタイプが作られていきましたが、この時点ではまだ単品の素材としてでき上がっただけで、まだ通しで見ることはできませんでした。2本のムービーはストーリーボードをもとに各担当のアニメーターがそれぞれ作成したのですが、PS5発進ムービー、アストロ爆発ムービーのどちらも、これ以上ないほどいいできだったので、チーム内でも「これは熱い展開!」、「すごいエンディングになりそう!」という期待が高まったのを覚えています。ただ、アストロ修理パートは紆余曲折があり、もっとも難しいパートでした。詳細は藤縄さんから(笑)。

藤縄
 アストロ修理パートは、ニコさんや矢徳さんと話して、最後にエモーショナルなシーンを入れたくて考えました。アストロくんを修理するというアイデア自体は昔から温めていて、本作とは関係なく制作したデモもありました。これまで何度かゲームに入れてみようとしたのですが、なかなかうまくフィットしなくて……。

 ただ、今回は母船のプレイステーション5を修理するというシーケンスがあったので、本作なら母船を修理する流れでアストロくんを修理するシーンを入れられると考えて、川さんたちといっしょにアストロ修理のプロトタイプを作ってみました。バラバラになったアストロくんの体や腕、頭といったパーツが宇宙空間から漂流してきて、それをキャッチして体にはめ込んで修理するというものでしたが、僕たちが予想だにしない議論が巻き起こりました。

ニコラ
 アストロくんの頭が取れてしまうと、残酷に見えてしまったんですよ。

中井 
『アストロボット』はファミリーゲームとして作っています。「頭が取れるのはないでしょう」という人たちと、「ここまでやるからこそ感動が生まれる」という人たちにわかれて、ものすごい議論がありましたね。

藤縄
 僕は、コンセプトアートを描いた中井さんがいちばん喜んでくれると考えたのですが、中井さんは反対派の筆頭でした(苦笑)。

ニコラ
 アストロくんを修理するというアイデアはいいですし、壊れたところも、うまく表現すればコミカルに見せられると考えました。大切なのは、コミカルさと残虐さのバランスです。それで体と頭がバラバラにならないようにして、左腕だけ取れるように調整してもらいました。

藤縄
 左腕がポロリと取れるシーンは、ギリギリ大丈夫かなと考えました。ボロボロになったアストロくんがポーズを決めようとして壊れる流れにすることで、コミカルな要素を入れつつ、修理して復活するという感動も、バランスよく入れられたと思います。

ニコラ
 そうですね。あと、最後にハートを入れるシーンは、アストロくんの持ちかたにこだわっています。赤ちゃんをだっこするようなイメージで作ってもらったので、より感動的なシーンになりました。

――たしかに、愛おしさを感じました。アストロ修理パートのほかに、たいへんだったパートはありましたか?

 シューティングステージも、じつは修理パートと同じくらい時間がかかりました。ほどよい難度のシューティングと、PSオールスターズの演出のバランスを両立させるのがとても難しかったですね。最終的にはPS5発進ムービーで高まったテンションを維持したまま、ラスボス戦に最高の形で橋渡ししてくれるステージに仕上がったと思います。

 その後、各パートにエフェクト、SEサウンド、
『Rise Blue Lightning』のBGMも追加され、完成版に近い状態を通しで見ることができたのは開発の後半の時期でした。ムービーの内容も結末も知っているのである程度完成の予想はできましたが、それでも改めて通しで見たときは本当に感動しました。『アストロボット』が高い評価をいただけたひとつの要因として、このエンディングの演出もあったのではないかなと思います。

――エンディング後のインタラクティブクレジットも、“遊び心”が満載で楽しかったです。このパートの制作秘話も教えてください。

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藤縄
 クレジットを遊びにするというのはチームの伝統で、たとえば前作の『ASTRO's PLAYROOM』でもスタッフの名前が壊せるようになっています。ただ前作と同じではつまらないということで、本作は“クレジットをひとつのジャンプアクションのステージにする”という新しいチャレンジをしたのですが、これがクレジットならではの制約もあってかなり苦労しました。

 スタッフの名前が書かれたメモリーカードが道になる、というのはひとつのステージの中で60人以上の名前をテンポよく見せるためのアイデアです。最初に作ったプロトタイプステージは「おもしろい!」と好評でしたが、一方で「クレジットとして成立するのか?」という意見もたくさんありました。そのひとつが「肝心のスタッフ名が見えない」というものだったのですが、実は当初はメモリーカードのラベルに手書き文字のみ、というデザインで、3Dの名前表記はありませんでした。

 どうにか名前を目立たせるために“メモリーカードを踏んだ時に名前がボクセルで飛び出してくる”という仕様を後から追加したのですが、これによって見やすさの問題を解決するとともに、文字が上にスクロールしていくことで“クレジットらしさ”もプラスされたので、「これはいけそう!」と感じました。

 レベルデザイナーはジャンプアクションのテンポ感と名前の見やすさの両方を気にしないといけないので、配置の調整がとても難しかったと思いますが、おかげでユーザーとスタッフ両方によろこんでもらえるいいバランスに着地できたかなと思います。印象的だったのは、ニコさんからの「Team ASOBIのクレジットはユーザーのおもしろさのために作る」という明確なディレクションで、それはこのチームならではのユニークな考えかただと思います。

――発売後に続々と実装されているDLCの“ステラスピード宙域”(スピードラン)の反響はどうでしたか? 併せて工夫した点、苦労した点など、制作秘話をお聞きしたいです。

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矢徳
 スピードランは、制作中のときから開発チーム内でも人気のコンテンツで、リリース後もオンラインでランキングを確認すると、たくさんのユーザーさんに遊んでいただいていて、ランキング上位にはとても速いタイムもあり、開発チームのみんながビックリしています。

 今回は1週間でひとつずつのスピードランをリリースしました。ひとつひとつのスピードランを全世界のユーザーさんが集中して遊ぶことができますし、つぎのスピードランがリリースされるまでのワクワク感があり、いい工夫だったかなと思っています。

 また、スピードランというコアゲーマー向けになりがちなコンテンツを、どんなスキルレベルの人でも楽しく遊べるように調整することにはとても気を使いました。ふつうに遊んだときでも気持ちよさを感じられるようにすることはもちろん、クリアーに失敗したときも大声で「あー、惜しい! もう1回!」と楽しさが得られるようにしたつもりです。

 スピードランのレベルデザインは本編リリース日(2024年9月6日)の前からすでに制作が始まっていたのですが、BG(背景)やアニメーションなど、アートセクションも本編の制作が終わるやいなや休む暇なくスピードランの制作にシフトしました。

 本編の制作で皆すべて出し切っていたのですが、ちょうどそのくらいの時期に
『アストロボット』が発売され、世界中からプレイしてくれた人たちのポジティブな反響が聞こえてきました。力を使い果たしたその時期にそのような声をいただいたことで、がぜんやる気が出ましたね。

 「クリアーしたけどもっと
『アストロボット』をやりたい!」というありがたい声も多くいただきました。スピードランに関わったスタッフはみんな心の中で、「スピードランもいま作っているから、待っていて!」と思いながら作っていたはずです(笑)。こんなにも喜んでくれる人たちがいるんだから、「もうひとがんばりしよう!」という雰囲気になって、ラストスパートを乗り切ることができました。

――スピードランで好タイムを狙うためのアドバイスもお願いします!

矢徳
 まずはご自身で好タイムを出すために試行錯誤を楽しんでみてください。そこからは友だちや家族とタイムを競い合ったり、ストリーマーのプレイ動画でタイムが速い人たちのプレイを見たりして、いろんな人とコミュニケーションをとることが好タイムを狙うコツです。ぜひ楽しんでください!

――2024年12月13日に配信されたDLCの“わくわくスノータウン”の見どころを教えてください。

矢徳
 わくわくスノータウンは、たくさんのパワーアップを自由に使える遊び場のコンセプトで作られました。15個のプレゼントボックスを開けるという目的はあり、プレゼントボックスの中にはアストロくんやデュアルスピーダーの特別なスキンやスペシャルボットが待っていますので、きっとみなさんに驚いていただけると思います。そのほかにも、遊び場としてたくさんリアクションがあるものを用意しました。ステージをクリアーした後でもいろんな遊びかたをしてみてください!

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――最後に、ファンや読者に向けて、それぞれメッセージをお願いします。
矢徳
 僕は“The Game Awards 2024”に出席する機会をいただき、多くのゲームに触れて非常にワクワクしましたが、多くの視聴者やユーザーも同じような気持ちになったと思います。僕たちが手掛けた『アストロボット』も、多くの人をワクワクさせるタイトルに仲間入りできていたらうれしいなと思います。『アストロボット』をまだプレイしたことのない方は、この機会にぜひ遊んでみてください。

佐野
 私たちはゲームが大好きで、ゲームを遊んできた人たちはもちろん、新たにゲームを手に取る子どもたちに向けて『アストロボット』を作りましたが、多くの方に遊んでもらえるゲームができたと手応えを感じています。

 今後、新しいゲームがどんどん作られると思いますが、プレイステーションの30周年を記念した本作は、ゲームの歴史の中でもひとつの節目となるゲームになるのかなと思います。まだプレイしたことがない方は、この機会に遊んでもらえるとうれしいです。

藤縄 
『アストロボット』には、DualSense ワイヤレスコントローラーのハプティックフィードバックやアダプティブトリガーなどの機能を使った、ほかのゲームでは体験できない新しい遊びがつまっています。ゲームをあまりやらない友だちには、「最近のゲームはハイスペックになっているけど、グラフィックがきれいになっただけじゃん」と言われることが多いのですが、そう考えている人にこそ、ぜひ体験してもらいたいです。「最近のゲームはすごい」、「こういう進化をしたんだ」と感じてもらえるとうれしいです。

 本作は我々開発者にとっても本当にサプライズの連続でした。メタスコアで高得点をいただいたところから始まり、プレイしてくださったユーザーからの反響、そして“Game of the Year”受賞とリリースから時間が経ちましたが、ずっと目まぐるしい日々でした。

 とくにGOTYをきっかけに
『アストロボット』を知ってプレイした、というユーザーの方々のレビューに「プレイしてよかった!」、「アストロボット知らないと損!」というコメントも多く拝見しました。そういう声を聴くと、「私たちが作ってきたものは間違っていなかったんだ」、「ユーザーにちゃんと届いんだ!」と思えて涙が出るくらいうれしく思いました。今後もそう言っていただけるように、慢心することなく、楽しいゲームを作っていきますので、応援していただければ幸いです。

中井
 アストロくんというキャラクターを2Dで見たときと、実際にDualSense ワイヤレスコントローラーを使って操作したときの印象は、驚くほどを違います。プレイステーション5を購入すると、前作『ASTRO's PLAYROOM』を無料でプレイすることができるので、まずはこちらを遊んでみてください。そして「これはなかなかおもしろいぞ」と思っていただけたたら、ぜひ『アストロボット』をプレイしてください。前作よりさらにパワーアップしていて、遊び心地もよくなっているのでオススメです。

ニコラ 
『アストロボット』は、プレイステーション5やDualSense ワイヤレスコントローラーの機能を駆使した新しい操作と、クラシカルなジャンプアクションの操作のどちらも楽しめます。大人から子ども、ゲームファンから初心者まで、誰でも遊べるゲームになっていますので、ぜひプレイしてください。

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