アカデミー賞といえば、華々しいレッドカーペットファッションに受賞者スピーチ、司会者のジョークがその名物に挙げられる。しかしもうひとつ、ハリウッドスターたちが楽しみにしているのが、『ヴァニティ・フェア』主催のアフターパーティーで振る舞われる「In-N-Out Burger」のハンバーガーだ。
「In-N-Out Burger(イン・アンド・アウト、イナナウトとも)」は1948年に創業したカリフォルニアの人気ファストフード・チェーンで、同アフターパーティーは30年以上にわたりここのメニューを提供してきた。もともとはパーティーで働く警察官や消防士、クルーのためにフードトラックを出したのが始まりだが、今となってはオスカー像と同じくらい(?)欲しがられるようになり、長年親しまれる伝統となっている。
最優秀作品賞を受賞した『ANORA アノーラ』でブレイクを果たしたロシア人俳優、マーク・アイデルシュテインは、今年初めてこのハンバーガーを口にした。彼は口いっぱいに頬張りながら、「すごく美味しい」と一言。「それに意外ですね!」と興奮気味にコメントした。
この名物に舌鼓を打ったスターは彼だけではない。最優秀主演男優賞を受賞したエイドリアン・ブロディは、会場に到着してまもなく母親のシルヴィア・プラチー、父親のエリオット、そしてガールフレンドでマルケッサ(MARCHESA)のデザイナーであるジョージナ・チャップマンと一緒にこのハンバーガーを堪能している。助演女優賞を受賞したゾーイ・サルダナに至っては、ハンバーガーを片手に、もう片方の手にはオスカーを持って会場を歩きまわっていた。ちなみに昨年は、巨匠スティーブン・スピルバーグ監督がハンバーガーを頬張る前にスマホで写真を撮る姿が大きな話題を呼んだ。
「In-N-Out Burger」がオスカー名物になるまで
「In-N-Out Burger」がここまで愛されるようになった理由とは何なのだろうか? 『エミリア・ペレス』の主役の一人、エドガー・ラミレスは、「アワードシーズンには多くのエネルギーを注ぎ込むので、その締めくくりに美味しいハンバーガーを食べるのが最高なんですよ。ほっとしますからね」と話す。「クールなパーティーでハンバーガーを食べるのがルールとなり、エチケットになっているのは面白いですよね。これからも招待されるたびに、ハンバーガーを食べたいと思います」
「In-N-Out Burger」が『ヴァニティ・フェア』のアフターパーティーに初めて登場したのは1994年のこと。ウェスト・ハリウッドのモートンズ・ステーキハウスで開催されていたとき、フードトラックが舞台裏のスタッフに食事を提供するために停車すると、ダイアン・フォン・ファステンバーグ、ナンシー・レーガン、リー・ラジヴィル、ジーン・ハックマン、ドナルド・サザーランド、バリー・ディラーなど、100人規模のディナーに出席していたスターたちがその存在に気づき、羨ましがったという。
『ヴァニティ・フェア』誌のスペシャルプロジェクト・ディレクターで、過去30年間に渡りアフターパーティーの企画を担当してきたサラ・マークスは、当時をこう回想する。「ゲストたちが自分たちも食べていいかと尋ねてきたので、パーティー会場に持ち込むことにしました。あのとき、今日のような形になるとは思いもよりませんでしたね」
アワードシーズンの締めくくりにふさわしい特別な味
ハンバーガーはすぐに好評となり、31年経った今ではすっかり定番となっている。先日のパーティーでは、シンプルな「ハンバーガー」に「チーズバーガー」、「ダブルダブル」、「ダブルミート」、「グリルドチーズ」など、なんと1,707個ものハンバーガーがスターたちに振る舞われた(一番人気はチーズバーガーで、その場で作りたてを提供しているそう)。
HBOドラマ「The Last of Us(原題)」のシーズン2に出演が決まっている俳優のケイトリン・デヴァーはこれまでに何度かパーティーに出席しているが、いつも最初にハンバーガーを食べるようにしているという。「アフターパーティーに行くときは、その前に何も食べないようにしちゃうんです。ハンバーガーが最高だから」と彼女は冗談めかす。「『In-N-Out Burger』はほかの州にも進出しているけど、やっぱりLAを象徴するもの。だからアカデミー賞の夜にハリウッドと映画製作を祝うのに、クラシックなハンバーガーを食べるのはぴったりだと思うんです」
俳優でコメディアンのオリヴィア・マンもまた、ハンバーガーを楽しみにしているひとり。「みんな誰かがハンバーガーを持って歩き始める瞬間を待っているんですよね。『ハンバーガーはどこにあるの?』って騒ぎ始めるんです。すごくエキサイティングな瞬間」。こう笑って話す彼女には、来年に向けてあるひとつのリクエストがあるという。「ミルクシェイクがなきゃダメ。みんな飲みたがってますよ。これが私からの特別なリクエスト。ミルクシェイクがあれば、パーティーはもっと盛り上がるから」
Text: Paul Chi Adaptation: Motoko Fujita
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