ウェンディーズが最初に日本に来たのが1980年のこと。米国発のハンバーガーチェーンを、ダイエー創業者の故・中内正氏が米国視察の際に目をつけ、日本国内のフランチャイズ契約を結んだ。その後、ダイエーの経営悪化から、運営会社が2002年にゼンショーへと売却された。

 だが、牛丼店「すきや」が絶好調のゼンショーでも、ウェンディーズは成功せず、契約の更新を断念した。そして2009年末、ウェンディーズは日本市場から撤退。最終日には、熱心なファンが多く店舗につめかけ、行列ができた。

 あれから2年、ウェンディーズが再上陸。12月27日、東京の表参道に復活1号店がオープンする。

 再上陸を実現したのは、ウェンディーズ・ジャパン合同会社のCEO(最高経営責任者)のアーネスト・M・比嘉社長だ。ハワイ生まれの日系3世。自身が会長を務めるヒガ・インダストリーズを長らく率いてきた。あまり社名は知られていないが、日本の外食業界では、その名が轟いている。国内の宅配ピザの草分けである「ドミノ・ピザ」。その国内フランチャイジーの代表を長く務めたのが比嘉社長だった。

 1300億円といわれる市場規模にまで拡大した宅配ピザ。米国生まれの食文化を日本に根付かせた功績があり、米ウェンディーズの運営会社であるウェンディーズ・アービーズ・インターナショナルはその手腕を高く評価している。

 だが、一度撤退したというマイナスイメージは拭いきれない。マクドナルドなど、ライバルには強敵がそろっている。

―― 日本で失墜したブランドをどう再構築し、ビジネスに結び付けていくのでしょうか。

ウェンディーズ・ジャパン合同会社CEO、ヒガ・インダストリーズ会長
アーネスト・M・比嘉

1952年、米ハワイ生まれの日系3世、59歳。米ペンシルベニア大学ウォートン校卒業。76年米コロンビア大学経営大学院にて経営学修士号を取得後、ワイ・ヒガコーポレーション(当時)に入社。79年社長に就任。木材や医療機器を輸入販売する。85年、米「ドミノ・ピザ」とライセンス契約を結んで日本での独占営業権を得る。94年にヒガ・インダストリーズに社名を変更。2010年、ドミノ・ピザを売却し、輸入食材事業に注力する。2011年3月、米ウェンディーズの運営会社であるウェンディーズ・アービーズ・インターナショナルと資本提携を結び、合弁会社ウェンディーズ・ジャパン合同会社を設立し、CEOに就任。(写真:村田和聡)

比嘉:ウェンディーズが日本から撤退したのは2年前です。当時、国内の店舗数は71。現在、ウェンディーズは世界で6500店を超えています。グループ全体を見れば、世界で1万店を超す店舗を運営し、売上高は1兆円を超します。米国のファストフード市場で3位につける大手ですし、彼らは日本の市場でもっと成長できると期待していたはずです。

 だが、うまくいかなかった。ゼンショーに対して、もっとこの事業に注力してほしいと考えていたと思います。でも、ゼンショーには、ハンバーガーよりも経営資源を集中すべき対象があった。だからウェンディーズとの契約を更新しなかったんでしょう。この判断は賢明だと思います。私が当時のゼンショーのトップだとしても、同じ決断を下したでしょう。

―― マクドナルドなど日本市場で成功している米外食チェーンもあります。

比嘉:マクドナルドは日本で3000を超える店舗を有しています。「ケンタッキー・フライド・チキン」も1100店を超えている。それだけに、米ウェンディーズは日本市場でどうしても成功したかった。少子化や経済の失速が懸念される日本ですが、米ウェンディーズは日本市場をあきらめていません。年間24兆円と言われる日本の外食産業に、改めて挑戦する決意を新たにしました。ただ、攻め方が従来と一緒であれば、結果も同じようになってしまいます。そのために、新たな運営を考えています。

―― なぜウェンディーズなど、多くの米外食チェーンは日本で失敗するのでしょうか。

比嘉:マジョリティーを米国の企業が持っているからです。米国の典型的なFC(フランチャイズチェーン)は、同一のメニュー構成や運営方法を徹底的に貫く。よその地域や国であっても、米国で開発されたメニューを押し通そうとする。それでは、「世界一うるさい」と言われる日本の顧客に受け入れられる訳がありません。

「ドミノ・ピザ」の実績を評価

 ダイエーやゼンショーが日本のウェンディーズを運営していましたが、FCのライセンス契約をしていたので、合資ではありません。

 そこで当社は、2011年3月に、米ウェンディーズと資本業務提携を結ぶことにしました。米ウェンディーズとしては世界で初めて、合資会社という形態を取ることになったのです。それは彼らにも「変革しなければいけない」という危機意識があるからです。

 これまではどちらかと言えば、「米国流を世界中に広める」という考えでした。それを、「Think Globally,Act Locally(情報や思索は世界的に、行動は足元から)」という考えに変えつつあるのです。

 米国では成功するのに、海外ではうまく市場に浸透しない。この課題を解決すべく、白羽の矢が立ったのが当社です。1985年から2010年まで、ドミノ・ピザを日本で運営してきた実績があります。米国流の宅配ピザという文化を、日本に植え付けた自負があります。宅配ピザという文化そのものがなかったわけですから、それを根付かせるには苦労しました。ですが、今やその市場規模は1300億円にも上ると言われます。

―― なぜ、そこまで成長させることができたのでしょうか。

比嘉:それは、ただ米国側の指示に従うだけでなく、日本の文化に合った独自の運営スタイルを構築したからだと考えます。その1つが、独自メニューの開発ですね。

ピザの種類はハワイの3倍

 私はかつて、米ハワイのドミノ・ピザも運営していました。ハワイでは、ピザの種類は12種類程度しかありません。飲み物もコーラなど数種類しか用意していない。それでも繁盛する。おそらく、それが米国流なのです。

 だが、「世界で一番うるさい」と言われる日本のお客さんは、それでは許してくれません。私が運営していたころは、ピザだけで35種類は用意していましたし、季節ごとの限定メニューもたくさん打ち出しました。飽きやすい日本人には、サラダなどのサイドメニューや飲み物も多く揃えなければ支持してもらえません。

 自動販売機を見ても国民性の違いは明らかです。米国のコカ・コ-ラの自販機では、コーラやスプライトがほとんど。ダイエットコークなどの派生品はありますが、メーンはコーラです。ところが、日本コカ・コーラの自動販売機には、コカ・コーラ以外にもお茶や缶コーヒーなど、様々な商品が並んでいる。季節によって、商品が目まぐるしく変わるんです。

―― 日本人に向けて多くの種類を用意したわけですね。

比嘉:メニューだけではありません。求めるサービスも異なります。米国では、平たく言えば「ボリューム重視」です。飲み物や食べ物のサイズを大きくすれば、支持されやすい。

 ところが、日本ではサイズを多くするだけではダメ。味はもちろんのこと、宅配員の接客態度やマナーなども厳しく見られます。その違いというものを、なかなか米国人には理解してもらえないんです。

マジョリティーは日本にこだわる

 今回、合資会社を設立するに当たり、資本構成は当社が51%で、米ウェンディーズが49%となっています。当社がマジョリティーを持つことにこだわりました。先方は50%の出資を求めましたが、半年近くかけてじっくりと話し、なぜ当社がマジョリティーを持たなければいけないかを説明して、理解してもらいました。

 米ウェンディーズにとって、海外事業で合資会社を設立するのは初めてのことなのに、それに加えてマジョリティーを日本企業に持っていかれる。かなり不安だったと思います。

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