「発想、デザイン、設計、全てをゼロから作り直した。電子書籍リーダーの存在を忘れるくらい、本の世界に没頭できる。それが新たに登場する『Kindle Oasis(キンドル・オアシス)』です」。アマゾン ジャパンのバイスプレジデントでKindle事業本部長を務める玉木一郎氏は、こう胸を張る。
4月13日午後10時(日本時間)、米アマゾン・ドット・コムは新型のキンドル・オアシスを発表し、世界同時で予約販売を開始した。シリーズで初めて、充電機能付きのカバーとセットで販売され、本体は歴代キンドルで最も薄く、軽量となった。電子ペーパーを照らすライトを増やし、歴代で最も明るい画面を実現すると同時に、連続稼働時間も最も長くした。4月27日から順次、発送する。
本体重量は131グラムで、最薄部は3.4ミリ。現行キンドルと同じ6インチの電子ペーパーを採用しながら、きょう体のサイズは小型化した。シリーズの最上位に位置づけ、価格も3万5980円(税込み、広告表示付きのWi-Fiモデル)からと最も高い。
新設の「物理ボタン」が大きな魅力に
最大の特徴は、本体のデザイン。「人間工学をベースとしたエルゴノミックデザイン」(玉木氏)とし、持ち手部分にバッテリーや駆動回路などを集めることで、片手での持ちやすさと、全体の3分の2にあたる画面部分の薄さを両立させた。逆側の手に持ち替えれば画面も自動で反転する一方、寝転がった時などに画面が勝手に反転することはない。
標準装備となるカバーも特徴的。磁石で簡単に着脱できるカバーに充電機能を持たせることで、カバーに収めるたびに本体へ充電される。これにより合計の駆動時間を現行モデルの「6週間」から1.5倍となる「9週間」に伸ばした。本体のみの駆動時間は「2週間」としている。
筆者は、217グラムの「Kindle Paperwhite(ペーパーホワイト)」を日常的に使用している。カバー付きのオアシスの重さは238グラムだが、それとほぼ変わらない印象。一方、カバーを外した場合はペーパーホワイトから86グラム軽くなるが、数字以上に「軽さ」を感じた。
それ以上に大きな魅力と映ったのが、ページを先にめくったり戻したりするための、現行キンドルにはない2つの物理ボタンだ。
オアシスでは、ゴム製の物理ボタンを持ち手部分の上下に2つ配置。握った時、親指が当たる場所にページをめくるボタンがあり、楽に本を読み進めることができる。親指の関節部分に力を入れれば下のボタンも押せる。指をずらすことなくページを戻すことができた。
ペーパーホワイトでは、画面をタッチ、あるいはスワイプすることでページめくりの操作をする。片手では操作しずらく、特にマンガを読む時は頻繁となり、面倒に感じることが多かった。そのストレスから解放される、というのが印象的だった。
「物理ボタンを付けるというのは、ベゼル(枠)の部分に穴を開けることで全体の剛性が落ちるため、実はそんなに簡単なことではない」と語る玉木氏。それを今回、実現できた秘訣を、こう説明する。
「航空防衛産業などで使われている合金のプレーティング技術をコンシューマー製品で初めて採用した。化学強化ガラスの剛性も従来で最も強い。そうした新技術の積み重ねで、薄さと強さを両立しながら、かつ物理ボタンを配置することが可能となった」
なお、物理ボタンの使用用途は、ページをめくる、戻すという2つの操作のみ。「いろいろな操作を割り当てるのではなく、ページ操作以外は何もできない方が、本を読むことに集中できる」(玉木氏)。
タイトルも充実、ネックは価格
アマゾンが日本で電子書籍事業を開始し、同時にキンドルの販売を開始した2012年秋、「キンドルストア」の日本語タイトル数は約5万冊だった。それから3年半。タイトル数は8倍以上の約43万冊まで増えた。ストアが充実する中、読書経験をさらに快適なものとしてくれそうな新型のキンドルは「買い」に思える。ただし、価格を除けば。
オアシスの価格は、「PlayStation 4(アマゾン価格で3万5956円)」に匹敵する。いくら魅力的でも、やはり、簡単に購入ボタンを押すわけにはいかず、躊躇してしまう。
この点について、玉木氏は「アマゾンでは、常に様々な選択肢を用意することを大事にしている。オアシスには設計開発費を含め膨大な開発コストがかかっており、むしろお買い得ではないかと思うが、(廉価版の)8980円のキンドルもご用意している」とする。
ボタンを押すまでは、もう少し悩む必要がありそうだが、結局、買ってしまう気もする。果たして、消費者の反応やいかに。
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