水曜日のカンパネラの「鹿の解体」はショー足り得るのか?【鹿の解体×音楽イベント1万字ルポ】
―[鹿の解体×音楽イベント1万字ルポ]―
「水曜日のカンパネラ」という音楽ユニットが11月4日、渋谷のライブハウス「WWW」で主催した音楽イベントで「鹿の解体」を行った。
都会に生活していると、まず見ることのない「鹿の解体」という作業。普段、肉を口にしてはいるが、その肉がどのようにして処理され、食卓に並ぶのかということを実感する機会は少ない。ましてや鹿となると、そもそも口にする機会も少ない。
今回のイベントを企画したコムアイ氏は21歳の女性。高校時代に農業への興味から就農体験をしたときに、養鶏所や養豚所の世話もすることに。自ら世話をした豚を食肉処理場へ送り出す経験をしてから「動物を殺し、肉にする」という行為の意味への関心が向いた。「解体ワークショップ」というイベントにも参加して実際に鹿などを解体する作業を経験。「都会で生活している人、普段から狩猟や解体などの行為への意識が高い人ではなく、ごく普通に音楽を聴きにくるような人たちに解体を見せて、その意味を感じてほしい」とこのイベントを発案した。(参考記事→https://nikkan-spa.jp/528277)
だが、「解体ワークショップ」であれば、参加者も実際に解体に参加し、その肉を食べることもできるらしいが、今回は「ショー」という形式になる。衛生面への配慮などから、その場で解体した肉を観客にふるまえない、という判断からだが、そうなると本人の意志は強くとも、「娯楽として解体を見せている」という批判が出ることは避けられない。では、「マグロの解体ショー」はいいのか、とも悩んでしまうし、そもそもが動物愛護の考えを持っている人たちからすればどちらも許しがたい行為に思われてしまうのかもしれない。
イベントの2週間ほど前、コムアイ氏に「動物愛護の考えを持っている人からはバッシングを受けるのでは?」と聞くと、次のような答えが返ってきた。
「一切、動物の肉を食べずに、動物実験をしている化粧品やシャンプーなども使わないで、山奥で木の実だけ拾って暮らしているような人ならば、『その通りだな』とお話を聞きたいです。でも、都会で暮らしている人には言われたくない。都会に生活している以上、食べること以外にも動物の犠牲の上で生活しているから。森や林を切り開いたり、電気だって発電所のためにダムをつくったりして、動物の居場所を奪っているんですから」
続けて、なぜ自分が獣の解体をするのかについて語り出した。
「実感したいんですよ。命が亡くなるというのは衝撃的なこと。『生きている動物が死ぬ』ということと、『その肉を食べる』という行為が普通に生活していると結びつかない。実感できない。自分でその『痛みみたいなもの』も感じたほうが……だから、苦しみに解体の現場に来ているのかもしれないですね。かわいそうと思うのはこっちも苦しいし、血を見たくてやっているわけではない。獣が殺される現場を見るときは、みんな静かになるんですよ。ズーンと来る。一方、それと同時に、解体を通じて新鮮なおいしい獣の肉をその場で食べるという醍醐味もある」
現在、野生の鹿は増えすぎて「駆除」の対象になっている。朝日新聞の記事を引用すると「野生のニホンジカは独自集計している北海道を除き、11年度に261万頭。1989年の29万6千頭から、20年余りで約9倍に増えた計算だ」とのことで、農作物に甚大な被害を及ぼしているのだ。鹿によるものだけでも11年度で83億円の被害金額に上るとのことで、被害に悩む国や自治体は鹿の駆除と、食用利用を推進している。これは歴然とした事実だ。
山をネットで囲み、日々、鹿や猪などからの農作物被害と闘っている農家の方々の苦労にも思いを馳せつつ、一方で、「人間の都合で勝手に害獣扱いして殺してしまうなんてかわいそうじゃないか」とも思う。でも、狩猟というのは太古から行われてきた人間の営為なわけで……と、おそらくこのテーマと現場などで向き合っている人からすれば、極めて初歩的な段階でぐるぐると思考が堂々巡りをはじめてしまう。
今回のイベントでは「決してグロテスクなものを見せたいわけじゃない」と何度も語るコムアイ氏の意志は固い。ならば、そのすべてを見届けようと、イベント当日の一日に密着することにした。 <取材・文/織田曜一郎(本誌) 撮影/難波雄史>
※【ルポ2】「渋谷スペイン坂の通行人を驚かした鹿」(https://nikkan-spa.jp/535271)からは鹿の死体の写真を掲載します。ご了承の上、お進みください。
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