この記事は、去年の12月に、
産科医漫画のコウノドリが面白かったので、今度ブログでレビューを書きます。
— 斗比主閲子 (@topisyu) 2014, 12月 19
書く書くと言っていたコウノドリ(最新は11巻)に関するレビューです。
はじめに言っておくと、今正に妊婦である人、妊婦が近くにいる人で、この漫画を読める人が羨ましいです。妊娠期に生まれがちな雑念をかなりの部分クリアーにできますから。
きっかけ
元々コウノドリを知ったのはこのtweetでした。
産まれた赤ちゃん見に行く時は気をつけよう… #Dモーニング pic.twitter.com/PPGUXrWcUh
— yugo@エリテマトーデス発症中 (@futsaru) 2014, 11月 6
出産後の疲れ果てた嫁のところに姑と舅が訪問してきてやらかす構図です。これだけでハートをがっちり掴まれました。心温まるシーンに思わずほっこりです。
それで、出典元を探ってみると、モーニングで鈴ノ木ユウさんが連載中のコウノドリという漫画であることが分かりました。該当のシーンは巻数としては8巻に収録されています。
リアル・バランス・網羅性
このように最初は下衆なつもりで読み始めたコウノドリでしたが、読んでみて、これは素晴らしいと膝を正しました。
まず、描写がリアルです。
自分は産婦人科医ではありませんが、子どもが複数人いますから、患者視点の平均的なレベルでそれなりのことは分かっています。その経験からすると、「ああ、あるある!」がいっぱいでした。
次に、とてもバランスが取れているところ。
医療系でも何でも、ある種の専門職の仕事を漫画にするのはよく見かけるものです。ただ、そういうものは、大抵、その専門職の人が大活躍するのが普通です。客やサポートメンバーはあくまで脇役。
コウノドリは、病院の産婦人科医である鴻鳥(こうのとり)サクラが主役であるものの、彼がヒーローとして大立ち回りをするというのではなく、患者視点は生々しく描かれ、助産師にもスポットがあたり、産婦人科と連携する小児科医もその重要性がしっかり伝わってくるように作られています。ちゃんとみんな人間として描かれている。
こういったところが、現役の医師にも評価が高いようです。
産科医療漫画の「コウノドリ」がなぜ現役産婦人科医にも絶賛されるかというと、テレビなどにありがちな「最初からストーリーが決まっている、お産といえばこう」じゃなく、そこにある現実を映しだしてくれているからなんですよ。しかも医者、助産師、患者、それぞれの視点がバランスよく描写されてるし
— タビトラ (@tabitora1013) 2014, 10月 4
※タビトラさんは現役の産婦人科医です。
主人公は、産婦人科医の鴻鳥(こうのとり)先生。現在の産科医療のリアルな描写が盛りだくさんで、同じ医療現場(科は違います)にいる私にも納得の内容でした(多少漫画的に誇張はありますが、ほぼ真実です)。
1巻のなかで、『出産は結果。医師の判断が間違っていても母子ともに無事ならだれにも責められない、逆に医師の判断が間違っていなくても、母子のどちらかに問題が生じた場合、患者との信頼関係などすぐに崩れてしまう』という、鴻鳥先生の言葉は本当だと、普段仕事していて思います。
どんなに、こんな合併症は起こることもあるよとインフォームドコンセントしても、その時一番いいと思った処置をしていても、いったん予期せぬ合併症が起きれば、患者さんや家族から責められる。どんな名医が治療しても、予期せぬことが起こるのが「リアルな医療現場」であり、現実です。「無事に生まれてあたりまえ」なんて、医療の現場にいれば、それがいかに奇跡か。
医療系のフィクションで、このように医師側からも高い評価を得ているものはそれほど多くはないと思います。それこそブラックジャックのように、医師はあくまでヒーローで過剰演出されがち。(もしくは、極端に邪悪な存在に描かれる。)
鈴ノ木ユウさんにはお子さんがいて、その上でかなり取材をして作品作りをされているようで、それが反映されているのだと思います。
そして、最後に網羅性。これについて次の項で触れます。
大抵の妊娠絡みの医療系トラブルを網羅
これまでのところで取り上げられている内容は以下のとおりです。
- 1巻 受け入れ拒否 切迫早産 淋病
- 2巻 未成年妊娠 無脳症 被膜児 喫煙妊婦(前編)
- 3巻 喫煙妊婦(後編) 海外出産 自然出産と帝王切開 救急救命(前編)
- 4巻 救急救命(後編) 夫のDV 風疹
- 5巻 立ち会い出産 双子 卵子提供
- 6巻 子宮外妊娠 性感染症 口唇口蓋裂 乳児院
- 7巻 NICU
- 8巻 妊娠初期 マタニティブルー 出産から退院まで 研修医(前編)
- 9巻 研修医(後編) インフルエンザ 出産予定日
- 10巻 無痛分娩 長期入院〈前編〉
- 11巻 長期入院〈後編〉 フルコース 未熟児網膜症
項目をパッと見て、 妊娠中に気になる話題がかなり網羅されていると思いませんか?(妊娠初期とはつわりの話)
内容は先ほど紹介したようにリアルで、バランスが取れています。患者に瑕疵があっても過度に非難される内容にはなっていません。患者の悩みが解決されるべきという話で進むのではなく、悩んで当然という描かれ方をされている。数字の説明もちゃんとあります。読めば不安がかなり正確に把握できるようになっています。
また、基本的に一つの巻の中で一つのテーマにつき数話で終わるようになっています。キャラクターの人間関係に多少の変化はありますが、例えば、海外ドラマのERほど変わりませんので、どこの巻から読んでも特に支障はない作りになっています。
従って、妊娠中で、何か気になることがあるときに、自分が今気になっているところだけ、漫画を通してつまみ食いして疑似体験することができます。もちろん、本来は、かかりつけ医に聞けるなら聞くものだという前提で。ただ、何でもかんでも聞ける関係があるかどうかは別ですよね。不安だからといってすぐに会えるわけでもないですし。
個人的には、3巻の自然出産と帝王切開、4巻の風疹、6巻の口唇口蓋裂は幅広い方に読んでいただきたい内容です。
このブログの読者である、人間関係トラブルが好きな方には、1巻からは淋病、3巻からは海外出産、4巻からは夫のDV、6巻からは性感染症、8巻からはマタニティブルーをおすすめしておきます。海外出産は保険がないと違う意味で大惨事。
鴻鳥サクラのモデルとなった荻田和秀さん
作品の紹介としては以上ですが、調べていたら、
コウノドリ9巻|宋美玄オフィシャルブログ「~オンナの健康ラボ~」Powered by Ameba
いやー、読者のみなさまの支持を得て、連載がここまで続いていることに、感謝の気持ちでいっぱいです。
(って、私の上司がモデルなだけで、私は関係者じゃないんですが^^)
宋美玄さんの上司が主人公であるツンツン髪の毛の鴻鳥サクラのモデルということを知りました。
このモデルとなった産科医の先生については、自分が発言小町の次に読売新聞のメディアの中で楽しみにしているヨミドクターにてこんな風に紹介されています。
なぜ男性向けの雑誌で「お産」だったのか。きっかけは作者の鈴ノ木ユウさん(40)と、里帰り出産した妻を担当した産科医、荻田和秀さん(47)との出会いにあった。腕利きのジャズピアノ奏者でもある荻田さんのユニークな肩書に着想を得たのだという。
(中略)
11月の夜。ライブハウスで演奏する荻田さんの姿があった。アンコールで選んだのは、スティービー・ワンダーの名曲「可愛かわいいアイシャ」。娘の誕生を喜ぶ父親の心をつづった曲だ。
なんと、漫画そのままじゃないですか!
主人公が実は有名なジャズピアニストで、ジャズピアニストであることは周りには(ほとんど)バレていないという設定だけが自分からすると唯一リアルでないと思ったところなんですが、実在したんですね。。。事実は小説よりも奇なりです。
締め
ということで、コウノドリの紹介でした。
最初に書いたとおり、妊娠に絡んでいる時に読むのがお勧めですが、子どもがいる人からするとあるあるを共感できるでしょうし、出産に関わる機会が現状ない方でも人間ドラマとしてリアルに楽しめると思います。
今時の妊娠・出産事情を知らない舅・姑に読んでもらうのもアリですね!
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1巻の最初の四話まではWebで読めます。
最新は11巻です。
最初の頃感じていた絵柄への癖は最近はほとんど気にならなくなりました。キャラクターの顔つきが丸くなったように思います。