WEB本の雑誌>【本のはなし】作家の読書道>第54回:桜庭 一樹さん
過酷な現実と対峙する少女たちを描いた作品などで若い読者から絶大な支持を得、このたび満を持して一般向けの小説も書き始めた桜庭一樹さん。名前から男性と思う人もいるかもしれないが、実は色白のとても可愛らしい女性です。筋金入りの読書家である彼女は、字を読めないくらい幼い頃から、本が大好きだったよう。ミステリーから南米文学まで、その幅広い読書道を語っていただきました。
(プロフィール)
小説家。ライトノベル・ジュブナイル・一般文芸とフィールドの垣根を跳び越えて活躍中。ジャンルもSF、ミステリー、青春小説と多彩な作品を世に送り出し続けている。
――東京創元社のWebマガジン「Webミステリーズ!」で読書日記を連載されていますよね。ものすごい読書家ぶりにびっくりします。小さい頃から本が好きだったのですか
桜庭一樹(以下 桜庭) : まだ自分で本が読めない頃から、読み聞かせてもらった内容を覚えて、音読して得意になっていた、と親から聞いています(笑)。やっぱり本はすごく好きですね。小学生の頃は、毎週日曜日に祖父母の家に遊びに行っていたんですが、本を与えると喜ぶので、毎週一冊もらっていました。子供向けの世界名作全集が多かったですね。ホームズやルパン、『ああ無情』や『少女パレアナ』…。怖かったのは、『くるみ割り人形』。途中で本を投げ出して泣いていました。
――それはまたなぜ?
桜庭 : くるみ割り人形の顔が怖くて。ホラーが苦手なんですよ。大人になってからもそうで、小野不由美さんの悪霊シリーズなんかも大好きなんですが、読むと、寝る時も電気が消せなくなるんです。
――意外ですねえ。…で、小さい頃に、名作はほとんど触れたわけですね。
桜庭 : 最近、昔読んでいた本を読み返すのに凝っているんです。『レ・ミゼラブル』や『三銃士』など。それと大人向けのものを比べたり。ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』は子供向けだと、ミニヨンという10代の女の子のほうにスポットが当てられていて。『君よ知るや南の国』というタイトルでした。大人向けと読み比べると、どこにスポットを当てているのかよく分かる。子供にとって面白いところをピンポイントで抜き出しているんですよね。すごい編集技術だなと、大人になってから思いました。
――鳥取ご出身ですよね。文学少女だったんですか。
桜庭 : 本ばかり読んでいて、全然喋らない子供だったようです。小学校高学年になると図書室に通い出して、自分でいろいろ読むようになって。ただ、新しい本はあまりなかったので、世界名作全集やホームズなどの大人向けの本を読みました。『若草物語』は、子供向けのものだと湖に落ちた妹が死なないのに、大人向けのものでは死んでしまうのでショックを受けました。古いミステリーも、子供向けのものを読みましたね。覚えているのは とある有名なミステリー。これから読もうとしているときに、友達に「最終章のタイトルが"悲劇の少年"ってなってるから、目次を見ただけで犯人が少年だって分かるんだよね」と言われ、ケンカになったんです(笑)。最近の本では、最終章のタイトルは違うみたいですね。
――それを読んでいたということは、クリスティーなども?
桜庭 : :アガサ・クリスティーはなぜかその頃は読まなくて、大学に入ってから止まらなくなり、一日三冊ずつくらい読んでいました。『春にして君を離れ』など、ミステリーではなく女性の心理を書いたものも気に入っていましたね。
――ちなみに、作家になろうと思ったのは…。
桜庭 : 小学校4年か5年の時になりたい、と思っていろいろ書いてみたんですけれど、書けなくて。起承転結などが分からずに、ワンシーンだけ書いたり、アイデアをメモしたりしたノートがありました。親に隠そうと必死でしたね(笑)。部屋に納戸があって、そこの天井は外れることに気づいて、そこにそのノートや日記を隠していました。あれは今でも見つかっていないと思います。
――完全にインドア派だったんですか。
桜庭 : 親がテニスをやっていたので、私も習ってた時期があったんですけれど、それが嫌で嫌で。日に焼けたくないし、外が嫌で。とにかく家で読書しているのが好きでした。本ばっかりです。映画もあまり観ませんでした。東京に来てから観るようになりました。というのも、田舎にいると、ハリウッド映画と日本の大作の二本立てをやっているくらいなので。しかも漫画も、当時はそんなに読んでいませんでした。
――中学生になった頃の読書傾向は。
桜庭 : お小遣いも少ないですから、相変わらず本はあまり買わずに図書室で本を探していました。ヘルマン・ヘッセの『デミアン』や『知と愛』、サマセット・モームの『月と六ペンス』などにハマりました。青臭くて、ブラックなオチがあって、青春小説なのに暗い、でも潔癖なところがあるものが好きでした。
――海外の名作が多かったんですね。
桜庭 : 図書室に新しい本がないので、古い本を読んでいたんです。ただ、文庫やノベルスが結構あったので、それも読みましたね。フィリップ・K・ディックやレイ・ブラッドベリ、なぜか『帝都物語』や『幻魔大戦』があった気がする。
――放課後はずっと本を読んでいたんですか。
桜庭 : 当時、夕方再放送で『ルパン三世』や『宇宙戦艦ヤマト』をやっていたので、それを見たり、本を読んだり。夜は本を読んでいました。
――ご両親は何か言いませんでしたか。
桜庭 : 中学の途中くらいまで、うちの親は、本を読むのは勉強だって思い込んでいたので楽だったんです。漫画やバラエティー番組や深夜番組は駄目だけれど、本はいい、と。高校受験が近づいた頃になって、読書は娯楽だと気づいて(笑)、そこからうるさくなりました。なので、電気を消して寝ているふりをして読んでいました。
――高校生活はいかがでしたか。
桜庭 : 中学生の後半から高校生になるくらいの頃に、漫画を読むようになって。ちょっと昔のものにハマりました。大島弓子さん、清原なつのさん、内田善美さん、吉野朔実さん…。吉野さんの『少年は荒野をめざす』が気に入って、巻末に載っている、他の作家さんの作品の宣伝を見て好みにあいそうなものを読むようになって。通っていた高校が街中にあったので、帰りに古本屋さんにいって買っていました。
――度気に入ると、その作家のものを読み尽くすタイプ?
桜庭 : 気に入るとその作家さんのものを全部読みたくなって、過去の作品まで追いかけますね。デビュー作まで読んでしまってから、他の作家さんに移る、という感じでした。
――小説はどんなものを?
桜庭 : 神林長平先生、大原まり子先生、新井素子先生…。日本のSF作家の作品を読んでいました。
――エンタメ系にハマっていたんですね。
桜庭 : 文学だと海外の昔のものになります。中学校か高校でガルシア・マルケスの『百年の孤独』を読んですごいと思って、南米文学も読むようになりました。
――そんな若い時に。難解に思いませんでしたか。
桜庭 : 中高生の頃の集中力って、すごいものがあると思うんです。大人になってから読み返そうとしたら、読みづらくて。なんであの頃はすらすら読んだんだろう、と思いました。
――当時、読む本はどうやって選んでいたんですか。
桜庭 : 図書室か本屋に一人で行って見つけていました。現在もなんですが、本を読む友達がいなくて。別の趣味を持っている友達が多いんです。こういう仕事をするようになってから、編集者さんがすごく読んでいるので、「あの本が好きならこれも気に入るはず」と、すすめてもらえるようになって。あるいは「これは好みとは全然違うはず」なんて言われるとかえって気になるので、そういう作品も読むようにはなりました。
――好きなテイストってあるんでしょうか。
桜庭 : 少年少女が出てきて、恋愛がテーマではなくて(笑)、焦燥感があるものをよく読んでいました。読まないのが、ハーレクイン系、それとなぜかファンタジーは、ブームの時も読まずにいました。今も『ハリー・ポッター』と『指輪物語』とどっちが好き?なんて聞かれても、読んでいないので分からないんです。ですから、恋愛小説とファンタジーはあまり読んでいないんです。
――恋愛小説ですか。山田詠美さんとか…?
桜庭 : 『ベッドタイムアイズ』や『蝶々の纏足』、『ぼくは勉強ができない』などは読んで、とても好きでした。『ぼくは勉強ができない』の主人公って、イケメンなんですよね。もてない男子に「お前もてないだろう」と言うシーンで自分に言われたように涙が出た記憶が…。
――あ、桜庭さんって、イケメンが苦手なんですよね!
桜庭 : ある出版社の担当者がイケメンなんですが、信頼関係を築くのに3年くらいかかりました(笑)。
――それはそうと、ファンタジーを読まずにきた、というのは意外です。
桜庭 : ファンタジーや伝奇ものなどにはあまり反応しないんです。自分が書くのも、架空の世界よりは、実際のもの、現代の日本を多く書きますね。近未来の設定にするときも、実際にある町や会社に取材してそこから作っていきます。まったく架空、ということはないですね。さらに、主人公がイケメン、というものもないですね(笑)。
――では、渋いハードボイルドは苦手ですか。
桜庭 : 『夢果つる街』や『ブルー・ドレスの女』は好きですよ。主人公の、男性の探偵が格好いいわけでなく、くたびれた感じのものがいいですね。あとは桐野夏生さんの女探偵ミロのシリーズは読んでいました。ペリイ・メイスンのシリーズは親が読んでいたんですが、あれは格好いい弁護士と美女の話ですよね(笑)。あと、私、アルセーヌ・ルパンがお話は好きだけど異性としてはちょっと苦手なんですよ。読むたびに金髪、碧眼の美女と恋に落ちていて、たまに黒髪の人が出てくると、犯人で。自分が書くものの場合はたまにイケメンが出てくると、泥棒だったり宇宙人だったりするんですが(笑)。先日も、東京創元社の担当編集者の桂島さんと、イケメンを書けることは大事なんじゃないかって、深刻に話したところです(笑)。
――東京にきたのは、大学入学がきっかけですか。
桜庭 : そうです。その頃は、たしか東野圭吾先生を追いかけていたと思います。すごく好きだったのは『パラレル・ワールド・ラブストーリー』と『むかし僕が死んだ家』。それで、江戸川乱歩賞受賞作家を追いかけるようになって、桐野夏生さんや岡嶋二人さんを読むようになりました。桐野さんは『錆びる心』の表題作と、『ジオラマ』収録の「デッドガール」が、岡嶋さんは『そして扉が閉ざされた』が好きでした。東京だと、本屋が大きいですよね。紀伊國屋書店もビル全部が本屋で。なので、本屋で見つける本も変わりました。それまでは、南米文学も図書館に入っているくらいで本屋さんでは見つけられなかったのが、東京ではその棚にいくと新刊がある。そのあたりから、読むものが拡散していったように思います。好きだったのは、恩田陸さんの『六番目の小夜子』、梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』、鈴木光司さんの『楽園』、倉橋由美子さんの『聖少女』、酒見賢一さんの『後宮小説』、『聖母の部隊』など。
――南米のもので印象の残っているのは。
桜庭 : 『精霊たちの家』のイザベル・アジェンデが、娘が昏睡状態になったのを見ながら書いた日記のような小説のような本があって(『パウラ』)。それが好きでした。コロンブスが主人公の『楽園の犬』(アベル・ボッセ)も気に入りましたね。南米のものって、現実と夢がごっちゃになっている、独特のところがあって、そこが好きなんです。
――自分で本を買うようになって、部屋が本であふれてしまったのでは。
桜庭 : どんどん増えるので、本棚をスライド式のものにしたり、フローリングに本を積んだり…。今もどんどん増えています。ただ、すごく読むけれど、心に残っているのは思春期に読んだもののような気がします。吉野朔実先生が『お父さんは時代小説(チャンバラ)が大好き』というエッセイ漫画の中で、フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を読んで、あ、これは思春期に読んでおけばよかったと思った、と書いてあって共感しました。自分も、例えば今書いているものは、思春期の頃に読んだ本に影響を受けていると思うんですよね。
――作家になったのは…。
桜庭 : 99年にとある賞の佳作にひっかかって、1冊本が出たんですけれど、全然売れなかったんです。本当に、すごく売れなかったんです(笑)。03年の暮れに『GOSICK』という子供向けのミステリーのシリーズがヒットして、仕事も広がりました。
――ライトノベル的なものだと、どういうものを読まれてたのでしょう。
桜庭 : 小野不由美先生の悪霊シリーズや氷室冴子先生の少女小説は読んでいたんですが、その後ファンタジーブームとなり、それは読まないので離れていたんです。その後、裾野が広がって、青春ものやミステリー、SFなども出てきたので、また読むようになりました。
――どれくらいのペースで読まれているんでしょう。
桜庭 : 私は規則正しい生活をしていて。昼前に起きて夕方まで書いて、その後出かけて、帰ってきてから1、2冊読んで寝るんです。一定量書いて一定量読んで一日が終わる、という感じですね。
――新宿にお住まいになってからは長いのですか。
桜庭 : 3年くらいです。やっぱり専業なので、家から出なくなってしまう。都心にいればぷらっと出かけられるかなと思って。
――本屋さんがたくさんあって便利ですよね。
桜庭 : いつもの散歩コースというのがあって、紀伊國屋本店でぐるっと店内をまわって、たまに三越の中のジュンク堂に行き、時々紀伊國屋書店の新宿南店に行くんです。週二回は紀伊國屋の本店に行くので、知っている書店員さんにまた会ってしまう。またきたーと 思われているかも…(笑)。
――散歩コースの中に必ず書店が入っているんですね。そしてついつい、本を買ってしまったり?
桜庭 : 買ってますね。資料を探していることもありますけれど。多少重くても近いから大丈夫、って思ってしまう。
――作家になる前となった後では、読書スタイルは変わりましたか。
桜庭 : 前は娯楽で読んでいたけれど、今はどうしてこういう風に書いたのかな、と考えるようになりました。ここの一行は後から直して入れたのかな、とか。自分も後から入れたときは、そこだけ浮いていないか気になるので。当たっているか分からないけれど、いろいろ考えながら読んでいますね。
――そういう読み方をしている中で、すごいなと思った作品はありますか。
桜庭 : 構成が見事なものが好きなんです。サラ・ウォーターズの『半身』とか。マーク・マクシェーンの『雨の午後の降霊会』はミステリーの形をしているけれど、本来のミステリーなら終わらないところで終わっていて、それが格好いいと思いました。規定の形を分かっている上で崩すことなのかな、と思いました。
――読書日記を見ていても思うのですが、創元と早川の本が多いですよね。
桜庭 : 本屋の中でも散歩コースがあって、創元と早川の棚って近いので、まずそこに行ってチェックしますね。出版社によっていろいろなカラーがあると思うのですが、創元と早川はレーベル買いみたいな感じ。ちょっと昔のクラシカルなミステリーが好きなんです。
――クラシカルなものの中でお気に入りは。
桜庭 : とにかくジョン・ディクスン・カーが大好きなんです。『火刑法廷』や短編「めくら頭巾」が大好きです。J・M・スコットの『人魚とビスケット』、シャーロット・アームストロングの『毒薬の小壜』、シーリア・フレムリンの『泣き声は聞こえない』…。『泣き声〜』は絶版なんですが、近所の古本屋で見つけたんです。そこは100円のワゴンの中に、意外なものがあったりする。週に一度は立ち止まって見ていますね。ヘンリ・ジェームズの『ねじの回転』もそこで買った古本で読んだので、よけい怖かった。ジャック・フィニィの『ゲイルズバーグの春を愛す』もクラシカルで好きです。他にアイラ・レヴィンの『死の接吻』や、最近の作家ですがブリジット・オベールの『マーチ博士の四人の息子』や『鉄の薔薇』も好き。でも、オベールは、ミステリーだと思って買った四冊目(『ジャクソンヴィルの闇』)がゾンビもので、笑ってしまいました。SFでは、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの『たったひとつの冴えたやりかた』。女性なんですが、男性名で書いている人なんですよね。あとは架空歴史物のヴァージニア・ウルフの『オーランドー』もすごく好きです。
――ちなみに、桜庭さんの最新刊のタイトルは『少女には向かない職業』ですが、P・D・ジェイムズの『女には向かない職業』がお好きなのかな、と。
桜庭 : 女ハードボイルドものは好きですね。これは、ダメ男の所長のもとで働いて探偵をやっていたら、所長が自殺して「後は君に頼んだよ」って書置きがあっていきなり所長になるいう出だしですよね。
――よく覚えていますね。ところで、ミステリーやSFって、実はすごく広い世界ですよね。なにかしらのガイドはあったんでしょうか。
桜庭 : 本当に樹海のようになっているので、好きなものがどこにあるのか、なかなか分からないですよね。学生時代に早川書房の『ミステリ・ハンド・ブック』や『SFハンド・ブック』を読んで、代表といわれているものを読みましたね。ウィリアム・アイリッシュの『幻の女』やシオドア・スタージョンの『人間以上』などもそれで見つけたと思います。
――他に参考にするものは?
桜庭 : 本の帯は参考にします。フランスのカーと言われているポール・アルテも帯を見て買いましたね。あと書店員さんのポップや、新聞評の切り抜きなどがあると、まんまと買ってしまいますね(笑)。
――最近の作家さんや作品で気になったのは…。
桜庭 : 森谷明子さんの『七姫幻想』や西村賢太さんの『どうで死ぬ身の一踊り』とか、あと松尾スズキさんやラーメンズの脚本も好き(笑)。松尾スズキさんは舞台脚本『キレイ 神様と待ち合わせした女』、ラジオドラマ脚本「祈りきれない夜の歌」(『永遠の10分遅刻』収録)が好きです。あと『群像』に掲載された前田司郎さんの『恋愛の解体と北区の崩壊』がすごくヘンで、気に入ったんです。前田さんは劇団をやっている方なんですが、この作品は、ダメ男のモノローグが延々続く。宇宙人が地球を侵略しにきて危機的状況なのに、そのことはあまり気にせずに観念的に自分の人生についてずっと考えているんです。西村さんも『群像』だったんですよね。今年の非モテ界の2トップは『群像』なんだなあ、と思って(笑)。今年はこの2人がおすすめです。…って、みんなあまり興味持っていなさそう。今も失笑ぎみでしょうか。
――そんなことないですよ(笑)。イケメンは嫌いで、ダメ男はいいんですね。
桜庭 : ダメっぷりが客観的に冷徹に描かれていたりすると、いいな、うまいなって思うんです。車谷長吉さんの『赤目四十八瀧心中未遂』もすごく好きだった。
――町田康さんは。
桜庭 : 町田町蔵の頃の詩集『供花』と『壊色』がすごく好きなんですが、康になってからは読んでいないんです。読めば大好きなんだろうけれど、あまりにも昔の詩集が大好きすぎて……みなさんに熱く薦められるので今年こそ読んでみます。
――『少女には向かない職業』もそうですが、少女を描かれることが多いですよね。しかも、闘ったりする少女。好きな少女像というのはあるのですか。
桜庭 : 子供向けの本だと15歳前後の設定で、という要望があるので少女が多くなりますね。闘う意志をもつけれど、力は限られている少女、みたいなものが好き。ミステリーやSF、少女小説など、好きなものの要素を入れながら書いています。これまで読んできた少年が主人公の小説も、自分の中で少女に変換しているんですよね。
――男の人を書くことは…。
桜庭 : デビュー作は、20代後半の男の人が主人公だったんです。最近は大人向けのものを書いていて、『野性時代』に連載して、6月に本になる『少女七竃と七人の可愛そうな大人』は、主人公は高校生とその母親なんですが、毎回語り手が変わります。男の人だったり、年取った女の人だったり飼い犬だったり。今までにやっていないことに挑戦したんですが、書きながらつかめてきました。
――今後は大人向けのものも書かれるということで、その第一弾が、『少女には向かない職業』なんですよね。
桜庭 : そうです。
――今後も、好意的に書くのは、だめんずですか(笑)。
桜庭 : おそらく(笑)。イケメンが出てきても、泥棒とか。でも、『少女七竈と〜』では少女と対比する少年を出していて、それは美少年という設定なんです。
編集部 : と言っても、てっちゃんじゃないですか。
――てっちゃん?
桜庭 : 鉄道マニアなんです(笑)。ちょっと弱みがあると、人間、ラクになるなと思って。『GOSICK』でも、ヒロインのお兄さんは美青年なんですけれど、『レニングラード・カウボーイズ』や浅草のうんこビルをイメージした、グニグニしたヘンな髪型をしている人なんです。それだけで、受け入れやすくなるんです。
(2006年4月28日更新)
取材・文:瀧井朝世
WEB本の雑誌>【本のはなし】作家の読書道>第54回:桜庭 一樹さん