西成・あいりん地区も襲う「米価高騰」の現実(1)手や口を使って500円で

 大阪・西成で、生活困窮者たちに1杯のうどんを無料で提供する店がある。テレビのドキュメンタリーでも有名になった店主を訪ねた筆者は、足を踏み入れて初めて現場の実情を知った。生活に直結する食糧事情を中心に「あいりん地区の今」を詳細レポートする。

 取材で周辺にカメラを向けると、何を言っているのか聞き取れない暴言を吐きながら、おっちゃんが酒瓶を投げつけてきた。しかも付近を取材する筆者の姿を確認すると、必ず同じ行為に及んできた。

 昼間から路上での酒盛りはありふれた光景。そうした吞兵衛たちに声をかけられるのを待って、シワシワの老婆が三角公園の横でずっと座っている。

 西成を根城にしている、日雇い労働者が言う。

「おっさんらはいくばくかの金が入ったら、婆さんに声をかけるんや。話がまとまったら、公衆トイレで手や口でな‥‥。相場は500円ぐらいやろ。最後まででも、おっさんらのビニールハウスの中で1000円程度って聞いたで」

 他にも、炊き出しの順番待ちで争うおっちゃん、不法占拠のテントや小屋を強制撤去した際に設けられたバリケードに張りつき、一斗缶で暖をとりながら年季の入った毛布に身をくるんだ労働者たち‥‥。

 筆者は20年ぶりに西成に足を踏み入れたが、何年経っても変わらない、どこか日本ではないような錯覚に襲われた─。

 大阪市中心部であるなんばや堺市・大阪南部方面へとつながっているこの地、萩之茶屋(通称・釜ヶ崎、あいりん地区)はドヤ街(簡易宿所が軒を連ねる街)が所在することでも有名である。

 そこには、関西圏やそれ以外の地域の土工や解体業などの仕事の求人活動が行われる「あいりん労働福祉センター」があり、日雇いのハローワーク、売店や食堂、喫茶店などが完備されていた。

 ただし同福祉センターは19年に閉鎖されており、現在の求職者は行政とは別の手配師を頼って、朝6時から三角公園の脇に並ぶという。その場で労働者としてピックアップされるケースもあるようだが、元来は事前に登録フォームからの申し込みが必要というハードルがある。だが驚くべきことに、この地では路上生活者でもスマホを携帯していることが半ば常識となっており、その街並みは東京・山谷と並ぶ日本のディープな2大エリアと称される。

 期待と不安に胸を膨らませながら、自宅のある京都から阪急電車に乗り、大阪メトロ動物園前駅を出ると、まず大きなパチンコ屋が出迎えてくれた。左手にはジャンジャン横丁の入り口で、昔は違法なDVDや薬物、履物の片方だけを売っていたトンネル、右手には商店街につながる交差点がある。

 そこを通過すると、過去に労働者の暴動があり、鉄格子に守られた完全防備の西成警察署、そしてその隣に目指す店「淡路屋」が見えた。

フリーライター・丸野裕行

(つづく)

※写真は三角公園

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