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ブラックフライデー
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「103万円の壁」をめぐる議論が引き続き活発に行われている。この問題をめぐっては新たな論点も浮上した。それは基礎控除の引き上げなどによる所得税と住民税の減収によって、都道府県・市町村の一般財源に大幅な減収が生じることに関するものだ。 各県の知事からはこの問題をめぐり相次いで懸念が表明され、中には「このままでは財政破綻」との声も聞かれる。これに対し、国民民主党の玉木代表はSNS上で、減収分は地方交付税で補てんされるという趣旨の説明を行っている(https://x.com/tamakiyuichiro/status/1858810419525415362)。 結論からいうと、両者の見方はいずれも極端で不正確なものだ。後述するように、各都道府県・市町村の収支がきちんと合うよう減収分が補てんされる仕組みがあるから、財政破綻が生じるおそれはない。だが、その調整の仕方は、減収分がそのまま地方交付税で補
兵庫知事選は斎藤元彦氏が返り咲いた。パワハラで県庁職員とマスコミから叩かれつづけ、県の労働組合は辞職要求を出し、兵庫県議会は自民党から共産党まで含めての全会一致で不信任決議を出した。選挙戦中には兵庫県の22人の市長が連名で斎藤氏を再選させるべきではないとの異例の声明を出し、日本ファクトチェックセンターは、パワハラはでっち上げだという斎藤氏の擁護側の主張を根拠なしと断じた。いわば、四面楚歌だったはずで、それを覆しての勝利である。全国レベルでの知見と兵庫県内での知見に大きな差があったと言っても良い。 本稿の目的はその落差を多少なりとも埋め、起こった事態を理解することである。そのために兵庫県民へのアンケート調査を投票直前に行った。結論は以下のとおりである。 (1)斎藤支持者の7割は、斎藤氏のパワハラはマスコミの捏造と考えており、また、8割は今回の辞任劇は斎藤氏が進めた改革に反対する既得権益層が起
最近の霞が関で新語・流行語大賞を選ぶとしたら、EBPM(合理的な根拠に基づく政策立案)は間違いなくその候補のひとつということになるだろう。各省庁でEBPMの本格的な導入に向けた取り組みが進められ、「行政事業レビュー」にもEBPMの話題が頻繁に登場し、書店にはEBPMをタイトルに含む本やEBPMを特集した雑誌が数多く並んでいる。行政の効率化や政策の有効性の確保に向けた取り組みが進展していくことは、もちろんよいことだ。 もっとも、EBPMのブームには懸念されることもある。EBPMの取り組みが、これまでに行われてきた同様の取り組みと比べて優れたものであるという「エビデンス」は存在しないからだ。見た目の新しさに目を奪われて、EBPMを導入すれば行政がよくなるという「根拠なき楽観」に陥ると、期待外れでがっかりということにもなりかねない。 政策形成に合理的で科学的な手法を導入すれば行政の効率化が実現で
今回の衆議院選では自民党が大幅に議席を減らし、過半数を割り込んだ。政権与党が選挙に敗れる原因は、与党の政策の失敗か大きな政治的スキャンダルであることが通例である。今回も例外ではなく、物価上昇と賃金の停滞など自民党の政策面での失敗と、不記載問題(裏金問題)への批判が敗北の原因であることは衆目の一致するところであろう。 さらに、今回はそれに加えて、総選挙の直前に総裁選があり自民党の総裁が僅差で高市氏ではなく石破氏になったという事件があった。このとき、高市氏が敗れたことに失望して自民党支持を止めるという声がネットに流れたことがある。 本稿の課題は有権者への事前のアンケート調査で、これら敗北の要因の定量評価を行うことにある。結論を先に述べておくと、政策の失敗、不記載問題、高市落選への失望の3つの要因はいずれも働いている。このうちこれまでにない要因として注目すべきは、高市落選への失望効果であろう。
はじめに 平和学(peace studies)は、平和を脅かす要因を特定し、平和の諸条件を明らかにすることを目的としています。めずらしい学問だと思うかもしれませんが、平和学や平和研究という科目を置いている日本の大学は沢山あります。私は早稲田大学社会科学部に進学して平和学を学び、国際関係論のゼミナールに入りました。卒業後は大学院に進学し、国際協力・平和構築論の研究室で研究に取り組みました。また、大学院在学中にノルウェーのオスロ大学大学院政治学研究科へ留学し、平和・紛争研究プログラムで学びました。現在は大学教員として平和や紛争に関する研究、教育、そして難民支援などの社会活動に取り組んでいます。 私が大学や大学院で学んだ平和学、国際関係論、国際協力論、平和構築論、紛争解決学などは、いずれも戦争や平和について考える学問です。これらの学問に興味を持った最初のきっかけは、小学生の頃に市の文化会館で行わ
東京一極集中の是正は、長きにわたり重要な政策課題とされてきた。「過密と過疎の同時解消」は「国土の均衡ある発展」を経て「地方創生」に変わったが、一極集中の是正と地方分散を求める声は今も根強くある。そのような声は、かつては道路や鉄道、空港などのインフラ整備を求めるものであったが、最近は少子化への対応と関連づけて是正策が論じられるようになった。 「東京はブラックホール」という議論自体は都市伝説だとしても(各地域の出生率は人口移動の「結果」として決まる指標でもあるということに留意)、首都直下地震のことなどを考えると、東京への過度の集中は好ましくない。もっとも、一極集中是正の対象となる「東京」の範囲をきちんと意識しないと、対応策があいまいなものとなってしまうということを前回の議論で確認した。東京の都心への大学の立地を規制することも一極集中の是正策ではあるが、このような立地規制の結果、都心にある大学の
最近おきた3つの炎上事件、しまむらの幼児服・男の体臭・おじさんの詰め合わせの炎上はこれまでとは違い、男性側が責める側すなわち攻撃側になっているという特徴がある。この点で炎上を見直す一つの分岐点になる可能性があり、以下ではそれを検討する。結論から言うと、炎上を抑制する方向への分岐の萌芽は見いだせる。むろん、まだ弱いものであるが、注視していく価値はあるだろう。 1.三つの炎上事件とその背景 まず、事件を簡単に解説する。しまむらの幼児服事件とは、あるデザイナーと共同企画した幼児服に子供視点とみられる言葉が書いてあったが、母親については「ママがいい」「ママいつもかわいいよ」とあるのに対し、父親については「パパはいつも寝てる」「パパはいつも帰り遅い」「パパは全然面倒を見てくれない」など不満の言葉が述べられていた事件のことである。これに対し、男が頑張って働いている事を評価しない、あるいは幼い子供に父親
(1)事件の概要 第一幕:ゲームの炎上 アサクリ・弥助の炎上事件は単なる一ゲームの炎上事件以上の思わぬ広がりを見せており、下手をすると国際問題になる可能性がある。この事件について簡単な調査を行ったので報告する。 まず、多くの人はこの事件のことを知らないと思われるので簡単にいきさつを説明する。事の起こりはアサシンクリードというゲームの予告が炎上したことである。 このゲームはフランスのゲーム会社UBI制作の人気シリーズで、過去のさまざまな場所・時代にアサシンとして乗り込み、同様に過去の時代・場所に乗り込む能力を持った敵の勢力を倒していくゲームである。これまでに、ルネサンス期のイタリア、産業革命期のロンドン、独立戦争時のアメリカなど様々な舞台でのゲームが発売されており、その時代の建物・風俗などが忠実に再現されていることでも話題となった。 このシリーズが日本の戦国時代を舞台としてつくられることにな
データサイエンス系学部の隆盛 本稿の目的は、計量社会学への招待なのですが、これから大学へ進学することを考えておられる方々を念頭において、最近目立ってきた大学学部の動向についてまずは触れさせてください。 2023年度、一橋大学が実におよそ70年ぶりに新学部を開設しました。「ソーシャル・データサイエンス学部」です。ここ最近、新設される大学の学部の多くが、データサイエンスに関連する学部です。以降、横浜市立大学、名古屋市立大学、京都女子大学などが続き、新たにデータサイエンス系学部を設置しました。2024年には、明治学院大学が、当大学初めての理系学部である「情報数理学部」が開設されました。データサイエンスを専門とする学部内のコース(学科)の設置を含めると、新規設置の数はかなりのものになります。 データサイエンス系の学部の設置のはしりは、2017年の滋賀大学による「データサイエンス学部」で、意外に思わ
シリーズ「環境倫理学のフロンティア」では、環境倫理学の隣接分野の研究者との対話を行っています。今回は「環境経済学×環境倫理学」として、「クリティカル自然資本」をキーワードに研究されている環境経済学者の篭橋一輝さんと対話を行います。篭橋さんは、最近では自然の価値に関する論考を書かれており、これは環境倫理学に親和性のあるものになっています。今回は、これらの内容をふまえて、環境経済学と環境倫理学の観点から、現代における自然の価値について議論していきます。 吉永 篭橋さんは環境経済学がご専門で、南山大学社会倫理研究所で第二種研究員としてお勤めになり、以前(2019年3月)には同研究所で『未来の環境倫理学』の書評会を開いていただきました。このように、以前から環境経済学の観点から環境倫理学の研究を見守っていただいておりましたが、2020年にお書きになった論考「〈関係価値〉は新しい価値カテゴリなのか――
「0.99ショック」をきっかけに東京の出生率の低さに再び注目が集まっています。2か月ほど前に公表された人口戦略会議(議長=三村明夫・日本製鉄名誉会長)の報告書では、東京都の16の区をはじめとする25の自治体が「ブラックホール型自治体」とされ、東京は「人を吸い込むブラックホール」であると報じる新聞やテレビのニュースもありました。 0.99という数字に象徴されるように、東京が子どもを産み育てにくい場所だとすれば、地方から東京へという「人の流れ」が変わらない限り、少子化と人口減少がますます加速してしまうことになりかねません。 もっとも、「東京はブラックホール」という議論については、その意味するところに留意して、その状況を注意深くながめていく必要があります。というのは、この議論のもとになっている出生率の指標(合計特殊出生率)にはバイアス(特定の方向への偏り)が含まれている可能性があるからです。デー
出生率のデータが公表されると、東京都はいつも最下位となる。にもかかわらず、若者は東京に集まる。出生率の高い地域から低い地域に人が動けば、日本全体として出生数が減り人口減少が加速する。全国から若い人を集めておきながら、次の世代を担う子どもたちを生み育てることのない東京は「ブラックホール」である。 このように、東京=「ブラックホール」論は理路整然としていて、とてもわかりやすい。東京の出生率が他の地域と比べて低いということも、人口移動において東京が転入超過であるということも統計的な事実だから、実証的にも非の打ち所がないように見える。 だが、はたしてこの話はどこまでもっともらしいのだろうか。どこかに見落としはないのだろうか。 前回は「東京は出生率が低い」という議論がなされるときに用いられる出生率の指標、すなわち合計特殊出生率とはどのようなものか、この指標を利用する際に注意すべきことは何かということ
東京は「ブラックホール」なのか?(その1):少子化にまつわるエトセトラ 中里透 マクロ経済学・財政運営 社会 出生率に関するデータが公表されると、きまって東京の出生率が低いことが話題となり、「子育て支援策の充実を」「子供を産み育てやすい街づくりを」という趣旨のコメントが新聞やテレビに登場する。 出生率が低い東京に全国から若者が集まってくるから(就学・就職などで)、そうなると次の世代を担う子ども達が生まれにくくなり、少子化と人口減少がますます加速する。東京は若者を飲み込む「ブラックホール」だから、日本の国力の衰退を止めるには今こそ東京一極集中の是正と地方分散を、という話になる。 だが、このような見立てはどこまで妥当性を持つものなのだろうか。議論に大きな見落としはないのだろうか。以下ではこれらの点について考えてみることとしたい。 1.東京の「出生率」は低いのか? 合計特殊出生率の「分母」と「分
つい最近まで、社会保障の議論では「2025年問題」ということが現実の問題として頻繁にとりあげられた。これは「団塊の世代が75歳に到達する2022年から2025年にかけて、社会保障費が急増する」という話だ。 だが、2025年を翌年に控えた今(2024年)、このフレーズを見かける機会はほとんどない。「2025年にかけて社会保障費が急増する」という話が錯覚や思い込みでしかないことが、実際のデータから明らかになったからだ(なぜこのような錯覚が生じたのかという点については、2018年に公表された下記レポートをご覧ください。 「190兆円の社会保障費をどのようにとらえるか-「2025年問題」の虚像と実像」(ニッセイ基礎研)[https://www.nli-research.co.jp/files/topics/58888_ext_18_0.pdf?site=nli])。 このような経緯があるにもかかわ
「異次元の少子化対策」は、まさに異次元の政策である。年間で3.6兆円(概数)もの予算が新たに追加されるにもかかわらず、この対策によって出生率がどの程度上がるのかがわからないからだ。 最近、EBPM(合理的な根拠に基づく政策形成)ということがさかんに言われ、霞が関でもさまざまな取り組みが行われているが、肝心な話になると、なぜかその時々の風向きと雰囲気で政策が進められていってしまう。少子化と人口減少への対応は重要な政策課題であるが、「満蒙は日本の生命線」というノリで「産めよ、殖やせよ国のため」とやっても、首尾よく成果をあげることはできないだろう。 何事についても目的と手段の関係を明確にし、コスパ(費用対効果)をきちんと考えて現実的な対応をとることが必要だ。「これからの6~7年が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス」と唱えていさえすれば数兆円規模の支出増が実行に移せるということであれ
民主主義がうまくいかない理由――タイ政治では何が起きているのか? シノドス・オープンキャンパス02 / 外山文子 国際 #シノドス・オープンキャンパス はじめに 21世紀に入ってすでに20年以上もの年月が経過しました。しかし、未だに世界における民主主義や人権といった価値の実現までの道のりは険しい状況にあります。米ソ冷戦終結後の1990年代には、「民主主義」や「人権保護」といった欧米の価値が、世界中で実現されると大いに期待されていました。ところが2006年頃から世界的に「民主主義の後退」(recession of democracy)という現象が注目を集めるようになりました。近年では、米国のトランプ大統領、トルコのエルドアン大統領の強権政治、ロシアや中国といった権威主義国家の国際的な政治的影響力の拡大が注目を集めています。 日本と関係の深い東南アジア地域の国々も政治に問題を抱えています。タイ
本書の題名「セックスする権利」は、一見したところぎょっとさせる。たとえば、いわゆる「インセル」、本書の説明によれば「自分はセックスできてしかるべきだと思いこんでいて、その権利を奪っている女性たちに怒りを燃やす男性」(p. 102)に、権力が女性を「あてがう」必要はない。それはあまりにも当然のことだが、次のような場合を考えてみよう。子どもたちがおたがいにサンドイッチを分け合っている。しかし、ある子どもだけのけものにされ、その交換の輪から排除されている。そこでその子にサンドイッチを分け与える「義務」は誰にもないのだろうか。たとえ「ない」としても、それは「義務ではない」というだけでは不十分ではないか。 この類比は、セックスがサンドイッチと同様に分配されるべきだということを意味しない。それは別物だろう。では、どのように異なるのか。本書は「セックスをそれ自体として扱う方法」(p. 102)を見つけよ
このところ、マイナス金利の解除をめぐる議論が活発に行われている。マイナス金利を続けながら、円安の行き過ぎを懸念して為替介入をするというのは平仄が合わないから、日銀当座預金に対するマイナスの付利を適切な形で見直すというのはおかしなことではない。 もっとも、「急いては事を仕損ずる」という場合もある。2000年8月に行われたゼロ金利政策の解除がその典型例だ。物価の情勢がまだ十分に見通せない中、デフレ懸念の払拭が展望できるようになったとしてゼロ金利を解除したものの、ITバブル崩壊の影響もあって景気が悪化。物価下落の圧力が高まったとして2001年2月に公定歩合の引き下げが行われ、3月には量的緩和という形で事実上のゼロ金利政策に復帰せざるを得なくなった。 この点からは、景気と物価の状況を慎重に見極めて、誤りのない判断をしていくことが必要になる。海外景気に下振れのリスクがあることを踏まえれば、なおさらだ
シリーズ「環境倫理学のフロンティア」では、環境倫理学の隣接分野の研究者との対話を行っています。今回は「環境思想×環境倫理学」として、環境思想研究者の木村美里さんと対話を行います。木村さんは、19世紀末の英国でナショナル・トラストを創設したオクタヴィア・ヒルの研究を行っています。ナショナル・トラストは、相続や開発などで失われようとしている自然の景勝地や歴史的建物を、所有者からの寄贈や買取などによって取得することで後世に残していく取り組みを指します。この取り組みは近代の環境運動のなかで最も成功したものの一つといえるでしょう。今回の対話では、イギリスのナショナル・トラストの成立の背景に、ヒルによる住宅改良などのプロジェクトがあったことに注目します。ナショナル・トラストは19世紀末の英国の社会改革の一環として理解することができるのです。 「環境思想」の定義について 吉永 木村さんのご専門は「環境思
科学者は政策形成にどう貢献しているのか?――公衆衛生における「科学-政策インターフェイス」について 鈴木基 感染症疫学、国際保健学 科学 はじめに 「科学-政策インターフェイス(science-policy interface)」という言葉があります。科学技術の急速な発展に伴って社会的課題は複雑化しており、何が問題なのかを正確に理解して解決策を探るには、科学者の協力が不可欠です。一方で、様々な利害関係を調整することが求められる政策形成の過程においては、科学的に正しい見解が必ずしも社会の最適解であるとは限りません。科学-政策インターフェイスとは、政策過程で科学者と政治家や行政官の活動が交わる境界域のことであり、新型コロナウイルス感染症の対策を巡って専門家と政府が協力と対立を繰り広げたのも、まさにそのような場所だったと言えるでしょう。 前回の論稿(「公衆衛生政策における介入の基準設定について」
1953年に、日本政府はパレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金提供を決定した。以来、70年にわたって日本はパレスチナ難民への支援を続けている。なぜ戦後間もない日本が、遠く離れた中東で発生した難民支援に乗り出したのか――、この問いを「宿題」として私に投げかけてきたのは、UNRWA保健局長の清田明宏医師だった。WhatsAppでの軽妙な誘いに乗った私は、外務省外交史料館を訪ねることになる。そこで僅かながら目にした当時の資料から、戦後日本の国際社会への復帰の通過点に、UNRWAへの資金拠出があった可能性が浮かび上がってきた。 国連からのアプローチと日本政府の対応 UNRWAについてまとめられた最も古いファイルは、『国際連合総会補助機関関係雑件:パレスタイン難民救済機関関係』である。このファイルには、1952年から59年にかけての外交資料が綴じられていた。そのなかで、UNRWAへの拠出を
序論とアプローチ 第一次世界大戦後の1920年、戦争防止のための初の国際機構として、国際連盟が設立された。現在の国際連合の前身であるこの国際連盟において、はじめて戦争が国際法上で規制され、集団安全保障〔注1〕が導入されることとなった。戦争防止システムとしての集団安全保障の考えは、イギリスの研究グループであるブライス・グループが1914-5年にかけて作成した国際連盟草案「戦争回避のための提案」において、最初に示されたものである。この「提案」が基礎となって、英米を中心とした国際連盟運動が展開したのみならず、1918年には英外務省の連盟研究報告書が作成され、さらに戦後のパリ講和会議において国際連盟規約が議論されることとなった。〔注2〕 これまでの大部分の研究において、ブライス・グループらの国際連盟推進派は、国際関係の現実を知らない理想主義者とみなされてきた。〔注3〕一方で、グループの「提案」に注
「シルバー・デモクラシー(シルバー民主主義)」という言葉が人口に膾炙してから久しい。その象徴として、国政選挙での若年層の低投票率などが取り上げられる。これは選挙報道で各党や各党候補者を平等に扱えず、かといって政策検証などは関心をひかないため、中高年視聴者や読者のための恰好のネタでもあるからだ。ただ、その効果は無視できないと見え、メディア関係者のみならず、大学生などと会話していると、日本の民主主義の問題点として、必ずといっていいほどなされる主張だ。なお、先の2021年衆院選で60代の投票率は71%、対して20代の投票率は36%だった。 そもそも「シルバー・デモクラシー」は何を意味するのか――もっとも早くこの言葉を使ったのは、著名な政治学者だった内田満が1986年に著した『シルバー・デモクラシー 高齢社会の政治学』(有斐閣)だと思われる。ただ、これは長寿社会を迎える日本で、高齢者がいかに政治参
ツイッターにコミュニティノートが追加された。コミュニティノートとは誤情報を修正するための工夫であり、その特徴は専門家や運営者が行うのではなく、ツイッターユーザ自らが行う点にある。この機能には賛否両論があり、役立っているという評もあれば偏りがあるという批判も見られる。今回、ユーザへのアンケート調査でこの機能の実態と評価を調べたので報告する。結論から言うと、多少の偏りはあるものの、コミュニティノートをおおむね肯定的に評価する人が多い。ここまでのところコミュニティノートは人々の支持を得ており、成功しているようである。 1.コミュニティノートとは コミュニティノートを知らない人もいると思われるので最初に簡単に説明する。コミュニティノートとは、ツイートに対して他のユーザがつける注釈である。図1で「閲覧したユーザが背景情報を追加しました」とあるのがそれである。 図1(a)は「マイナンバーカード本人希望
精神的に不安定な若者が急増 ヨーロッパでは、精神的に不安定になったり、うつ病や不安障害、強迫性障害などの精神疾患をかかえる若者の数が、ここ数年、急増しています。コロナ危機以前から増加傾向にありましたが、コロナ危機下で加速化し、コロナ規制の全面撤廃以後、現在まで、状況はほとんど改善されていません。 たとえばスイスでは、2021年、10歳から24歳の年齢の人の間で精神疾患が、前年に比べ17%増加し、入院理由のトップとなりました (Luchetta, Mentale, 2022)。11歳から18歳の女性の精神疾患関連の診療費用は、2017年から2021年で二割増え、2021年のこの年齢層の女性の全医療コストの20%を占めました(De Carli, So verbreitet, 2023)。国内最大規模の若者支援団体 Pro Juventuteでは、自殺念慮がある若者を救急医療につなげる措置を行っ
1.憲法の婚姻条項と「同性婚導入」・「パートナーシップ導入」 近年欧米諸国を中心に、同性婚を導入する傾向がみられます。我が国においても、各地方自治体において、種々のパートナーシップ制度が認められるなど、これにあわせる動きが認められます。ただ現在(2023年6月)においても法律レベルにおいて、①同性婚の導入(現行の婚姻を同性同士でも締結可能とすること)も、②婚姻類似のパートナーシップの設立も、なお達成されていません。 では、この①または②を可能とする法律が可決された場合、これは日本国憲法の観点から、どのように評価されるでしょうか(以下、法律によって同性婚制度が導入されることを「同性婚導入」、婚姻類似のパートナーシップ制度が法律によって導入されることを「パートナーシップ導入」とします)。 条文を確認しますと、いわゆる家族・婚姻条項といわれる日本国憲法24条1項(以下、日本国憲法は憲法とします)
2023年7月7日、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシ事務局長が、東京都千代田区の日本プレスセンタービルで記者会見を開きました。IAEAは7月4日に、東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水(以下処理水)海洋放出に関する包括報告書を公表し、放出計画は「国際的な安全基準に整合的である」との評価結果を示しました。7日の記者会見では、報告書の意義などについて国内外のメディアの質問に答えました。 グロッシ 7月4日に、東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出に関する包括報告書を公表しました。5日には福島県を訪問させていただきました。11人の首長や漁協の方と、直接お話しさせていただいたことは、私にとってとても良い経験となりました。彼らは処理水海洋放出で、最初に影響を受ける方々ですから。 加えて、福島第一原発も視察しました。去年も訪れましたが、処理水希釈放出設備の建設
1990年の「1.57ショック」以来、少子化の問題は克服すべき重要な政策課題とされてきた。出生率は2000年代半ばに下げ止まり、反転上昇が続いてきたが、このところ再び低下基調となっている。こうした中、出生数はついに80万人を割り込んで、さらに減少が続くものと見込まれている。「日本が縮んでいく」ということに対する漠然とした不安は、多くの人に共有されているものであろう。「異次元の少子化対策」が注目されるのは、このためだ。 もっとも、気合いを入れれば出生率が上がる、というほど話は簡単ではない。「希望出生率1.8」を目指した安倍内閣の取り組みなどによって、子育て支援をはじめとする家族関係社会支出は大幅に増加し、待機児童の問題も相当に緩和されたが(もちろん課題も多く残されている)、そうした中にあっても出生率はむしろ低下に転じたからだ(新型コロナの影響で婚姻数が減ったことの影響がしばしば強調されるが、
教科書通りのシンプルな枠組みでスタートした異次元緩和にはさまざまな付属物が付いて、「大胆な金融緩和」は今では建て増しを重ねた温泉旅館のようになってしまった。 「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という正式名称を持つ現行の金融政策の枠組みには、実は「量」の面での明確なコミットメント(約束)がない。三層構造になっている日銀当座預金(各銀行が日銀に開設している口座の預金)は、どこが1階(プラス金利適用残高)で、どこが2階(ゼロ金利適用残高)かわからない状態になってしまっている(これらの点については後述)。このような説明をしたら、戸惑いを覚える人がいるかもしれない。 それぞれの局面で最善と思われる措置を積み重ねた結果、今の枠組みが出来上がったのだと考えれば致し方ない面もあるが、あまりに複雑な枠組みは金融政策の運営の透明性の確保という点でも問題がある。となれば、金融緩和の大枠は維持したうえで、異次
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