元名古屋高検検事長の弁護士、宗像(むなかた)紀夫が今でも忘れられない昼食がある。 平成元年2月13日、東京・霞が関の旧東京検察合同庁舎の検事総長室で、検察首脳と食べたカレーライスだ。午後から「ある事件」の関係者の逮捕を控えていた。話題は検察官の人員配置など。後に東京地検特捜部長などを歴任した宗像は、事件の主任検事を務めていた。「大きな事件を前に、やるぞという気分だった」。事件と向き合う直前の高揚感が、平凡なはずのカレーの味を印象付けた。 短時間で腹ごしらえをすませ、宗像らは持ち場に散った。リクルート事件捜査は、こうして本格化した。当時の首相は竹下登。「田中派の長男」と呼ばれ、カネの力で政治を動かす田中角栄の手法を色濃く受け継いだ政治家だった。 リクルート社から関連会社の未公開株を譲渡された政治家リストには、元首相の中曽根康弘ら大物が名を連ね、竹下もその1人だった。竹下は、起訴こそ免れたが、