寄稿・森岡正博(哲学者) 人工知能(AI)の進歩は目覚ましい。囲碁や将棋の世界では、もう人間は人工知能に勝てなくなってしまった。その波は、さらに広がっていくだろう。学者もその例外ではない。これまで学者たちが行ってきた研究が、人工知能によって置きかえられていく可能性もある。とくに、私が専門としている哲学の場合、考えることそれ自体が仕事内容のすべてであるから、囲碁や将棋と同じ運命をたどるかもしれない。この点を考えてみよう。 まず、過去の哲学者の思考パターンの発見は、人工知能のもっとも得意とするところである。たとえば人工知能に哲学者カントの全集を読み込ませ、そこからカント風の思考パターンを発見させ、それを用いて「人工知能カント」というアプリを作らせることはいずれ可能になるであろう。人間の研究者が「人工知能カント」に向かっていろいろ質問をして、その答えを分析することがカント研究者の仕事になると私は