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ドラクエ3
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13 白雪姫のお話に愛というものは本当にどこにもない感じもして、というか、王妃が白雪姫に固執し、嫉妬をし、醜い行動に出るから、他の登場人物は相対的にまるで白雪姫を愛しているような見え方をしているだけに思う。グリム童話では毒林檎で死んでしまった白雪姫の棺を、通りがかりの王子が異様に欲しがって小人に頼み込む。普通にキモい。でもその想いの強さから小人も譲ることにしてしまう(そんな決断する小人もキモい。白雪姫はお前たちの所有物ではない。)し、棺が運ばれるその揺れで口からリンゴがこぼれ落ち生き返った白雪姫は「ぼくは、世界じゅうのどんなものよりもあなたが好きです。」とか王子に言われて、結婚を承諾する。自分の棺を知らん男が手に入れてることも、その男が目覚めてすぐプロポーズしてくるのも、要するに自分が綺麗だから言ってくるだけだし、特に死んでいる美女を欲しがるなんて、美しさ以外のものを求めていない証拠だと思
表1 2022年 病院調査: 睡眠薬・抗不安薬を主たる薬物とする症例における薬剤の内訳(N=435) この4薬剤、薬理作用の効力が強いだけでなく、「切れ味のよさ」が共通しています。つまり、血中濃度の立ち上がりが早く、比較的すみやかに血中濃度が低下するわけです。このため、患者は効果の発現を自覚しやすく、しかも、翌朝に眠気の持ち越しがありません。当然、患者からの評判はよいのですが、実はこういった性質を持つ薬剤は依存性が強いのです。実際、乱用者のあいだでは一種の「ブランド化」がなされて人気を集めています。 睡眠薬・抗不安薬依存症患者は、最初からベンゾ類を不適切に使用しているわけではありません。最初は処方通りに服用しているのですが、そのなかで、たとえば人間関係の悪化や様々なストレスに曝されるなかで、1錠、2錠……と徐々に乱用を進行させていきます。とりわけ、トラブルを抱えつつも誰にも相談できない(あ
『断腸亭日乗』は、明治・大正・昭和三代に渉る文豪・荷風(1879-1959)の日記です。大正6年(1917)9月16日から昭和34年(1959)4月29日、逝去の前日まで41年間、書き継がれました。日々折々に捉えた自然、人物、社会風俗、政治観が、洗練さと雅味に富み、同時に鋭利な批判を込めた見事な日本語で綴られます。近代日本の辿った歴史を見詰め続けた一人の文学者・文明批評家による稀有の証言録でもあります。荷風の自筆稿自体が、重要な日本の文化財の一つであります。永年にわたり、岩波書店は日記の自筆稿を精査・校訂、大古典の本文を全集として護ってきました。今回、日記の全文・フルカウント版を、初めての詳細な注解を中島国彦先生、多田蔵人先生が付して、岩波文庫全9冊として刊行を開始いたします。第九巻には、全体の「索引」(中村良衛・多田蔵人編)をつけます。 【全巻目次】 第一巻 大正六(一九一七)年―十四(
【連載】松本俊彦「身近な薬物のはなし」(7) はじめに――市販薬乱用・依存の現状 本連載ではここまで、身近な薬物としてビッグスリーのうちの2つ――アルコールとカフェイン――をとりあげてきました。ここでいったんビッグスリーから離れて、別の意味での身近な薬物といえる処方薬や市販薬といった医薬品に寄り道してみます。 今回はまず市販薬です。 第1回で述べたように、今日、精神科医療現場で年々深刻さを増している薬物は、医薬品です。そのなかでも、10代、20代といった若年層で特に問題となっているのが市販薬なのです。 いまから10年あまり前、「脱法ハーブ」などの危険ドラッグ乱用禍が社会を席巻しました。規制強化と新たな脱法的薬物の登場というイタチごっこをくりかえしながら、薬物による健康被害や、薬物使用下での自動車運転による交通事故などの弊害がますます深刻化していく、あの悪夢のような一時期を、私はいまでも鮮明
【連載】松本俊彦「身近な薬物のはなし」(6) はじめに 歴史学者川北稔の著書『砂糖の世界史』1の第5章扉絵には、17世紀に書かれた1枚の絵が挿入されています。その絵には、コーヒーカップを手にしたアラビア人、茶のカップを手にした中国人、そして、チョコレートのカップを手にしたアステカ人という3人の姿が描かれています(図1)。当時にヨーロッパで広まった3種類の飲み物を、それぞれの産地の人間として象徴的に表現しているのでしょう。 図1 コーヒー・茶・チョコレートそれぞれの産地を示す3人 この3つの飲み物には2つの共通点があります。1つは、いずれもカフェインという精神作用物質を含有していること、そしてもう1つは、砂糖との相性が非常によく、それゆえにヨーロッパで人気を博することができた、ということです。 近代以降のヨーロッパ社会は、ヨーロッパ以外の地域から伝来した、これらのカフェイン含有飲料を抜きに語
【連載】前田健太郎「政治学を読み、日本を知る」(12) 国民の起源 なぜ、戦争は起きるのか。この国際政治の根本問題に取り組む上で、ナショナリズムについての考察は欠かせない。ナショナリズムは、自国のために力を尽くし、命を投げ出すことを人々に求める。その起源を説明する上で決定的に重要な位置を占めてきたのが、ベネディクト・アンダーソンの一九八三年の著作『想像の共同体』(白石隆・白石さや訳、書籍工房早山、二〇〇七年)である。 ベネディクト・アンダーソン 著, 白石隆・白石さや訳『想像の共同体』(書籍工房早山) この本を有名にしたのは、国民(ネーション)という共同体が近代になってから人々に想像されることで初めて出現したという主張だろう。ナショナリストたちは、しばしば「イギリス人」や「ドイツ人」が太古の昔から存在したかのように語る。だが、本書によれば国民の歴史は比較的浅い。もちろん、国民が誕生する条件
【連載】松本俊彦「身近な薬物のはなし」(5) はじめに カフェインは、薬理学的には覚醒剤やコカインと同じ中枢神経興奮薬であり、その薬理作用はかなり顕著です。おそらく誰もが、コーヒーや紅茶を飲んだら、意欲や注意力、集中力が増したり、眠気や疲労感が緩和されたりといった、「ドラッグ効果」を経験しているはずです。 人類がカフェインと出会ったのは、アルコールと比べると、ずいぶんと最近の出来事です。興味深いことに、当初、食物(カロリー補給源)としての役割を期待されていた酒とは異なり、コーヒーや茶といったカフェイン含有飲料は、最初から食物とは明確に区別されてきました。そのことは、それぞれの飲み物の食事との関係性から理解できます。「パンとワイン」といった慣用句表現からもわかるように、アルコールは食中飲料として料理と一体化しています。一方、コーヒーは完全に「食後」の飲み物です。フレンチやイタリアンのディナー
思想の言葉 岡 真理 他者の不透明さの壁のもとに ──ジャン・ウリ没後10年に寄せて 多賀 茂 同盟論からみるウクライナ戦争 玉置敦彦 現代韓国メディアの植民地・戦争経験の形象化 ──映画・ドラマを中心に 李基勲/盧ジュウン訳 ポピュリズムは民主主義の活性化に寄与するのか 千葉 眞 絶対理念の動態と存在の回帰性 ──ヘーゲルの理念論 山口祐弘 思考中華民国・序論 ──原点から出発する思考(中) 楊儒賓/丸川哲史訳 〈連続討議〉戦争責任・戦後責任論の課題と可能性(中) 宇田川幸大・内海愛子・金ヨンロン・芝 健介 ガザ、それは、ソムードの大地だ。パレスチナ人のソムードが凝縮した土地だ。 アラビア語には「抵抗」を意味する言葉が二つある。ひとつは「ムカーワマ」。銃をもって闘うレジスタンスの抵抗を意味する。「ハマース」は「イスラーム抵抗運動」のアラビア語の頭文字をつなげた略称だが、このときの「抵抗」
魏晋南北朝から隋唐時代にわたり、中国から仏教の本場インドに向けて旅立った「渡天竺僧(とてんじくそう)」と呼ばれる数多くの僧侶(梁啓超によれば存在が知られるものだけでも一六九名)が出現した。その旅の記録を現在に伝えている僧侶はほんの僅かしかいないが、ここに取り上げる玄奘(げんじょう)(六〇二―六六四)はそうした僧侶の一人である。たとえ玄奘の名を知らなくとも、『西遊記』という名の小説や劇・テレビドラマ・映画などを通じ、三蔵法師としてその存在は世間に知れ渡っている。そのため彼の旅の様子や人物像については、それら創作物によって作られたイメージが強く纏わりついている。ただ彼が残した著作物を見ると、一般に理解されている旅の雰囲気とはかなり異なる側面も認められる。そこで今回は玄奘の旅の実際の姿を紹介してみたい。そこから、東アジアを越えてパミール以西のトルキスタンやアフガニスタン・インドまでも包含する広域
高校世界史の授業でベンヤミンを読む 私の高校世界史の授業は、いつも1枚の資料プリントを読みながら、テーマとする歴史をめぐって解釈や意義づけの考察を行うことを常としてきた。大学入試に備えるために必要な教科書の「通史」の解説はなるべく簡潔に済ませ、授業の力点を資料プリントの読解や批評、そして互いの対話に置いてきた。プリントの内容は「人権宣言」とかオランプ・ド・グージュの「女性の人権宣言」のような一次史料もあれば、李沢厚の『中国の伝統美学』のような研究書もある。そして3年生の最後の授業で、「この文章を皆さんと読むことを目指してボクは世界史の授業をしてきたのかもしれません」と前置きしてから、ヴァルター・ベンヤミン(一八九二―一九四〇)の『歴史の概念について』を読んできた。 ヴァルター・ベンヤミン『ボードレール 他五篇』(『歴史の概念について』収録), 野村修編訳,岩波文庫,1994年 西洋史学科で
大きな時間幅でものごとを考えている人たちにとっては、東日本大震災は現在の日本の社会の限界を示す出来事であった。〔中略〕ところが短い時間幅でものごとを考える人たちにとっては、復興は「災害処理」にすぎないのであって、時間がたてばたちまち記憶は風化していく。 (内山節『復興と時間意識』ポリタス、2015年3月20日) 東日本大震災や熊本地震と比べて被災地を語る言葉や「空気」があまりにも違う──能登半島地震発災後の1カ月あまりは戸惑うことの連続だった。 顕著な例は二つ。一つは、ボランティアを巡る言説の変化だ。今回の能登半島地震は半島というもともとの地理的要因と、直下型地震による道路の寸断とが重なり、被害の大きい奥能登地域に入ることが極めて困難であった。石川県と政府は緊急車両以外で現地に入ることの自粛を求め、SNSでも告知した。発災から72時間は災害救助や生命維持に必要な物資搬入を優先すべきことは大
【連載】松本俊彦「身近な薬物のはなし」(3) はじめに アルコールは人類が遭遇した最古の依存性薬物ですが、人類はそのすばらしさとともに、早くから危険性にも気づいていました。 紀元前400~200年頃に編纂されたといわれる『戦国策』には、中国における酒の起源にまつわる伝説が記されています1。中国最古の王朝、夏(紀元前2070年頃~紀元前1600年頃)の始祖禹(う)王のもとに、北方異民族の儀狄(ぎてき)なる人物がやってきました。曰く、「穀物から酒なる飲み物を初めて造ったので、それを献上したい」というのです。禹は酒を一口飲んで、あまりのうまさと酔い心地に驚きました。しかし、すぐに我に返り、「後世、この美味にして陶然とさせる飲み物によって国を滅ぼす者が出るであろう」と述べ、以降、酒を断ち、儀狄を追放したそうです。 一方、古代ギリシアの都市、アテナイに住む人々は、「酒を断つ」のではなく「うまくつきあ
岸政彦(きし・まさひこ) 1967年生まれ。社会学者・作家。京都大学教授。主な著作に『同化と他者化──戦後沖縄の本土就職者たち』(ナカニシヤ出版、2013年)、『街の人生』(勁草書房、2014年)、『断片的なものの社会学』(朝日出版社、2015年、紀伊國屋じんぶん大賞2016受賞)、『ビニール傘』(新潮社、2017年)、『図書室』(新潮社、2019年)、『地元を生きる──沖縄的共同性の社会学』(打越正行・上原健太郎・上間陽子と共著、ナカニシヤ出版、2020年)、『大阪』(柴崎友香と共著、河出書房新社、2021年)、『リリアン』(新潮社、2021年、第38回織田作之助賞受賞)、『東京の生活史』(編著、筑摩書房、2021年、紀伊國屋じんぶん大賞2022、毎日出版文化賞受賞)、『生活史論集』(編著、ナカニシヤ出版、2022年)、『沖縄の生活史』(石原昌家・岸政彦監修、沖縄タイムス社編、2023年
食べものから「資本主義」を解き明かすとは 私たちが何を食べるか、食料安全保障をどうするのか。そこには消費者や農家の努力だけではなく、政治経済が大きく影響している。学生たちにそう話すと「食べものと経済が関係しているなんてビックリ!」と驚かれる。しかし実際には、食も農も資本主義のロジックで動いている。 気候危機も、パンデミックも、戦争も、広がる格差や「生きづらさ」も、山積する問題は、じつは資本主義経済としては当然の結果という見方もある。だからこそ、そのカラクリを理解することが重要だ。 とはいうものの、ただ経済学を勉強しても現状はなかなか見えてこないだろう。もっともらしく語られる理論(セオリー)と私たちのリアルは大きく乖離しているからだ。そこで、身近な食べものを題材に、現代社会のグローバル化、巨大企業、金融化などを解き明かしてみた。若い人にも女性にも、「素人」や「庶民」にこそ、この現代社会のカラ
【連載】松本俊彦「身近な薬物のはなし」(2) ストロング系チューハイへの警鐘 2019年の大晦日の夜――まさにコロナ禍前夜――のことです。私は、ネットサーフィン中に偶然目に入ったある記事に目が釘付けになりました。 それは、「ストロング系チューハイ裏話。国のいじめに酒造メーカーブチ切れ」1というタイトルの、わが国の酒税方式を批判する記事でした。内容を要約すると、次のようになります。 「わが国では、ビールはアルコール度数が低いわりに課税率が高い。その高い税率を逃れるべく安価な発泡酒が登場したのだが、その発泡酒が売れると、今度はそれに高い税を課す。その『税収ありき』の一念によるイタチごっこが、酒造メーカーを追い詰め、結果的に、あたかもジュースに高濃度合成アルコールを添加したような、恐ろしく安価なモンスタードリンクを作り出させてしまったのだ……」 私は思わず膝を打ちました。 「なるほど、そういう背
なぜ十字架ではなく「杭殺柱」か ──『新約聖書 改訂新版』刊行に寄せて 激暑の中、いわゆる岩波版『新約聖書』の改訂新版が漸(ようや)く校了した。本書は、初版が一九九六年に完結発刊され、二〇〇四年には一冊本として発売されたものである(責任編集・荒井献/佐藤研)。したがって今回は、四半世紀以上経っての「改訂新版」となる。この翻訳は、各書の訳者が自らの名前を公表し、翻訳の責任は訳者が個人的に負う形でできている(日本聖書協会訳などは、訳者名を出さない)。また各訳者は、内容に関して「傍注」を付け、原文とその訳の際の「敷(ふ)衍(えん)」部分を明確にしつつ、できるだけ精確に訳出することを心がけた。その際、訳者間で敢えて訳語の一律的な統一はせず、できるだけ各訳者の独自性を尊重する、という原則のもとに翻訳された。 今回の「改訂新版」(責任編集・佐藤研)では、以前の方針を踏襲・徹底し、かつアップデートする
【連載】松本俊彦「身近な薬物のはなし」(1) 最大規模の害を引き起こす薬物 俳優やミュージシャン、あるいは、有名大学運動部の学生……社会で目立った活躍をする人々が違法薬物で逮捕されるたびに、テレビやネットニュースは連日その話題で持ちきりとなります。そして、必ず付せられる煽り文句は、「若者に薬物汚染拡大」「大麻が蔓延、検挙者増加」というものです。そうした報道に接するにつけ、いま日本における喫緊の薬物問題は大麻や覚醒剤であるかのような印象を抱く方も多いことでしょう。 しかし、その印象は正しいのでしょうか? 自らも回復した依存症当事者である米国の依存症専門医カール・エリック・フィッシャーは、著書『依存症と人類:われわれはアルコール・薬物と共存できるのか』(みすず書房、2023)のなかでこう述べています。 「最大規模の薬害──依存症を含む──が、ほぼ必ず合法な製品により引き起こされるという事実は、
このたび、『岩波講座 社会学』が正式に刊行開始となりました。前回の「岩波講座」からほぼ30年経つ。私のほかに、北田暁大、筒井淳也、丸山里美、山根純佳の各氏が全体の監修を務め、テーマごとに編集される全13巻の各巻に、そのテーマに造詣が深い社会学者が編者になります。 前回の「岩波講座」が刊行されたときは、たしか私はまだ院生でした。貪るように読んだことを覚えています。あれから社会も、社会学も、大きく変化しました。 前回は上野千鶴子や吉見俊哉、大澤真幸などが全体の監修者で、巻数も26あったと記憶しています。各巻のタイトルも凝ったものが多かった。執筆者も社会学プロパーだけでなく、竹田青嗣などの周辺領域の方が入っていました。文体や内容も派手で、自由で、雑多で、それほど社会学とは関係のないものもたくさんありました。もちろんそれだけではなく、当時の最先端の社会学的な議論をしている論文もたくさんあって、たと
記事の掲載期間を終了いたしました。本連載「研究者、生活を語る」は2024年内に単行本化予定です。続報は岩波書店の新刊案内、ホームページ、SNSなどでお知らせいたします。どうぞお楽しみに。
若者が夢を追いはじめ、追い続け、そして諦める――。ライブハウスを中心にバンド活動で夢を実現しようとするバンドマンへの参与観察を重ねた話題作『夢と生きる バンドマンの社会学』が刊行されました。発売に際して、著者の野村駿さんに長年にわたる研究の裏側、夢を追うバンドマンたちのリアルな姿、社会に強固に存在する「正しい生き方」がもたらす呪縛の問題など、多岐にわたりお話を伺いました。(聞き手:岩波書店編集部) 全くの素人でライブハウスに飛び込む ――ご著書『夢と生きる バンドマンの社会学』は、バンドマンとして夢を追う若者に注目して、長期にわたるフィールドワークを行った労作です。はじめに、バンドに着目したきっかけを教えてください。 学生時代は若者論、特にフリーターやホームレスの研究をしていました。その頃、周囲に夢を追い求めている友人がいまして、しばしば話を聞く機会があったのが直接のきっかけです。ある時ふ
目次 関孝和、突然の登場の謎 関の追究した一般論とは 建部賢弘と、関の数学の不継承 もしも… 新全集でやり残したこと おススメの予習本 裾野を広げたい >>前編はこちら 関孝和、突然の登場の謎 上野 『塵劫記』最後の版で、吉田(よしだ)光由(みつよし)が答えを書かない問題を出したんです。そこから「遺題継承」というのが始まった。それはある種の他流試合みたいな感じなんです。イタリアの場合は直接対決でしたが、遺題継承は本を通した、もっと穏やかな対決。 橋本 たとえば郵便将棋のような。 上野 そうやってみんな数学を一生懸命勉強するわけだけれども、多分そのときに『算学啓蒙』という本が日本に入ってきている。おそらく朝鮮経由のもので、もしかすると中国から直接お坊さんが持ってきた可能性もある。それを勉強して天元術を理解できるようになったのが沢口(さわぐち)一之(かずゆき)だとされている。本当に独力で理解で
目次 編者4人の役割 旧全集への疑問 本文を確定する作業 読み下しと現代語訳 関の著作は何か 関孝和の数学 国文・国語学の人にも見てほしい 背景事情を探る史料 和算の源流、中国の数学 関以前の和算 編者4人の役割 写真左から、上野健爾氏、佐藤賢一氏、橋本麻里氏 橋本 このたび刊行される『関孝和全集』(上野健爾・小川束・小林龍彦・佐藤賢一編、岩波書店、2023年10月刊)をまとめる過程で、お二人はそれぞれどんな役割を担われたのですか。 上野 私はもともと数学史の専門家ではありません。和算に興味を持ち始めたのは京都大学にいたときで、隔週土曜日に高校生を集めて数学の話をしていたのですが、なにか面白い話題はないかなと和算の資料を読んでいるうちに、だんだん虜になったというのが一つ。もう一つは、日本数学会で関孝和賞を作ろうとしたときに、大阪教育図書から出ていた『関孝和全集』(平山諦、下平和夫、広瀬秀雄
本村昌文 岡山大学 日本思想史の研究者で、大学の教員をしています。妻の病気をきっかけに2005年8月から在宅介護生活が始まり、2021年11月28日に終止符が打たれました。16年と3カ月にわたる在宅介護生活では、介護サービスを利用する以外はほぼ1人で介護を行っていました。以下で、そのころのことを振り返ってみます。 在宅介護生活のはじまり──最も大変な日々 2004年9月、朝になっても目が覚めなかった妻は、救急車で病院に搬送されました。脳内で出血し、血腫ができて脳幹を圧迫し、昏睡状態になっているとのことでした。医師から「このまま手術をしなければ命を落とし、仮に手術が成功しても意識がもどる可能性はきわめて低い」と言われ、私は厳しい「選択」を迫られました。最終的に手術を行い、奇跡的に、妻は意識を取り戻しました。 翌年の2月までは救急車で搬送された病院に入院していましたが、その後、リハビリのために
【連載】前田健太郎「政治学を読み、日本を知る」(3) 政治体制の比較歴史分析 今回は、リプセットの近代化論に対する最大の挑戦を取り上げよう。それが、バリントン・ムーアの一九六六年の著作『独裁と民主政治の社会的起源』(宮崎隆次・森山茂徳・高橋直樹訳、岩波文庫、二〇一九年)である。本書は、経済発展が民主主義をもたらすどころか、独裁体制を生み出す場合もあると論じた。 バリントン・ムーア 著, 宮崎隆次・森山茂徳・高橋直樹 訳『独裁と民主政治の社会的起源』(岩波書店) それによれば、近代に至る道は大きく分けて三つある。第一は、民主主義に至る「ブルジョワ革命」の道である。イギリス、フランス、アメリカの三カ国では、ブルジョワジーが権力を握って代議制を打ち立てた。これは一見、近代化論のシナリオに似ているが、政治勢力としての地主の消滅が決定的な条件となる。 第二は、ファシズムに至る「上からの革命」の道であ
【連載】前田健太郎「政治学を読み、日本を知る」(2) 民主主義と近代化論 民主主義が繁栄するための条件は何か。この問題について論じる際、政治学では経済的な要因を重視する。中でも重要なのは、近代化論という学説である。それによれば、経済発展が進むほど民主主義は安定する。アメリカの社会学者S・M・リプセットの一九六〇年の著作『政治のなかの人間』(内山秀夫訳、東京創元新社、一九六三年)は、この近代化論の出発点であった。 S・M・リプセット 著, 内山秀夫 訳『政治のなかの人間』(東京創元新社) 本書の学説史上の意義は、まず何よりも、定量的な手法を用いたことにある。具体的には、世界五〇カ国の民主国家と独裁体制について統計データを収集し、前者の方が経済的な豊かさや産業化の水準が高いことを示したのである。この手法は、政治現象の普遍的な法則性を探求するという観点から、以後の民主化研究で広く用いられることに
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