◇冲方丁(うぶかた・とう)・著 (角川書店・1890円) ◇天と地を見極め暦を改めた江戸の男たち とても面白い小説である。一部の読者に熱狂的に迎えられているらしい。無理もないなあと思う。私も一気に読了してしまった。 小説の主題は江戸初期の改暦、主人公はその中心人物だった渋川春海である。なんだ、それじゃあ学問的でまじめな、つまらない話じゃないか。そう思う人にこそ、ぜひ読んでいただきたい。学問とは、つまらない話ではない。現代の学校がつまらないのは、私のせいじゃない。 暦はもはや世界的に統一されてしまった。まさか暦がバラバラだったとは、夢にも思わない。そういう人も多いはずである。歴史上の事件の年月日を原典で調べたら、現代の暦に合わない。そもそもその原典が利用した暦はなんだったか、まずそれを知らなければならない。 主人公の時代まで八百年、延々と使われてきた宣明暦(せんみょうれき)は、当時もはや明白