■繊細に変わる「ことば」を探求 平安時代、ことばを自在に操ることができたのは、貴族と上級の宗教者に限られていた。鎌倉時代になると教養を獲得した武士が自己を主張するようになり、室町時代には多くの庶民もぎこちなくかな文字を書き始める。下克上の戦国時代、これらの動きは渾然(こんぜん)一体となり、ことばは列島に生きる人々みなのコミュニケーション・ツール、共有財産となった。本当の意味で、日本語が成立したのだ。 戦国時代には、どのような日本語が書かれ、読まれ、話されていたのだろうか。本書は、和風漢文で叙述された貴族(とくに三条西実隆〈さんじょうにしさねたか〉という人物)の日記に文章表現の形態をさぐり、当時の辞書である『節用集』を用いて「生のことば」とその背後にある文化を考察する。また宣教師が遺(のこ)した文献を用いて発音や読みの実態にせまり(横文字で書いてあるので、発音がリアルに分かる)、農民から関白