19世紀に活躍した哲学者、ショーペンハウアー。 評論雑誌のなかで、匿名で言論活動をおこなう批評家たちについて彼は、こんなことばを残している。 もはや文筆の世界におけるほど、不誠実が幅をきかせているところはない。(中略)なによりも、物書きの悪習の盾となっている匿名性が廃止されねばならない。評論雑誌が匿名性を採用した口実は、読者に警告する正直な批評家を、著者やそのパトロンの遺恨から守ることだった。 「著述と文体について」(『読書について』収録 鈴木芳子訳/光文社古典新訳文庫)なぜ言論に匿名性が必要なのか。それは声をあげた者(この場合は誰かの著作物について批評した者)を、保護するためである。身の安全が担保されてこそ、批評家は正直な批評をおこなうことができる。それがメディアの言い分だった。というわけである。しかし彼は、その欺瞞をこうあげつらう。 だがこの種のケースが一件あれば、自分で言ったことの責