芝七軒町左手、鍵屋長屋の木戸を入り左中棟の角が菊池三之亟の寺子屋、その右隣りが三之亟とお絹の家と稽古場である。「おや、音乃様お久しぶりですね。今日はお稽古でございますか。真砂さまも・・・・」左棟角の煮売り屋おみよが声をかける。「お稽古ですよ。弟は三之亟様と少しお話がありましてね」「よろしかったら、帰りにお寄りください。よい目黒の筍と深川沖の蜆が入っておりますよ」「おや、それは楽しみなことですなあ」音乃はお絹の元へ、真砂は角の寺子屋に入って行く。「真砂様、お珍しい」書き机から目を上げた三之亟。少し髪が白くなり始めている。それから一時、真砂の話を黙って聞く三之亟。「だいぶに、惚れたようですなあ。羨ましい。旗本の身分からすると思い切った決断ですな。まだ三日とは・・・ちと早い気もするが・・・思いは固いようだ」「こ...こんな輩もいた北町同心三ツ石真砂の祝言その2