【曇り空のあと】 放課後、メールチェックをしていた賢次(けんじ)の手が止まる。 〈もう付き合えない。別れよう〉 彼女からだった。 どういうことだ。賢次はすぐに返信しようとしたが、言葉がまったく浮かんでこなかった。 彼女とは十五の春から付き合いだし三年目になる。一週間に一回はどこかに出かけていたし、付き合う前は泣かせたこともあったけど、今はそんなことない。ちゃんと大切にしている、はずだ。…
【素敵な花嫁と漬け物石】「地元で結婚式をあげろって両親がうるさくて」 嘘だ。それは絶対嘘だ。 俺は身体にまとわりつく重みに歯を食いしばりながら、きっ、と前を見据えた。「おまえがそれを! 運転したかったからだろう!」 視線の先、そこには、純白のウエディングドレスを着た新婦——俺の妻となる月子(つきこ)だ——がいる。彼女は今、得体の知れ…
【鬼ものがたり】 『鬼山族を、知っていますか? 一言でいうと、髪の生え際部分に一本ないし二本の角が生えている「鬼」のことです。 ここ、五月雨町(さみだれちょう)には昔々から……おじいちゃんのおじいちゃんの、そのまたおじいちゃんよりもはるか遠い昔から、存在し続けている由緒正しき鬼山族。 通常は帽子やタオルなどで角を隠していますので、一般の人間と遜色ありません。 みんなも、恐れることなく…
【甘い夢の処方せん】 眠れない夜、俺はあいつの言葉を思い出す。 「眠いから寝て何が悪いのよっ!」 全く持ってその通りです。俺は思わず苦笑する。 * * * 高校三年生だった十年前、燕家 彩歌(つばめけ あやか)のその潔さに俺は、早い話が惚れてしまった。 必死にあくびをかみ殺して、目尻に涙まで浮かべ…
【一年の計は元日にあり?】 一月一日。 新しい年の始まりにここまで胸が高鳴っているのは三星一祈(みつぼし かずき)として十四年生きてきて初めてかもしれない。そりゃそうか、クラスメイトの相川沙夢(あいかわ さゆ)と初めて一緒に初詣に行くのだから。おかげで、いつもは時間にルーズな自覚のあるオレが待ち合わせの時間ぴったりに着いてーー 「きゃあっ」 叫び声とともに視界に入ってきた何かにオレは思わず…
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