グーグルやフェイスブックは急拡大しているデジタル広告で、アマゾンも米国のeコマースで大きなシェアを握っている。イノベーションの担い手として称賛と尊敬を集めてきた米国の巨大テック企業だが、最近はその影響力の大きさを危惧する声も強まっている。グーグル、フェイスブック、アップル、アマゾンの4社についてまとめた、『The Four』を米国で上市したニューヨーク大学スターンスクール(経営大学院)のスコット・ギャロウェイ教授に話を聞いた(ニューヨーク支局 篠原匡、長野光)。

ギャロウェイ教授は新著、『The Four』でアマゾン、アップル、フェイスブック、グーグルという巨大テック4社の影響力と脅威を描いている。それぞれについて、まずはお聞かせください。

<span class="fontBold">スコット・ギャロウェイ<br />ニューヨーク大学スターンスクール教授。ブランド戦略とデジタルマーケティングを教える。ワールド・エコノミック・フォーラムが40歳以下を対象に選ぶ“Global Leader of Tomorrow”に選ばれたことも。デジタル戦略に特化したブランドコンサルティング会社、L2を創業、グローバルにクライアントを抱える。</span>(写真:Chiaki Kato)
スコット・ギャロウェイ
ニューヨーク大学スターンスクール教授。ブランド戦略とデジタルマーケティングを教える。ワールド・エコノミック・フォーラムが40歳以下を対象に選ぶ“Global Leader of Tomorrow”に選ばれたことも。デジタル戦略に特化したブランドコンサルティング会社、L2を創業、グローバルにクライアントを抱える。
(写真:Chiaki Kato)

スコット・ギャロウェイ教授(以下、ギャロウェイ):この4社の中で抜け出す企業を挙げれば、現時点ではアマゾンの可能性が高いと思う。アマゾンはほかの3社との競争分野で優勢に戦いを進めているからだ。

 検索におけるグーグルの戦いを見ると、グーグルは検索市場の大半をコントロールしているが、商品検索ではアマゾンがシェアを2015年の44%から2016年の55%まで伸ばした。ハードウェアにおけるアップルとの競争を見ても、2015年と2016年で最もイノベーティブなハードウェアはアップルウォッチではなくアマゾンのエコーだ。

 広告を巡る戦い、すなわちブランド企業からデジタルマーケティングの資金を奪う戦いも、広告事業を手がけるアマゾン・メディア・グループはフェイスブックやグーグルよりも速いペースで成長している。現在、メディア・グループの広告収入は約15億ドルでスナップ(旧スナップチャット)の3倍だ。あと2~3年でツイッターよりも大きくなるだろう。

アマゾンの次の買収ターゲットは百貨店のノードストローム

 テレビに目を向けてもそうだ。プライムタイムでのストリーミングのシェアは7番手だったが、この1年で3番手に浮上した。「音声」の分野もグーグルやアップルと競合しているが、音声アシスタントAI(人工知能)のアレクサは家庭用音声AIスピーカーで70%のシェアを得ている。

 この4社はそれぞれがぶつかっているが、アマゾンは各戦線で勝っている。アップルの時価総額は8600億ドルと1兆ドルに最も近いが、私はアマゾンが最も早く1兆ドルに到達すると思っている。

アマゾンは高級スーパーのホールフーズ・マーケットを買収して生鮮・グロッサリーの販売を大幅に強化した。次の買収はどこだと思う?

ギャロウェイ:論理的に考えると、(米高級百貨店チェーンの)ノードストロームだと思う。ホールフーズの買収によって、アマゾンは米国の富裕層の冷蔵庫にアクセスできるようになった。だが、アマゾンはカネ持ちのクローゼットには入り込めていない。ラグジュアリーなファッションブランドやアパレルブランドは公式にはアマゾンで販売していないだろう?

 もしアマゾンがノードストロームを買収すれば、富裕層好みのブランドと関係を構築することができる。もっとも、ノードストロームは創業者一族のコントロールが強く、まだ現実的ではない。こういう会社は株主総会や取締役会ではなく、サンクスギビング・デー(感謝祭)のディナーの席で戦略を決めるものだ。

 また、ダークホースとしてケーブルテレビ会社の買収も考えられる。アマゾンが作成しているコンテンツを流すためだ。アマゾンはオリジナルコンテンツの作成に45億円を投じている。ネットフリックスの60億ドルに次ぐ規模だ。ケーブルテレビ会社とそのコンテンツを買えば、さらに成長は加速する。配送網の強化のための買収に動く可能性もある。

米国では音声ショッピングが本格的に立ち上がろうとしている。買い物の手段として音声が主流になると、従来のマーケティングはどういう影響を受けると思う?

ギャロウェイ:米国の消費財企業はパッケージやエンド陳列など店内マーケティングに多額の資金を投じてきた。だが、音声注文によってそういう手法は無意味になる。考えてもみてほしい。音声で注文するようになれば、消費者は価格を見ることはないし、目線の高さに陳列する意味もない。音声は商品のブランド価値を維持するための努力を取り去ってしまう。これは消費財企業にとっては恐怖だ。

 次の疑問は消費財企業がどのように音声を活用していくかだ。ここは正直なところわからない。ただ、消費材企業にできる唯一の対応は、先んじて小売り企業と統合していく以外にない。P&Gとユニリーバは(アマゾンによる買収提案の時に)ホールフーズに対してカウンター・オファーを入れるべきだったと今でも思っている。

 アップルが証明したように、優れたブランドを構築するには小売りを所有し、消費者との接点に投資していくことが不可欠だ。アップルというブランドがなぜサムスンよりも強いのか。それは製品ではなく、アップルストアにおける購入体験の影響が大きい。サムスンのスマホは恐らくアップルのものより優れている。だが、アップルストアで買うのと、AT&Tやベストバイでサムスンのスマホと買うのではぜんぜん違う。

フェイスブックはキリスト教よりも受容されている

 いずれにせよ、消費者と直接つながるために、消費財を扱う大企業がECに投資したり、小売り企業を買収したりする姿を今後は見ることになるだろう。音声が既存企業のブランド資産を破壊していくからだ。

次のヒューマン・マシン・インターフェースは音声で決まり?

ギャロウェイ:断言できる。2020年までにあらゆるコンピューティングの3分の1がスクリーンを必要としなくなるはずだ。エコーを使っていれば分かると思うが、音声を通して指示を出すのは簡単で自然で、とても効率的だ。私の子供がアレクサに頼んでいるのを見ていて、とても快適だと思ったよ。私は音声が社会を変えるテクノロジーの一つだと感じている。この分野でマーケットシェアを取るのは大きい。その会社は今はアマゾンのように見える。

『The Four』の中で、フェイスブックは人類で最も成功した企業だと書いている。そのココロは?

ギャロウェイ:インスタグラムやワッツアップを含め、フェイスブックは約20億人と有意の関係を築いている。人類の歴史の中で20億人と関係を構築したものはほとんどない。中国の人口は13億人、資本主義システムの中で暮らしている人の数を見ても20億人くらいだろう。サッカーは例外的に20億人以上に愛されているが、カトリックが11億人ということを考えると、フェイスブックはキリスト教よりも受容されていると言ってもいい。恐らくフェイスブックは史上最も成功した“人工物”だ。

 今のトレンドが続けばという前提だが、平均的なミレニアル世代(2000年代に成人になった世代)は彼らが死ぬまでに、フェイスブックとインスタグラムに2年半分の時間を費やす。ユーザー数というだけでなく、時間の消費という面でも並外れた成功を収めている。コンテンツをユーザーに作らせるというモデル、承認を必要とせず広告をシームレスに投稿できるというモデルによって、歴史上最も利益を稼ぐメディア企業の一つになっている。

神父や教師よりも信頼されているグーグル

シームレスな広告出稿システムがロシアによる大統領選への介入を招いたという批判は根強い。フェイスブックはメディアではないと抗弁しているがどう思う?

ギャロウェイ:コンテンツを作り、その対価として広告費を得ていれば、それはメディア企業だ。フェイスブックは高い利益率やメディアとしての影響力を謳歌しているが、メディア企業としての責任は受け入れていない。彼らは「われわれはプラットフォームでありメディアではない」と繰り返し述べているが、「利益を押し下げるようなことはしたくない」と言っているに過ぎない。

次はグーグルについて聞きたい。書籍の中で「神」と形容している。

ギャロウェイ:社会の教育水準が上がり、豊かになるにつれて、社会は超越的な存在には依存しなくなる。事実、教会への出席者は減っている。だが、答えようのない問題に解答をくれる超越的な存在を求めるのも人間だ。その空白を埋めているのがグーグルだと思っている。いまや神父や教師よりもグーグルの方が信頼されている。

 かつて子供が病気になれば神に祈ったものだが、今ではグーグルの検索窓に気管支炎の症状をタイプすれば対処法が出てくる。グーグルの検索窓にタイプされる質問の6つに一つは人類の歴史の中で決して尋ねられることのなかった質問だという。かつて神に尋ねていたものをグーグルに尋ねているとすれば、それは神だ。

 グーグルは世界中のベストな大学からトップクラスの才能を惹きつけている。同時に、働きがいのある組織であり続けるために、高い報酬や自由を提供している。グーグルに集まったIQはNASA(米航空宇宙局)よりも米軍よりも、(原爆の開発を進めた)マンハッタンプロジェクトに集まった科学者よりも優れている。地球上に集められた中で最も優れた知性の集まりだと思う。

人間の生殖本能にアピールするアップルの商品

ギャロウェイ教授はグーグルを「脳」、フェイスブックを「心(ハート)」、アマゾンを「胃袋」、アップルを「局部」にたとえている。なぜアップルが局部なのか?

ギャロウェイ:人間の一番の本能は生き延びることだが、米国や日本で暮らす人々の大半は生き延びることに不安はない。それでは次の本能は何かというと、子供を作ることだ。われわれは自分が魅力的だというシグナルを発したい。将来の伴侶に優れた遺伝子を持っているということを伝えたい。高価な時計をつけようと思うのも、高価な服を着ようと思うのも、高価な眼鏡をつけようと思うのも、そのシグナルを発するためだ。

 その視点でアップルを見ると、アップルは新たなラグジュアリー・アイテムと言える。iPhoneXを持つことで、「自分がイノベーション階級の一員だ」ということを暗に伝えている。1000ドルのスマホを買う余力があるというシグナルを発している。つまりアップルは財力や創造性の象徴であり、人間の生殖本能にアピールしているという意味だ。

イノベーションの担い手としてこの4社は広く尊敬を集めていたが、最近は急激な成長や影響力の大きさを危惧する声も上がる。

ギャロウェイ:それについては疑いない。米国人や西欧人はビックテックやイノベーターを偶像崇拝していたが、見方を変え始めている。彼らはあくまでも利益追求の株式企業であり、われわれの感情にも、老後の状況にも関心を払っていないということに皆が気づき始めた。

 テック4社は雇用創出について話すが、一方で雇用の破壊者でもある。社会を便利にしていると言うが、一方でプライバシーの懸念ももたらしている。先ほども話に出たように、フェイスブックがロシア政府の諜報部隊による攻撃として使われた。合法的な税逃れも得意としている。

 アマゾンがホールフーズを買収すると発表してから実際に完了するまでに、食品スーパー最大手の米クローガーは時価総額の3分の1を失った。また先日、アマゾンがドラッグストアビジネスへの参入を検討していると発表した時も、大手チェーン2社の時価総額は5%近く吹き飛んだ。この時は検討するといっただけで実際にやるとはまだいっていない。いわばプレスリリース1枚で競合に大打撃を与えたわけだ。

恐ろしいまでの破壊力……

ギャロウェイ:伝統的な反トラスト法の基準によって、規制当局がビッグ4を俎上にあげることができないということはもっと議論されるべきだ。反トラスト法の基準の場合、消費者利益に適っていれば違反を問うのは難しい(日経ビジネス10月2日号特集「アマゾン ベゾスに見える未来」に詳細)。ビッグ4が消費者にグレートではないということを議論するのはほとんど不可能だからだ。アマゾンが消費者多大なる恩恵を与えているのは論を待たない。

世界で最も成功した企業が法人税を払わなければ社会はどうなるのか

 ここで問われているのは、消費者にとっていいことが本当に社会にとっていいことなのか、ということだ。

 仮にある企業が支配的な地位を得た後に劇的に価格を上げればどうなるのか。資本市場から金を調達してブレークイーブン(収支トントン)で経営し、法人税を払うことなく時価総額を増やしているが、世界で最も成功した企業が法人税を払わなければ社会はどうなるのか。

テック企業に対して米政府の規制強化はあるだろうか?

ギャロウェイ:分からないが、政府にできることはたくさんある。罰金を科すこともできるし、組織を解体することもできる。海外にため込んだキャッシュに税金をかけることも可能だ。純粋な反トラスト法という観点で最も脆弱なのは、検索市場の圧倒的なシェアを考えるとグーグルだろう。もっとも、現在の政権がグーグルをどうこうしようと思っているようには見えない。政府の介入があるとすれば米国以外、恐らく欧州だろう。過去最高額の制裁金もあると思う。

教授はアマゾンからアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を分割すべきだと主張しています。

ギャロウェイ:私がアマゾンの取締役会のメンバーであれば、それを調べるようバンカーに頼むよ。アマゾンにとって、政府の介入を遅らせ、防ぐ最善の方法はAWSの分離だと思う。言葉を換えれば、政府がそれを強行する前に、自身で解体すべきだということだ。分割によってそれぞれの価値が高まれば株主にとってもいい。

過度の規制がイノベーションの芽を摘むという声もある。

ギャロウェイ:それは重要なポイントだが、仮にアマゾンからAWSを切り離したとして、それがアマゾンのイノベーションに影響を与えるだろうか。ワッツアップとインスタグラムをフェイスブックが分離したとして、株主と会社にはバッドかもしれないが、イノベーションと消費者にはバッドだろうか。インスタグラムを手放して、フェイスブックのカスタマー・エクスペリエンスが悪化するだろうか。インスタグラムのカスタマー・エクスペリエンスが低下するだろうか?

ヒツジの皮を被ったダースベイダーだと思われ始めた

 議論のバランスを取るために指摘するが、若いスタートアップがビッグ4に殺されるのを防ぐために分割が必要だという議論も可能だ。

 フェイスブックは人気の出てきたアプリを検知するソフトウェアを持っている。利用者が増えると、即座にそのアプリを分析し、その機能を自身のサービスに取り込む。若い企業がプラットフォームになる前に、フェイスブックはその特徴を取り入れてしまうんだよ。これでは生まれたばかりのスタートアップがティーンエイジャーになるのは難しい。

最後に、改めて2017年を振り返ってもらえますか?

ギャロウェイ:「2017年がどういう年だったか」ということを振り返ると、一番の変化はテック企業に対するセンチメントの変化だ。われわれはスティーブ・ジョブズやイーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグ、ジェフ・ベゾスをキリストのようにみなしてきたが、彼らを英雄視する風潮は変わりつつある。

 テック企業は相変わらず自分達が温かく、愛される存在として自身を表現している。「リーン・イン」と言いつつ世界を巡るシェリル・サンドバーグ、あるいはフォーチュン500企業のトップで始めてゲイを公言したティム・クックかどうかはともかく。消費者に好かれるというのが規制を防ぐカギだからだ。

 だが、段々と彼らは好かれなくなっている。今年も社内のセクハラや過度に競争的な社風でウーバーが叩かれた。欧州では独占禁止法違反でグーグルが制裁金を科せられた。フェイスブックやグーグル、ツイッターでロシア政府の代理人が選挙に介入したことも明らかになった。われわれは彼らに不安を募らせている。かつては大好きだったが、ヒツジの皮を被っているだけで、中身はダースベイダーなのではないかと思い始めている。

それでは2018年には何が起きる?

ギャロウェイ:一つ言えるのは、音声を巡る戦いが激しさを増す。また、2019年だと思うが、アマゾンとネットフリックスのバトルも激烈なモノになるだろう。テレビやスマホのスクリーンを巡るコンテンツの戦いだ。

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