テスラは窮地に追い込まれている(写真:ロイター/アフロ)
テスラは窮地に追い込まれている(写真:ロイター/アフロ)

 4月12日のコラム「テスラが抱える三重苦、経営危機に陥る?」に対して、多くのコメントをいただいた。内容に賛同する意見もあれば、真逆の意見もあった。コメントを寄せて頂いた方々にはお礼を申し上げたい。

テスラ問題、その後も浮上

 前回に引き続き、今回もテスラの件を分析してみたい。4月18日、MITテクノロジーレビューは、「テスラ、モデル3の生産を一時停止 ロボット依存見直しへ」と報道した。

 それによれば、テスラが「モデル3」の生産を中断するとのこと。イーロン・マスクCEOも認めているが、組み立てにおけるロボットへの過度の依存を是正するためという。4月第2週のCBSとのインタビューでマスクCEOは、「車両製造でロボットに大きく頼り過ぎた。テスラの過度の自動化は間違いだった」と語ったとされる。

 対象は、カリフォルニア州フリーモントにある「モデル3」の生産工場で、自動化の改善に取り組むため、4~5日間生産ラインを止めるという。社員は有給休暇を取るか、無給で自宅待機とのこと。生産ラインを一時停止させ、いくつかのロボットを生産ラインから撤去する模様だ。

 しかし、自動車技術に対する安全性への緩い考え(厳格な試験や確認を行わない中での自動運転による死亡事故、複数の国・地域で頻繁に起きている車両火災事故がそれを裏付ける)や脆弱な財務への懸念が重なって、多くの投資家が不安を抱くことは避けられないとも報じている。これも客観的事実としての説明である。

 一方、この内容とは全く違う話だが、4月19日のEngadget日本版では、「テスラの労働環境問題」が取り上げられている。それによれば、カリフォルニア州当局が、「『モデル3』生産工場での労働環境に関する調査を開始する」と発表したという。生産工場における災害発生件数に関して、過少報告の疑いが浮上しているとのことだ。

 テスラのフリーモント工場における災害件数が、かつては同業他社に比べて多いとされていたが、2017年の報告では「業界平均以下にまで災害件数が下がった」とされたことが調査のきっかけになったようだ。

 しかし、調査メディアのRevealがテスラの現社員や元社員の30人以上から聞き取りを行った結果、この災害件数は本来災害に数えられるべき事例をカウント対象外となる私傷病扱いにしていたことがわかったとしている。同社は、「テスラがこの記録件数を意図的に少なく報告した」と主張した。カリフォルニア州では、労働中に発生した応急手当や就労制限、失業の原因となる災害をすべて報告する義務が企業に課せられているようだ。

 災害から除外された事例としては、骨折や裂傷もあったという。「これが事実だとすれば労災隠しとなり、悪質と言わざるを得ない」と表現している。ブルームバーグによれば、カリフォルニア州労働安全衛生局は、この疑惑に対して正式に調査を開始したとのこと。この事案が明るみに出れば、前回のコラムで表現した「テスラが抱える三重苦」は「四重苦」に拡大する。いずれにしても、この案件も大いに気になるところであり、今後の調査結果に注目したい。

四重苦から五重苦への発展も?

 そしてさらには、追い打ちをかける状況が迫っている。それは、米国と中国政府が発した追加関税の対象品目に自動車が含まれていることだ。現在、テスラが中国市場で販売しているEVは全て米国製であるため、既に25%の輸入税が課せられている。さらなる関税の上乗せは、テスラの今後の輸出ビジネスに極めて大きな影響を及ぼすことになる。

 ブルームバーグのデータによれば、同社の中国市場における2017年の販売台数は1万4883台で、中国市場での全EVの3%程度、メーカーとしては10位。しかし、中国市場における同社の収益は全体の17%に相当したという。

 ならば、同社としては中国国内でのEV生産を早期に開始したいところだ。もともと、テスラは19年以降に中国生産工場への大規模な設備投資計画を発信していた。しかし、昨年から上海市政府と協議しているものの、現時点で投資は合意に至っていない。

 仮に合意が得られたとしても、この時点で同社が中国への投資を手がけることは得策ではない。というのも、米国での生産が全く軌道に乗っていないからだ。まずは、米国での生産計画を目標の週5000台に上げていくことが先決である。これ自体が大きな課題であることは、前回のコラムに記した通りである。それだけに、中国市場での販売ビジネスは今後も大きな難局を迎えることになり、「四重苦」にとどまらず、「五重苦」にまで発展する可能性さえある。

テクノフロンティアでのテスラの話題

 4月18日から20日まで、日本能率協会主催の「テクノフロンティア 2018」が幕張メッセで開催された。このイベントは、シンポジウムと展示会が同時に開催されているもので、シンポジウムは「磁気応用技術シンポジウム」「モータ技術シンポジウム」「電源システム技術シンポジウム」「バッテリー技術シンポジウム」「熱設計・対策技術シンポジウム」「EMC設計・対策技術シンポジウム」「センシング技術シンポジウム」「次世代自動車技術シンポジウム」の8分野で構成されている。

 最も長い歴史を持つのは「モータ技術シンポジウム」で、本年で第38回を迎えた。筆者が企画委員を務める「バッテリー技術シンポジウム」は、第26回を数えた。昨今の自動車の世界的な電動化の流れを受け、この2つのシンポジウムは昨年より参加者が急拡大した。「バッテリー技術シンポジウム」の参加者は約500人と、昨年より35%ほど多かった。

 自動車各社の電動化動向、電池業界の競争力、部材サプライチェーン、次世代革新電池の研究動向、自動車業界と電池業界からの直接的話題提供、そして電池の安全性や認証に関するビジネス動向など内容は多岐に亘った。

 企画委員として筆者が担当したセッション「車載用リチウムイオン電池の現状と安全性評価試験」における、電池本体と安全性に関する内容を訴求した解説メッセージは以下の通りである

 「2018年から一段と強化された米国ZEV規制、19年から発効する中国NEV規制を受けて、自動車業界の電動車開発が一段と加速しています。そこで最も重要なコンポーネントのひとつである電池、とりわけリチウムイオン電池は、技術開発、コスト低減、生産キャパ拡大に向けた投資戦略で、電池業界の競争が激しさを増しつつあります。

 本セッションでは、日本および韓国の電池企業から各社の現状や今後の展望、ビジネス戦略についてお話しいただきます。一方、2016年7月から適用された車載用電池の安全性に関する国連規則は、自動車業界や電池業界にとって重要な指標となっています。さらには中国のGB/T規格、各社の独自評価試験等、車載電池開発には大きな負荷がかかっています。受託試験から認証事業を国内にてワンストップで提供できるエスペック㈱は、各業界の開発効率を高める上で大きな役割を担っています。本構成により、関連業界各社にとっては有意義なセッションになるものと確信します。」

 安全性や信頼性が重要であることは言うまでもなく、国連規則にまで拡大され車載電池の認証を取得できなければ販売できない状況にある。電気自動車(EV)やEVバスでの火災事故が起きてきたこと、そして現在も発生していることから、規則が義務付けられることになった。

 以前のコラムでも記述したが、日本のEV等で市場での火災事故を発生したものはない。それは、自動車各社や電池各社が、国連規則以上に独自の厳しい基準を設定し、開発過程ですべてクリアしているからにほかならない。

 それに対し、火災事故が偏在しているのがテスラの「モデルS」と中国ローカルのEVタクシーやEVバスである。米国と中国市場では、国連規則ECE-R100.02 Part2の適用を強いられてはいないが、その分、それぞれで規格が適用されつつあるものの、規格の本格化が十分に進んだとは言えない。

 シンポジウムで自動車各社がプレゼンしたセッションでは、トヨタ自動車の安全性と電池性能の進化を追い求める全固体電池の研究開発、ホンダのモバイル電池パックシステムへの取り組み、独ダイムラー・シュトゥットガルト研究所の電池の安全性を最大に高めるための電池モジュール(単セルの集合体)からパックシステム(モジュールの集合体)に至る開発状況など、いずれも安全性を基本に開発している状況が説明されている。

 会場からの質問も多岐に亘ったが、技術開発面では安全性や信頼性に関する質問が多くを占めた。テスラの火災事故原因に対する質問も出たが、明確な回答は得られていない。それもそのはず、当事者であるテスラが明らかにしていないのだから無理もない。

 テスラのような新興ベンチャー企業や、電動化の歴史と開発が浅く、技術完成度が低い中国ローカルメーカーは、安全性に関する考え方を一段、二段と高めていくことが必要である。そのためには、ECE国連規則に類似した試験をクリアするのは必定だが、それよりも自主的に設定するよりハードルの高い限界試験など、日本の自動車各社が常に実施している独自の限界試験などをベンチマークして、安全性に関する検証と開発を早急に進めていくことが求められる。

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