1月29日、東京都千代田区。日比谷公園近くの歩道には何やら人だかりができていた。何かイベントでもあるのだろうか? と思って見渡すものの、そんな様子はない。ただし、全員がスマートフォンの画面をのぞきこんでいる……。

1月29日、日比谷公園近くでポケモンGOをプレーする人々
1月29日、日比谷公園近くでポケモンGOをプレーする人々

 何も知らない人の目には奇妙な光景に映ることだろう。だが、分かる人には分かる。この場所はスマートフォンゲーム「ポケモンGO」の世界で「ジム」と呼ばれるバトル拠点に設定されている。このときジムには「伝説のポケモン」と称されるレアなキャラクターが登場し、プレーヤー同士が協力して闘う「レイドバトル」が開かれていたのだ。

分かる人には分かるロングヒットの理由

日比谷公園近くに人々が集まっていた1月29日、ポケモンの世界における「日比谷公園近くのジム」では、伝説のポケモンとのバトルが開かれていた
日比谷公園近くに人々が集まっていた1月29日、ポケモンの世界における「日比谷公園近くのジム」では、伝説のポケモンとのバトルが開かれていた

 日比谷だけが特殊な場所、というわけではない。同様のジムは全国各地に設置され、レイドバトルが開かれるとプレーヤーたちが群がる。

 ポケモンGOがリリースされたのは2016年7月。それから1年半が経ち、「話題なのでひとまずダウンロードしてみた」層こそ遊ぶのを止めたものの、いまだに世界で6500万人が定期的にアプリを起動し、独特の世界観に魅せられている。

 なぜ「ただのゲーム」が、ここまで人々を引き寄せるのか。分かるひとには分かるが分からないひとにはなかなか分からない、ポケモンGOのロングヒットの理由とは。日経ビジネスはこのほど、同ゲームを開発・配信する米ナイアンティックのジョン・ハンケCEOにインタビュー取材をする機会を得た。

 インタビューの全文は日経ビジネスDIGITALに掲載します。詳しくは本記事末尾をご参照ください。

 ハンケCEOがインタビューで強調したのは、ゲームそのものの面白さはロングヒットの最大の理由ではない、という点だ。ハンケ氏は語る。

 「それ以上にゲームで遊ぶためにプレーヤーたちが外出し、自分たちが日常を送る世界の面白さに気づくきっかけとなった。何気ない身の回りの日常が、ポケモンたちのおかげでより彩り豊かなものになった。この点が、広く支持されたのだと思います」

 ポケモンGOは、キャラクターを捕まえるのにも攻略アイテムを入手するのにも、とにかく現実世界を歩き回らないといけないゲームだ。

 現実世界とゲームの世界はデジタルの地図と位置情報でリンクされている。そして現実世界に実存する歴史的な建造物や場所、看板や石像、石碑などが、ゲームの世界では重要な拠点として設定されている。このためプレーするには街に出ないといけない。そして、レイドバトルのような参加型のイベントがあれば、同じくポケモンGOをプレーしている人々と顔を合わせることになる。

 「私たちの身の回りはいろんな興味深いものであふれています。ただ、その事実に気づかないまま暮らしている人も多いのではないでしょうか。……ですからポケモンGOの楽しさは、単にピカチュウを捕まえることにあるのではありません。外を歩き回って、足を運んだことのない場所に出向き、その場所でいろんな人々とつながる点にあるのです」

最近のアップデートでは現実世界の天気と、ゲームの世界をリンクさせるようにしている。左の画像は1月22日、東京で大雪が降ったときのポケモンGOのプレー画面。右の画像は雨天時(一部画像処理しています)
最近のアップデートでは現実世界の天気と、ゲームの世界をリンクさせるようにしている。左の画像は1月22日、東京で大雪が降ったときのポケモンGOのプレー画面。右の画像は雨天時(一部画像処理しています)

「ハリポタ」も外を歩き回るゲームに

 ナイアンティックは17年秋、ハリー・ポッターを題材にした新ゲームを開発していると発表。近く配信を開始する。ハンケCEOはインタビューで「まだ詳しくはお伝えできない」としつつ、同ゲームも「外出し、街のいろんな場所を訪れ、人とのつながりを楽しむ」ことで遊ぶような内容にすると明かした。

 ゲームを開発・運営する会社として脚光を浴びるナイアンティック社だが、ハンケCEOは自社の事業内容を必ずしもゲームに限定するわけではない。

 「私たちのゴールは、AR(拡張現実)を活用したいろいろなアプリケーションやサービスを生み出すための技術的な基盤(プラットフォーム)を提供する会社になる、ということです。ゲームはそのスタートに過ぎません。ゲームで培った技術を、将来的には旅行やショッピング、あるいは恋人とのデートでも使えるようなARプラットフォームの開発につなげていきたいのです」

 ハンケCEOが注目するのが小売業。「消費者は、せっかく店まで足を運んでも売り場にはネットでも買える商品が並ぶ光景に、飽き飽きしています」

 ARを使えば、商品について店側が客に伝えられる情報の量が飛躍的に増える。商品はどこからやってきたのか、職人が手作りしたのか、工場で生産されたものなのか。あるいは素材は環境に優しいものなのか……。買い物が「モノを入手する行為」から「モノにまつわるストーリーを学ぶ体験」になる。

 しかも、ARのメリットをより自然な形で体感できる専用端末が普及すれば、わざわざ冊子をめくったりQRコードにスマホをかざしたりしなくても、情報はごく自然に脳内へと伝わってくるようになる。

<span class="fontBold">ジョン・ハンケ(John Hanke)氏</span><br /><span class="fontBold">米ナイアンティック CEO</span><br />1966年生まれ、米テキサス州オースティン出身。89年テキサス大学オースティン校を卒業、米国務省に入省。ワシントンやミャンマーでの勤務を経て退職、94年にカリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクールへ。在学中から複数のスタートアップ経営に参画する。96年にMBA取得。2000年に衛星写真と地図をリンクさせるサービスを手がけるキーホール社を共同設立。04年、同社がグーグルに買収されると、地理サービス部門でグーグルマップやグーグルアース、グーグルストリートビューの立ち上げを率いる。11年に社内スタートアップとしてナイアンティック・ラボを設立。15年8月に独立し、現職。(撮影:北山宏一)
ジョン・ハンケ(John Hanke)氏
米ナイアンティック CEO
1966年生まれ、米テキサス州オースティン出身。89年テキサス大学オースティン校を卒業、米国務省に入省。ワシントンやミャンマーでの勤務を経て退職、94年にカリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクールへ。在学中から複数のスタートアップ経営に参画する。96年にMBA取得。2000年に衛星写真と地図をリンクさせるサービスを手がけるキーホール社を共同設立。04年、同社がグーグルに買収されると、地理サービス部門でグーグルマップやグーグルアース、グーグルストリートビューの立ち上げを率いる。11年に社内スタートアップとしてナイアンティック・ラボを設立。15年8月に独立し、現職。(撮影:北山宏一)

フェイスブックもアップルも追随

 ハンケCEOによると、ポケモンGOのロングヒットの理由はゲームそのものの楽しさ以上に、ゲームを通じてプレーヤーの身の回りの現実世界がより彩り豊かなものになった点にあった。同じ文脈で、ARを使えば、より簡単、より自然な形で、現実世界にデジタルの彩り(付加価値)をもたらすことができる。

 「ポケモンGOがヒットしたことで、フェイスブックもアップルもグーグルも、ARの活用について本格的に語りだすようになった」とハンケCEO。ポケモンGOの生みの親、あるいはAR技術の父として、これからもIT業界のキーパーソンであり続けることは間違いないといえるだろう。

 インタビューの全文を、有料会員向けの日経ビジネスDIGITALの「『本当のARとは』ポケモンGOの父に聞く」に掲載します。現実世界とデジタルの世界の垣根を低くしていく取り組み、ビジネスに生かすにはVRよりARのほうが可能性が大きい理由、ARデバイスの未来などについてのハンケ氏の考えをお読みください。(日経ビジネスオンライン会員の方は無料ポイントでお読みいただけます)

まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

初割実施中