これからの経営イノベーションにはデジタル、データ、デザインの3つの「D」が欠かせない。2016年7月に新イベント「D3 WEEK 2016」を開催する専門誌3誌が、最新の企業事例やキーパーソンのインタビュー記事などで、その可能性を探ります。

 連載第7回は、7月29日に登壇する大塚食品が取り組んだ、YouTube動画を活用したデジタルPR施策に迫ります。

 レトルトカレーの代名詞、大塚食品の「ボンカレー」のテレビCMと聞いて思い浮かぶのは、松山容子か、ボンカレーゴールドの王貞治か、あるいは松坂慶子か。世代によって答えは変わろうが、いずれにしても有名人を起用したテレビCMを長年放映してきた、マス広告の象徴のような存在だ。発売から48年を数えるロングセラー商品である。

 そのボンカレーが2013年に45周年を迎えて以降、テレビCMから撤退している。広告宣伝費を実に6割減らしたが、それでも売り上げは微増で推移しているという。CM撤退はマイナスに作用せず、代わって取り組んだ長尺の動画広告が、ターゲットに据えたワーキングマザー(ワーママ)に訴求した格好だ。

 同社製品部レトルト担当プロダクトマネジャーの垣内壮平氏は、「アンケート調査をすると、ボンカレーの認知率は9割を超えている。テレビCMは新商品を広くアピールするには向いているが、15秒や30秒では生活者にとってボンカレーがどういう存在でありたいか、メッセージを伝えることは難しい。そこで今までの広告宣伝スタイルを見直し、PR中心で進めていこうと方向転換を図った」と説明する。

 テレビCMに代わって活用したのが、YouTubeで公開する数分間の長尺動画だ。「ボンカレーは誰を救えるのか」を突き詰めた結果、共働き率が高まりながらも家事負担がなかなか軽減しないワーママに訴えかける内容にした。



<a href="https://www.youtube.com/watch?v=4pv4XY-xkQE" target="_blank"><font size="+1"><b>2015年7月、Smile Table Day食卓3カ条プロジェクト</b></font></a>
[画像のクリックで拡大表示]

 2014年7月に公開したボンカレースペシャルムービー「ねえ、お母さん」篇がそれだ。シンガーソングライターの山崎まさよしが制作した応援ソング「うたたね ボンカレーVer.」を動画内に挿入し、対象商品の購入者限定で同曲をサイトからダウンロードできるキャンペーンを実施した。評判は上々で、再生回数は100万回を超えた。

 だが、垣内氏は100万回という数字にも決して満足はしていなかった。クチコミによる拡散はあったものの、動画への集客はバナー広告などに頼っており、出稿を増やして集めた再生回数は、最後まで視聴される完視聴率の面で満足のいく水準ではなかったためだ。

 この結果を踏まえて翌2015年、ワーママ応援ムービー第2弾の制作に取り組んだ。プロモーションのキャッチフレーズは、「Smile Table Day ママもみんなも笑顔になる食卓3カ条」。3カ条の内容は、「ごはんをラクにする(レトルトも使っちゃおう)」「席を立たない(みんなで『いただきます』と『ごちそうさま』)」「おしゃべりを楽しもう」の3つだ。

 共働きの多忙な3世帯の協力を得て、部屋にカメラを設置して平日の夕食の様子を撮影。保育園から一緒に帰宅するなり母親に甘えたがる子供をなだめすかしながら夕食の準備に追われる、そんな気が休まらないワーママの姿を追いかけた。そこで食卓3カ条を実践してもらったところ、Aさん家族は、食卓滞在時間が1.7倍、会話数は1.2倍、笑顔の数は1.3倍に増えた。そんな“ボンカレー Before After”ムービーである。

 この動画への誘導ルートとして活用したのが、Webニュースメディアに社名を明記して出稿したPR記事だ。ワーママ1000人を対象に実施したアンケート調査の結果なども交えた読み物を3つのサイトで公開し、記事内でインライン再生できる動画を張って誘導をかけた。再生回数は第1弾に及ばないものの、完視聴率は大幅にアップしたという。

「熟読率」測定し深い分析

 さらに昨年暮れから年明けにかけての15日間、3つのサイトの記事の「熟読率」を測定できるツールを導入し、動画の完視聴率との相関についても調査した。

大塚食品は動画誘導コンテンツの「熟読率」を測定した
<font size="+1"><b>大塚食品は動画誘導コンテンツの「熟読率」を測定した</b></font>
動画への誘導ルートの1つとして活用したWebニュースメディア「WWO(Woman Wellness Online)

 導入したのは、デジタルPR支援のビルコム(東京都港区)が開発した「Content Analyzer」。従来の「滞在時間」では、離席している間や、ブラウザーが最前面に出ないまま他の作業をしている間でも、アクセス中とカウントしていた。同ツールでは、最前面に表示されたサイトに対してマウスやキーボードが操作された時間を「注目時間」とし、それに「スクロール動作」を掛け合わせて、記事のどこまでが表示されて読んだかを示す「熟読率」を算出する。

 3つのサイトの記事では、「壮絶な食卓リアル事情」というやや煽り気味のタイトルを付けた記事がビューを集め、熟読率も高かった。だが熟読率が一番低かった教育・受験情報のニュースサイトが、動画の完視聴率は一番高いという結果だった。

 記事タイトルに引かれて最後まで記事を読んでくれる人が多いが、その勢いで動画を最後まではなかなか見てくれないのが前者とすると、後者は堅い内容で熟読率は低いが、熟読してくれた人は最後まで動画を見てくれる人が多い、と言える。

 垣内氏は、「閲覧数だけでは分からなかった記事の読まれ方が把握でき、メディア選定やタイトル付け、動画の配置場所などを考える上で参考になる」と語る。今後、コンテンツの熟読率や誘導精度をさらに高めて、デジタルPRの効果を上げていきたい考えだ。

日経BP社は7月25日(月)~29日(金)、「D3 WEEK 2016 ~デジタル×データ×デザイン──未来はここから始まる~」というイベントを六本木アカデミーヒルズ(東京・六本木)で開催します。日経デジタルマーケティング、日経ビッグデータ、日経デザインの3誌が協力して、およそ100の先進企業の事例講演、パネルディスカッションなどを実施。デジタル×データ×デザインが可能にする全く新しいイノベーションを“体感”できる5日間です。ぜひ、その詳細を公式サイトからお確かめください(こちら)。

まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

初割実施中